被告人本人による上告趣意書(6) 適用違憲と法令違憲

投稿日時 2004-06-29 | カテゴリ: 白坂裁判

> 所論はさらに、本件大麻の栽培には医療利用目的も含まれており、大麻取締法
> がこのような医療利用目的の場合にまで大麻の栽培等を規制するのは不当であ
> る、と主張する。しかし、仮に、被告人が医療利用目的をもって大麻を栽培してい
> た(このこと自体、何ら裏付けがあるわけではない。)としても、被告人は医学や薬
> 学等の専門知識を有する大麻研究家ではないのであるから、そのような目的で大
> 麻を栽培等することが危険、有害であることはいうまでもなく、それが規制されるの
> は当然といわなければならない。

 「医学や薬学の専門知識を有する大麻研究家ではない」から「危険、有害」だという判断こそ、上記、多々引用した通り、ありもしない大麻の危険性、有害性を前提としており、それこそ根拠がない。
医学や薬学の専門知識を有するコーヒー研究家ではないのだからコーヒーを栽培して飲むのは危険で有害だと言うに等しい。

 また、大麻取締法は薬として大麻を施用すること自体を禁じてしまっているからこそ、私は生存権の侵害だと主張しているのであり、たとえ私が薬学の専門家や医者であったとしても、大麻を必要とする患者・病人に大麻を施用した時点で犯罪なのである。
本件において、私が大麻の専門家であるかどうかが問題になるのは、適用違憲の主張部分に限られる。法令違憲の主張に関しては、私が大麻の専門家であろうがなかろうが、大麻取締法の違憲性には全く関係がない。
判決は、前提となる大麻の事実を歪曲したうえ、法令違憲の論点を欠落させて憲法判断を避けるもので、到底納得できない。

 一方、判例当時から現在に至るまで、厚生労働省(旧厚生省)は大麻を有害だとする研究データを持っていない。
この問題の専門家である丸井英弘弁護士が昭和61年9月10日に伊那地裁で厚生省麻薬課長市川和孝氏(当時)を証人尋問している。そこでは、立法の根拠や、大麻が国内においてなんら社会問題化したことがないことが、次のようなやりとりでも明白となっている。

(以下、「地球維新 vol.2 カンナビ・バイブル/丸井英弘 中山康直 著(明窓出版 )」から抜粋)

弁護人「(前略)現在の大麻取締法の制定の過程についてお聞きしたいんですけれども、これは厚生省が所管の法律と考えてよろしいですね。」

証人「はい、結構でございます。」

弁護人「そうしますと、立法の際の提案者といいますか、それは厚生省で考えてよろしいわけでしょうか。」

証人「・・・・・・。」

弁護人「政府提案の場合は厚生省のほうで原案を作られるということでよろしいわけでしょうか。」
証人「そうでございます。(後略)」

弁護人「現行の大麻取締法ですが、途中で改正もあったようですが、これは昭和23年に制定されたものですね。」

証人「ええ、現行法は23年に制定されております。」

弁護人「それ以前は大麻規制はどのようになっていたんでしょうか。」

証人「これは私も文献的に調べる以外に手がないんでございますけれども、ずいぶん古いようでございまして、一番初めは大正14年に通称第二アヘン条約と言われます条約が出来まして、それで大麻の規制をしようという条約が出来ましたのを受けまして、昭和5年に当時の麻薬取締規則というものの中にこの大麻の規制が取り込まれたと。ですから昭和5年が一番初めということでございまして、それ以降昭和18年に薬事法という法律の中に法律が整備されまして取り込まれたというふうに文献は示しております。それ以降昭和20年になりましてポツダム省令で国内における大麻を含めまして、いっさい禁止の措置になったと。それでは産業上非常に困ってしまうということがありまして、昭和22年に大麻取締規則というものが出来たと。さらにその大麻取締規則が昭和23年に至って現行の大麻取締法というものに代えられたということでございます。」

