アメリカの州と連邦で

着実に進展するカナビス法改革

Source: AlterNet
Pub date: June 3, 2008.
All Indicators Point to a Softening of America's Harsh Marijuana Laws
Author: Alexander Zaitchik
http://www.alternet.org/drugreporter/86982/?page=entire


共和党全国委員会(RNC)の連中には本当に感心してしまう。彼らは、間違った喧嘩であっても仕掛け方だけはよく知っているからだ。

先月、バラク・オバマ候補がオレゴンの新聞に、医療カナビス法を持つ州での医療ユーザーやディスペンサリーに対する連邦の強制捜査はやめるつもりだと語ったが、それをRNCは、「この発言は、彼には大統領の仕事を遂行するために必要な経験も、最も基本的な行政機構を適切に運営していく判断力もないことを如実に示している」 と激しく非難する声明を出している。

この声明の背景には、連邦のカナビス法の執行は州の医療カナビス法の拘束を受けないとする連邦最高裁の判決を拠り所に、連邦の強制捜査をやめることは法を無視するのと同じことだという理屈が横たわっている。

確かに理屈は通っている。だが、カナビスの医療使用を認めることに反対する世論が着実に減ってきているという現実は見ていない。ギャラップの最新の世論調査では、医療カナビスに反対している人は20%足らずしかいなくなっている。

それでも、たとえ僅かであっても、医療カナビスで平穏を得た癌患者の家庭を社会のために強制捜査することが 「行政機構の基本機能」 に属することだと考える人がいることには間違いはないわけだ。


変わる趨勢

実際、ニューハンプシャーの予備選挙では、民主党の候補者は全員が医療カナビスに対する政治状況をよく認識していて、州の認めた医療カナビス施設や患者への連邦の嫌がらせを終わらせると約束している。また、共和党の候補でも、トム・タンクレード候補とロン・ポール候補が同じような約束をしている。

だが、ジョン・マケイン候補はどうだったか? 医療カナビス推進グループのグラニット・スターターの発表したビデオによると、この次期共和党大統領候補に決まっているアリゾナの上院議員は大半の共和党の仲間と歩調を合わせる反応を見せた。

その融通性の無さは、レーガン時代の未成年向けプロパガンダ番組に比べてもさらにお粗末で、「私は、医療目的でのカナビス使用には反対です。カナビスはゲートウエイ・ドラッグだと確信しています。これが私の見方で、連邦政府のドラッグ政策責任者や他の医療専門家たちの見解でもあります」 と答えている。

しかしいくら 「専門家」 と強調してみても、現在の趨勢を見れば、その数はもはや両手で数える必要すらなくなっている。この2月には12万5000人の会員を抱えるアメリカで2番目に大きい医師の団体であるアメリカ内科医師会も医療カナビスのメリットを認めるポジション・ペーパーを発表し、カナビスを規制薬物法の最も規制の厳しい第1類から外すように勧告している。

これについて、カナビス擁護グループとして有名なマリファナ・ポリシー・プロジェクト(MPP)のブルース・ミルケン広報官は、「アメリカ内科医師会の支持表明は決定的なほどの意味があります。医療コミュニティは医療カナビスを支持していないという反対派の決め台詞を一蹴するものだからです」 と語っている。

これによって、食品医薬品局(FDA)の反医療カナビス政策を支持する団体として残された大きな団体はアメリカ医師会だけになったが、際だって孤立感を深めることになり、やがては内科医師会と同じ道をたどることになるに違いない。


手が届くところまできている国の政策転換

こうした状況下で、医学界が医療カナビス政策改革に向かうのも時間の問題となっている。この10年間、カナビスの医療利用の支持と非犯罪化を求めるの動きは強くなり続けている。確かに、カナビスの生育スピードほど速くはないが、長年カナビス法改革のロビー活動を続けてきたベテランも現在の状態を、「空振りせずに、国の政策にパンチが届く距離まで近づいた」 と話している。

1996年にカリフォルニアで医療カナビスを合法化する215住民条例が通過してから、ほぼ1年に1州の割合で医療カナビス法を持つ州は増え続けている。住民投票で実現したところもあれば、議会で法案を成立させたところもあるが、まだ実現していない州でも、法案が次から次ぎへと提出されるようになってきている。

