「医療価値のない」

カナビス医薬品開発に熱心な製薬企業



ポール・アルメンターノ
NORML副事務局長

Source: AlterNet
Pub date: 5 July 2008
Big Pharma Is in a Frenzy to Bring Cannabis-Based Medicines to Market
Author: Paul Armentano
http://www.alternet.org/drugreporter/
90469/?ses=e4efe3247ce0a63de21a21117b6d4703


アメリカ医師会はカナビスには医療価値がないと主張しているが、その一方で大手製薬会社はカナビス製品の特許取得に熱心に取り組んでいる。

医療カナビスに関する世論調査などを見れば、アメリカ政府がこれまでずっと続けてきたカナビスの研究や使用に対する拒否政策が、無分別でモラルにも反して破綻ししていると考えているアメリカ人が大半を占めるようになっている。だが一方では、連邦当局は、何故この柔軟性のない非人道的な政策を頑固に続けようとするのかという疑問も沸いてくる。

連邦政府がまともな理由もなく医療カナビスを禁止していることに対して最もよく見られる説明は、政府や製薬企業が天然のカナビスの特許を取得して利益を上げることができないので認めようとしないからだ、というものだろう。

確かに一見すればそれらしくも聞こえるが、私には、この説明が正確でも説得力があるとも思えない。


カナビス関連薬品の特許取得に熱心な大手製薬会社

まず現実として、大手製薬会社は、実際にはカナビスの医療特性を利用したさまざまな特許をせっせとに取得している。そうした特許とすれば、合成THCを経口ピルにした マリノール や、脳のカナビノイド・レセプターと結合するアゴニストの合成カナビノイド HU-210、また逆に結合をブロックするアンタゴニストの リモナバント などがよく知られている。

こうしたトレンドについては、2006年に発表された国立保健研究所の 報告書 に詳しくまとめられている。その結論の中で、「エンドカナビノイド・システムをターゲットにした薬物療法の研究が脚光を浴びつつある。その潜在性に対する関心の高さは、開発されたカナビノイド関連の薬品が、1995年には2種類しかなかったものが2004年には27種類に増えていることにもよく表れている」 と書いている。

別の言い方をすれば、アメリカ医師会がカナビスには医療価値がないと主張している裏では、大手製薬会社が何十というカナビス・ベースの新しい薬品を争って市場に投入しているというのが現実の姿と言える。

もちろん化学合成したピルばかりではない。イギリスのGW製薬が開発している経口スプレーの サティベックス は、天然のカナビス抽出液を標準化して特許を取得していることでよく知られている。GW製薬は、非公開の施設でカナビスを栽培して、THCや精神活性のない抗不安成分である CBD などを抽出して精製し、目的に合わせて調合することで医薬品を開発している。


政府の方針に左右される医薬品の認証

では、大手製薬会社が突如としてカナビス・ベースの医薬品の研究開発に興味を抱くようになったのは、天然の医療カナビスの使用を抑え込むことで積極的にカナビス禁止法を側面から支持しようとしていることの表れなのだろうか?

必ずしもそうれはないというのが私の答えだ。彼らは自分たちの考えに従って取り組んでいるのに過ぎない。

カナビス・ベースの医薬品に限らずどのような医薬品であっても国の認可を取り付ける必要があるが、そのプロセスには科学的なメリットばかりではなく、政治的な部分も残されている。つまり、明確な理由はないにしろ政府がカナビスに敵対的な見方をしている限りは、カナビス・ベースの医薬品を開発している製薬会社も理不尽に敵対的で制裁的な扱いを受ける可能性があるわけで、必ずしも禁止法を支持していると思われるわけでもない。

そのよい例がサティベックスで、最近もイギリス医薬品庁(MHRA)から 認可を見送られている。サティベックスの開発が始まったころは、イギリス政府のカナビスに対する政策も緩くなってきた時期だったが、ここ数年でカナビスの嗜好利用に対する見方が変化して厳しくなった。