弁護人「すると、昭和4年の麻薬取締規則は第二アヘン条約を受けてできたものであるということですか。」

証人「文献上そのような経過の記録になっております。」

弁護人「そうしますと、国内的にわが国で、当時大麻の使用によってなにか弊害とういものがあったから出来たのか、それとも国際条約を批准したという関係から一応作ったのか、その辺はどうなんでしょうか。」

証人「これは、多分当時国内において大麻の乱用がみられたということはなかったんではないかと思います。むしろその国際的な条約を受けまして、そういう規定が出来たというふうに考えます。」

-中略-

弁護人「国内で栽培もしくは野生で生えておりますいわゆる麻ですけれども、これは規制の対象にはなっていたんでしょうか、昭和5年の規則では。」

証人「当時は規制の対象になっていなかったと思います。」

弁護人「ところで、昭和23年に現行法が出来たわけですが、これは具体的にはどういうような経緯から立法されたんでしょうか。」

証人「ポツダム省令というものを受け、22年に大麻取締規則というものが出来たわけですが、当時そういった法律を更に整備していくという過程のなかで、法律化されたのではないかというふうに思うんでございますが、実はその規則ができまして、それが更に法律に形を整えられていったという過程の記録等につきまして、私今回、かなりいろいろ課の者達に手伝ってもらいまして捜してみたんですが、その間の経緯は記録文書上かならずしもはっきりご説明できるものが見当たりませんでした。」

弁護人「実は、私が読んだ資料の中では内閣法制局長官をされていた林修三さんが、「法律のひろば」で大麻取締法の制定当時の事情を書いてる文献を読んだことがあるんですが、私の記憶ではいわゆる連合国占領国ですね、GHQの強い要望で出来たんだと、日本国政府としては特別に規制するという必要性というのは特別になかったんだ、というような趣旨ですけれども、その辺はどうなんでしょうか。」

証人「私も林修三さんという方が書かれた文章は読んだ記憶がございますが、戦後ポツダム省令等に基づいて作られました各諸法令をさらに整備していくという過程の中で、大麻取締法という法律がいるかどうかということについてのご議論があって、法制局サイドではその必要性について若干疑問を持ったと。しかし、当時の厚生省はまだそこまでの踏ん切りがつかなかったということ、しかし今になってみるとそこまでしなかったほうが良かったんじゃないかと、いうような一つの随想といいますか、エッセイのようなものを読んだことは記憶がございます。」

弁護人 「昭和20年から23年当時ですけれども、日本国内で大麻の使用が国民の保健衛生上問題になるというような社会状況はあったんでしょうか。」

証人 「20年代の初め頃の時代におきまして、大麻の乱用があったということは私はないんではないかというふうに思います。」

弁護人 「そうしますと、この大麻取締法を制定する際に、大麻の使用によって具体的にどのような保健衛生上の害が生じるのか、ということをわが国政府が独自に調査したとか、そういうような資料はないままに立法されたと考えてよろしいわけですか。」

証人 「これは推定するほかないんでございますが、そういう資料はなかったんではないかと。(後略)」

-中略-

弁護人「この大麻ですけれども、医薬品として認められていたということはなかったでしょうか。」

証人「かっては、医薬品として認められていた時期があったようでございます。」

-中略-

弁護人「その医薬品として認められていたものは、インド大麻チンキと言われているものじゃありませんか。」

証人「はい、インド大麻が原料で作られていたと思います。実際のものはですね。」

弁護人「そうすると、国産の麻は特に規制はなかったわけですから、特別に医薬品としてもし使うとしても民間の漢方程度で使っていたと、こういう程度でしょうか。」

証人「それは戦前においてという意味でございましょうか。まぁ、そう推定するほかはないと思うんです。現実にそういうものが国産のものが使われていたかどうかということは、私ちょっと承知致しておりません。」

