カナダ、マニトバ州フリンフロン発フリンフロンに近い湖の下約350メートルの廃坑で、ブレント・ゼトル氏は今年、185キログラムのマリファナを栽培している。
ぶっそうな話に聞こえるかもしれないが、ゼトル氏は捕まる心配などしていない。580万ドルでブツを買ってくれるのはカナダ政府だからだ。
ゼトル氏はサスカチュワン州サスカトゥーン郊外にあるバイオテクノロジー会社『
プレーリー・プラント・システムズ社』の社長兼最高経営責任者(CEO)だ。栽培されたマリファナは、政府の援助で臨床実験が行なわれ、薬効やエイズやガンなどの痛みを和らげる鎮痛作用が試される。
栽培場の面積は約1100平方メートルで、苗はグローライトの下で育てられる。ゼトル氏によると、地下の栽培場では苗の生育をコントロールしやすいだけでなく、セキュリティーの管理も容易だという。
「栽培環境を完全に制御して、極端な温度や湿度がもたらすストレスを取り除いている。地下には害虫がおらず、病気にかかる心配もないので、苗が取り込んだエネルギーはすべて生長に使われる」とゼトル氏は言う。
ゼトル氏によると、地下での生長速度は最大400%にもなり、いま育てている品種では1日あたり4センチ弱の伸びになるとのこと。
カナダ連邦保健省から提供された種は(逮捕した密売人から押収したものだが)、医療用マリファナとして10月に収穫の予定だ。
この美味しい儲け話は、幸運が幸運を呼んでもたらされた。1991年に、坑夫が吐き捨てたオレンジやリンゴの種が真っ暗闇の中で15センチも成長すること
が明らかになると、加ハドソン・ベイ・マイニング・アンド・スメルティング社(Hudson Bay Mining and Smelting Co.
Ltd.)が、ゼトル氏の会社に地下での植物栽培の話を持ちかけてきた。
ここの鉱脈はまだ尽きておらず、25年分の銅と亜鉛が眠っていると推定されているが、ハドソン・ベイ社は採掘現場をプレーリー社の栽培場から約6キロメートル離れた場所に移した。
プレーリー社は当初、クローン技術を使って無病のサスカトゥーンベリーの木を開発することに専念していたが、2000年後半に連邦保健省から、マリファナを5年間にわたって提供する仕事を受注した。
アラン・ロック保健相は契約に際して、「カナダ政府は人道的見地から、衰弱している重病患者にマリファナの使用を認めた」と語った。
連邦保健省が医療用マリファナに柔軟な姿勢を示しているのは、医療研究プログラムの参加者と医療目的での使用が認められている人たち向けに、カナダ国内に高品質のマリファナの供給源が必要だったからだ。
カナダにおいて医療用マリファナの使用が認められるようになった一因は、2000年7月のオンタリオ州控訴裁判所のテランス・パーカー氏に対する判決だった。パーカー氏は持病のてんかんを抑えるためにマリファナを服用していた。
オンタリオ州控訴裁は、パーカー氏がマリファナを使用することを認めなかった1997年の下級裁判所の決定を、規制薬物法第56条に関する問題を引き合い
に出し、憲法上の理由で一時停止していた。同法第56条は、保健大臣に医療用マリファナの使用許可を出す権限を与えている。
他のマリファナ関連の訴訟でオンタリオ州控訴裁は、娯楽目的でのマリファナの使用を禁止する権限をカナダ議会に与える判断を示した。
2000年7月末、政府は医療目的でのマリファナの所持と栽培を規制する法律を発表した。医療用マリファナの使用と所持の認定を受けるには、余命12ヵ月以下とみられる末期患者か、別表に記載されている病気の症状が出ている、などの要件を満たす必要がある。
プレーリー社は、米国ミシガン州ホワイトパイン鉱山でもパイロット事業を実施している。同じく連邦保健省との契約により、約2800平方メートルの栽培場で遺伝子組み換えタバコを育てているのだ。このタバコには骨髄ガンの治療効果が期待されている。
ゼトル氏によると、マリファナ栽培を請け負った理由の1つは、地下で医療用植物を育てるという着想の正しさを証明することだという。「ホワイトパイン鉱山でそれを再現する必要があるマリファナではなく、別の作物で」
商業的に成り立つことがはっきりすれば、「安価で、しかも環境に影響を与えないやり方で、さまざまな新薬を開発する道が開ける」とゼトル氏は語った。
[日本語版:山本陽一/福岡洋一]
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