カナビス合法化実現への道

取り組むべき課題と展望



ポール・アルメンターノ
NORML副事務局長

Source: AlterNet
Pub date: 12 Feb 2008
Subj: Making Pot Legal: We Can Do It -- Here's How
Author: Paul Armentano
http://www.alternet.org/drugreporter/76698/


カナビスに対する世論を変えることは簡単なことではない。アメリカの反カナビス法を変えるのはさらに難しい。だが、それを可能にするための青写真ならある。

私がカナビスの法改革に関わり始めてから今月で13年目をむかえる。その間にいくつもの成功や進展の兆しもたくさん見てきた。しかし、真剣な努力と多額の費用をキャンペーンに注いできたにもかかわらず、最終目標にはまだまだ遠く、フラストレーションも大きい。

特に、少量のカナビスを所持してだけで毎年50万人以上もの人たちを逮捕し起訴する根拠となっている刑法を廃止する目標と、成人が合法的にカナビスを使えるようにする規制・管理システムの確立という目標に対しては、ごくわずかしか前進していない。

この2つの目標のうちどちらか一つでも達成できるのだろうかと聞かれれば、もちろん可能だ。しかし、両方を現実的なものとして実現できるのだろうかと聞かれれば、運動を通じて世論と政治にこれまで以上に大きな変化を引き起こすことができれば、という注釈を付けなければならない。


問題点を明確にする

アメリカでは、過去何10年かにわたってさまざまなグループが、カナビスを合法化して市場を規制・管理して成人が使えるようにしようと努力してきた。だが、広範囲な教育活動を展開し、多額の費用をキャンペーン注ぎ込んできたにもかかわらず、世論調査や住民投票では、成人のカナビス使用の合法化を支持する人に割り合いは3分の1から 最大で46% どまりで、長い間あまり変化していない。

こうしたことを反映して、過去何10年かに何らかのかたちで達成されたカナビス法改革の範囲は限られている。そうした分野とすれば、「非犯罪化」(decriminalization) と 「医療化」(medicalization) の二つに大別することができる。

非犯罪化とは、成人の少量所持のカナビス事犯を投獄したり不必要に逮捕したりしないようにすることで、現在ではアメリカ人のおよそ3分の1が住む12州で何らかの非犯罪化が行なわれている。また医療化とは、州が認定した医療患者が医師の監督下で州の刑事制裁を受けずにカナビスを医療利用できるようにすることで、これも現在12州で施行されている。

これらは、成人のカナビス使用を全面的に認める合法化(legalization)とは違い、世論調査では一環して多数の支持を獲得している。現在では、非犯罪化ではおよそ60%、医療化では80%近くの人が賛成するまでになっているが、一方では、これらの改革に対する政治の熱意は伝統的に弱く、実際に立法化にまで至るケースは限られている。

今後の運動を効果的に展開するためには、これまで何年もカナビス法の幅広い改革が必要だと世論に訴えてきたにもかかわらず、なせ多数の支持を獲得できなかったのかを明確しておかなければならない。また、何年もロビー活動をしてきたにもかかわらず、多数の政治家に、さらなる法改革が必要なのかをなぜ説得できなかったのか冷静に見つめ直すことが不可欠だ。


カナビスに対する政治風土を変える

決まって政争の火種になる話題としては、カナビスの他にも、同性愛問題を筆頭として、移民問題、生殖自律の問題などがあるが、これらは特に保守派や右翼系の政治勢力からは格好の標的にされている。また、宗教や家族主義(プロ・ファミリー)などの組織も、理性からではなく道徳的嫌悪感から絶えず横槍を入れてくる。

しかし、普段は市民の権利の問題に敏感な政治家たちでも、カナビス法改革の中核になっている市民の権利の問題については積極的に取り組もうとはしない。われわれは、なぜそうなっているのかを分析して、それを突き崩すためには何をしなければならないかを考える必要がある。その方策とすれば、次の4点に焦点を絞ることができる。


  • メディアへの対応

  • 主力メディアのカナビス関連ニュースはしばしば不正確で、政府の政策を批判することは滅多にないが、反対に、カナビスの危険性を言い立てる警告的な報道を伝えることには熱心で、たとえ内容を否定するような証拠があったとしても、ほんのわずか触れるだけか無視してしまう。

