●薬物乱用防止対策と教育のあり方
民主党衆議院議員・初鹿明博氏が、大麻取締法を改正して種子も規制の対象にすべきだと主張されている件、衆院「青少年問題に関する特別委員会」(11/26)でのやりとりと、厚生労働省の見解を参照し、論点を整理しておきたい。
11月26日の「特別委員会」の動画を見ると、初鹿議員は氏自身が所属しているライオンズクラブ(ライオンズ国際協会)と(財)麻薬覚せい剤乱用防止センターが共同で発行している「薬物乱用防止教室」の講師として認定証を持っており、小中学校での指導経験について歴年の実績がある者だけに発行されるゴールドの認定証をお持ちだとのこと。
初鹿議員は、国会議員になる前から、子どもたちの薬物乱用を防止するための取り組みに関わってこれたようだ。初鹿議員が、大麻の種子や使用についても規制するよう法改正すべきだと主張されているのは、薬物乱用問題を懸念し、子どもたちの薬物使用を未然に防止したい、そのためには教育が重要だというお考えなのだろう。薬物乱用対策として、まずは何よりも「正しい知識」による教育が大切だという主張は、これまで私たちが繰り返し述べてきたことでもある。
初鹿議員は、特別委員会で、内閣府のホームページを見ても、薬物乱用対策推進会議のページが分かりにくく、またその担当大臣が福島瑞穂氏であることの記載がなく、この点を改めたほうが良いのではないかと指摘している。賛成である。私も、政権交代後、薬物乱用対策の担当大臣が誰になったのか内閣府のサイトで探したが、結局分からずに内閣府に電話して確認した。薬物乱用対策推進会議のページには、国として取り組んでいる施策が掲載されているので、これを周知するためにも、初鹿議員が指摘している通り、もう少しアクセスしやすいように工夫してほしいと思う。
薬物乱用対策担当大臣としの所感を問う初鹿議員に、福島大臣は次のように答えている。
『私自身も弁護士として、覚せい剤中毒や、覚せい剤使用の人たちを、少なからず、会ったり、見てきました。フラッシュバックが起こったり、ショックで病院に運びこまれたり、命の危険を感ずるほど、甚大な被害が、生命や身体や精神に対して起きるにも関わらず、まだその怖さがしっかり伝わりきれてないところもありますし、それから、ダルクや、いろんなNGOの活動もありますけれども、まだまだ支援、予防と支援、両方とも取り組まなければならないことがたくさんあると思っております。』
この福島大臣の答弁は、衆院選前にTHCが行った政党アンケートの回答とも合致している。「ハームリダクション政策について、どうお考えですか?」という4択の設問に、社民党は次のよう答えている。
『ハームリダクション政策を検討する必要がある
※ただし、注射針の供給等の感染予防、代替薬物治療、カウンセリングの態勢等の対策の整備が前提。結果としての健康被害軽減が何よりも重要であり、取締の厳格化だけでは限界がある。』
「結果としての健康被害軽減が何よりも重要」で「取締の厳格化だけでは限界がある」とする社民党のポリシーに、私は共感し、支持する。
初鹿議員は、福島大臣の答弁を受けて、小中学校で実施されている薬物乱用防止教育の具体的な内容について触れ、疑問を呈した。
『頂いた資料を見ると、啓発教材というところで、タバコ、酒、シンナーの害って、一緒になってるんですよ。タバコとお酒は大人になったらやっていいもんですけども、シンナーは大人になってもやっちゃいけないもんです。これを同列に扱うのは明らかに私は間違っていると思います。これも改善して頂きたいと思います。』
この問いかけには、初鹿議員の指名で鈴木文部科学副大臣が次のように答えた。
『シンナーと酒・タバコが同列に扱われているというご指摘でございますが、学習指導要領の解説では、明確に書き分けておりまして、薬物の乱用では、1回の乱用でも死に至ることがあり、乱用を続けるとやめられなくなり、心身の健康に深刻な影響を及ぼすこと、それから、薬物の乱用は法律で厳しく規制されていることが、学習指導要領の解説では明記をされております。で、これを受けまして、教科書などでは、私もここに手持ちで小学校5・6年生の教科書を持って参りましたが、ここではきちっと明確に書き分けているところでございます。啓発教材等々も、この方針に従って作られてはおりますけれども、さらにこの方針を明確に徹底していきたいと思っているところでございます』
初鹿議員は、タバコ、酒、シンナーの、それぞれの危険性を区別して記載すべきだと述べたのに対し、文部科学省の鈴木副大臣は、学習指導要領や小学校5・6年生の教科書では明確に書き分けられている、と答えている。規制薬物のそれぞれについて、実際にどのように書かれているのかは明らかにされなかったが、初鹿議員の発言と、鈴木副大臣の答弁に、問題点を2点指摘しておきたい。
初鹿議員は、「タバコとお酒は大人になったらやっていいもんですけども、シンナーは大人になってもやっちゃいけないもんです。」と述べている。しかし、薬物問題の本質は、社民党のアンケート回答にもあるように、『結果としての健康被害軽減が何よりも重要』だという点である。それは、使用される薬物が違法か合法かとは関係がない。現に、日本における最大の薬物依存問題は、「最悪の合法ドラッグ」とも言われるアルコールによるものだ。法律の規定によって、アルコールやタバコは大人になったらやって良いことになっていることは、「結果としての健康被害軽減が何よりも重要」な、薬物乱用防止教育の観点からは、どうでもいいことである。むしろ、そのような発想は、薬物乱用防止教育の目的を見誤るものではないだろうか。
文部科学省の鈴木副大臣は、タバコ、酒、シンナーなど、個別の薬物に関する記述は明確に書き分けられていると言う。ここでは大麻の話は出てこなかったが、各薬物の危険性については、どのような情報を参照して教科書に書かれているのだろう。少なくとも大麻に関しては、文部科学省自身が研究してデータを出しているのではないと、今年10月、私の電話取材に文科省の担当者が回答している。
●高校指導要領で教えることになった「大麻」とは (2009-10-01)
薬物乱用防止教育は、正しい知識に基づいた内容でなければ無駄であるどころか、却って混乱を招く原因にすらなり得る。そして、大麻に関しては、本サイトでも繰り返し指摘しているように、公的に周知教育されているデータは、根拠ある医学的知見が反映されているのではない。ライオンズクラブと(財)麻薬覚せい剤乱用防止センターが共同で実施し、初鹿議員が講師を務めてきた薬物乱用防止教室で使われている大麻のデータは、厚労省の情報係長や、当の麻薬覚せい剤乱用防止センターの天下り専務理事も、医学的な根拠がないことを認めたものなのだ。
●日本の公的大麻情報
政権交代してまだ3か月しか経っていないので、与党議員諸氏は気がついていないのかもしれないが、まず何よりも大切なことは、薬物乱用防止教育で使われているデータが本当に正しい内容なのかどうかである。そして、実は、ここにも天下りの問題が大きく介在し、「正しい薬物情報」よりも、天下りの既得権益が最優先される構造が横たわっており、それが、あるべき薬物乱用防止対策を歪める結果を招いてきた根本原因であることを、政権与党には1日も早く見抜いて頂きたいと願う。
(この項つづく)
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