第二回公判



11月5日。大阪地裁605号法廷で午後2時から第2回公判が開かれる予定だった。が、ちょっとした手違いで開廷時刻が20分少々遅れた。

裁判官が開廷を告げて、被告人の私は長椅子に着席したまま。

裁判官が、

「弁護人は憲法違反で無罪を主張するんですね?」

と確認の言葉を向ける。

「はい、その弁論は後でやりますけれども、報告書といたしましては、」

と、報告書を説明した。

報告書(1)  「文字通り世界の医師のバイブルとして無数の人々の治療に役立ってきた」(「メルクマニュアル第17版日本語版総監修者序より)」医学書「メルクマニュアル」(第17版日本語版)のweb版中、「大麻(マリファナ)類への依存」(第15節精神疾患195章「薬物と依存」)に大麻の有害性・危険性についての記載があるのでこれを抜粋して報告する。
報告書(2) 1982(昭和57)年11月第二東京弁護士会司法制度調査会において「大麻取締法見直しについて」とする意見書が採択され、「大麻には従来考えられていたような強い有害性はないと認識されるようになってきており、・・・大麻取締法を見直す必要があると考えられる」としているので、これを弁護士丸井英弘作成のホームページより引用して報告する。
報告書(3) マリファナの有害性、大麻取締法の問題点等について、弁護士丸井英弘の論文を法学セミナー(日本評論社1980年7月号「マリファナ解禁と大麻取締法」、同12月号「薬物使用と非犯罪化」)から引用して報告する。
報告書(4) 大麻問題で英国上院委員会顧問を務め、これをきっかけに文献の総括的検討に着手したレスリー・L・アイヴァーセン博士が書いた「マリファナの科学(伊藤肇訳 築地書館)」より「マリファナの医療利用」及び「マリファナの安全性」に関する科学的・学術的記載があるのでこれを抜粋して報告する。なお、長文に亘るが、重要部分に下線を付した。

 

 

 


 
 


 

 

 

 

 

「大麻取締法が憲法違反であること」、「医療大麻が認められないのは生存権の侵害であること」を証明するための報告書は、俺がネット上の情報や文献などを紹介したなかから、弁護士が抜粋し、組み合わせて作った。

論文を裁判のデータに使用することについては、丸井弁護士にはメールでお願いし、ご了解頂いた。
「マリファナの科学」著者のレスリー氏には連絡してないが、発行元の築地書館には了解を頂いた。
メルクマニュアルについては事前の了解を得ていない。そのことを思い出した。

頼んだはずの、オランダなどの医療的な扱いに関するデータが落ちている。先生、忙しくって、当日ギリギリにならないと書類が間に合わない。

報告書の説明が簡単に終わり、証人への尋問。

情状証人として妻が傍聴席から廷内に入り、証言台へ。

(ごめんね。こんなトコに立たせることになって。)

開廷前に署名した宣誓書を読まされる。

「宣誓、良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います。」

裁判官が着席を勧める。証人は座っていいようだ。

弁護士の質問に妻が答えてゆく。

−あなたの夫はどんな人ですか?−

「夫は、私や子供たちから見ても、とても温厚で優しく、周囲に気を遣う人で、一緒にいて安心できる人です。子供たちも尊敬しています。」

(いくら裁判とはいえ、ちょっと褒め過ぎだ。)

−あなたは大麻についてどう聞いていましたか?−

「夫は大麻所持と栽培で逮捕拘留されましたが、夫からは知り合って間もない頃から医療大麻の話を聞いていました。それまでは大麻は覚醒剤と同じで体によくない悪い薬物だと思っていました。ただ、私が積極的に大麻の吸引や栽培に関わったことはありません。夫が大麻を吸引していたことは知っていました。私自身、調書には4・5回位と吸ったとありますが、5回も吸っていませんと答えたものです。実際、2回程度しか吸ったことはなく、吸っても全く変わったこともなく、悪い影響は何もありませんでした。続けて吸おうとも思いませんでした。夫が大麻を吸って変わったりしたことなどありません。」

(そう。■■、効いてんのに、イマイチ分からなかったみたい。普段から飛んでるし、吸わんでもいいわ。これでもし■■が大麻にはまってたりしたら、もっと大変だったな。)

−あなたは大麻が違法であることを知っていましたか?−

「はい。大麻の栽培や所持が違法であることは知っていましたし、夫が持っているのも知っていました。ただ、医療大麻の話を聞いていましたし、それほど悪いものではないんじゃないかと思い、それほど強く止めて欲しいとは言いませんでした。当初、体に悪いと思って、止めたほうがいいのでは、と言ったことはあります。」

(そう。でも、心配してたんだよね。ゴメンね。俺の拘留中、みんなで力を合わせて頑張ってくれてありがとう。もう逮捕されるようなやり方はしない。本当にごめんなさい。)

−家宅捜索のときはどうでしたか?−

「捜査が入ったときはびっくりしました。逮捕拘留中は、私は会社のことは殆どノータッチだったので、クレームが来たり、キャンセルや取引中止になった会社があったり、とても大変な思いをしました。経済的にも大変で、子供たちにも言葉にできないくらい辛い思いをさせました。でも、子供たちと一緒に、お父さんが戻ってくるまで頑張ろうと言って、毎日暮らしていました。」

