イギリスの専門家

カナビスの再分類は無意味

B分類に戻しても若者には何も影響しない

Source: Independent on Sunday
Pub date: 6 Jan 2008
Subj: UK: Reclassifying cannabis would make no difference to young
Author: Jonathan Owen
http://www.encod.org/info/
RECLASSIFYING-CANNABIS-WOULD-MAKE.html


カナビスを再分類してC分類からB分類に戻しても、若者たちには何の違いもなく無意味。こう指摘する報告書が、イギリスで最も権威あるとされている刑事政策の専門家たちのグループから発表された。

現在の若者文化の中ではカナビスが重要な一部になっており、新世代のカナビス・ユーザーたちはお互いにカナビスを供給し合い、友だちや兄弟と一緒になって購入したりシェアしたりしている。

内務省の上級アドバイサーも務めるマイク・ハフ教授に率いられた刑事政策調査研究所(ICPR)のチームは、カナビスの供給については、従来のディラーによるもののほとんどが 「ソーシャル・サプライ」 に移行しており、今までと違った新しい政策が必要になってきていると結論づけている。

報告書は、今月末にジェセフ・ロウントリー・ファウンデーションから出版されることになっているが、この研究では、11才から19才までのカナビス・ユーザー180人以上にインタビューして調査を行っている。

その結果、若者のユーザーの90%がその日のうちにカナビスを入手することが可能で、その大多数は1時間以内に手に入れられると答えている。また、全体のほぼ3分の2が少なくとも週1回はカナビスを吸っており、月平均では80ポンド(1万7000円)を費やしている。

カナビスを始める平均年齢は13才で、大半が友だちや兄弟に勧められて始めている。ディーラーを通じて始めた人は1%しかない。およそ半数(45%)が、他の人のカナビス入手を手伝ったことがあると認めており、43%が学校や大学で手に入れている。半数以上(54%)の人がリラックスするためにカナビスを使っている。

こうした結果は、イギリスで深刻化しているカナビス問題にどのように対処したらよいのかという議論に重要な検討材料を投げかけており、カナビスの再分類を求めている医療専門家や警察署の高官たちにとっては逆風になっている。

イギリス政府は、現在ドラッグ政策全般の見直しを進めているが、その一環として、内務省のドラッグ乱用問題諮問委員会(ACMD)にカナビスの分類をB分類に戻すべきか諮問している。カナビスの分類については、3年前に当時のデビッド・ブランケット内務大臣によってC分類にダウングレードされていたが、今年の春に発足した新政権が分類の見直しを発表していた。

イギリスでは違法ドラッグとしてカナビスが最も広く使われており、16才から24才の若者の250万人以上がカナビスを経験している。しかしながら、若者がどのようにカナビスとかかわっているかについて調べた研究とすれば今回の調査が初めてのもので、これまでこうした情報が欠如していたことが浮き彫りにされる恰好になった。

ジェセフ・ロウントリー・ファウンデーションのチャーリー・ロイド主任研究員は、「もし、カナビス使用とそれに付随する危険性について何らかの対策を立てようとするならば、その実状を良く理解する必要があります。子供たちはカナビスをグループで買っていますが、たいていは友だちや兄弟からだったりします。若者の多くは友だちにカナビスを売ったりしていますが、それはドラッグ・ディーラー的な感覚ではなく、友だち同士の付き合いのようなもので利益を求めたものではありません」 と語っている。

また研究では、若者のカナビス・ユーザーのほとんどすべてが友だちからカナビスを入手しており、見知らぬドラッグ・デーィラーから買ったことがある人は6%しかいない。

ハフ教授は、「見知らぬ大人が若者にドラッグを売りつけるといった従来のドラッグ・ディーラーのプッシャー的なステレオタイプは、カナビスではもはや非常に稀なケースになっています。大半の若者が他の若者からカナビスを入手しているのです。それもしばしば利益抜きです。しかしながら、法的な観点からすれば、そうしたやり取りもドラッグ売買事犯と言うことになって看做されてしまうのです」 と指摘する。

報告書の中では、どのようにして友だちのネットワークからディーラーを排除しているかについて、「カナビスを売っているのは学校の友だちや学外の友だちで、みんな一緒になって付き合っているんです」 というユーザー声を紹介している。

カナビスをシェアしているユーザーも全体で70%を占め、ごく普通のことになっている。アンという14才の少女の話では、ここ4年間にわたってカナビスを常用しているが、他の大勢と同様にクラブの友だちと一緒にカナビスを買っていると言う。どのようにして分けるのかについては、「カナビスを手に入れた友だちが欲しいがどうか聞いて分けてくれるわけ。そして、逆の立場になったときは、その分を返すの」 と答えている。