    結局のところ、ニュースのレポーターたちは、現状維持の必要性を叫ぶ政府側に立って、異を唱える専門家の意見には重きを置かない。

    こうしたメディアのバイアスに立ち向かうためには、一貫して共感を得られるようなメッセージを整えて、レポーターたちがいつでも利用できるようにしておくことが必要とされている。また、キーパーソンとなるジャーナリストやオピニオン・リーダーたちと長続きする個人的な関係を築くことにも心を配らなければならない。

    政府は、カナビスの危険性を警告するために多額の税金を使ってテレビやラジオのコマーシャル枠を買っているが、それに対向するために、メディアを使った広告キャンペーンに資金をつぎ込むことも考えなければならない。


  • 法執行機関への対応

  • 警察を始めとする法執行機関のコミュニティは多面的で説得力のあるロビー・グループで、政治家たちに多大な影響力を持っている。少なくともカナビス法改革においては、警察は、いかなる利害関係グループよりも力があり、メディアばかりではなく議会での公聴会の証言でも最も声高な反対勢力になっている。

    さらに、警察は、たとえ議会でカナビスに対する法律が緩和されても、カナビスの扱いを緩めることには反対し続けて取り締まり方針を変えようとしないことが多い。このために彼らを参画させることは非常に難しく、法律を制定してもしばしば実効性が伴わない。

    例えば、昨年テキサス州では、軽微なカナビス所持違反に対しては警察官の判断で逮捕する代わりに違反チケットを発行することもできるようにした州法が州議会のほぼ全会一致で通過したにもかかわらず、1つの郡を除いて新しい法律を採用しようとする郡警察はなかった。

    ドラッグ法改革運動を推進するのあたっては、もっと積極的に法執行機関のコミュニティに接近して共に活動する必要がある。実際、法執行機関のコミュニティでも、すでに LEAP など法改革に向けて活動をしているグループが出てきている。そうしたグループでは、退職した警察官や刑事裁判関係者たちに呼びかけてメンバーを集めている。

    こうした活動的な警察メンバーを集めることで、政治家たちから信頼と支持を初めて獲得できる。また、州や連邦では、さまざまな刑事裁判関係団体がロビー活動をしているが、それに対抗できる説得力のある勢力を形成するためにもより多くの人の参加を求める必要がある。


  • 犠牲者たちの悲劇を伝える

  • 1990年以降に限ってもカナビス事犯で逮捕されたアメリカ人は1000万人を超え、現時点でも4万5000人が州および連邦の刑務所に入れられていると推計されているが、わずかに 「ポスター・チャイルド」 などの例を除けば、こうした政府の行き過ぎたカナビス戦争による無数の犠牲者たちのことはほとんど世間に知られることもない。

    同情すべき犠牲者たちの写真や話をさまざまな年齢、人種、経済階層から集めて広く一般に知ってもらうようにしない限り、大半のアメリカ人は、真剣に国のカナビス法を改めるべきだと思うようにはならないだろう。

    しばしばカナビス法の改革運動に対しては、「ヘンプが地球を救う」 といった広い政治的コンセプトを掲げていると思われることもあるが、それは正しくない。最も中心的な課題は、自分をリラックスさせるためにアルコールではなくカナビスを選んだというそれだけの理由で警察の標的にされ起訴されてしまうような社会に対して、市民としての公正な扱いを要求する点にある。

    軽微なカナビス事犯に対する罰則については一般的に厳しくないと思われがちで滅多に言及されることはないが、実際の制裁措置は他の事犯に比べて極端に厳しくなっている。例えば、制裁には、保護監察、ドラッグテストの強制、失業、子供の親権剥奪、公共住宅からの追放、財産没収、奨学金の停止、投票権の剥奪、養子縁組の権利の剥奪、食料スタンプのような連邦福祉補助の停止などがあり、生産的な活動をさせないようになっている。

    現在ではカナビス事犯で逮捕される人は38秒間に一人の割合いに達しており、このような制裁に苦しむ人は非常に多い。カナビス法改革運動では、この問題をヒューマニズムの問題として社会に訴えていかなければならない。禁止法のもたらす不当で理不尽な結果に苦しんでいる何百万人の悲劇のストリーを伝え、共感してくれる 有名人 や著名人、人権運動家たちにも働きかけて、こうした犠牲の実状を訴えることにも取り組まなければならない。


  • 犠牲者たちを政治・財政面から支える

  • カナビスに対する法執行状況は年齢によって極端に偏っている。NORMLファウンデーションが委託した2005年の研究によると、カナビスで逮捕された全アメリカ人の74%が30才以下で、4人に一人が18才以下になっている。

