昨日行われた成田さんの裁判、第4回公判は、あまり芳しくない内容だったようだ。
もっとも、このようなことになることは、既に予想されたことだった。成田君の裁判における戦略の弱点については、登録読者専用エリアに書いたが、私自身の了解によって、麻枝さんのブログに全文が転載されたので、当サイトにも公開記事として改めて掲出した。
●立論と戦略の甘さが致命的
不利な状況に陥っている成田さんの裁判を、できるだけ実りのあるものにするためにはどうしたら良いのか、私見を述べておきたい。
まず初めに、昨日の公判について、カンナビストの掲示板に速報が書かれていたので、引用する。
成田さんの医療大麻裁判(第4回公判)速報 カンナビスト事務局 06/30(火) 00:09:14
今回は、検察、裁判官、弁護側が法廷で激しく争いました。傍聴者は、裁判所、司法の公正さを疑わせる場面を目にしました。開廷していた時間よりも、休廷(非公開の打ち合わせ)時間の方が長いという変則的な裁判でした。
前回の法廷(第3回公判)は、弁護側からの証人申請を検察側が拒否し、裁判所は判断を示さず終わっています。弁護側の申請している証人は、アメリカのクローン病の専門医、ジェフリー・Y ・ハルゲンラザー氏です。
開廷した直後、裁判官が最初に述べた言葉は、「請求の証人については決定した通りです。それ以外は?」というものでした。
裁判官が述べている「決定した通りです」という言葉は、先週の金曜日(6月26日)に、弁護側に届いた、証人申請を却下するという通知のことを示しています。これは、クローン病に大麻が有効であることを証言する有力な証人が存在するにもかかわらず、裁判所は、自ら目を塞いで判決を下そうとするもので、到底、納得できません。
弁護側から即座に、異議申し立てがありました。それに対し、検察側が反対意見を出し、裁判所は弁護側からの異議申し立てを棄却しました。短い間でしたが、裁判所は検察側の意見をそのまま受け入れ、弁護側の意見を退けました。裁判官は、クローン病の専門医を法廷で証言させたくないという意思を示したのです。
このような強権的な裁判官の姿勢に、弁護側は、即時、(裁判官の)忌避(*注)の申し立てを行いました。これに対しても、裁判官は、検察側に意見を求めた上、忌避の申し立てを却下しました。ここに於いて、弁護側の意見を無視して、裁判官が一方的に裁判を進める、そんな様相を呈してきました。
(*注 --- 訴訟において当事者が、不公正な職務執行を行う恐れのある裁判官などを職務の執行から除外するよう申し立てること。)
それに対し、弁護側は即時抗告を行いました。裁判官が一方的に裁判を進めていく流れに、法的に弁護側がストップをかけようしたのもです。裁判の進め方について、弁護側、検察側で論戦になりました。検察側は、次回で論告・弁論とするといった意見を出してきました。クローン病に大麻が有効であるのか、どうか白黒をはっきりさせることは避け、審理を打ち切りにし、裁判を終わりにしようというのです。
弁護側からは、十分な審理がなされないまま、一番根幹の部分の審理がなされないまま被告が裁かれるのは不当であり、尋問に代わる意見書などの提出について訴えました。 2時43分。ここまで開廷から僅か13分ほどです。裁判官は、法廷の収拾をつけるのが難しくなり、休廷を宣言し、15分ほど検察側、弁護側と打ち合わせをすることになりました。
3時12分、裁判が再開されました。休廷時間は予定を大幅に越え29分にもなりました。今回の公判は、開廷していた時間が13分、休廷(非公開の打ち合わせ)が29分という極めて変則的な公判になりました。
再開された法廷では、裁判官が次回公判は8月28日、午後1時半。次次回の公判は9月28日、午後1時半と公判の予定を述べ閉廷しました。(詳しい報告は後日、公表いたします)
成田君の裁判に関しては、弁護士の選任から、公判の傍聴、ビラ撒き、定例会での成田君自身による報告機会の提供など、カンナビストが支援を表明し、活動している。傍聴やビラ撒きに積極的に参加しているカンナビスト会員たちに、まず敬意を表しておきたい。
さて、昨日の公判は、麻枝さんも傍聴し、その感想をブログに綴っている。こちらも引用させて頂く。
Posted by 麻枝 2009年06月29日 19:55