-中略-

弁護人「で、薬局方では、昭和27年頃まで、インド大麻は医薬品として認められていたわけですね。」

証人「・・・・・・。」

弁護人「それでよろしいですか。」

証人「1950年代から60年代の初めくらいまでではなかったかと思うんですが。」

弁護人「1951年の第5改正薬局方までは収載されていたというようなことはどうですか。」

証人「・・・・・・。」

弁護人「それで第6改正薬局方において削除されたと。」

-中略-

弁護人「この第6改正薬局方で、インド大麻が削除された理由なんですけれども、それご存知すか。」
証人「私、承知致しておりません。」

-中略-

弁護人 「この薬局方で認められていたインド大麻草エキスとかチンキとか言われるものですけれども、喘息の薬とか鎮痛・鎮静剤で使われていたようですが、その使用による具体的な弊害というものが何かあったわけでしょうか。」

証人 「そういう用途での弊害がどの程度あったかということについて、私今までデータを見たことがまったくございません。」

弁護人 「そうしますと、イント大麻草が医薬品として使われる際に副作用とかその乱用が問題となって、これは取り締まらなくちゃいけないというような証拠というものはないと考えてよろしいわけでしょうか。」

証人 「当時医薬品として使われていたものが、正規の用途以外に横流れしまして乱用されたということはないんじゃないかと思います。もしそういうことがあったとすれば、何らかの形でやはり一つの薬物乱用の歴史として残るんじゃないかと思うんでございますが、そういうものを私、今まで読んだことはございませんです。」

弁護人 「このインド大麻チンキを治療で使ってる際に、その為にその患者さんに悪い影響がでるといいますか、禁断症状が出るとか、それを使ったために判断力を失って人に危害を加えるとか、そういうような事例というものはあったんでしょうか。」

証人 「私、承知しておりません。」

弁護人「ところで、昭和23年の制定当時の法律ですけれども、法規制の内容としましては罰金刑というものは当初ありましたか。」

証人「ありました。」

弁護人「内容は大体どのような。」

証人「罰金刑といたしましては、栽培等については当時の法律では、3000円から5000円以下の罰金という規定があったと思います。」

弁護人「所持とか譲渡の場合も大体同じですか。栽培・所持と輸出入と分けてますね。」

証人「ちょっと、私今・・・・・。資料は持っておりますけれども。」

裁判官「資料ご覧になりながらで結構です。」

弁護人「昭和23年の現行法の制定当時の刑の内容です。」

証人「23年当時というふうに仰られるんですが、今私が持って参りましたのは28年の改正分以降のものですから、ちょっと正確性に欠けるかもしれませんが、所持・栽培につきましては38年の改正が行われる以前におきましては罰金刑がございまして、3万円以下ということが書いてございます。3年以下の懲役または3万円以下の罰金に処するという規定でございます。この際には所持・栽培・譲り受け・譲り渡しというものがその対象になっております。」

弁護人「現行は所持・譲渡・譲り受け・これは懲役5年以下ですね。栽培・輸出入が懲役7年以下というふうにかなり重くなったわけですね。」

証人「はい。」

弁護人「昭和38年に罰金刑を廃止する、かつ懲役刑についても3年以下のものを5年とか7年にするというふうにかなり厳しくされたわけですが、これはどういうような理由からなんでしょうか。」

証人「この当時の法律改正の背景と致しましては、昭和30年代末期にわが国ではご存知の通り、ヘロインを中心と致します薬物乱用がずいぶん流行りまして非常に深刻な社会問題として受け止められていた状況がございました。(中略)当時は、大麻の乱用事例というのは私はそう多くはなかったと思いますが、罰則を強化することによって薬物乱用を一掃しようということで、この法律改正がはかられたというふうに考えます。」

