ふくはうち [ 2001.2.3. ]

投稿日時 2010-02-03 | カテゴリ: 白坂の雑記帳

10年前に個人的にやっていたサイトに書いた節分の話。
ふくはうち

豆まきをした。
家族して、家の隅々に、福は内、と唱和して、豆を蒔いて廻った。

子どもたちの通う小学校でも、豆蒔きをしたそうだ。

クラスのグループ対抗ジャンケンで勝ったかして、小2の娘は、校長室に豆蒔きする権利を得たのだと、夕飯を食べながら、嬉しそうに、ニヤッとして言う。

「おい、まさか、鬼は外!、なんて、校長先生に豆ぶつけたんじゃないだろな。」

「違うよ。サキたち、福は内って言ったんだよ。校長先生、声が小さいなあって言って、笑ってたよ。校長先生、すっごい、声、大きいんだよ。天井に豆、ぶつけて、福はうちいィ~!って、言ってたよ、スッゴイ、大きな声!」

夕食後、2袋買った豆のひとつを「撒く用」として開封。
ちょっとずつ、つれあいが分ける。

では、台所から。

「ふくわうち~ッ!ふくわうち!」

奥の寝室へ。8畳和室と6畳和室と2畳半ほどの洋間。

この借家は広い。でも家賃はアパート並。
子ども部屋は15畳ほどあるだろうか。
俺の書斎は下の8畳の和室。応接用の洋間も8畳くらいだろうか。

つれあいは、狭いアパートに住んでいた時分には確か、

「狭い狭い」

と文句を言い。
これだけ広いと掃除も大変なので

「広い広い」

と文句を言う。

まことにもって、、、、、

「ふくわうち~!福はうち!」

小4の長男も、大声を出してはしゃいでいるが、チト照れがあるような舞い上がり方。
ぼちぼち、巣を離れ、親の知らない時間帯の欠片も持ち始めている。
まあ、そういうもんだろう。

小学校に入る前からスイミング・スクールに通って5年。
毎週金曜日が水泳の日で、送迎バスが自宅近くに停車してくれる。
バスとの待ち合わせは5時15分。歩いて5分の場所。バスは、少しくらい早く来るかもしれない。
途中に、毎年のように小学生が交通事故に遭う交差点もあるし、慌てることが何より禁物だから、時間に余裕をもって、5時には家を出ること。
だから、それまでに学校から帰ってきて、準備をすること。
なのに、こいつ、、、、、、遊びに夢中になり、5時を僅か過ぎて、慌てるように帰ってくることが多い。放課後、友達と遊んでいるのである。時刻を気にしていないわけがなく、分かっていながら、もうちょい、もうちょい、と、遊び呆ける。DNAの面影をくっきりと見てしまうが、親としては、躾ねばなるまい。

5時には家を出る約束。慌てると危ないし、落ちついて準備しないとこの前のように忘れ物をするから、スイミングの日くらい早めに帰って時間の余裕をもってバスが来るのを待ってろと、何度言ったことか。

昨日も、5時を5分過ぎて帰ってきた。
俺は遅刻の現場に立ち会わぬことが多いが、昨日は、つれも職場旅行で留守、長男の帰宅が気になって家にいた。
雪道になっていて滑るし、車だって滑るくらいなんだから、往き帰り、気をつけるように話してあった矢先。
玄関を開けて「ただいま」と声を上げるのを聞と、即座に雷を落とした。

「いま何時何分だ。時計を見てこい。」

時間がないので手短に剣幕を浴びせて出した。バカ者が。やはり俺の息子。

小2の娘も長男と一緒にスイミングに通っているのだが、ずっと家にいた俺がちょいと買い物に出た隙に学校から帰ってきて、「友達の家に寄ってバス停に行くから時間になったら来てね」と、兄に置手紙してあった。母親似。
極めて厳しい言葉と罵声で説教の刑を喰らう兄貴を見て、先に帰っていた次男、自分もジャンパーを学校に忘れてきたことを思い出したようだ。