成田君の裁判を傍聴してきました。アメリカ人クローン病研究者の証人喚問は却下されたのですが、それに対して弁護人は反論のために、ブログ本文にも書いた僕の裁判の地裁と高裁の判決文を引用した。「人体への施用が正当化される場合がありうるとしても,それは,大麻が法禁物であり,一般的な医薬品としては認められていないという前提で,なおその施用を正当化するような特別の事情があるときに限られると解される」と大阪地裁は判決で述べているが、その特別な事情を証明するために証人喚問が必要であるとあらためて主張したのである。
しかし、大阪地裁判決を証人喚問却下に反論するためにだけ引用するのは、「竹に木をつぐ」ようなもので、一貫性に欠ける。上記主張は論理展開のために最初から利用してこそ意味があるのである。
証人喚問を却下された弁護人は、裁判長を忌避すると述べたが、これも却下された。
弁護人としてはあらたな証拠として英文資料を提出したいが、翻訳に時間がかかるとして、8月と9月に公判が開かれることになった。その後、結審、判決とするということで、検察と弁護人は了解した。
しかしクローン病に関する英文資料はすでに証拠として提出されており、とりたてて有力な証拠となるとは思えない。裁判は実質上このまま結審し、成田君は「大麻使用を肯定するための口実として、自分のクローン病を持ち出したにすぎない」という判決になるだろう。
麻枝さんこと前田さんは、医療大麻裁判を最高裁まで戦い抜いて、主張は退けられたものの、判決文を精査すると、有効で意義のある一定の言質を司法から引き出している。成田君の裁判では、前田さんがコメントしているように、前田さんの医療大麻裁判で既に勝ち取っている言質を判例としての踏み台とし、その上に戦略を構築すべきであったと私も思う。しかし、どういうわけか、前田さんが医療大麻裁判で司法から引き出した成果が、成田君の裁判ではこれまでまったく使われてこなかった。
私も傍聴した第2回公判の被告人質問で、検察は「大阪で行われた医療大麻の裁判を知っているか?」と、成田君に聞いた。しかし、成田君の弁護士は、公判後の傍聴者たちとの立ち話で、検察が指摘した大阪の医療大麻裁判とは、中島らもさんの事案のことで、らもさんは緑内障の診断書を証拠として提出しなかったから医療目的と認められなかったと、首を傾げざるをえないような解説をした。
中島らもさんは、自らの裁判を医療大麻裁判として戦ってはおらず、それを争点にはしていない。だかららもさんは一審の執行猶予判決を受容し、控訴もしていない。大阪で行われた医療大麻裁判とは、明らかに前田さんの裁判のことであり、そのことを敢えて検察が持ち出したのは、傍聴していた私には、まるで検察が助け船を出したようにすら思われた。前田裁判における判例に、現在時点での医療大麻の世界的現実と医学的事実を積み上げる弁論を展開してはどうかと。
大阪の医療大麻裁判は中島らもさんの事案のことだという弁護士の解説は、公判後にエレベーターホールでの立ち話として出たもので、あまり込み入った議論をできる場でもなく、私は弁護士の認識が誤りではないかという点について、成田君には直接伝えた。
私自身の裁判を振り返っても、無理もないことだが、初めて被告人として裁判に臨む成田君は、公判における戦略をどのように組み立てたら良いか、法的な知識を含め、充分には理解できていない面があるように思われる。また、一般的には、弁護士も大麻裁判の経験が豊富でこれまでの判例を熟知しているという人は少ないから、この問題に取り組む支援者の立場からの助言や情報提供が重要な意味を持つことになる。
しかし、残念ながら、カンナビストはこれまで裁判支援をやり抜いた経験がない。サイトを見れば分かるように、どれも途中で投げてしまっている。真摯に活動に取り組む会員たちには申し訳ない言い方になるが、これは厳然たる事実だ。桂川裁判においても、カンナビスト責任者は、一審を秘密的・閉鎖的・排他的に仕切りながら、控訴審に移る段階で降りてしまった。「●●弁護士が受任するなら私たちは支援できません」と、仰天するようなことを責任者は私に言った。桂川裁判一審では、弁護士を交えての公判後の意見交換の場から、私と前田さんはカンナビスト責任者の意向によって排除された。
(こーゆー批判を公然とするので、私はカンナビストの掲示板に書き込みを禁止されているのだろう。)
