KYさんの裁判について(3)

投稿日時 2010-03-24 | カテゴリ: KYさん事件簿

当初、KYさんは、大麻取締法の罰則をKYさんに適用するのは違憲であるという「適用違憲」のみを法廷で主張すると言っていました。大麻の作用を熟知し、大麻と「親和」しているKYさんが使っても、本人にも社会にも何の問題もないのだから、そのKYさんに大麻取締法の罰則を適用するのは憲法違反だという主張です。
・・・そりゃ、通らないだろう。というのが、率直な私の感想です。その主張で無罪になるなら、全ての大麻取締法違反者は、自分は大麻と親和していると主張すれば無罪になるということになります。もちろん、そもそも大麻の所持で逮捕などする必要はないのだから、KYさんの言っていることは理解はできますが、それが裁判所に認められるとは思えない。やめたほーがいいんじゃないの?と私は思っていた。でも、実刑覚悟で敢えて逮捕され、裁判所でその主張するのだというKYさんの意思はとても固く、止めることはできなかった。

公判の内容を原稿として書き送るので、THCのサイトに掲載してほしいというKYさんの依頼は、大麻を擁護する者の一人として、引き受けた。

その後、電話やメールで相談し、大麻取締法の罰則規定そのものが憲法違反であるという「法令違憲」の主張も組み込むことになり、そのための資料を整え、弁護士に提供し、説明することも引き受けることにした。そして、さらに、弁護士資格のない者が、弁護士とともに法廷に立つ特別弁護人の制度を使い、私にそれを引き受けてほしいという依頼も引き受けた。

裁判では、「適用違憲」と「法令違憲」の主張をする予定だが、仮に国選弁護人が最善を尽くしてくれても、正直に言って、KYさんが無罪になるとは思えない。

KYさんの裁判での獲得目標は、大義としては、大麻取締法の違憲性を主張して、KYさんの無罪を勝ち取ることだが、無罪は取れなくても、執行猶予が付くように主張を展開してはどうかと思う。KYさんの今回の事件は、大麻を吸いたくて蜜輸入したものではなく、敢えて逮捕されて大麻取締法の問題点を法廷で主張するために敢行した、いわば市民的不服従の精神によるものだ。だから、今回、KYさんは、タイで購入した大麻を吸っていないとのことだ。それは、検索官や裁判所に、大麻に「依存」しての犯行だと言わせないためだと言っていた。

2005年、桂川さんの裁判で、金井塚康弘弁護士が上告趣意書で次のように論述している。

・憲法12条の保障内容
憲法12条は、「この憲法が保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。」と国民の憲法保持義務を規定する。「最高法規」である憲法が保障する自由及び権利は、「人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果」であり(同97条)現在の国民もこの遺産の上に安住することは許されず、国家権力による侵害のないように不断に監視し、自分の権利侵害に対して闘うのみならず、他人の権利のための闘争も支持する義務を課しているものである。
この規定は、立憲主義憲法の一局面として、政府、国家機関が権力を濫用し、立憲主義憲法を破棄した場合に、国民が自ら実力をもってこれに抵抗し、立憲主義法秩序の回復をはかることのできる権利、すなわち、抵抗権の趣旨を明らかにしたものと解されている。権力と自由の間には不断の緊張関係があり、立憲主義法秩序を維持するためには何をしなければならないか。非実力的、非暴力的法違反行為としての「市民的不服従」や時としてこの「抵抗権」のように実力による闘争が必要であることを、国民に対し憲法内在的に自覚が促されていると解されている。

・市民的不服従の権利
憲法12条の保障する市民的不服従ないし市民的不服従の権利は、立憲主義憲法秩序を一般的に受容した上で、異議申立の表現手段として法違反行為を伴うが、それは、「悪法」を是正しようとする良心的な非暴力的行為によるものであるところに特徴があり、そのような真摯な行為の結果、「悪法」が国会において廃止されたり、裁判所によって違憲とされて決着をみることがあり得、そのことを通じて、法違反行為を伴いながらかえって立憲主義憲法秩序を堅固なものとする役割を果たし得る。正常な憲法秩序下にあって個別的な違憲の国家行為を是正し、抵抗権を行使しなければならない究極の状況に立ち至ることを阻止するものとして注目されている。

桂川裁判における金井塚上告趣意書は、大麻取締法の違憲性を問う法律論として、思想的到達点とでも言うべき金字塔だと私は思う。そして、KYさんの今回の行為もまた、「法違反行為を伴いながらかえって立憲主義憲法秩序を堅固なものとする役割を果たし得る」ものだと言えるだろう。

(この項つづく)





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