「・・・・お父さん、オレ、学校にジャンバー忘れてきた」

神妙な面持ち。

「この寒いのに、ジャンパー忘れたのかよ。アホだな。」

・・・俺も雨降ってるのに、電車に傘忘れたことがある。

学校から帰ってきたとき、次男は、玄関を開けるなり「ただいまぁ~」と言って俺の部屋の襖を開けて直後、ニッタァ~とした笑みを浮かべ、

「オレたち、明日、カバン持って行かなくていいんだって!そのまま林に行って、遊んでていいんだって。先に行った人から遊んでていいんだって!」

と、元気よく報告したのであったが。

この子のクラスは、学校に隣接する林に、秘密基地を作ったり、最近の雪では鎌倉を作ったり、ソリ遊びをしたり、と、我が次男坊としては、もうこんな嬉しいバラ色の日々はないといった面持ちに違いなく、増して、明日はカバンも持っていかずに遊び場直行となれば、我慢しようにもしきれない喜びが込み上げてしまうのは、同じDNAのひとつ手前の個体として、俺が思わず共鳴してしまうのは自然の摂理。

「ラッキーじゃん。なんでだよ?ホント?そうか、良かったな、思いっきり遊んじまおうな!おお、良かったなあ。」

などと、能天気に一緒に喜びを分かち合った。

近頃、次男たちは林で遊ぶことが多い様子。毎晩、ストーブの前に子どもたちの雪用の長靴を並べて、翌朝までに乾かしてやるのが日課となっている。

明日は雪の積もった林で朝から遊ぶのだというのにジャンパー忘れてくるなんて。
「困ったな。どうする?「明日、雪の積もってる林で遊ぶのに、ジャンパーもズボンも忘れてきたんじゃ、遊ぶのを我慢するか、今から学校に行って取ってこなきゃならない。どっちがいい?」

「取ってくる」

即座に答えて、迷いもなかった。

「もう、学校、開いてないと思うぞ。」

「行ってみる」

断固としている。

「じゃ、取って来い。」

出て行こうとする。

(じゃ、いいや)

「おい、もう学校開いてないし、暗くなって危ないし、滑るから、行かせるワケにもいかねえな。どうする?」

無言。

「忘れたのがいけねえな?」

無言。次男は、9回裏、もうおしまいの顔。

「忘れないためにはどうしたらいいかなあ。どうしたらいいと思う?」

「・・・・覚えとく」

「・・・・・・・・・・・・・覚えておけないから忘れるんだろ?」

「あ、そっか」

「・・・・・・・・・・・・・」

忘れないようにするには、脱いだ服は、必ず、持って帰るものと同じところにしまうこと、など、などなどなど、確認し、まあ、そうは言っても、これですぐにピシャリと直れば世話ないが、永い話になるだろな、と思いつつ。
どんな顔するか、ゼッタイ見逃さないようにして、言ってやる。

「買いに行こうか?まだ店は開いてる。」

ヘ? って顔。
目が見開いて、顔を上げて、意味の掴めぬ様子で俺を見る。

(やっぱり、いけねえかな、こんなタイミングに買ってやったんじゃ、クスリになんねえか)

チョンと突けば、とんでもなくハッピー、わけが分からない展開に、声が漏れそうな顔。嬉しさの爆発がそこまで来ている。

今度の連休、少年自然の家で2泊3日のスキー教室があり、100の定員に300の応募。うちは当選して見事楽しいことになった。で、次男の雪山遊び用の服を買おうと、つれとも話していた。

「運が良かったな。今度、スキー行くだろ、そん時とか、これからとか、雪の山に行った時、ユウが着る服を買おうって、お母さんとも話してたんだ。今のもう小さいし。でも、買いに行ってる時間ないねって。だから、今日、買ってやる。明日はそれを着ていきな。おい、よう、だけど、間違えんじゃねえゾ。忘れたら買ってやった、じゃねーからな。分かるか?運がいいいことにしてやったんだぞ、分かるか?運がいいこともあるんだ。災い転じて福になっちゃったって。ホントは、遊ぶの諦めるか、取ってくるか、ジャンパーもズボンもなしで遊ぶかなんだぜ。自分が忘れたんだから。今回は助けてやるけど、ちゃんと自分でできなきゃいけないぜ?忘れたら買ってもらえた、じゃないんだぜ、分かるか?」