弁護人「そうすると、昭和38年当時に大麻使用による具体的な弊害というようなものはあったんでしょうか。」

証人 「具体的な弊害がどの程度であるかということについては、私は承知しておりません。」

弁護人「乱用の事例はあったということですが、乱用というのは要するに法律に違反するような事例があったということですね。」

証人「そうですね。法律に違反するような使用があったと、それから医学的目的と申しましょうか、そういう用途以外の用いられ方で使う場合も私ども乱用というふうに考えておりますけれとも、そういうものがあったということだと思います。」

弁護人 「では、38年当時、そのような乱用によって具体的に保健衛生上の害が起こるというようなことはあったんでしょうか。」

証人 「それは、ちょっと私、具体的にはつかんでおりませんです。承知しておりません。」

弁護人 「大麻取締法は立法目的が法文上は明記されておりませんが、厚生省としてはどのようにお考えになっているわけですか。」

証人 「厚生省としましては、この大麻取締法というものは国民の公衆衛生の向上と申しますか、保健衛生上の危害の防止ということが、主たる目的だというふうに考えております。」

弁護人 「そうしますと、今言われたような立法目的に反するような弊害というものが、昭和38年当時及び立法当初の23年当時にはあったんでしょうか。」

証人 「当時、多分、日本ではこういう大麻の乱用というものはほとんどなかったと思います。(後略)」

-中略-

弁護人 「ところで、この大麻によって具体的にどのような保健衛生上の害があるのかということについて、厚生省として調査研究はされているんでしょうか。」

証人 「厚生省として今まで大麻の保健衛生上の危害ということについて、特別に研究したということはあまりないと思います。ただ、私どものほうでは、海外で行われている研究レポートと申しましょうか、時々いろいろな形で研究をレビューしたものといいましょうか、出てまいりますので、そういったものでフォローしているということでございます。」

-中略-

弁護人「摂取した場合の、まず身体に対する影響、例えば肝臓とか内臓が弱るとかそういう問題、あと致死量ですね、そういう薬としての強さですね、こういうものを比較した場合はどうでしょうか、大麻とアルコール。」

証人「例えば、アルコールと大麻と比べた場合に大麻は吸煙といいましょうか、そういう形での使用法でしょうし、アルコールの場合はそういう使用法はないわけでして、一般的には経口的に摂取されますから摂取量としてもアルコールのほうがずっと多くなるといいましょうか、あるものの重さという形で比べて煙でという場合には、量的には限界が出てくると思いますんでですけれども、いずれにしましても、アルコールの場合には動物実験等で致死量というようなものはわかるかと思うんでございます。で、大麻の場合にはそういう意味でこれまでの文献なんかを見ましても致死量というような記載はあまり見当たらないというふうに思います。」

弁護人「たばこですね、ニコチンはどうですか。」

証人「ニコチンは文献上の話で、私自身は、そういった研究やったことなどもちろん一度もないんですが、ご存知のとおり非常に毒性が強い。ニコチンそのものは極めて毒性の強い物質でございまして、かなり少ない量で呼吸筋を麻痺するとか、あるいは呼吸中枢を麻痺するとか、そういった作用のある物質でございます。」

弁護人「あと催奇形性とか、いわゆる染色体に対する問題ですけれども、アルコールとかニコチンはこういう催奇形性等があるんだという疑いが出てるんじゃないですか。」

証人「ちょっと、私、催奇形性がアルコールなりニコチンの作用であるかどうかということについては承知しておりません。」

弁護人「大麻はどうですか。」

証人「大麻についても催奇形性があるというようなことは、少なくとも証拠は得られてないんじゃないかと思います。(後略)」

-中略-

弁護人「そうしますと、身体的な作用の内容としましては、アルコール、タバコと大麻を比較しますと、アルコールやタバコ、つまりニコチンですけれども、よりも、その弊害が少ないということは言えないんでしょうか。」

