シーン3 入院
整形外科医が話し合っている。
「L1から3(第1~3腰椎)の骨メタ(骨転移)で、L1が圧迫骨折しています。脊髄も圧迫されています。下肢は対麻痺で、感覚障害と痛みもあります。」
「メタはかなり多発しているね。原発は?」
「まだ分かりません。入院して一通り検査しようと思いますが。」
「うーん。難しいねぇ。これだけ骨メタがあると、オペ(手術)もリスクが高いし。麻痺が出て間も無いから、今後の事を考えるとすぐに治療をした方がいいんだけどね。」
「ラディエーション(放射線治療)でしょうか?」
「俺もそう思うね。原発も分からないし、内科に入院を頼むかな。」
腫瘍内科医の長島治郎が救急室に呼ばれた。長島医師は38歳、中堅の医師である。
「あ、どうも先生。この方なんですけど。」
整形外科医がMRIのフィルムを示す。
「ええ。電話で聞きました。骨メタで脊損になっているんでしたね。オペは難しいですか?」
「そうですね。メタが広汎で、オペはリスクが高くて出来そうも無いな。ラディエーションがいいと思いますが。」
「そうですね。分かりました。こちらで診ていくことにします。」
「よろしくお願いします。」
早苗は救急室のベッドで横になっている。その側に、呆然と血の気の抜けた顔で良介が座っている。そこへ、長島医師が現れた。
「こんにちは。内科医の長島と言います。入院の主治医になりました。よろしくお願いします。救急室はあわただしくて落ち着かないでしょうから、まずは内科の病棟に移りましょう。後でゆっくりお話しますね。」
早苗は内科の病棟に移った。内科の病棟は、救急室の慌しさと違い、明るくゆっくりとしていた。個室に入院となった。良介は長島医師に呼ばれて出て行った。清潔だが何も無い部屋で、一人寝ていると白い壁が寂しさを掻き立てる。看護師がやってきて、痛み止めの坐薬を入れてくれた。少し痛みは軽くなったようだ。気持ちも少し落ち着いてきた。
「一体自分はどうしてしまったのだろう。夫の様子や医者の話し振りも何だか隠し事をしているようだ。」
不安が頭をもたげてくる。
「ひょっとして、とても悪い病気なのかもしれない。」
早苗の頬を一筋の涙が伝った。
(つづく)
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