カナビスが老人の記憶を良好に保つ

新しい脳細胞の生成を促す可能性も

Source: Physorg
Pub date: 19 Nov 2008
Scientists are high on idea that marijuana reduces memory impairment
http://www.physorg.com/news146320102.html


オハイオ州立大学の研究者たちはここ何年にもわたって、カナビスの特定成分が老人の脳の炎症を減らすだけではなく、新しい脳細胞の生成を促す可能性のあることに注目してきたが、研究を進めれば進めるほどますます多くの証拠が得られるようになった。

このことから、研究者たちは、カナビスと似た特徴を持った成分を含んだ合法的な医薬品を開発すれば、アルツハイマー病の発症を阻止したり遅らせたりできるようになるのではないかと考えている。アルツハイマー病の原因についてはまた正確には分かっていないが、脳内の慢性的炎症によって記憶域が損傷を受けるからだと言われている。

開発の目標となっている新しい薬は、カナビスの主要な精神活性物質であるTHCと似てはいるが、ハイにはならないように配慮されている。THCは、適量のニコチン、アルコール、カフェインなどと同様に、脳内の炎症に対抗して保護する働きのあることが示されており、そのために老年期の記憶を良い状態に保つことができると考えられている。

この研究を主導しているオハイオ州立大学心理学科の教授で、神経科学、分子ウイルス学、免疫学、遺伝医学なども担当しているゲーリー・ウエンク教授は、「当然のことながら、どのドラッグも脳に良いというわけではありませんが、人間が何千年にもわたって何億回と使ってきたきた物質の中には、周囲にさまざまな悪評があったとしても、それなりの小さなシグナルを発しているものもあるのです」 と語っている。

教授の研究チームでは、すでにTHCに類似した合成物質が動物の記憶を改善させることを見出している。現在は、その物質が脳内でどのように機能しているのかを正確に把握しようと努めている。

ラットを使ったもっとも最近の実験では、脳内にある少なくとも3種類のレセプターを活性化させることが示されている。これらのレセプターは、記憶に関連している脳内のエンドカナビノイド・システムにあるタンパク質で構成され、食欲、気分、痛みなどの生理プロセスにも関係している。また、このシステムのレセプターは、脳の炎症に影響を与え、新しい脳神経細胞を生成することも示されている。

論文の共著者でオハイオ州立大学心理学部のヤンニック・マルシャラント准教授は、「人間は若い時には、自分で神経細胞を再生産して記憶も良好に働きますが、年を取るとそのプロセスが遅くなってくるのです。ですから普通に加齢した場合であっても、新しい細胞の形成の減少していきます。従って、細胞を作り直して新しい記憶の形成を助ける必要があるのです。そんな中で、われわれは、THCに似た化合物を使うと、細胞の生成に影響を与えることを見出したのです」 と語っている。

マルシャラント准教授は、こうした成果を、11月19日にワシントンDCで開催された神経科学学会のポスター・プレセンテーションで発表している。

ウエンク教授は、この化合物が脳の中でどのように働くのかを正確に知ることができれば、老化防止の恩恵を最大限に引き出す特別なシステムとエージェントをターゲットにして容易に薬をデザインすることができるようになると言う。

「アルツハイマー病になった家族がいるのですが、カナビスを吸えば病気にならないで済みますか? とよく聞かれるのですが、確かに、効く可能性も考えられます。しかし、わたしたちが言っているのは、カナビスの重要な特性を取り込んだ安全で合法的な物質が、老化による記憶の損傷を防ぐように脳のレセプターに働くということなのです。そしてその見通しも有望だということです。」

研究で明確になっていることも一つは、いったん記憶が損傷していることが認められれば修復することは不可能だということで、炎症を減らして神経細胞を保護したり生成したりするのは、記憶が失われる前に行わなければならない。

マルシャラント准教授は、老化したラットにWIN-55212-2(WIN)と呼ばれる合成カナビノイドを使って実験をしている。この合成カナビノイドは、精神活性効果を引き起こす能力が強いので人間には使われないが、動物実験では、投与量を十分に低くすることで精神効果が出てこないようにしている。

