ある病人の噂



街で買い物をしていたら、豪傑のお宅に出入りしていた男と会った。

その男は大麻にはまったく関心を示さず、酒ばかり呑んでいた男だ。

 

いつだったか、豪傑の部屋でこの男から聞いた話。

男の友人は、癌を病んで以来、豪傑の麻を服用していた。

柿の葉やドクダミなど複数の薬草と一緒に煎じてお茶にして飲んでいたそうだ。

THCは水に溶けないのでは?

ふとそう思ったのだが、

後日、実際にそのお茶を試してみると、

意識には効かないまでも、

体が温まり、これはよく眠れるだろうと実感した。

唇に滑りが残って微かに痺れるような感覚があった。

酔いが目的ではないから、それでいいらしい。

男は老いた両親にも飲ませていたが、

夜中にトイレに行かなくなり、

朝までぐっすりで、食欲が出て、

おかげで元気で困るとかつて男は話していた。

 

数ヶ月ぶりに会った男は、

癌を病む友人の症状が悪化し、再入院したと言った。

見舞った男に、病床の友人は、

「なんで麻を持って来てくれねぇだよ」

と、笑って言ったそうだ。

事情を知った上で。

 

栽培者を逮捕することで、

自己治療目的で必要としていた人から、

近畿厚生局麻薬取締部は、大麻を奪った。

それは人道上の罪ではないのか。

麻を服用できなくなっての病状悪化かどうかは分からない。

だが、病の者が大麻を使う機会を現実に奪ったのだ。

これが厚生労働省のやることだろうか。

あなたたちが守っているのは、

社会ではなく、体制だ。

大麻で救われる人がいる現実を黙殺して、

法を盾に被害者もいないのに取り締まる。

取り締まりが被害者を生んでいるだけだ。

 

医療ミスのニュースも多い。

再入院した男の身の上を案ずるのみだった。

 

言葉も少なく、手短に話すと、男は足早に去っていった。

 

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