カンナビストには、一審から最高裁までを通じての一貫性のある支援戦略の蓄積がない。
このことは、昨日の公判を伝える速報を見ても明らかだ。検察や裁判官を非難するのは簡単だ。しかし、そのような訴訟指揮が行われるであろうことは、まともに裁判に取り組んだことがある者には自明であり、所与の条件とすら言える。そのことを見越した上で、戦略を立てることが肝要なのだ。もちろん、万全な戦略を立てたところで勝てる保証はなく、当サイトでもレポートした「大麻密輸の冤罪」のように、控訴審の初回公判前に、既に控訴棄却の判決文が用意されているといった、犯罪的な司法行政が行われる現実もある。しかし、そうであればこそ、検察や裁判官が受け入れざるを得ないような証拠提出のあり方が、特に一審では不可欠なのだ。
成田君の裁判では、既に弁護側が提出した証拠の多くが不採用になっている。また、採用されているものについても、大麻の医学的有効性を立証するものとしてではなく、成田君が大麻を入手しようとした動機を示すものとして矮小化されている。そのことを見れば、証人申請も却下されるのは当然の展開として予測可能だった。重ねて言うが、もちろん、そのような訴訟指揮が正当だと言っているのではない。現実として、そのような訴訟指揮が罷り通ってしまっている現状を踏まえたうえで、戦略を立てる必要があると指摘しているのである。
大麻取締法第4条は、大麻を医療的に使うことを禁じている。検察にとっても、裁判官にとっても、それが法的な前提だ。自らの疾患を治療する目的で大麻を所持することまで法で禁じるのはおかしいと主張するのであれば、この法規定そのものを問う必要がある。しかし、成田君の裁判では、そのような主張が明確になっていない。クローン病の治療に大麻を使っていたのだから無罪だ、という主張はなされているが、それを言うためには、法の規定そのものを問わなければ法律論としての意味を持ち得ないのだ。
カンナビストの報告には次のように書かれている。
クローン病に大麻が有効であることを証言する有力な証人が存在するにもかかわらず、裁判所は、自ら目を塞いで判決を下そうとするもので、到底、納得できません。
裁判官は、クローン病の専門医を法廷で証言させたくないという意思を示したのです。
しかし、検察や裁判官の立場としては、医療目的であれ大麻を所持することは法違反行為なのだから、大麻がクローン病に有効であることの立証など、初めから無意味なのだ。その論証に意味を持たせるには、まず大麻を医療目的で使うことを法で禁じていることの不当性を立証するという前提がなければならない。検察も裁判官も、クローン病の専門医を法廷で証言させることに、弁護側の立証趣旨に照らして法的な意味がないと判断したのである。「証言させたくないという意思を示したのです」などという感情論のレベルで非難しても法廷の場では通用しない。これは法律論なのである。
私は上述したような意見を何度も成田君に伝えてきたが、初めて裁判に臨む成田君が、このような法的な知識を充分に理解していないことは、やむを得ない。本人は、自身が難病の患者でもあり、もっと有利な公判を展開できると考えていたようだ。が、海外の専門医を証人申請した件が却下されるに及んで、事態が極めて不利な状況に陥っていることに気づき、私の見解を弁護士に伝えてくれと依頼があった。無関係の第三者が意見を伝えても弁護士は聞く耳を持たないだろうから、うまく説明ができない成田君の代理として、私の意見を弁護士に伝えることを引き受けた。が、昨日の公判前にも、公判後にも、成田君の弁護士は、私と話すことを拒んだそうだ。運動に利用されたくない、他の大麻取締法違憲論裁判の轍を踏みたくない、というのが弁護士の見解だそうだ。
カンナビストの報告にある通り、昨日の公判は途中で中断し、裁判官、検事、弁護士と、成田君本人を交えて、公判の進め方について協議されたそうだ。その場で、成田君本人が懸命に思いを述べ、このまま結審してしまう事態を避けることはできた。が、論告求刑の期日が決定され、事実上、次回公判が成田君にとって残された最後のチャンスだ。
控訴審につなげるためにも、もう一度、何を立証しようとするのかを含めて、戦略を見直すべきだと私は思う。
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