証人「これは、ちょっと比較は先程申し上げましたように、私、非常に難しいと思います。(中略)ただ、タバコの害というのは単にニコチンの害というだけでとらえられているわけではないと思いますので、もちろん煙そのものによる気道に対する影響、それから煙の中に入っているタール分とか、そういったものの影響とかいうこともございますので、そういう点で比較すると、これも比較的新しくアメリカあたりで出されている大麻の関係の報告書なんかによりますと、特に大麻がタバコに比べて安全という話ではなくて、むしろかなり肺機能に対しては低下せしめる作用があるとか、それから大麻のタールの中の芳香族の炭化水素の含有量は、タバコの場合よりもかなり多いとかいうようなことが報告されておりますので、それが直ちに人の場合に、じゃどのくらい影響を及ぼすかということは、明確には分からないにしても、タハコと同じような意味での危害といいましょうか、は、あるというふうに考えております。」
弁護人「それは、煙として吸うということにおいて喉を刺激すると、もしくは煙の中に有害物質が入っている可能性があると、そういうようなことでしょうか。」

証人「煙として吸った場合にそこから炭素の微細粉末が飛び出してきて、肺に沈着するとかいうことも含めまして、肺活量がすみやかに低下してしまうというような問題だと思います。」

弁護人「それは当然タバコでも起こるし、場合によれば魚なんかを焼いて焦げたものを食べると発がん性のものが入っているというようなこと言われますね。そういうような問題ではないんですか。」

証人「そうだと思います。(後略)」

弁護人「そうしますと、アルコールやタバコと比較しまして、大麻のほうが特に保健衛生上の害があるというような証拠というものはあるんですか。」

証人「私、特に害があるとかないとかいうことよりも、むしろ大麻の場合のにはアルコールだとかタバコとはやや異質な作用があるんじゃないかということが、一つの問題であろうというふうに思います。」
弁護人「それは何ですか。」

証人「それは、大麻そのものの使用目的でもあろうかと思いますが、私がここで申し上げるまでもなく、さまざまな文献上にこれは載っていることですが、精神変容作用と申しましょうか、いうものが大麻にはあるということでございまして、それは多分かなり特徴的な作用だというふうに思います。」

弁護人「そうすると、逆に言えば、精神変容作用があることが大麻取締法により規制している根拠だというふうに考えられるということですか。」

証人「現在の大麻取締法に関して申し上げれば、私は、こういうことが言えると思うんでございます。これは私の説明としてお聞き頂きたいんでございますが、元々こういうものがどうして規制を受けなければならなくなってきたかという点に関しては、先程申し上げました、他の国での使用経験と申しましょうか、こういうものは規制の必要があるんだということが国際的にかなり古い時点で認識されたわけですが、実際のその大麻の生物学的あるいは心理学的と申しましょうか、そういったものについて、個別具体的にどういう作用があるかというものの研究が行われるようになってきたのは、時代としてみれば比較的近年になってからではないかと。そういう中でさまざまな作用がはっきりしてきましたし、それから今後なお解明すべき問題というのも、非常に多いということも又研究の結果としてはっきりしてきているということかと思います。」

弁護人「証人のお考えでは、精神変容作用があると、これが問題であるということですね。」

証人「これまでに、大麻について明らかにされてきている問題というのはそれだけではないですね。例えば、呼吸器官に対してはどういう作用があるかとか、それは決して人間の身体にとってよい方向での必ずしも作用というふうには考えられませんし、ぞさから、最近ではまた、例えば生殖系統に対してどういう作用があるかというふうなことも、新たに報告されるようになってきおりますし、それから精神科の領域におきましては、私はこれは別に専門家というわけではございませんが、大麻を使うことによって報告によればかなり少量でも、非常に感受性の高い人は幻覚が出るとか、そういった作用を起こすことがあると、更に大量に使っていった場合には、大麻の中毒性の精神病を起こすことがあるという報告が現にあるわけでございますから、そういう意味で大麻が国民の健康にとって現在の時点で好ましいものだというふうな理解はとうていできないけでございまして、これは、やはり人間の身体にとってさまざまな角度からも見ても、今わかっている範囲内でも見ても、けっして影響がないということにはならないと思います。」