ゴードン・ブラウン現首相に至っては、今日のカナビスの効力が 「致死的なまでに高くなっている」 とまで言い出す始末で、カナビスの少量所持に対する罰則を口頭の注意から 最高5年の懲役 に変更する方針を決めて議会の承認を得ようとしている。

このような環境下では、イギリスの医薬品庁も、たとえ安全性に全く問題のないサティベックスであっても、カナビス・ベースの医薬品は一貫して認可しないという方針になっても何ら不思議ではない。

この逆の例が、認定患者に天然のカナビスの医療使用を認めて配布しているリベラルなカナダで、サティベックスを、2005年に 多発性硬化症の処方医薬品として認可 したのをはじめ、最近では 癌の痛みの治療薬 としても認めている。


製薬会社の本当の難関

もちろん、製薬会社にとって認可を取り付けることだけがすべとというわけではない。本当の難関は、その製品を使ってくれるお客さんを見つけることにある。ここで再び問題に鳴ってくるのが、カナビスを治療で使うことに対する文化・教育的な許容度で、それが高ければ、「リーファー・マッドネス」 に染み付いた文化に比べて、カナビス・ベースの医薬品の使用についてよりオープンに受け入れられることになる。

では、天然の医療カナビスをすでに直接体験している患者さんが、合法的なカナビス・ベースの医薬品が提供されるようになったら切り替えて使うようになるだろうか?

多分そうはならないだろうが、もともとそのような患者さんは全体からすれば少数に過ぎない。天然のカナビスを手に入れてまで試そうという人は特にに年配者になればなるほど少なく、結局は、カナビスが合法か違法かに関係なく、カナビス・ベースの医薬品のほうが広く受け入れられることには疑う余地がない。

では、カナビスが合法的に利用できるようになったならば、患者さんがそれを使うようになって製薬会社の医薬品の使用が減ってくるだろうか?

多分そうもならないだろう。カナビスの合法化が大手製薬会社の逆風になることはほとんどありそうもない。実際、医療カナビスが合法化されていて簡単に入手可能なオランダやカナダ、カリフォルニア州であっても、多くの人たちは治療にカナビスではなく処方医薬品を使っている。

さらに、エキナセア、ハマメリス、イースタンヘムロックなど多様なヒーリング・ハーブが合法的に使えるようになっている現在でも、大半の人は製薬会社が調剤した薬を治療薬として選び続けている。

では、合法的なカナビス・ベースの医薬品の出現が、天然のカナビスのほうがよく効く患者さんを犯罪者とすることの正当性の根拠に使われるだろうか?

多分そうもならない。だが、製薬会社はより安全で効果のあるカナビス・ベースの医薬品を開発しようと研究を続けるので、いずれは天然のカナビスの効力を越えるようになってくるだろうが、一方では、そのことで政府や法執行当局にとっても全面的なカナビス禁止法という馬鹿げた非論理的な政策を維持し続けることもますます難しくなってくるに違いない。


最も確かなこと

もちろん、最も確かなことは、過去40年間にわたって医療カナビスの合法化に尽力してきた活動家がいなければ、カナビス・ベースの治療法の開発やマーケティングなどに関心を示すような人は誰も出てこなかったということだ。そのことは特に製薬会社について言えるが、だからと言って彼らにロイヤリティを期待しているわけではないが。

最後に、アメリカ政府が医療カナビスの特許を取得するようなことはできないと主張している人は、『老化防止剤および神経保護剤としてのカナビノイド』 と題する USパテント6630507号 の特許権利の譲受人がアメリカ保健福祉省になっていることを確かめて見ることをお薦めする。

アメリカ保健福祉省が特許を申請したのは2001年2月で、申請理由として次のように書かれている。

「広範囲の酸化に関連した虚血・加齢・炎症・免疫などの疾患の治療と予防に有用で……脳梗塞・トラウマのような発作の結果起こる神経障害の抑制や、アルツハイマー病・パーキンソン病・HIV認知症のような神経変性疾患の治療に対する神経保護剤として他に類例のない応用例が発見され……」

この特許は、2003年10月に認められている。