    現在の禁止法下で最も苦しんでいるのがこうした若者たちだが、財政・政治的な基盤を持っていないために政治家たちに働きかけて法律を変えることもできない。また自分たちの利益を守るために自分たちで法改革運動を組織しようとしても資金を集めるのは難しい。

    また、カナビスに対する法執行は人種によっても大きな偏りがある。上の研究報告では、過去1年間のカナビス使ったアメリカ人全体の中でアフリカ系アメリカ人の占める割合は12%に過ぎないが、全カナビス所持逮捕者に対する割合は23%になっている。

    さらに、司法管轄区単位でみれば、ニューヨーク市のようにカナビス事犯による全逮捕者の80%以上がマイノリティで占められているところもある。だが、マイノリティに対するカナビスの法執行がこのように極端に偏っていたとしても、カナビス法改革運動が人種の平等の問題を扱っていると言われることはほとんどない。

    カナビス法改革運動では、人種の平等にために活動している機関と協力して、カナビス問題が人種差別と基本的公平の問題なのだという認識を政治家や社会に訴えていく努力をしなければならない。

    加えて、若者のために活動している機関とも手を組む必要がある。特に都会の若者たちは、カナビスの有罪判決が一生重くのしかかって苦しむリスクが最も高く、双方で協力し合って運動をすすめなければならない。

    最後に、若者の親たちと交わって、カナビス法改革運動に積極的に加わるように働きかけることも忘れてはならない。国のカナビス法を変えるのに十分な政治的支持を獲得するためには、財政的貢献が期待できて政治的発言力のある親たちに絶対加わってもらってもらう必要がある。


    カナビスに対する社会の見方を変える

    世論調査では、カナビス事犯で投獄することに対しては75%近くの圧倒的大多数のアメリカ人が反対しているが、一方では、カナビスを合法規制管理して成人のカナビス・ユーザーを逮捕したり投獄しないようにする改革に賛成している人は50%にも達していない。

    何故このようなパラドックスがくっきりと出てくるのだろうか? こうしたアンビバレントな結果は、多くの部分でこれまでのカナビス法改革運動に欠陥があったことを反映していると言うことができる。

    過去の法改革運動の歴史を見れば、確かに禁止法の失敗を批判する議論の中でさまざまな成果を上げてはきたが、そのことだけに重点を置き過ぎてきたきらいがある。反面、カナビスをアルコールと同様に課税規制管理すすれば社会に多大な恩恵がもたらされるといったことを広く訴えて知ってもらうという点に関しては、あまり多くの時間やリソースを費やしてこなかった。

    こうした反省の上に立って、今後の運動は批判ではなく解決策を示すことに焦点を移して取り組む必要がある。年齢制限を設け、カナビスの販売をライセンスされた店でのみ認めるというカナビス合法化モデルを明確に掲げて、この代替方法の利点や詳細について粘り強く何度も社会に訴えていかなければならない。

    規制管理する代替システムに対する支持を50%以上に引き上げるためには、特に合法化への支持が低いグループや年齢層を対象に適切な対応をはかる必要がある。例えばそのようなグループとしては、ティーンの子供をもつ親や女性などで、20代の人や大学卒の男性に比べて支持が少ないことがわかっている。また、NORMLが依頼した2006年の世論調査の年齢別結果では、30〜49才の支持率が最も低いことも明白に示されている。

    支持率の低いグループを適切に区分けすることができれば、そうしたグループ向けに、特に関心の深いテーマを効果的に取り上げて明解なメッセージが伝わるように工夫する必要がある。実際の関心事は主に次の3点に集中している。


  • カナビスを合法化すれば、カナビスの入手が容易になってティーンの使用が増える

  • 現在の禁止政策においては、カナビスをコントロールするためにカナビスを犯罪として取り締まる必要があるという主張を根拠に成り立っているが、実際には皮肉なことにコントロールとは正反対の役割を果している。

    カナビス禁止法は、カナビスの生産や売買や使用を地下に潜らせるように機能している。現在のシステムでは、地下に隠れた秘密のサプライヤーがカナビスを生産しているために品質にはコントロールがなく、また、ディーラーも年齢制限などは気にかけず年少者にもかまわず売りつけてくる。

