慢性疼痛

投稿日時 2009-10-06 | カテゴリ: 最新科学文献レビュー 2000~2009

アメリカ人の実に5人に1人は、慢性の痛みを抱えながら生活している[1]。その多くが神経障害性疼痛(訳注:いわゆる神経痛)に苦しんでおり、これらは糖尿病多発性硬化症HIVといったような病気につきまとう症状である。多くの場合、標準的な鎮痛薬、つまりオピオイド製剤やNSAIDS(非ステロイド性消炎鎮痛薬)のようなものではこの神経障害性疼痛という痛みには効果が不十分なのである。
慢性痛をかかえている人たちの中では、大麻の使用が一般的になっているということを示した調査報告があったり[2]、最近の臨床試験でも、マリファナの吸引が神経障害性疼痛をかなり緩和するという結果を示したものがいくつかある。HIV患者でも、別の臨床試験では、大麻の喫煙が偽薬(プラセボ)と比較して神経障害性疼痛を30%以上和らげることが証明された[3-4] (HIVのセクションを参照)。

2008年にカリフォルニア大学デイビスの研究者たちは、吸入大麻の有効性について、偽薬(プラセボ)を比較対照としたランダム化交差試験(*)を行い、中枢性あるいは末梢性の神経障害性疼痛を持つ患者38人の痛みの強さを評価した。彼らの報告はこうだ。「大麻は痛みの強さも不快な気持ち(unpleasantness)も等しく軽減した。つまり、オピオイドと同様、大麻の効果はリラックス作用や精神安定作用のみによるのではなく、むしろ中核症状となる痛みと痛み体験による感情的な側面の両方を同程度改善するのだ」という。[5]
(*訳注:2つのグループで大麻と偽薬の投与する順番を逆にして比較する試験)

カンナビノイドは複数の成分を同時に摂取するほうが単剤投与と比べ神経障害性疼痛を改善することが臨床前研究によって示されている。2008年ミラノ大学の研究者たちは、THCだけとかCBDだけというように、カンナビノイドのうち、ある成分を単独投与する場合は、複数のカンナビノイドやテルペン(油脂)やフラボノイド(顔料)を含む植物成分を摂取する場合と比べると限られた効果しかない、と報告している。

彼らは以下のように結論している。
成分の揃ったカンナビス・サティバ・エキスを使用すると(中略)神経障害性疼痛の実験モデルである知覚過敏の症状を完全になくし[6](中略)カンナビノイド単体投与に比べよい効果をもたらす、と調査者たちは結論した。(中略)総合的にいうと、これらの結果はあるアイデアを強く支持している。それは、カンナビノイドと非カンナビノイドの成分バランスを植物由来のものと同じにした場合、カンナビノイド単体を投与する場合と比較して神経痛を有意に緩和する、ということである。(中略)神経障害性疼痛の治療における大麻製剤についての研究をさらに進め、臨床との関連性を示していく必要がある。

参考文献
[1]New York Times. October 21, 1994. “Study says 1 in 5 Americans suffers from chronic pain.”

[2]Cone et al. 2008. Urine drug testing of chronic pain patients: licit and illicit drug patterns. Journal of Analytical Toxicology 32: 532-543.

[3] Abrams et al. 2007. Cannabis in painful HIV-associated sensory neuropathy: a randomized placebo-controlled trial. Neurology 68: 515-521.

[4] Ellis et al. 2008. Smoked medicinal cannabis for neuropathic pain in HIV: a randomized, crossover clinical trial. Neuropsychopharmacology [E-pub ahead of print].

[5] Wilsey et al. 2008. A randomized, placebo-controlled, crossover trial of cannabis cigarettes in neuropathic pain. Journal of Pain 9: 506-521.

[6] Comelli et al. 2008. Antihyperalgesic effect of a Cannabis sativa extract in a rat model of neuropathic pain. Phytotherapy Research 22: 1017-1024.

Source: NORML & NORML Foundation
updated: Jan 14, 2009
Subj: Chronic Pain
Web: http://www.norml.org/index.cfm?Group_ID=7786


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翻訳とコメント by 小さな外科医

最後のパラブラフの引用の中略が大胆すぎて、訳としても読みにくいものになってしまいすみません。文献[6]はアブストラクトしか読めず、確認ができていません。

この記事では慢性の神経痛に大麻が効くこと、また、成分を単離して摂取するよりも植物のままの成分バランスで摂取した方が効き目がある、ということを述べています。
例えると、オレンジジュースよりオレンジの方が体に良い、という立場を支持しているものです。
ところでいつも疑問に思うのは、人間を対象とした試験で、大麻の偽薬って、いったい何を投与したんだろうと思います。ぜったい、気づくと思います。
なお、文献[6]はラットの実験だそうです。

おそらく今後、大麻成分はどんな形で患者さんに提供されるのかが論点となります。植物そのままを提供するのは日本では現在ない発想で、普及しづらいと考えられます。成分にばらつきがあると使いづらく、難病であればあるほど、何の薬を何mg投与した、というのは医者の中心的な関心事となるからです。また、治療か嗜好か乱用かといった問題があり、医療と娯楽、ライフスタイルをセットで論じなければいけないし、きっと大変な問題なんだろうと思いますやっぱり。保険の問題もあります。保険外診療では医師と医療大麻が結びつかないと考えられます。また訴訟が増えた今日ということもあり、予測困難な相互作用は医師を臆病にさせます。

というわけで、医療関係者が目覚めるのを待つのではなく、我々が医療界の目を覚ます、ぐらいの気合いが必要となります。

皆さんでがんばりましょう。

【しらの蛇足的感想】
この論述や小さな外科医さんの指摘通り、あるいはグリーンスプーン博士が言うように、大麻から単離したTHCはいいけど、または化学合成したカナビノイドはいいけど、大麻そのものはダメというのはナンセスンだと思う。製薬メーカーなどが大麻の成分を個別的に研究し、各個別成分の相乗作用などを組み合わせて医薬品とし、それを医療現場で患者の疾患に合わせて利用するような方向とは別に、大麻そのものを自己治療目的で利用することを認め、そのようなコミュニティーで患者どうしが情報交換をしたり、情報をブリーダーにフィード・バックできるような、市民的な活用方法が保証されるべきだと思う。そうでなければ、製薬会社と国家権力によって大麻の効能は独占され、「オレンジジュースはいいけど、オレンジはダメ」といったことになりかねないのではないだろうか。大麻には重篤な副作用などないのだから、モルヒネのような管理とは分けて考える必要があると思う。





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