害を軽視するカナビス害報道

ジョイント1本の害はタバコ5本分?

Source: Cannabis Study House
Pub date: Aug 7, 2007
Author: dau


誇張と曲解は、大手マスコミのカナビス報道ではお馴染みのことだが、カナビスのジョイントとタバコの害を比較した以前からお馴染みの報道が衣を替えてまたしても現れた。「カナビスのジョイント1本の害はタバコ5本相当」 というヘッドラインでその第一報を伝えた ロイターのニュース (2007.7.31) は次のように書いている。

今週の火曜日に発表された研究によると、カナビスのジョイントを1本吸うと、肺に対してタバコ5本と同等の害になることがわかった。

ニュージーランドの医学研究所の研究者たちは、カナビスを吸うと、酸素を供給する肺の微細な気道と太い気道の双方がダメージを受けて空気の流入を妨げられ、その結果、カナビス喫煙者は喘鳴や咳に悩まされ、胸苦しさの襲われると指摘している。

研究では、339人を、カナビス喫煙のみ、タバコ喫煙のみ、双方を喫煙、非喫煙の4グループに分けて比較調査を行っている。重大な肺病である気腫になるのはタバコ・ユーザーだけだったが、カナビス・ユーザーでは肺が正常に機能しなくなる。

胸部ジャーナルの論文には、「このダメージの程度は吸ったジョイントの本数を直接関係しており、消費量が多くなればなるほど機能も低下する・・・ジョイント1本が肺に与える悪影響は、タバコ2.5〜5本を1度の吸った場合に匹敵する」 と書かれている。

イギリス政府は、効力の強いカナビスによる危険が増えているために、現在、カナビスの取締り分類をより厳しい分類に変更することを検討している。

イギリス肺財団のヘレナ・ショベルトン執行代表は、「カナビスの呼吸器に対する危険性はこれまでずっと見過されてきました。先日、健康のリスクになるということで公共の場所での喫煙が禁止されましたが、今回、カナビスの喫煙がタバコの喫煙よりもさらに肺に害になることが分かったわけです」 と語っている。

先週は、イギリスの研究者が、カナビスの使用で統合失調症のような精神病のリスクが増えると発表している。


原典の論文で確かめる

新聞記事では、カナビスの肺に対する害だけが強調されているが、どのような条件設定で、どのようにして結論が導き出されたのかほとんど書かれていないために誤解を招く結果になっている。特にマスコミのカナビス報道ではこうしたバイアスは日常茶飯事であるが、原典の論文をあたらない限りその事実を知ることは難しい。

今回の研究 は、ニュージーランド・ウエリントンにある医学研究所を中心とする研究チームが実施したもので、339人の被験者を対象に呼吸器テストと高解像度CT検査を行って、カナビス喫煙グループ、タバコ喫煙グループ、カナビス+タバコ喫煙グループ、非喫煙グループの4グループ間で肺組織とその機能および呼吸器症状にどのような違いがあるかを調べている。

カナビス喫煙グループは、カナビスのみを最低5年間にわたってジョイントを1日に1本以上吸っていることが条件になっている。これに対して、タバコ・グループは、1日に1パック(20本)以上を最低1年間吸っていたことが条件になっている。

呼吸器の比較研究とすれば、以前に ロナルド・タシュキンら が行ったものと基本的に同じだが、今回は、グループの選別をより厳格にしたことと、初めてCTスキャンの断層写真で肺の組織を調べたことが特徴になっている。

グループ別の高解像度CTと肺機能テスト、呼吸器症状については、論文では次のような結果が示されている。


Effects of cannabis on pulmonary structure, function and symptoms

  • カナビス喫煙とタバコ喫煙のどちらともFEV1/FVC比率が減少しているが、カナビスの影響は基準範囲を僅かにはみ出した程度に収まっている。(FEV1:1秒間の努力肺活量、FVC:努力肺活量)

  • カナビス喫煙はFEV1に影響しないが、タバコの喫煙では減少している。

  • カナビス喫煙のMMEFには基準範囲に収まっているが、タバコ喫煙では減少している。(MMEF:最大中間呼気流量、末梢気道閉塞を表す呼吸機能指標)

  • カナビス喫煙のTCLは基準範囲を越えて増加しているが、タバコ喫煙のTCLには影響がない。(TCL:総肺気量)

  • 調整済TLCO/VAに関しては、カナビス喫煙には影響がないが、タバコ喫煙の測定では減少している。(TLCO/VA:一酸化炭素搬出係数)


5本はどこから導き出されたのか

肺機能テストでカナビスの数値がタバコより劣っていたのは、唯一、気道の収縮を示す値で、「カナビス喫煙もタバコ喫煙もsGawを低下させるが、タバコの影響は基準範囲に収まっている。(sGaw:気道抵抗値)」 と書かれている。

