安全運転の指標となる

THC血中濃度リミットを求める動き

Source: 6 minutes
Pub date: 28 Nov 2007
Subj: Australia: Safe cannabis levels defined for driving
http://www.ukcia.org/news/shownewsarticle.php?articleid=13046


自動車のドライバーならば、アルコールの血中濃度が0.05%を超えて運転すればトラブルになることを知っているが、今週、カナビスについても同様の血中濃度リミットを示した研究が発表された。

オーストラリアを含む6ヵ国11人の研究者で構成されたチームが、安全運転の法的指標となるTHCの血中濃度を探るために、カナビス使用と運転について調べた過去の疫学的エビデンスを検証して、その報告が中毒ジャーナル(Addiction)の12月号に掲載された。

報告書では、「これまで行われた疫学研究の中で、血液中のTHC濃度が10ng/mL以下ならば事故のリスクに結び付かないと結論を下しているものは全くと言えるほどない」 としながらも、実験による研究をメタ分析して比較したところ、運転時の影響レベルは、血中THC濃度7〜10ng/mLがアルコールの血中濃度の0.05%と同等であることを見出している。

研究者たちは、カナビス血中濃度のこのリミットを 「カナビスの影響を受けていないドライバーと影響を受けて危険な運転をするドライバーを区別する合理的で信頼のおけるレベル」 としている。

しかしながら、オーストラリアを始めとする多くの国や地域ではこのようなリミットは設けられておらず、路上のドラッグテストではゼロ・トレランス方式を採用している。唾液や尿のテストでカナビスに陽性反応が出れば、血中のTHC濃度とは無関係に即違反とされる。

ドラッグの研究家であるオーストラリア・クイーンズランド大学のウェイン・ホール教授は、ゼロ・トレランス方式が市民の自由を脅かしていると懸念を示している。

教授は、中毒ジャーナルのコメンタリーで、「事故や、ましては交通違反すら犯していない市民に対して、当局は犯罪者として権力を振うことが許されるのか?」 と書いている。

また、ゼロ・トレランス法が生命を救っているという証拠はなく、路上でのドラッグテストが成果を上げているかどうかについて調べる必要があるとも指摘している。

「ドラッグが運転に影響を与えていることを示すデータが揃えば、市民には、公衆衛生の恩恵と民主主義で保証された自由への脅威をどのように折り合いをつけるか議論する権利があるはずだ。」

今回発表された論文とウエィン・ホール教授のコメンタリー:
Developing limits for driving under cannabis  Grotenhermen F. et al. Addiction 102 (12), 1910窶1917
[Commentary] Reduction Cannabis-Impaired Driving: Is there sufficient evidence for drug testing of drivers  Wayne Hall, et al. Addiction 102 (12), 1918窶1919

アルコールでは飲酒運転とみなされる血中アルコール濃度のリミットが設定されているのに対して、カナビスのTHC濃度についてはそのようなリミットが設けられていないが、その大きな理由として、THCの血中濃度を測定するには、アルコールのように呼気で簡単にできるような検査方法がなく、血液を採取して専門的な検査をしなければならないという事情がある。

一般には尿テストが使われているが、尿テストではTHCそのものではなくTHCの代謝物しか検知できないために運転中の血中濃度を知ることはできない。しかし、カナビスの代謝物は体内に数週間も残こるために素面で運転していても尿テストで陽性になることがあり、ゼロ・トレランス方式ではカナビスの影響下で運転したと見なされてしまうという問題がある。もともとゼロ・トレランスはTHCの血中濃度を簡単には測定できないことから出てきた方式で、飲酒運転に比べて明らかに不公平になっている。

唾液検査は運転中の血中濃度を測定できるとされているが、まだ精度や信頼性が十分ではなく試験段階にとどまっている。

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法的な問題を別にすれば、実際的な危険運転のリミットとしては、カナビス血中濃度5ng/mlが妥当な目安と言えるかもしれない。

一般に、リクレーショナル用途でたまにカナビスを吸う人の場合は、喫煙後1〜2時間で血中濃度が5ng/ml以下まで下がるとされている。しかし、運転中に使用したり、喫煙後2時間以内に運転すれば、アルコールほどではないにしろ、リスクが増えることは多くのデータで示されている。

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