奇遇にも、ある青年と再会した。
青年の父は、安曇野の豪傑がただで分けてくれる大麻のおかげで病も進行せずにいるという。
噂を聞きつけたさまざまな者が豪傑を訪ねるようになり、
なかには、癌を病む者、ヘルニアの者、メヌエル氏病の者、緑内障の者、神経痛の者、
他の薬物を好む者もいたらしい。
豪傑は、カネを要求することなどただの一度もなく、
むしろ売買になってしまうからと断っていたという。
豪傑には、まっとうな家業があり、
そもそもカネに困っていない。
それでもどうしてもと言い張る親しい者からは、
実際に栽培にかかる小額とはいえない費用を補うカンパとして、
受け取ることが稀にあったかもしれないそうだ。
病を治す目的で訪ねてくる者たちは、
それぞれの地元の特産品や、高級酒をせめてもの手土産にと持ってきたそうだ。
だが、普段、酒を飲まない豪傑は、土産の酒をいつもそのままテーブルの上に置き放した。
呑んでしまうのは豪傑の近くに住む古くからの知り合いで、
この男は麻には関心を示さず、三日空けずに
「いたかね?」と夜やってきて、
「頂くよ」、と勝手に飲み始め、
勝手に喋り始め、そのまま朝まで寝込んでしまうこともあるそうだ。
野良猫すら自由に出入りしていたという。
豪傑になついた野良猫は、
得意気に鼠を咥えて参上し、
誉めてもらいたくて、
座卓を囲んで胡座をかく豪傑の横に落とした。
その場で鼠を平らげる野良猫を、
豪傑は視界から外しつつも、
邪魔はしなかったらしい。
どんな者でも受け入れてしまう。
人間じゃなくても。
それが豪傑の豪傑たる所以であろうか。
しばらく前から、連絡が取れなくなっているのだと青年は言った。
病気持ちの人たちも心配しているけど、名前を出すわけにもいかないし、
病状は悪くなるし、
どうしたらよいのか分からずに困っていると言う。
病の人たちがどうなっているのか、
ただでさえ大変な状態にいる本人たちに負担がかからない方法で、
確かめる必要があるのではないだろうか。
それは、いろいろな証にもなるのではないだろうか。
私には、そう答えるのが精一杯だった。