思わぬ展開に、破裂しそうな喜びの顔のくせに、

「よくわかんないけど・・」

と、神妙な振りして首を傾げたりしても、早く買いに行こうという態度が見え見えのもじもじ。
そうか。よく分かんないか。(お前、まだ7歳だもんな。オレ、38歳だし。

「おい、約束しろよ。忘れないためには、どうするんだっけ?」

「覚えとく!・・・んー、、じゃなかった、、、えーと、、えーと、、脱いだら、持って帰るもんと一緒に置いとく!」

「できるか?」

「できる!」

「ホントにできるか?できなかったら今度はナイぞ。」

「わかった!」

「忘れんなよ。」

「うん!」

繰り返すと思う。繰り返しているのだし。ふう。

そんなことで、昨日、次男が選んだのは、真っ赤な上下のセットだった。

今朝、早くそれを着て学校に行きたくて行きたくて、もう行こうか、さあ行こうか、と言っては、年子の、身長は既に僅か抜いてしまったお姉ちゃんに、「まだ一時間もあるよ~」と諭されて、もう習ったというけど、まだ読めない、壁の時計を眺めて、待ち遠しそうな、早くしてよ~というような、顔をちょっとしかめて、

「あ、そ~か~」

「行ってらっしゃい!気を付けて、慌てるな!走るな!道、凍ってるぞ!」

と、送り出して、徹夜明けで布団に入った午前8時前。

午前9時過ぎ、玄関がガラガラと開く音で目が覚めた。誰だ?
次男だった。玄関に出てみると、自分で気に入って昨日買ったばかりの、真っ赤な上下の服を着て、泣きべそかいて、立っていた。

「どうした?」

「・・・今日、かばん、持っていくんだって・・・・・」

「はあ?・・・・・今日はカバン持っていかなくて良くて、まっすぐ林に行って、鎌倉とか、雪で遊ぶんじゃなかったのか?」

次男は、俯いたまま、考えて、俯いたまま、答える。

「明日なんだって・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・で?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんで泣いてんだ?林で遊べなくなっちゃったからか?」

昨日の、帰ってくるなりの、満面の笑顔を思い出しながら訊く。首を横に振る。

「じゃ、なんでだ? なんで泣いてる?」

とんでもなくあてが外れて、朝の喜びと希望は無残に吹き飛んだ。
なんで間違えたか、問い質す。
バカめ、おっちょこちょいなのである。
ああ、D、N、A。

「泣いたってしょうがないだろ?お前が間違えちゃったんだから。カバンを取りに来たんなら、ちゃんと中身が入っているか確認してから行きな。慌てるな!ちゃんと、しっかり確認しろ!また帰ってくることになっちゃうゾ!走るなよ! まだ道は凍ってるぞ。これで怪我でもしたら、お前はアホだぞ。こんなの、別に、どってことないんだから。気をつけて行きなさい。分かったか!慌てないこと!」

それにしたって・・・・・・・・明日だった、かよ・・・・・・

節分には、家にいれば子どもたちと豆を蒔く。
誰の声が一番大きいか。俺だね。・・威張ってどうする。自分の子ども相手に。

立春、立夏、立秋、立冬。
季を分かつ前日を節分というそうな。
立春は、年初め。
豆まきは疫祓い。

期を分かつ時とすべし。

最後が玄関。

つれと娘と、外に出て、空を見上げると、月。

オシ、校長先生、勝負です。
腹の底からの大声を張り上げる。

「鬼は外!鬼は外!鬼は~外ォ~!」

家の中で長男とふざけていた次男が、ゲラゲラ笑いながら駆け出てきて、なに言ってんだか分からないような、全身を笑いで振るわせながら、

「鬼はぁ~、そとぉ~」

既に欲張って口に入れていた豆を笑い噴き出し、尚、雄叫びのような咆哮で笑い、天を仰ぐ。天を仰ぎつつ、まだ笑っている。

前に聞いたら、「オレは勉強はきらい」だと言う。

いいさ。
だけど、ジャンパーを忘れないこと。

ふくはうち。





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