    これに対して、規制管理して年齢制限を設けたシステムでは、地上の市場管理フレームワークの中で品質の安定したカナビスだけが流通し、大人のみに販売する一方で若者にカナビスが向かうことを防ぐことができる。

    子供を心配する親たちに対しては、現行のアナーキーなシステムにはコントロールがなく、真のコントロールを確保するためにはカナビスを合法化したシステムを導入する以外にないという現実を強調して理解してもらう必要がある。


  • カナビスを合法化すれば、カナビスがOKだというメッセージを送ることになる

  • さまざまな人たちから最もよく出てくる意見の一つは、カナビスを合法化すればカナビスがOKだというメッセージを送ることになるという懸念だが、この質問には簡単に答えることができる。それは、合法的なドラッグであるアルコールやタバコの使用や乱用と対比すれば、節度と責任を持ってカナビスを使う限りは、社会の規範に十分に適合しているからだ。

    カナビスでは、一般にタバコやアルコールのような依存症の問題が起こらないばかりか、アルコールのようにオーバードーズして死ぬようなこともない。また、政府の調査データによると、カナビスを使っている人の大多数が毎日のように常用するのではなくたまに使う程度で、それも30代に入ると多くの人がやめてしまうが、こうしたパターンは、タバコを吸う人の大半がその習慣を一生続けるのと全く違っている。

    当然のことながら、カナビスの煙を長期間吸っていると喘鳴や胸苦しさなどの呼吸器に害を及ぼす可能性があるが、このようなネガティブなリスクの大半はバポライザーを使えば回避することができる。バポライザーでは、燃焼温度以下でカナビスの活性成分を蒸気にして簡単に取り出すことができるので、燃焼毒は発生しない。

    これまの運動では、大人の節度あるカナビス使用は自由社会の中で個人に認められた選択の範囲内にあるという主張をすることが定石になっていたが、これからは、特にアルコールやタバコと対比して、カナビス使用の安全性を前面に訴えたほうが理解が得られやすい。

    最近では、コロラド州デンバーのSAFERが、アルコールとカナビスの対比キャンペーンを展開して、デンバー市内での少量カナビス所持を認めた住民条例を成立させることに成功しているが、同じようなイメージ戦略キャンペーンを国のレベルでも展開すれば、たぶん間違いなく合法化への支持を大きく増やすことができるに違いない。


  • カナビスを合法化すれば、酔っ払い運転による事故が増える

  • 1000人以上の有権者を対象におこなわれた2007年のゾグビーの世論調査では、「アルコールやタバコやギャンブルと同様に、カナビスを合法化して課税・規制管理すべきですか?」 という質問に賛成した回答者は36%しかいなかった。

    しかしながら、「もし、アルコール・テストと同様に、警察が路上でカナビスの影響を調べることのできるテストがあったとすれば」 という条件を加えると、カナビスの合法化に賛成した回答者は44%に増えている。つまり、交通の安全への懸念が、カナビス合法化の大きな障害になっていることを示している。

    カナビス法改革運動では、こうした社会の懸念に対して、カナビスのよる酔っ払い運転事故を減らすための具体的な解決策を提示する必要がある。

    例えば、運動では、カナビス酔っ払い運転に的を絞った教育や社会サービス・キャンペーンの充実をはからなければならない。特に最もカナビスを使う年齢層の16才〜25才の若者は、吸ったすぐ後で運転した経験率の高いことが知られており、重点的にキャンペーンを行う必要がある。

    また、カナビスの影響下で運転しているドライバーをきちんと見分けられるような専門家の養成や訓練にも人材や資金を提供することも考えなければならない。さらに、路上での唾液検査の感度を上げて、警察官がドライバーの体内のTHCをその場で簡単に検知可能なテクノロジーの開発を応援することも重要だ。

    運動では、このようなことも含めて交通の安全に関する情報提供や特別キャンペーンに取り組むことで、酔っ払い運転が増えるのではないかという懸念を解消して、カナビス合法化に対する社会や警察の支持を高めることができる。


    目標は達成できるか

    節度と責任を持った大人のカナビス・スモーカーに対する逮捕をなくし、規制管理システムのもとで販売を認めるという古くから掲げられてきた目標はいまだに実現していないが、達成が可能な目標であることには変わりはない。

    しかしながら、この30年間越えられなかった政治や社会のハードルに対してこれまでとは違った効果的な方法で取り組まない限り、目標は達成できないままの状態が続くことになるだろう。