2003.05.19.(月) 申請書入手


午前中、私の住んでいるM村を管轄するO市保健所に電話。担当の女性所員に大麻取扱者免許の申請方法について訊ねる。

申請書はあるが、免許申請の目的は何かと逆に訊かれる。

私は、個人の楽しみとして大麻を吸ったり食べたりしたいので、それで自家消費分を嗜好目的で栽培するのだと答える。

女性所員、
「ちょっとお待ち下さい」
と開始早々いきなり一度目のタイム。
上司と相談後、電話に戻り、大麻取扱者免許の申請については慎重に取り扱うよう県からの指導があり、申請書をお渡しする前によくお話を聞かせて頂くことになっている、と言う。直接の窓口は県の薬務課という部署なので、そちらへ行って頂いた方がいい、とも。

大麻取扱者免許の申請は保健所の窓口でいいはず。確認すると女性所員、渋々といった感じで肯定する。

本庁たって、遠いし、管轄の保健所で手続きしたい。だから申請書をもらいに行きたいと伝えると、2度目のタイム。

電話に戻った女性所員は、嗜好目的での申請が認められる可能性は殆どないので、そのように認められる可能性の低いものについては申請しないで頂くようにしている、それが県の指導である、と。

早い話、申請させないように行政として努力している。

これまで、全国各地で同好の志たちがさまざまな理由で大麻免許の申請をしている。だが、1件の例外を除いて免許を取得できた話を知らない。それほどまでに免許取得の壁は厚い。

大麻取扱者免許は一部産業用等を除いては出さない。それが現権力の方針だからだ。

申請自体をしないように指導しているとは、役所の人間って、何様?
担当の女性所員は、上司と相談するタイムを数回取り、結局、本庁の薬務課が実際に取り扱う窓口だから、県の薬務課に行ってほしいと繰り返す。

遠い。面倒だ。そもそも、そのような遠距離の不便を解消すべく、地域の窓口がこうしてあるんだろう?合同庁舎とかいって立派な建物造って。午後、申請書をもらいに訪ねる約束をして電話を切る。

午後1時過ぎ、O市保健所。担当の女性所員Mさんは三十路に入ったかと思われる色白の細面だった。
「私はあなたとケンカする気はまったくないからね」
と初めに伝えておいた。それで固かった彼女の表情が少しほぐれた。他意はない。

彼女は、どのような目的で申請するのかと電話と同じ質問から始めた。
私は、個人的な趣味で喫煙し、食材にもすると答えた。
Mさんは
「食べるんですか?」
と、丸い目を向けた。
天麩羅がおいしいと言うと、Mさん、ノートに「天プラ」と書いている。
定食屋の注文取りかよ。

Mさんは、県の指導の話やらを繰り返し、引き下がる様子のない私を見て、県の薬務課に行って欲しいようなことを言うが、いずれ行くことにもなるのだろうが、今はそんな面倒はごめんなので、とにかく申請書を下さいと言う私に押されて、困った様子で席を立ち、窓際にこっち向いてネクタイ締めて座っているおっさんの元へ歩み寄って話し込み、おっさんも席を立ち、Mさんと一緒に戻ってくる。歳はオレより少し上ってところか。

おっさんの険しい表情が、猜疑心と警戒心と不快感を露にしている。
申請書を渡さずに追い払うか、県の薬務課に投げて面倒から遠ざかっていたかったんだろうに。すまねぇな。

おっさんは課長であった。私は
「お世話になります」
と挨拶して会釈した。
おっさんは
「ご苦労さまです」
と言って一呼吸おいてから、
「この件については本庁の薬務課のほうにも連絡をしてもらったでしょうかね?」
と、遠目で見下すような強張った第一声を発した。
私がまだだと答えると、言い訳口調で保健所の行政的な立場の説明を始めた。
ここはあくまでも現地の出先機関で、とか、審査をするのは本庁だからそっち行ったほうが早いとか。

「私は申請書をもらいに来ただけで、ここはその担当窓口です。大麻取扱者免許の申請書を下さい。」

私が要求すると、課長のおっさん、

「いつ頃から栽培を始めるんですか?」

と訊いてきた。

私は答えた。
「栽培は、免許を取得したらすぐにでも始めたいと思いますが、遅くとも夏至までにはある程度にしておかないと・・。」

誘導尋問には気をつけなければならないと思う。

課長のおっさんは、喫煙や食用を目的とした申請が通る可能性はほとんどないと言う。許可される可能性のない申請を出すっていうのも変だという。

こんな変な申請をしなければいけないのは、大麻取締法のせいであり、それがいかに愚法であるか、欧州の現状、もともと犯罪などではないアジアの様子、麻が日本文化にとっていかに神聖で大切なものであるか、日本の神話には大麻の神様が出てきて活躍すること、その神聖な大麻を占領国である米国の言いなりで取締りの対象にして、日本人の精神的な誇りと一緒に葬ってしまったこと。

