ヨーロッパ・ドラッグ監視センター(EMCDDA)

700ページのカナビス報告書を発表

Pub date: 28 June 2008
Author: Dau, Cannabis Study House


ヨーロッパでは、成人の5人に一人はカナビスを使った経験があり、過去1カ月以内に吸った人は1300万人に達する……

この最新の報告は、ヨーロッパ・ドラッグ監視センター(EMCDDA)が、6月26日の国連の国際反ドラッグ乱用&違法取引デイに合わせて発表したもので、『カナビス便覧、グローバルな課題と地域の経験』 (A cannabis reader: global issues and local experiences) と題する700ページ以上にもおよぶ膨大な報告書になっている。

内容は、ヨーロッパでのカナビスの歴史、法律や政治による規制、生産と供給と広がり、効力の変化、健康や社会への影響、予防と治療などについて、図表や詳細な引用文献をまじえて書かれている。

この報告書の大きな目的は、カナビスにまつわる誤解や勘違いを指摘して、バランスある最新の科学的知識を政治や政策に反映することで、もとより、ヨーロッパでカナビスを合法化することや、逆に取り締まりを厳しくすることを意図したものではない。

「ヨーロッパでは、カナビスが最も多く使われている違法ドラッグですが、政治家や科学者をはじめ、政策研究の専門家やマスコミ、一般市民の間でも大きな論争の的になっています」 とEMCDDAのウォルフガング・ゴーツ所長は言う。

「その結果、毎日のようにカナビスの情報が社会に流れ出してきています。確かにしっかりした調査や研究にもとずくものもありますが、挑発目的だったり、内容的に誤解を招くようなものも少なくありません。この報告書は、カナビスの議論や政策決定に際して、科学的研究結果の手引きとなるようにデザインされています。」


アメリカや官僚の影響がない分だけ明確?

報告書は2巻構成で、最初の巻では、ヨーロッパのカナビス使用の歴史から始まり、各国政府がこのドラッグにどのようにアプローチしてきたか、オランダのコーヒーショップがどのように発展してきたか、どのようにカナビスが流通しているかなどが書かれている。

この巻で特に注目されるのは、カナビスの効力変化の問題で、最近のカナビスの効力が数十年前よりも極めて強力になって危険が増しているという主張に対して、欠陥データにもとづく「都市伝説」 に過ぎないと指摘していることが上げられる。

この5月には、イギリス政府が効力が強力になったことを理由に罰則を強化することを決めているが、政治家は自分の都合の良いように科学的事実を歪曲することをよく表している。最近では、アメリカ政府の盛んに同じことを喧伝しているので、この報告書がきちんと論駁していることは重要な意味を持っている。

また第2巻では、カナビスに関連する健康問題に焦点を当てて、世界の研究の歴史や現状はかりではなく、ヨーロッパ特有の問題や治療の必要性についても触れている。

ここで注目されるのは、ロンドンの精神医学研究所のジョン・ウィットン教授が書いた 「カナビス使用にともなう身体と精神の健康」 で、たぶん意識してそうしたのだろうが、構成的には1997年にWHOが発表した『カナビスの健康問題と研究課題』 と非常によく似ている。

しかし、内容的には10年の差は非常に歴然としているばかりではなく、どの著者がどこを書いたか明確ではないうえにどことなくアメリカの意向や官僚のバイアスがかかったような感じのするWHOの報告書に比較して、取り上げている各論文に対する評価は鋭く明解で信頼のおけるものになっている。

その上で、「現在のエビデンスにもとづいて引き出したいかなる結論も、仮説として扱う必要がある」 とまで言い切っている。

「最近の研究では、精神に脆弱性を抱える人のカナビスに関連した鬱病や統合失調症のような精神障害、あるいはカナビスの煙に関連した気管支障害などで多くの報告がなされているが、健康問題に及ぼしているカナビスの影響の詳細を知るにはさらに多くの研究が必要で、カナビスに関する研究課題のほとんどは30年前と余りかわっていない。」


The public health significance of cannabis in the spectrum of psychoactive substances (523p)


また、カナビスとアルコール、タバコ、他のドラッグを比較したストックホルム大学の社会学者である ロビン・ルーム教授 は、「危険性の度合をどの面から比較しても、カナビスの危険性は他のどの精神活性薬物よりも最も低いかそれに準ずる程度であり」、アルコールやタバコが過小評価されているのに比べて、現在のカナビスに対する国際的な規制があまりにも厳し過ぎるものになっていると言わざるを得ないと書いている。

これは、「国際的な規制機構や国内当局が現状維持を指向しているために、しばしばカナビスの周囲に防衛線を張り巡らせるためにカナビスの害を誇張して言い立てることが普通になってしまっている」 からだと指摘している。


医療カナビスへの言及はない

しかし膨大な報告書ではあるが、カナビス問題を扱う性格上、どうしてもカナビスのもたらす害が話題の中心になってしまうという不満も残る。最近では、カナビスの害の研究よりも医療的な可能性についての研究のほうがが圧倒的に多くなってきているので、こうした情報が全くといってよいほど含まれていないことには問題があるのではないか。

これからは、政策決定の場でも、カナビスの嗜好利用と医療利用をうまく組み合わせて、害と医療的メリットを対比させて全体をどのように規制・管理していくのかという視線が欠かせなくなってくるに違いないが、その点では、残念ながらこの報告書にはあまり新さを感じないことも否めない。