カナビス誘発精神苦痛障害の防ぎ方
法と政治の過剰反応に見られる病理
フランジョ・グロテンハーマン博士
Source: Lancet UK
Pub date: May 25 2004
Subj: How To Prevent Cannabis-Induced Distress
Author: Franjo Grotenhermen (IACM)
Web: http://cannabisnews.com/news/18/thread18897.shtml
カナビス誘発性精神苦痛症候群
カナビスは、政治家たちの間で不安や苛立ちや怒りを引き起こす。このCIPDS(カナビス誘発性精神苦痛症候群、Cannabis-Induced Psychological Distress Syndrome)の結果、法律や政治が過剰反応を起こし、カナビスの使用と乱用の区別もつかなくなってしまう。
とりわけドラッグ戦争の時代においては、使用と乱用を区別すること自体が非愛国的 [1] で敵に対して優柔不断だと見なされている。こうした状況下で起こるCIPDSの代表的な症例の一つとすれば、尿テストでTHC代謝物が検知されたという理由だけで運転免許を没収するような過剰反応にみられる [2]。THC代謝物は、活性にあるTHCが体内で分解してできたカナビスの残存物で活性はなく精神作用も持っいないにもかかわらず、危険なはずだと思い込んでしまう。
さらに深刻なパラノイア症状では、ドラッグの使用が危険だという社会の規範が不安定になる [3] という理由で、カナビスの医療利用まで社会の脅威だと思い込むようになる。ここでは、多くの処方医薬品や売薬も害になりうるという事実すら目に入らない。このような強迫観念に取り付かれた人間が作った過剰に偏向した法律は、新しいバージョンの世代間対立を生み出してしまう [4]。
CIPDSになっている政治家を鎮めるには、合理的な考え方と事実尊重の心構えが必要となる。カナビスを使うと、不妊症やガン、認知低下、依存、交通事故、心臓マヒなどを引き起こし、さらに危険なドラッグのゲートウエイなると叫ばれてきたが、そのいずれもがカナビスに対する戦争を正当化すために主張されてきた。しかし、合法であれ違法であれ薬物にはそうした害が伴うのは当然のことであるにもかかわらず、ことさらカナビスばかりを危険視することで誇張が生み出されている。 [5] [6]
未成年の精神病問題
今日のカナビス戦争を正当化するために言われている代表的な問題には、未成年の精神の健康と社会福祉に対してカナビスが有害になるという主張で、近年発表されたいくつかの論文が根拠になっている。
今週発行されたランセットに掲載されたジョン・マクライドのチームの論文では、カナビスと精神病について過去に行われた多くの研究を検証しているが、しばしば言われているよりも因果関係は確かなものではなく、交錯因子の除去補正の限界などドラッグ調査につきものの難題を示して、いくつかの共通する問題点を指摘している。
例えば、よく引用されるスエーデンの研究結果 [7] では、18才の時点でカナビスを50回以上使っていた若者が、26才時点で統合失調症になるリスクを未補正オッズ比で6.7と評価し、カナビスが統合失調症の重大な原因になっていると示唆している。
しかしながら、いくつかの交錯因子に補正を加えたあとの値は3.1に下がり、リスクが減っている。このことは、もし他にもリスク要因が含まれていれば、処理した統計モデルで算出されるリスクはさらに下がることを強く示している。だが、データに取り込まれていなければ補正も行われることはない。
この他のレビュー [8] でも、カナビスと精神病の関連について調べた5件の長期研究の結果について詳細に検証しているが、その中で、カナビスの使用開始以前に統合失調症の兆候が全くなかったかどうかについてきちんと調べている研究は1つしかないと書かれている。
その研究 [9] の結果によれば、「18才の時点でカナビスを使っていた場合でも、統合失調症の症状スケールのスコアが上昇しているのは、11才の時に精神病の症状が見られた人に限られている」 [8] また、15才の時点でカナビスを使っていた場合は、たとえ11才の時に精神病の症状がコントロールされていたとしても、26才の時点では大人の統合失調症様障害のリスクが高くなる [9]。
こうしたことから、研究者たちは、「脆弱性を抱えた若者」に対しては、カナビスが精神病を引き起こす原因になっている、と結論づけている [8]。
犯罪化しても、若者のカナビス使用防止効果はほとんどない
確かに、カナビスが未成年者や若者に心理社会的な問題を起こすと考えに足る理由もあり、まともな大人で、若者がドラッグを使うことを望んでいる者など一人もいない。若者のドラッグ問題については、教育や予防活動に最重点で取り組むべき課題であることには疑問の余地はない。しかし、抑圧的な施策で対処すべきだという猛々しい議論も幅を効かせている。だが、犯罪化が若者たちのカナビス使用の広がりを防ぐために大きな効果があることを示すに足る理由はほとんどない [10]。さらに、禁止法そのものが、ドラッグ使用の害を増やし、社会を傷つける原因になっていることも見逃してはならない。
イギリスでは、これまで、すべてのカナビス・ユーザーが犯罪者として扱われてきたが、今年になってイギリス政府がカナビスの分類をB分類からC分類へとダウングレードさせたことは、カナビスそのもの害と禁止法のもたらす害をバランスしようとした分別のある試みだと思う。イギリス医師会のピーター・マクガイアたち [11] は、「社会は、ダウングレードでカナビスを安全なものと捉える懸念がある」 としているが、この考え方は、カナビスの使用が安全ではなく危険だから違法にすべきだという誤った論理にもとずいている。
そのことは、スキーのダウンヒル、セックス、飲酒、ハンバーバーの飲食、アスピリンの服用など、必ずしも安全とは言えない多くの活動が合法になっていることを考えればわかる。
カナビスは、危険だったから禁止されたわけではない
カナビスは、危険が見つかったから禁止されたわけではない。むしろ、アメリカ麻薬局(1930-62)のハリー・アンスリンジャー局長たちが、禁酒法の廃止(1933年)にともなって、自分たちの活動の場を確保するために新しい禁止対象を必要としていたことが関係している。
1937年に上院で行われた証言で、彼は、「マリファナの影響下にある人間が親友の首を切り落としてしまい、ドラッグが切れた後で、自分のやったことに恐怖に襲われたケースが実際に起こっています」 [12] といったショッキングな話を並べ立ててカナビスの危険を煽りたてた。
これに対して、アメリカ医学会の代表は、「ドラッグの使用を懲罰的な税法で防止しようとすれば、カナビスの多大な医療効果を調べる将来の研究の展望を閉じることになる」 [13] として、マリファナ税法案1937に強く反対している。
恐怖心は害を増やすだけ
われわれは、ドラッグを完全に禁欲しようとする非現実的で非生産的パラダイムの呪縛からゆっくりと解き放たれつつある時代に生きている。ドラッグのない社会を標榜する人たちはこの事実を受け入れることに難色を示し、分別のある政治家や医者たちは、あるべき立場にたって議論することの難しさに翻弄されている。しかしながら、われわれは、ドラッグとその危険の可能性に対して、恐怖心からではなく冷静に対処する方法を学ばなければならない。
参考文献
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Franjo Grotenhermen, THE LANCET 窶「 Vol 363 窶「 May 15, 2004
フランジョ・グロテンハーマン博士は、ドイツ・ケルンのノバ研究所所属で、国際カナビス医薬品学会(IACM)執行委員長を務めている。