報告書では、こうしたカナビスの 「ソーシャル・サプライ」 の罰則について詳しく書いたガイダンスが必要になってきていると指摘している。また、若者たちに対しては、健康へどのようなリスクがあるのか教育することが重要だとも述べている。

最後に研究者たちは、「この研究ばかりではなく他の研究でも、多くの若者の社会生活の中にカナビスが顕著に根づいていることが示されている。このために、カナビスの法的位置付けを多少変えたからといってほとんど影響を与えることはないと思われる」 と結論を書いている。

今回の報告書が発表される数週間前には、イギリス警察長協会(The Association of Chief Police Officers、ACPO)が従来の立場を180度変えて、カナビスをB分類に戻すことに賛成すると宣言している。その中では、2004年のダウングレードによって、カナビスが合法化されたと誤解されて混乱し、若者に間違ったメッセージを送る結果になってしまったと理由を述べている。

イギリスのブラウン政権は、現在、ドラッグ乱用問題諮問委員会の結論がどうなろうとも、カナビスをB分類に戻すことにしていると 伝えられている

B分類に戻す理由としては、現在の状態が若者に悪いメッセージを送ることになっていること、THCの効力が高い危険なスカンクが蔓延して、若者の精神病が増えていることを上げているが、諮問委員会への実際の 要請書簡 は次のように書かれている。
「統計では、2004年1月のダウングレード後にカナビスの使用が著しく減ってきていることが示されていますが、現在、カナビス使用による精神の健康への影響が社会の大きな関心事になっています。特にスカンクとして一般に知られている効力についての懸念は切実なものになっています。これに加えて、ニュージーランドとオランダで行われた長期研究では、カナビスの使用と精神病の関連が指摘されています。」

しかしながら、ここで述べられているニュージーランドとオランダの研究については、既に2005年の見直し諮問委員会で検証済みであり、また、スカンクや精神病の問題については専門家たちからさまざまな疑問が出されていることからも、要請内容には十分な説得力が備わっていない。

このために、科学的検証を役目とする諮問委員会も数ヶ月後に提出することになっている答申では、B分類に戻すには科学的な根拠が薄弱過ぎるという結論を出す公算が強い。

だが、分類をどうするかについて最終決定する権限は内務大臣にある。現在のジャッキー・スミス大臣は若い頃カナビスを吸っていたことを認めているが、そうした弱味を持つ立場上、無理にでもB分類に戻す決定を下してブラウン首相の意向に添う以外に政治的に生き残る道はないと思われる。

専門家、カナビスの分類変更に反対、罰則強化策には科学的根拠なし  (2007.7.27)
統合失調症の政治学  (2007.8.18)
イギリスの2研究、高効力スカンクの蔓延説を全面否定  (2007.9.17)

2005年に行われたカナビスの分類見直しのときは、カナビスは精神病を引き起こすという新たな研究が発表されたことが理由になったが、諮問委員会では、B分類に戻すほどの根拠にならないとしてC分類にとどめておくことを答申している。

この時もクラーク大臣が答申を無視する構えを見せている。しかしこれに対しては、諮問委員会の委員たちが政治目的で戻すなら辞任すると迫り、最終的には大臣も答申を認めて決着している。

イギリス・ドラッグ乱用諮問委員会、答申無視すれば辞任すると抗議  (2006.1.14)
イギリス、政争の具にされた精神病問題

現在までに諮問委員会の答申を無視した例はなく、今回ジャッキー・スミス大臣が無視すれば初めてのことになるが、クラーク大臣の時と同様の混乱が予想される。科学的事実を基に政策を立案するというこれまでの考え方を崩せば、正しいメーッセージが若者に伝えることができるかははなはだ疑わしい。

イギリスばかりではなくアメリカなどでも、カナビス反対派は、以前のように健康問題などで直接的にカナビスの悪害だけを科学的に説明することが難しくなってきているので、最近ではもっぱら 「キッズ・カード」 を出して、「子供を悪影響から守れ」 と言い立てて政治目的を果たそうとすることが常套手段になってきている。

しかしながら、今回の研究に見られるように、ほとんどの 「キッズ・カード」 が科学的な調査に基づいたものではなく、ゲートウエイ理論や法化緩和で使用率が劇的に増えるといった根拠の薄弱な憶測と懸念から派生しており、対策も科学的な具体性に欠けている。そのために、もっぱら一般受けを狙った 「子供に悪いメーッセージになる」 といったような非常に抽象的で感覚的な主張が目立つようになってきている。