また、高解像度CTによる検査で、カナビス喫煙ではタバコ喫煙よりも、肺組織の密度が低くなることを見出している。論文では、この2点を個別データで統計的に回帰分析して、「カナビスのジョイント1本あたりで、タバコ2.5〜5本と同等の気道閉塞を起こす」 という結論を引き出している。

しかし、実際の肺機能テスト結果では、空気の流れという肺機能の1つ以外にはタバコのネガティブが影響の方が大きいので、全体としての評価は反映したものにはなっていない。


カナビスでは気腫にならない

さらに重要なことは、この研究では、タバコ・グループの18.5%の人に画像で確認できる気腫が見つかったが、カナビス・グループでは年間のジョイント数が437本の1人(1.3%)しか見つかっていない。

普通、肺密度の減少は気腫の存在が指標になっているが、カナビスの場合はそれに該当しないので、研究者たちは、閉塞による気流通過障害と高度膨脹によるむくみ、慢性気管支炎が原因として考えられるとしている。

慢性気管支炎では、気管支に慢性の炎症が起こって気管支の分泌物である痰が過剰に生成され、それを排出させるために咳や喘鳴が出てくる。気管支の平滑筋のけいれん、炎症、分泌物の増加などには回復が見込めるが、気腫の壊れた肺胞組織は健康な元の状態に戻ることはない。

一般には気腫と慢性気管支炎は混在することから、現在では総称して慢性閉塞性肺疾患(COPD)と呼ばれ、アメリカの死亡原因では第4位で毎年13万人が亡くなっているが、2005年のアメリカ疾病対策センターの統計データによると、カナビス・グループではタバコ・グループに見られるような深刻なCOPDが 起こっていない ことが確かめられている。また、カナビスの場合は気腫が起こらないことが知られており、それはこの研究でも示されている。


研究の設定条件

どのような研究であっても目的と方法などの条件を設定して調査や実験が行われる。従って、研究論文は一応そうした目的と方法条件をもとに出した結果が書かれており、その限りにおいては、「カナビスのジョイント1本あたりで、タバコ2.5〜5本と同等の気道閉塞を起こしている」 という表現は間違っていない。

しかし、その結果をどう評価するかについては研究そのものとは全く別の問題で、マスコミのように結果の成立条件を一切気にせずに 「カナビスのジョイント1本あたりの害はタバコ5本分」 と単純に言い切ってしまうのは誇張で間違っている。実際、この論文でも、「危険」とか「害がある」といった言葉はどこにも書かれていない。

結果が出てきた成立条件を十分に吟味しなければ、事実を知ることはできず、合理的な対策を考えることもできない。


なぜ1年と5年なのか

この研究では、カナビス・グループの条件として最低5年間にわたってジョイントを1日に1本以上吸っていることを前提にしている。一方、タバコ・グループは、1日に1パック(20本)以上を最低1年間吸っていたことが条件になっている。

ここで注意しなければならないのは、タバコ・グループの条件がカナビス・グループと同じ5年になっていないことだ。これは、研究が、同程度の一酸化炭素やタールに晒された時の呼吸器への影響を調べることを目的にしているからだ。

研究者によると、タバコによる肺への悪影響がみられるようになるためには最低でも1日1パックを1年間吸うことが必要とされているので、この量に対応したカナビスの量を、ジョイント1本のタール量がタバコ3〜5本に相当すると結論を出した以前の研究結果から 「アプリオリ」 に推測して、1日1本5年間と設定したとしている。

普通の感覚とすれば、害の度合を比較する際には同じ期間で考えるので、この研究の結果をそのままマスコミが報道すれば誤解を生む。カナビスとタバコの期間を同じとすれば、この論文の結果からも、タバコの害のほうがはるかに大きくなる。

それは単純計算で分かる。期間を1年とすれば、カナビスは1*365=365本、タバコ換算でリスクを5倍とすれば365*5=1825本相当になるが、タバコの場合は20*365=7300本になり、カナビスよりもリスクは7300/1825=4倍も大きいことになる。


普通のカナビス・ユーザーのパターンではない

タバコのユーザーが毎日1パックを何10年も使い続けることは珍しくないが、カナビス・ユーザーで毎日1本のジョイントを何年にもわたって吸い続けるケースは必ずしも多くはない。

実際、この研究でも、当初は無作為の3500人に手紙を送り参加者を募っているが、毎日1本以上のジョイントを5年間以上吸っていた該当者は19人しか集まらず、しかたなくメディアに研究の広告を出して直接志願者を集めている。

このような方法で募集した被験者は 「コンビニエンス・サンプル(convenience sample)」 と呼ばれ、何らかの動機が隠されているために研究結果には偏りを内包している。このために、得られた結果を単純に一般化することはできない。

また、ジョイント1本といっても、タバコのようにメーカーが均一に製造したものとは非常に異なり、人によって使うカナビスの量には大きな差がある。実際には、パイプやボングで吸っている人もいるために、この研究では、被験者各自に吸っているジョイント数を自己推計してもらって平均的な量を計算している。