オレゴンやバーモントのような州は当初からカリフォルニアに続くと予想されていたが、合法化を求める動きはそうした州だけに限られているわけではない。最近では、オハイオやアラバマ、ミズリー、テネシーといったカナビスとは縁遠いと思われていた州でさえ医療カナビス法案が提出されるようになってきている。

例えば、保守派の牙城として知られるサウスカロライナでも、自分の妻を脳癌との闘いで失った共和党の州上院議員が医療カナビス法を提出している。また、カナビス所持の最高罰則が99年の懲役になっているテキサスでも、昨年、成人の4オンス以下のカナビス所持を逮捕ではなく召喚状で済ませることができるようにする非犯罪化法案が下院を通過して、知事の賛成も得て成立している。


改革最中のミシガン、マサチューセッツ、ニューヨーク

現在大きな焦点になっているのは中西部のミシガンで、11月に医療カナビスの住民投票をめぐって激戦が繰り広げられている。これまで、医療カナビス法は西部と東部の州で成立しているが、中部ではどこにもない。2006年にはサウスダコタで住民投票が実施されたが、僅差で否決されている。今回のミシガンの住民投票はそれに続くものだが、もし成立すれば、地政学的にいっても政治風土的にいってもこれまでとは全く違った州となる。

ミシガン政治の内情を扱った専門紙によれば、世論調査では3分の2の有権者が医療カナビスに賛成しているという。MPPのロブ・カンピア代表も、「この11月には、ミシガンが医療カナビス法を持つ13番目の州になることはまずまちがいない」 と見ている。

11月に実施されるもう一つの大きな住民投票はマサチューセッツで行われる。もし成立すれば、1オンス以内のカナビス所持に対する最高罰則は、これまでの6カ月の懲役と罰金500ドルから100ドルの民事制裁に格下げされることになる。

また、ニューヨーク州議会でも今の会期中に圧倒的多数で医療カナビス法が成立する可能性が残されている。一方、ニューヨーク市では、ジュリアーニ市長以降に、世界で最もカナビスでの逮捕者が多い都市になっており、2007年だけでも黒人を中心におよそ4万人に達している。この状況は手のつけられないほどまでに深刻化しており、最近、ニューヨークタイムズ紙もデビッド・パターソン知事(民主)にドラッグ法改革のリーダーシップを取るように促している。

確かに、パターソン知事ほどそれに適任な知事はどこを探してもいない。アフリカ系アメリカ人で、州の共和党指導者たちともよい関係にあるだけではなく、緑内障による盲目を克服しているというモラリスティクな威厳も備わっている。ちなみに、緑内障はカナビスによって痛みが緩和することも知られている。

パターソン知事は、以前はドラッグ法改革の指導的な活動家としても知られ、厳格で人種差別を内包していることで悪名高いロックフェラー・ドラッグ法に抗議して逮捕されたこともある。今年で35回目の誕生日を迎えたロックフェラー法は、連邦麻薬局のウエブサイトでは 「卓越の35年」 と賞賛したりもされているが、実際には臨終に向かいつつある。


州法に拘束を受けない連邦法

しかしながら、ミシガンやマサチューセッツ、ニューヨークで新しい州法が制定されようとも、カナビス・ユーザーが連邦の規制薬物法で逮捕・起訴されうるという現実は、2005年の連邦最高裁のゴンザレス対ライヒ裁判の判決で確定しており、何も変わるわけではない。

つまり、オバマ候補の発言を非難したRNCの声明でも強調されているように、この判決は、連邦議会で連邦法が変更されない限りは、州や市町村レベルでどのような法改革が行われようと、それに拘束されずに連邦法の執行が可能なことを保証している。

確かに、カナビス事犯による追訴は99%が州や市町村によるもので連邦によるものは1%に過ぎないが、医療カナビスが合法化されている州での連邦麻薬局(DEA)による医療カナビス患者やケアギバー、ディペンサリーに対する強制捜査は増え続けている。