だから、麻の復権は、敗戦後ずっとやられっぱなしの米国に一矢酬いて大和の誇りを取り戻すことでもあること。

天照大御神の御札を「神宮大麻」というでしょう。その大麻こそが麻です。知っていましたか、と聞くと、課長のおっさん、

「いやぁ、知りませんでしたぁ」

と、首を縦に振った。
つい熱弁になった。オレもこないだ大将に教えてもらったばかりだが。

アルコールや煙草ほどの害もない大麻を自家消費目的で栽培させない現状のあり方はおかしい。
私の申請を認めないというなら、その際はきちんとした文書での回答を求めることになる。そのような手続を踏む第一歩として、今日は申請書をもらいに来ただけなのだから、下さい。

課長役に人生まるごとハマっているおっさんは、申請を思い留まらせたい口調の話を続け、薬務課に行けば同じのがあるから、そっち行ってもらいたいとか、申請は無意味だとか、キリがない。

私は強い口調とちょっと大きめの声で言った。

「私は、あなたたちとケンカをするつもりはないし、あなたたちが職務上そのように言うのは無理ないだろうとも思いますが、私は今日はただ申請書をもらいに来ただけです。ここはその窓口です。法的に認められた手続をしに来ているのに、行政の窓口がそれを渡さないというのは職務怠慢であり、職務放棄であり、県民を侮辱した極めて不当な行為です。申請書を下さい!」

すると、課長のおっさん、
「まぁまぁトーンを落として下さい」
と両手で私を抑えるような仕草をして作り笑いし、再度、担当のMさんに
「薬務課の〇〇さんに電話して、こういうことなので申請書を渡しますって連絡して・・」
と私にも聞こえるように指示した。

別の場所で電話したMさんが戻ってきて私にも聞こえるように上司に報告した。

「申請書を渡すのは、渡すっていうことで聞いたけど、受け取るときは、また別にそのとき連絡を下さいってことです」

Mさんが申請書を用意し、添付書類について等の説明をしてくれた。
さっさとくれてりゃ3分で済む話じゃねぇか。50分も過ぎていた。
Mさんの説明をおっさんも横で聞いていた。

帰り際、まるで懇願するかのように、おっさんは薬務課にも行ってほしいと言う。
なんだか気の毒にも思えたので、
「じゃぁ、申請書を出す前に、薬務課にも電話は入れておきますよ」
と応じると、おっさんとMさんの表情が俄かに明るくなり、もちろん電話でも結構ですと、Mさんを急かすようにして直通電話番号と担当者の名前を書かせ、そのメモをくれた。直接担当の人と話をして下さい、と。

帰宅後、県の薬務課にも電話をして担当のN氏と話をした。O市保健所の課長のおっさんに言われてかけていることも伝えた。これで課長のおっさんの面子は立てた。私の氏名や住所、職業、電話番号も聞かれ、正直に答えた。そしてまた同じ話。
担当氏は、麻が日本文化にとって重要な役割を果たしてきたことについては同意したが、
「喫煙するという習慣はなかった」
と反論した。

では、麻を喫煙する習慣が本当になかったのかどうか、それは措くとして。
喫煙する習慣がなかったことは、現在の喫煙を認めない理由にはならない。大麻を禁止するなら、アルコールや煙草以上に害がある証拠がなければならないが、世界的にも大麻の有害性を否定する研究結果が数多く公表されており、有効な薬草として処方する国もあり、米国と距離を置き始めた欧州では大麻の非犯罪化は加速している。当然それを承知しているはずの厚生労働省は大麻の研究すらしていない。禁止する根拠はない。そのことをどう説明するのか。

県薬務課担当N氏は、私の言っていることは理解するが、自分としては、立場上、
「申請書を出さないで下さいと言うしかないですね」
と事務的に繰り返し言った。

「あなたが立場上そう言うのは無理もないのだろうけど、法に定められた制度上の手続きなのに、担当してるお役所の窓口で、お役人が手続しないでくれなんて言うのは、民主主義の国として、本当はとってもおかしなことだと思いませんか?」

「申請書は、出さないで下さい、やめて下さい、そう言うしかないですね」

「あなたが職務としてそう言うのはわかります。でも、添付書類が揃ったら保健所に申請書を出します。提出するのは薬務課じゃなくて、保健所でいいですよね?」

「それは保健所でもいいです」

「書類はそちらに回るそうですが、その節はよろしくお願いします」

そう告げて、電話を終えた。

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