吸い方の問題もある。例えば、ジョイントは根元まで残りなく吸われるのは普通だか、タバコの場合は途中で消してしまうのが普通なので1本全部が吸われるわけでもない。従って、現実に目の前にあるジョイントとタバコを比較しても本当はかなり曖昧さを伴っている。

さらに、カナビスのデイリーユーザーであっても20才代の終わりまでには80%以上の人が毎日ベースでは使わなくなるという 報告 もあり、実際には、この研究の結果は一般論として拡張するには現実的とは言えない。


肺ガンを問題にしないで害を比較しても無意味

今回の研究では、喫煙が肺に悪影響を及ぼす初期状態を調べることを目的にしているために、喫煙と肺ガンの関係については何も言及していない。しかし、マスコミで喫煙の害を取り上げるときには、普通、読者は肺ガンのことを思うので、肺ガンを問題にしないで害を言っても誤解を生むだけにしかならない。

実際には、カナビスの喫煙で肺ガンなどのリスクが増加しないことが、大規模研究 で何度も示されている。

2006年に発表されたロスアンジェルスの研究では、最もヘビーなユーザーとしては生涯のカナビスのジョイント本数22000本以上、中からヘビーな場合では11000から22000本としているが、そうしたスモーカーでさえガンになるリスクは増加せず、少ししかカナビスを吸っていない、あるいは全く使っていない人たちと比較して何らリスクに違いはなかったと結論を書いている。

実は、この研究を率いたのが、UCLAデビッド・ゲフィン医学部のロナルド・タシュキン教授で、この人こそ1980年代からカナビスの煙の素性を調べて、カナビス1本の煙のタール量はタバコの4倍 と最初に指摘した人だった。20年以上の研究の総仕上げとして実施された人間での大規模疫学調査だったが、予想外の結果になったと語っている。

カナビスの喫煙は、タバコのように肺ガンや気腫を引き起こさないという重大な事実を見ないで、僅かの項目から導き出された論文の結果から、単純に 「カナビスのジョイント1本あたりの害はタバコ5本分」 など言うマスコミ報道は間違っている。


最も大切なのは害削減

さらにマスコミのカナビス報道で問題なのは、カナビスの悪害を言い立てることだけに夢中で、害削減という観点が全然ないことだ。

論文の結論には、カナビスの喫煙は気腫を起こさないが、喘鳴・咳・痰・胸苦しさを引き起こすと書いてある。また、カナビスとタバコを併用しているグループでは、カナビスだけのグループよりも数値が悪くなっている。

これらのことから言えることは、喘鳴・咳・痰・胸苦しさを減らせれば、カナビスの肺への害も低減させることができることを示している。そのためには、まず、カナビスとタバコを併用を止め、ジョイントに市販の活性炭フィルターを入れたりすることが簡単にできる。

また、高品質のカナビスを少量だけ使うようにすれば、その分だけタールや一酸化炭素の吸入を減らすことができるし、ハシシなど煙の少ないカナビスを長いキセル(キフパイプ)で吸えば、煙の温度も下げることもできる。

さらに究極的な方法としては、バポライザー を使って有害な燃焼ガスを発生させずにカナビスの活性成分だけを吸入することもできる。

実際、ニューヨーク州立大学およびアルバニー大学の 研究 では、バポライザー使用者のほうが、ジョイント・ユーザーよりも、咳や痰や胸苦しさといった呼吸器系への悪影響をあらわす症状が60%以上も少ないことが明らかになっている。

今回の研究で重要なことは、カナビス喫煙による肺への悪影響が比較的容易に害削減できることが示された点にある。


カナビス禁止法が害のリスクを増やしている

しかしながら、カナビスを禁止している手前、公的にカナビス吸引にバポライザーを使えば安全ですとは教育することはできないという問題がある。

また、違法なるか故に、品質のコントロールができないという問題もある。通常の食品では内容物表示や衛生管理などが法的に義務付けられているが、違法である カナビスの場合には、効力に基準はなく、多量の農薬を使っていても、危険な混入物があっても、カビやバクテリアに汚染されていても管理されないままストリートに出回ることになる。

今年に入ってからも、イギリスでは、小さなカラスビーズが吹き付けられた グリット・ウィードが大問題になり、保健省が警告を出す 騒ぎにまで発展している。こうした混入物や農薬、バクテリアなどは吸い込むと肺を傷める可能性がある。

工場で厳格に管理されているタバコではこのようなリスクはないが、カナビスの場合は常にリスクが伴う。今回の論文では、こうした違法な状態から起こるリスクも内包している。

結局のところ、「カナビスのジョイント1本あたりの害はタバコ5本分」 というリスクは、害があるという理由でカナビスを禁止している法自身がつくり出しているパラドックスなのだ。