ラットの皮膚の下にはポンプを埋め込んでコンスタントな量のWINを3週間にわたって与える一方で、対象群のラットには何も与えずに、記憶テストを行って両者を比較した。記憶テストは、小さなプールの水面のすぐ下に隠された台を用意して、その台を視覚を使ってどのように上手に見つけ出すがを調べた。

その結果、WINラット・グループのほうが、どのように隠れた台を見つければよいかを学んだり思い出したりすることが上手にできることが明かになった。「普通、老化するとこうした作業はうまくできなくなってきます。学習によってできるようにはなるのですが、台を見つけるに時間がかかるようになります。これに対して、WINを与えると作業が少し上手にできるようになるのです。」

さらに、マルシャラント准教授は、WINがどのレセプターを活性化させているのかを調べるために、特別なレセプターだけをブロックすることが知られている化合物を加えて投与してみた。その結果、WINはTRPV1と呼ばれるレセプターに作用して、短期的記憶を担っている脳の海馬の炎症を下げていることが分かった。

また、同じようなブロッキング技術を使って、WINがカナビノイド・レスプターのCB1とCB2に作用して新しい脳細胞を生成に関わっていることを見出した。このプロセスはニューロン新生として呼ばれている。

教授たちは、WINを投与したラットでは、こうした炎症低下作用とニューロン新生作用が組合わさることによって記憶が改善されるのではないかと考えている。

また、研究チームは、エンドカナビノイド・システムが炎症の調整とニューロン新生プロセスにどのような役割を果たしているのかについても調べる実験を続けている。それによって、どのような薬を新しく開発すれば、すべてのレセプターを同期調整しながら最大限の恩恵を引き出すことができるかを探ろうとしている。

これまでの研究では、THC単独ではそのような機能を得られないことが明らかになっている。

マルシャラント准教授は、「われわれの最終ゴールは、アルツハイマー病の治療にTHCを使うことではありません。まず必要なのは、どのレセプターが最も決定的な働きをしているのか正確に知ることです。そして理想的には、それらのレセプターだけを特に活性化させる薬の開発に結びつけることです。われわれが見つけ出したいのは、炎症抑制とニューロン新生の両方を最も効果的に行って、最善の治療効果を生み出すことのできる化合物なのです」 と語っている。

この研究は、国立衛生研究所の支援を受けて行われている。

カナビスがアルツハイマー病の治療に効果があると 盛んに言われ出した のは最近のことで、研究もまだ 非常に初期的な段階 に過ぎない。期待が大きいのは、他に有力な治療法があまりないことも背景にある。

実際にこの研究でも、この先どのくらい時間がかかるのか見当がつかない。この研究については 1年ほど前の新聞 にも掲載されているが、今回の記事とほとんど同じで内容で簡単には区別がつかないほどだ。

だが興味深いのは、1年前の新聞でウエンク教授は、「実際のところ、1960年代や70年代にカナビスを常用していた人たちの間では、アルツハイマー病になった人は滅多にいないのが示されている」 と語っていることだ。

確かに、昔からジャック・ヘラー などは自分の母親の経験から、カナビスを毎日吸っていればアルツハイマー病に効果があると主張していたが、一方では、ミクリヤ医師の 医療カナビス適応疾患リスト には掲載されていなかったりもする。

カナビスとアルツハイマー病の話題として注目されるのは、晩年にアルツハイマー病になったレーガン元大統領で、大統領在任中から発症の噂がささやかれていた。

レーガンは、大統領になる前の1979年に最新の研究をもとに、「カナビスを使ったことによる避けられない結果の一つは、永続的に脳が損傷を受けることだ」 と高らかにカナビスに対する戦争を宣言している。その後、カナビスが脳障害を引き起こす と盛んにいわれるようになった。

しかし皮肉なことに、今ではカナビスが脳細胞を保護・再生してアルツハイマー病に効くことが分かり、レーガン大統領の面子はまるつぶれになった。彼はまた、タバコの宣伝にも積極的に関与していたことでも知られているが、タバコはアルツハイマーを悪化させる といわれている。彼がタバコではなくカナビスを常用していたならば…  時代は、権力者の愚かさと浅はかさを容赦なく暴き出してくれる。