国選弁護人による控訴趣意書



平成16年(う)第57号大麻取締法違反被告事件
被告人 白坂和彦


控 訴 趣 意 書


平成16年2月16日

大阪高等裁判所第4刑事部 御中

弁護人弁護士 葛 井 重 雄

頭書被告事件の控訴趣意は下記の通りである。

第1

 原判決には憲法の違反があり、その違反は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから破棄されるべきである。

 即ち、大麻取締法は憲法13条、14条、31条、36条に違反する無効な法律であり、従って被告人の大麻取締法違反の公訴事案については無罪判決が相当である。

 しかるに原判決は弁護人のかかる主張を排斥して、被告人に対し大麻取締法24条1項、24条の2第1項を適用して被告人に対し懲役3年この裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予するとの有罪判決を言渡したのは違憲無効な法律を適用して処断したものであり、原審判決は破棄されるべきである。

 以下にその理由を詳述する。

 

1.
大麻取締法は、憲法13条に規定する国民の幸福追求権を侵害するものとして違憲無効である。

(1)
最高裁は昭和45年9月16日大法廷で「喫煙の自由は憲法13条の保障する基本的人権の一つに含まれる」と宣言している。(裁判集 刑事1412頁)

 従って、公共の福祉に反しない限り幸福追求権を制限することは、憲法に定めるこの条項に抵触する。

(2)
原判決は「大麻が、人体に対し、個人差があるものの、嗜好分裂、時間、空間感覚の錯誤、離人体験等をもたらし、長期の常用により、無気力・無感動を呈し、判断力・記憶力の低下をもたらすなど、精神薬理効果を有することは、公知の事実である。それゆえ、国家が国民の生命、精神の安全に対する危険を防止する見地から、法律をもって大麻の使用につながる所持や栽培等の行為を規制し、その違反に対して罰則をもって臨むことは、十分合理性がある。」と断じているが、上記は最新の大麻に対する医学的薬理、薬効について甚だ無理解があり、公知の事実というのは真実ではない。

(3)
大麻に有毒性がないこと、あっても極めて低いことのほうが近時における公知の事実である。

(4)
即ち、マリファナの身体的効果については、マリファナ研究についてもっとも権威のある報告書とされている「マリファナ及び薬物乱用に関する全米委員会」(以下全米委員会という)の1972年報告では次のように述べている。

「身体機能障害についての決定的証拠はなく、極めて多量のマリファナであってもそれだけで人体に対する致死量があるとは立証されていない(ちなみにアルコールの場合には泥酔状態が致死量に近いといわれている)。また、マリファナが人体に遺伝子的欠陥を生み出すことを示す信頼できる証拠は存在しない。マリファナが暴力的乃至攻撃的行動の原因になることを示す証拠は存在しない。」「マリファナ摂取による身体的機能の変化は、次のような一時的なわずかな変化である。脈拍が増加し、最低血圧が上昇し、最高血圧が低下する。眼充血し、涙の分泌が少なくなり、瞳孔がわずかに狭くなり、眼の液圧が低下する。そして結論として、通常の摂取量では、マリファナの毒性はほとんど無視してよいといっている。」

また、全米委員会の1973年報告でも、「マリファナ使用と犯罪の関係について、マリファナの使用は、暴力的であれ、非暴力的であれ、犯罪の源ともならないし、犯罪と関係することもない。」と結論付けている。

(5)
即ち、原判決が、公知の事実と称するものは何ら科学的根拠のない偏見的な非科学論であり、これを公知の事実であるというのは経験則に明らかに反するものであって、マリファナに原判決が言うような精神的、肉体的、更には社会的適合性が、数々の社会的な研究の成果として公認されてきていることを思えば、マリファナはタバコやアルコールとともに国民が自由に享受できる幸福追求権であること明白であるから、これを認めない原判決は上記のとおり違憲であるといわざるを得ない。(原審記録485頁以下)

 

2. 第2に大麻取締法は法の下の平等を定めた憲法第14条に反する

 第1で述べた如くアルコールや喫煙は公知の事実として強い精神的、身体的依存を引き起こすと共に、肝臓や心臓血管に悪影響を及ぼすこと、更には飲酒酩酊により暴力事犯を誘引することは経験則上知られている正に公知の事実である。

その点より見れば、マリファナにはそのような悪性はどの文献報告書にも見出せない。しかるに、酒、喫煙については未成年者の使用を禁じている他、何らの法的規制はない。このように、大麻より危険性有害性が高くあるいは同程度に有害と認められる薬物や嗜好品の所持摂取が原則として各個人の自由にゆだねられていることに照らせば大麻取締法にのみ厳罰で禁圧しているのは法の下の平等を規定した憲法第14条に違反する。

3. 第3に大麻の所持、栽培を禁止している大麻取締法第3条などの違反者に対する罰則を定めている同法第24条、同条のニの各規定は、罪刑の法定が適正であることを要求している憲法第31条及び残虐な刑罰を禁止している憲法36条に違反する。

大麻取締法によれば大麻の所持、譲渡、使用等については5年以下の懲役。栽培、輸入については7年以下の懲役を科すことになっている。いずれも罰金刑はない。しかし、大麻に有害性のないこと、あっても極めて低いことは、すでに縷々述べたように近時において公知の事実である。

(1)
麻薬とは定義として「強い精神的及び肉体的依存と使用量を増加する耐性傾向があり、その使用を中止すると禁断症状が起こり、精神並びに身体に障害を与え、更には種々の犯罪を誘発するような薬物」(原審記録490頁)となっている。

(2)
しかし大麻には薬理的にも社会的にもこのような麻薬でないこと既に詳述した。このように大麻に有害性のないこと、もしくは低いことが明らかにあると共に、近時USAの多くの州で大麻取締りのための刑罰が緩和され、これが世界的な傾向となっていることは正に公知の事実である。(原審記録487頁)

(3)
しかるにわが国のおいては前記の如く厳しい処罰が依然維持されていて、これらは大麻の持つ有害性の低さに比較してあまりにも残虐な刑罰であり、刑罰に均衡を失するといわなければならず、このような意味で大麻取締法は憲法36条、同31条に違反するものである。

 

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