●法改正して大麻種子を規制する意味[厚労省安田課長補佐に聞く]
11月26日の衆院特別委員会で、民主党の初鹿議員が、大麻取締法を改正して大麻種子と大麻使用も規制対象にすべきだと主張されている様子を議事録から見てきた。
12月16日に初鹿議員がこの件でツイッターに呟きを書いていた。
『厚労省の役人と大麻取締法の件で激論。種子を規制の対象にすることに何故か消極的・・・』
厚労省の担当者からヒアリングを行ってのことらしい。厚労省が大麻種子を規制の対象とすることに消極的とはどういう意味なのだろう。確認のため、24日に同省監視指導・麻薬対策課に電話したところ、その場に同席されていたという安田課長補佐が説明して下さった。以下、取材の抜粋。
Q.初鹿議員がツイッターで『厚労省の役人と大麻取締法の件で激論。種子を規制の対象にすることに何故か消極的』と書いているが、これは事実でしょうか?
A.消極的と言ったつもりはなくて、我々としては、今の規制のなかで、必要な措置が取れるので対応できますよ、という言い方、話をしたものです。
Q.発芽する種子は関税法で規制の対象になっていますよね?
A.そうですね、ですから、日本国内で大麻や大麻の種を合法的に扱うことができるのは、大麻取扱者しかいないわけで、そこからの横流れはないですよねと、それ以外に海外から合法的に入ってくるのは、大麻種子の輸入業者しかいないのですけれども、海外から入ってくるときには、過熱処理、発芽不能処理をしなければ入ってこないかたちになっているし、入ってくるときには全部サンプリングしたうえで発芽しないことを確かめてやっていますから、残っている日本国内に存在している種子というのが何かと言ったら、海外から密輸されたものしかないんですよ。海外から密輸された種子というのは、関税法で申告することになっているのに、それをしていないということだし、それが日本国内でばら撒かれるということであれば、それは不正目的の栽培として、大麻取締法の罰則のなかで、未遂、既遂、予備行為の規定があるわけですから、取り締まることはできますよね、と。そのようなところで必要な措置は講じられているので、今の規制のなかでできるんじゃないですかと、そういうお話をさせて頂いたんですよ。ですから、我々としては、消極的っていうことではなくて、今の規制で充分できるのではないですか、と言っているわけでして。
Q.なるほど。大麻種子の規制については整合性が取れているということですか?
A.もうひとつ我々からお話させて頂いたのは、確かに、考え方としては、種を過熱したものと、してないものというところで規制するということはあり得るかもしれないけれども、もしそうした場合に、末端の人たちが、それが過熱してある種か、過熱してない種か、どっちかすぐ分かるかと言ったら、分からないわけですよ。実際に種を持ったときに、外観だとか、重さだとか、匂いだとか、これは生えてくる種だとか、これは生えてこない種だとか分かるんだったらできるかもしれないけど、実際、今の状態ではそこまでできるわけじゃないんですよね、実務上は。そういったかたちで規制して、厳格にやったからといって、それで日本国内に密輸される種が防止できるかというと、できないわけですよ。それだったら、今の規制のなかで充分できるのであれば、そのなかでやればよろしいのではないでしょうか、という話を我々はしたわけですよ。
Q.なるほど。
A.この話というのはね、白坂さんもよくご承知だと思うけど、何がいいのか、どのようにできるのか、というのは、我々もよく考えているんだけども、だけど、実際にそれをやることによっての効果というのか、そういうところがきちっとできないのに規制していくことによって、むしろ、それで今の問題が解説できるかといったら、解決できないんじゃないかと思っているんですよね。これは、私たちは昨日今日から言っている話ではなくて、もう以前からずっとそう言っていて、何かそれを変えたということではないし、今の法律のなかで対応できる話なんですよね、ということなんですよね。
Q.そうすると、むしろ初鹿さんのほうが誤解されているというか、理解が足りないんじゃないかってことですかね。いや、安田さんの立場でそうは言えないでしょうけど。(笑)
A.いや、それは、どこに問題意識を持つかということでもあるので、最初から種を規制してしまって、そのなかで使える人について解除するという考え方もあるとは思うんですよ。そのような考え方があるのも事実ですから。ただ、我々からすると、じゃあその種がどうなのかということは、なかなか簡単に確認できないわけですよ。植えてみなけゃ。植えて生えるか生えないか。そうすると、種で令状も取れないし、任意捜査だとしても、任意でそれがどこまでできるのか、ということもあるし。それが妥当なことなのか、という話になったときに、我々としては妥当ではないんじゃないかな、ということなんですよ。だから、我々としては、さっきお話したような説明になるわけですよ。ただね、これはどの立場に立つのかということによって、言い方とか、主張のかたちも違うから、いろいろな考え方があるということではあると思うんですよ。だから、もっと規制をきつくすべきだという立場からすると、我々のところが生ぬるいのではないかと言われることもあるんですよ。
Q.なるほど。そうですね。私の立場から言わせて頂くと、まずどのような立場に立つにせよ、そもそも大麻の有害性が本当はどうなのかという、まずそこをもう一度きちんと検証して頂く必要があるかな、ということろが、かねがね申し上げていることですけれども。
A.なるほどね。そこのところは、前々から言っている通り、どっかだけでやるのがいいのか、全般的に、世界的にやるほうがいいのか、というところも考えないといけないと思っているんですよ。
Q.なるほど、分かりました。すいません、お忙しいところ、ありがとうございました。
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厚労省としては、法改正して大麻種子を規制対象とすることに「消極的」というわけではなく、関税法や大麻取締法の現行規定の枠内で充分対応できるという見解のようだ。また、仮に種子そのものを規制対象とした場合、発芽可能な種子か、発芽不能な種子かを外観などで見分けることはできないので、実務的な困難もある。そして、それでも敢えて法改正して種を規制することにしても、果たして大麻種子の密輸を防止する効果があるだろうか、という現実的な、あるいは現場的な問題意識を厚労省は持っているようだ。
以上、見てきたように、民主党の初鹿議員は大麻の種子や使用も法改正して規制対象にすべきだと主張し、薬物乱用対策担当大臣で社民党党首の福島氏は「予防と支援」に力を入れると答弁した。山井政務官は「法規制が緩いのではないかということも非常に重要な御指摘」だと初鹿議員の質問に答えている。
福島大臣の答弁が「予防と支援」を強調する内容だったことを高く評価したいと思う。が、初鹿議員と山井政務官のやりとりには、薬物政策のあり方という本質的な問題や、大麻の医学的・薬学的な事実という議論の前提が完全に欠落しており、その発言内容は「民主党政策INDEX2009」や当方のアンケート回答とも大きな食い違いがある。特に、初鹿議員の発想は、旧政権が漫然と続けてきた非寛容政策の延長でしかなく、「アルコールやタバコは大人になったらやっていい」という発言に見られるように、薬物乱用問題の本質をまったく理解していない、幼稚極まりないものだ。
初鹿議員のサイトには、この問題についての見解が日記として掲載されているので、年明けに改めて質問書をお送りし、その認識を質したい。
(この項おわり)
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