矯正施設より長期の治療を 松本俊彦(国立精神・神経センター精神保健研究所室長)
投稿日時 2009-10-22 | カテゴリ: ニュース速報
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「朝日新聞10月22日 ザ・コラム
矯正施設より長期の治療を
薬物依存
松本俊彦
国立精神・神経センター精神保健研究所室長
タレントの酒井法子被告と夫の覚せい剤事件など、薬物をめぐる問題が目立っている。薬物依存症と聞くと、よだれを垂らしたり、ろれつが回らなかったりする愚者をイメージしがちだ。でも実際は違う。一見、普通の人と変わりない人が苦しんでいる。
刑務所や留置場で一定期間、規則正しい生治をして、体内から薬物を抜けば、みんな顔色がよくなる。家族も「もう治った」と安心する。ところが、依存者は再び目の前に薬物を置かれると、全身から汗が出て、落ち着かなくなる。悲惨だった過去の記憶は忘れても、体が快感を覚えている。これが依存症だ。再び薬物に手を染めると、意志が弱い、反省が足りないなどと周囲から糾弾されるが、薬物依存が愛情や罰、暴力で治ると思うのは誤りだ。
依存者は、薬物の使用を隠すため、他人にうそをつくと同時に、「これで最後」と自分をも偽り、薬物を使い続ける。使用直後に感じる「脳の酔い」ではなく、この「心の酔い」から回復しなければ、本当の依存症の回復につながらない。そのためには、長期間のリハビリで生き方そのものを変える必要がある。
薬物依存症からの回復において、私は刑務所など矯正施設の果たす役割をすべて否定するわけではない。しかし、「犯罪者」としてだけでなく、「病人」としての視点を持って薬物依存者と接する姿勢が重要だと思う。米国では、.薬物依存者を刑務所に収容せず、裁判所が通院命令を出し、一年半ほど通院させる場合がある。その方が再犯率が下がるとも言われている。
一般的に、薬物に手を出しやすい状況は、HALT(HungryI空腹=. 、AngryI怒り=、Lonety孤独=、Tired=疲労)と言われている。医師は患者と向き合い、どんな環境が薬物依存につながるのか、一緒に分析して、危険を避けるべきだ。例えばのどが渇いた場合、「コンビニエンスストアで水ではなくお茶を買え」と患者に助言したことがある。依存者はペットボトルの水を持ち歩き、覚せい剤の粉末を溶き、注射で打つことが多いからだ。
もちろん失敗もある。その時は医師は何が原因だったか、依存者とよく話し合い、薬物に手を出さない環境作りに粘り強く取り組むべきだ。国内の支援状況を見ると、民間の薬物依存症回復施設「ダルク」などが活動する一方、医療は遅れている。専門病院は10に満たない。薬物依存は犯罪だという医師側の偏見もいまだに根強い。
薬物依存の再犯率が高いのは、治療サービスを十分に提供できていない国側の責任もある。依存症治療は「貯金の出来ない治療」とも呼ばれ、継続的な取り組みが必要だ。
数少ない専門病院に入院しても、自宅から遠ければ、退院後の通院も難しい。だからこそ、治療を行う医療機関や専門家はもっと地域で身近な存在とならなければいけないと思う。
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