特にカリフォリニアやオレゴンでは顕著で、多くの患者個人が拘束されたり脅されたりしている。また、ロサンゼルスでは、ディスペンサリーや患者組合などに場所を貸している家主に対して資産を没収するという脅しまで行うようになってきている。ロサンゼルス・タイムズ紙はこうしたDEAのやり方を 「醜悪な弱いものいじめ新戦略」 だと非難している。

こうした状況についてMPPのミルケン氏は、「今では、医療カナビス法にとってDEAが最大かつ唯一の妨害機関になっているのです」 と指摘している。


連邦議会にも3本のカナビス改革法案

連邦議会には、現在、連邦レベルでのカナビス政策改革を目指した法案が3本提出されている。

それらの先鞭をつけたのが、ニューヨークのモーリス・ヒンチー議員(民主)とカリフォルニアのダナ・ロールバッハー議員(共和)が超党派で提出した通称ヒンチー・ローラバッカー修正法案で、2003年に以来毎年否決されながらも繰り返し提出されている。

この修正法案では、医療カナビス州法が施行されている州での医療カナビス事件への司法省の資金提供を禁じることを求めている。この法案が通れば、配下のDEAに医療カナビス取締関連の資金が流れなくなり、結果的に強制執行ができなくなる。

しかし、この法案では医療カナビスを連邦れ是流で合法化することを求めたものではなく、医療カナビス州法のない州でのDEAの執行をやめさせるようにはなっていないために急激な進展はみられないが、最初の2003年に152票の賛成を獲得し、昨年は165票まで伸びている(過半数は218)。

今年も、司法省の歳出予算法案に合わせて活動が続けられているが、活動家たちは、ヒンチー・ローラバッカー法案が 「予算の執行優先順位をチェックすることに目を向けさせる」 ことで、右派系の政府の浪費に反対する市民の会(Citizens Against Government Waste)のようなグループからも支持を取り付けることを目指している。

しかし毎年の闘いでの成果は数人単位に過ぎず、法案提出側ですら今年で状況が変わるなどとは思っていない。ヒンチー議員のジェッフ・リベルソン広報官も。「この問題の関しては、多くの議員がいまだに有権者の意見を正面から受け止めようとしていませんので、これからも長く厳しい闘いが続くことになります」 と語っている。

また、アナリストたちも、連邦レベルでのドラッグ政策の変更は今はタイミングが悪過ぎるで期待し過ぎは禁物だと警告している。ドラッグ・ポリシー・アライアンス(DPA)の弁護士を務めていたアレックス・クールマン氏は、「2008年は大統領選挙で目一杯なので、ドラッグ問題への動きはないに等しいでしょう。ワシントンでは、議論の多い課題にあえて首を突っ込むような人はいませんから」 と言う。

だがこの4月には、ヒンチー・ローラバッカー法案の他にも、2本のカナビス政策改革法案が新たに加わった。この2本の法案は、どちらもマサチュセッツのバーニー・フランク議員(民主)とテキサスのロン・ポール議員(共和)が共同で提案している。

一つは、医療カナビス患者保護法案(下院5842号法案)で、医療カナビスが合法化されている州に対する連邦の規制薬物法による介入権利を認めないことと、カナビスを規制薬物の第1区分から取り除くことを求めている。もう一つは、責任ある成人のカナビス個人使用法案(下院5843号法案)で、成人のカナビスの1オンスまでの所持を非犯罪化することを求めている。


「すべての指標は正しい方向を指し示している」

フランク議員のピーター・コーバー広報官は、「やっと緒についたばかりですので、すぐに通るなどとは思っていません」 と話しているが、一般に考えられているよりも変化は早く訪れるかもしれない。

MPPのカンピア氏は、「すべての指標は正しい方向を指し示しています。今回出されている主要な住民発議はどれも通過しそうですし、Eメールリストや組織の拡大、連携などのインフラ全般もどんどん大きくなってきています」 と語っている。

「世論も着実に非犯罪化を志向するようになってきていますし、州法は前進することはあっても後退することはありません。連邦下院での票も常に増えています。今期の110国会ほど多くの手応えを感じたことはこれまでにありません。」

今後も、医療カナビス問題で共和党側は民主党を激しく攻撃し続けてくるだろうが、新しい大統領を迎える第111国会では、状況はもっとずっと良くなるに違いない。