−保釈後、夫は大麻についてなんと言っていますか?−

「保釈後、今までみたいなことは二度としないで欲しいと言うと、夫は、違法行為は絶対しないと約束してくれました。大麻を所持もしていませんし、吸ったりもしていません。栽培もしないということです。仕事も寝る間を惜しんで働いてくれています。今後、二度と法律違反をするようなことはしてほしくありませんし、家族5人で頑張っていきたいと思っています。夫が免許を取得しないまま、大麻を栽培したり、所持したりということは、絶対にさせません。」

検察官
−夫は、あなたの言うことを聞いてくれるような人ですか?−

「夫は私の言うことは聞いてくれます。」

−ひとつ疑問なのは、こんなことをやっていて逮捕されるとは思わなかったのですか?−

「捕まるのでは、という不安はありましたが、医療大麻の話も聞いて、そんなに悪いものじゃないんじゃないか、と思ってしまいました。それは私も反省すべき点だと思っています。もっと強く止めさせるべきでした。」

検事の質問はこの二点だけだった。質問する表情からは、敵意とか、意地悪さもまったく感じず、俺は拍子抜けした。「奥さんも一緒にやってたんじゃないの?」くらいは言われると思っていた。

以前、長野県松本地裁で見た検事の質問は、被告人にだけでなく、情状証人として立った父親にまで辛らつで、悪意すら感じた。それを思えば、なんという落差だろう。案件が多くていちいち感情的になっていられないのだろうか。

証人の妻が傍聴席に戻り、俺への質問が始まった。

弁護士
−今までに逮捕されたりしたことはありますか?−

「19歳のときにバイクで人にちょっとケガをさせてしまって、業務上過失傷害で罰金2万円を払ったことがあります。それ以外はありません。」

−あなたが大麻を知ったのいつですか?−

「21歳から23歳くらいまでアメリカ内を放浪していましたが、ニューヨークのハーレムに住んでいた頃、周囲の黒人に勧められて吸ってみたら、酒とは違って意識が混濁することもなく、逆に人と人のつながりを大切にするような酔いかたでしたので、そんなに悪いもんではないと思いました。暴力的になることもありませんでした。

−大麻以外の薬物に関しての使用歴は?−

「アメリカにいる間、それ以外の薬物、クラックとかコケインなどを一度だけやったことがありますが、大麻とは違い、意識が違うところへ行ってしまうものもあるので、一度きりにしました。LSDは、4・5年前の野外のパーティーのときに一度、あります。桂川さんの調書によると、何回か渡したとなっているようですが、勘違いだと思います。それ以外に、違法なドラッグの経験はありません。」

−帰国後の大麻との関わりはどうでしたか?密売人から買ったことは?−

「海外から戻った友人から少し貰って吸うことはありましたが、密売人から買ったこはありません。違法だと分かっていたし、そこまでして欲しいとは思いませんでした。何年かは大麻とはノータッチでした。」

−桂川さんと知り合ったのは?−

「「マリファアX」という本で桂川さんを知ったのは7・8年前で、その本を読んでコンタクトを取りました。桂川さんとは、人生論とか、大麻については日本古来の、縄文時代からの栽培作物であったことや、御札のこと、もともと日本にとっては麻は神聖なものであることなどを教えて頂きました。桂川さんからは、その知識の深さ、麻についての知識だけでなく、人生論、宇宙論、いろいろと教えを受けることが多かったです。桂川さんのところで大麻を吸ったり、持ち帰ったこともあります。」

−栽培の経験は?−

「アメリカから帰国してすぐ、向こうで知り合った友人を泊めたときに、その友人から貰った中に一粒の種が入っていましたので、栽培したことがあります。桂川さんから貰ったなかにも種付きがありましたので、、、4・5年前に一度、以前の住所で栽培しかけたことがありますが、大家さんに見つかったようで、マズイかな、と思い、抜いて捨てたことがあります。300株以上の栽培は今回が初めてです。以前に栽培して、人に売ったとか、あげたことはありません。」

−桂川さんからはどのくらい貰っていた?−

「いちいち正確に量っていたわけではありませんが、月に一度くらい遊びに行って、一度に10グラムから20グラムくらいの量をもらっていたと思います。」

−あなた自身が栽培していた目的は?−

「ハイブリッドについては私自身の嗜好目的です。残りのF2とかF3は酔っぱらう効果は薄いので、欲しがっていた病人にあげるつもりでした。」

−大麻取扱者免許を申請していますね?−

「はい。4月に栽培を始めたあと、5月に長野県知事宛に大麻取扱者免許の申請をしたのは、合法的に栽培したいと思ったのと、栽培免許を申請してもほとんどくれない、行政の窓口でも申請書すらくれないと聞いていましたので、それはおかしいのでは、という思いもあり、ホームページでその経過を公表しながら、あえて社会的に問題提起したいというつもりで嗜好目的で申請しました。6月27日に却下されていますが、却下は予想していましたし、それに対して異議申立てをして、何がいけないのか明確にしていきたいとも公表しています。医療目的での免許申請も考えていました。医療目的ですら認めてくれないというのは、世界的に、大麻が医療的に効果があるというのは、科学的に証明されている事実ですので、それすら認めないというのは、明らかに生存権の侵害であると思っていました。そういう意味で、こちらから訴訟を提起していくことを考えていました。」

−なぜ最初から医療目的にしなかったのですか?−

「最初から医療目的にしなかったのは、自分自身が病気ではないから医療目的にはならないと思っていたのと、医療目的をわざわざ出すのも偽善的かなという気があったので、あえて嗜好目的で申請しました。」

 

被告人に対する弁護士の質問はまだ続きがあったが、裁判官が時間切れを告げた。

第3回となる次回は11月18日午後3時から1004号法廷にて。

 

 

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