服用量を標準化できない

カナビスは医薬品としては使えない



神話

カナビスには多数の成分が混じっているうえに植物によって成分構成がばらばらなので、医薬品として標準化できない。また、喫煙では煙のロスが多いので投与量を把握することができす、効果も予想できない。医師の立場からすれば、すべての面において定量化することができないカナビスは医薬品として処方することはできない。


事実

カナビスが標準化できず投与量を把握できないから医療には使えないというのは全くの見当違いで、カナビスに関する無知と医薬品の一般論を組み合わせた「連想ゲーム」に過ぎない。


●医師が医薬品の処方量を正確に知らなければならないのは、まず何よりも安全性を確保する必要があるからだ。一般的に医薬品は、
  • 過剰摂取で死亡することもある
  • 量が多ければ多いほど副作用も大きくなる
  • 他の薬と多重摂取すると、成分同士が複合作用を引き起こすことがある
ので、医師は投与量を正確に把握しておかなければならない。また、普段、錠剤しか使っていない場合にはあまり重視されることはないが、
  • 摂取に要する時間と効果が発現してくる時間との差が大きくなれば過剰摂取リスクも高くなる
という事実も重要で、例えば、普通の錠剤では飲むには数秒しかかからないが、効果があらわれるまでには10分以上はかかる。従って、効果の具合を見極めながら摂取量を調整するようなことはできないので、服用量は、飲む時点で明確に決めておく必要がある。


●これに対して、カナビスの場合には
という際立った安全性に特徴がある。

一般にジョイントを1本吸うには10分程度はかかるが、慣れれば発現は数分以内に感じることができるので、患者自身が自分の必要量に達した段階で吸うのを簡単に中断することができる。つまり、服用量は患者が自分の症状に合わせてリアルタイムに決めることができるので、医師は使い方の全般的なアドバイスをするだけで、必ずしも服用量を細かく指示する必要はない。


●確かに、カナビスを喫煙した場合には煙のロスが多くその量を把握できないので摂取量を正確に知ることはできない。実際には、効果を感じながら摂取量を調整できるのでそのことが問題になることはあまりないが、どうしても摂取量を正確に決めたい場合には、ボルケーノ・バホライザーを利用すれば簡単にできる。

ボルケーノ・バポライザー は、カナビスの気化した成分をいったんバルーンに貯めるようになっているので、同じ種類と量のカナビスを同じ温度で同じ時間で気化させれば、いつも同じ密度の蒸気を同じ量だけ作ることができる。

また、煙の場合でも、グラビティ・ボング を使えば一定量の冷めた煙を作り出すことができる。さらに、カナビスをチョコレートにしたり、メディカル・ティー にしたりしても一定の量を摂取できる。



●また、カナビスには60種類以上のカナビノイドが含まれていて、その成分構成に非常に大きなバラツキがあって標準化できないので、医薬品として失格であるという指摘もある。

しかし、バラツキが大きいのはカナビスの品種の違いによるものであって、同じ品種を同じ環境で同じように栽培すれば、成分構成を高度に標準化することができる。このことは、オランダ政府の医療カナビスや イギリスのGW製薬の例 をみればわかる。


逆に、医療カナビスはさまざまな成分構成のものを用意できるので、それぞれの患者は自分の症状に合ったものを選択できることも大きな特徴になっている。

実際、オランダ政府 は、現在、薬局向けの医療カナビスとして、高THC品種のベドローカン(THC18%)、ベドノビノール(THC11%)、多発性硬化症患者向けにハイになりにくい高CBD品種のベディオール(THC6%、CBD7.5%)の3品種を販売している。また、指定栽培場では、個別の患者に最適な品種を提供するために130品種以上の医療カナビスも栽培している。


●カナビスは、医師が投与量や効果を把握できないから使えないというのは全くの見当違いで、そのことは、GW製薬が製剤化した サティベックス の場合を見ても分かる。

サティベックスは、天然のカナビスの抽出液を小型噴射装置に封入した舌下型スプレー製剤で、カナダで医薬品の認証を受けている。1回のスプレーで正確に100μLが噴射するように調整され、THC2.7mgとCBD (カナビジオール) 2.5mgが含まれている。

摂取は、吸収を迅速にするために舌下に噴射するが、人によって必要量が大きく異なるので、患者自身が自分に合った回数を探りながら毎日少しずつスプレー数を増やして最適量を決めるようになっている。だいたい1週間で分かるとされているが、過剰にならないように、最大でも1日に14スプレーを越えないように制限されている。

このように、患者自身が最適な量を決めるのは、医師が決めるよりもまざまな面で利点があるからだ。カナビスの摂取量の自己調整は、単に服用する薬の量を決めること意味するわけではなく、さらに重要なことは血液中のカナビノイド濃度レベルの変化に合わせて回数や間隔を調整して日常生活を最適な状態を保つ意味もある。こうした調整は患者自身にしかできない。

朝昼晩と1日3回服用するのがいい人もいれば、晩だけがいいという人もいる。また、中には、少量づつ頻繁に服用することで血液レベルを常に一定に保って、ピークや谷をなくすることで状態が安定する人もいる。

少なくともカナビスの場合、医師の仕事は患者にこのような情報をアドバイスすることで、服用量や使い方を直接指示することではない。


●このことは糖尿病のインスリン注射でも同じことが言える。特に1型の糖尿病の場合は食事に合わせてその都度注射するインスリンの量を変化させる必要があるが、日常生活の中では投与量の判断は患者自身にしかできない。

それは、その時の食べるものの内容や量や自分の反応など考慮しなければならないからだ。入院でもしていない限りは、医師が直接投与量を決めることなどは不可能だ。医師の役割は、患者からの報告を検証して必要な情報をアドバイスすることにある。

「すべての面において定量化することができなければ医薬品として処方することはできない」 ような医師であれば、インスリンも処方できないことになる。