弁護人「一般的に食べ物でも食べ過ぎれば有害になるわけですから、そういう一般論ではなくて具体的に比較したいんですけれども、アルコールでも今おっしゃったような同様な弊害はありますね。」

証人(うなづく)

弁護人「例えば、精神が変容すると、いわゆるアルコールの酔うということは、まさに精神が変容することですし、酔った結果として人身事故等多数出てるわけですし、又、その染色体とかそういうものへの影響についても大麻以上に明確にその影響があるんだというような報告もあると思うんですね。そういうことからして大麻のみを厳しく規制している立法根拠、もしくは行政上の必要性というものは、何でしょうか。」

証人「私はそこに至るまでの背景には薬物というものに対して、これは一つの社会の規範作りというか、法というものは規範作りという意味を持っておるわけですから、そういうものが社会の中でどう受け止められているか、ということがかなり大きいと思います。(後略)」

-中略-

弁護人「あるいは、あと、こういうような批判はないですか。例えばですね、人口1000人当たり何人くらいの人間が精神病になるのかというような社会的なデータがあるとしますね。で、大麻使用者1000人とって、それから何人くらいの人が精神病になるかと、大麻使用してない方1000人とって何人くらいになるか、というふうに比較をした場合に、大麻を使用してる人のほうに、精神病の発生率が多い、というようなデータはないと、むしろ少ないんじゃないかというような意見も、私、読んだような記憶があるんですが、その点はどうですか。」

証人「そういう記載があることも事実だと思います。(中略)ご指摘のような報告書の記載も、私、読んだ記憶がございます。」

-中略-

弁護人「アルコール症の数からすれば、大麻によるいわゆる依存症というんですか、中毒的な依存症というのはほとんどないと言ってもいいんじゃないですか、わが国の場合ですよ。」

証人「数は、少ないと思います。」

-中略-

弁護人「大麻の作用がはたして懲役刑をもって規制する程度のものなのかどうかという観点から少しお尋ねしたいと思いますが、今までの証言をお聞きしてよく分からないんですが、端的に言って、どういう点が一番問題なのでしょうか。」

証人「大麻の害は、先程来申し上げましたが、かなり、さまざまな作用を持っていまして、人間の体に対しては、生物学的な影響それから心理学的な影響と申しますか、そういった作用を持っているわけでございます。(後略)」

弁護人「具体的な弊害というのは、どういうものがあるんですか。」

証人「具体的なものというのは、私はむしろこれまで、さまざまなところから出されているレポートでご覧頂いたほうがよろしいかと思うんですが、私の記憶の範囲内で申し上げれば、繰り返しになるかもしれませんが、例えば呼吸器系に対する害がある、好ましくない作用がある、それから最近では生殖系に対しても害が――、懸念されている、というふうに言うべきかもしれませんが、懸念されている、それから更に精神的に見ましても害が見られる――害が見られるという言い方では充分じゃないかせしれませんが、精神的に見ますと先程申し上げましたように、急性の症状としては非常に感受性の高い人ではかなり少量でも幻覚等の作用をもたらすことがある。それから、そういうひとつの酔いというんでしょうか、大麻の作用が精神的に脳に働いている時間、あるいは、それを超えて何時間か経ったとしてもなお、その間において、複雑な作業をやる能力が損なわれるというような報告もございますし、従いまして、そういう機会において非常に高度複雑な機械の操作というものについては、危険性が予測される、あるいは非常に長期間そういうものを使っていた場合にはかなり重篤な精神障害をもたらす事例があるというような観点から、好ましくないと考えられるわけでございます。」

弁護人「精神作用について、少し内容的にお聞きしますが、幻覚が生じるというふうにおっしゃいましたけれども、それはどういうことなんでしょうか。」

証人「これは、私はレポートの記述を申し上げているわけでありまして、具体的に、じゃ幻覚の何が中身かということについては、私は承知をいたしておりませんが、報告上ではやはり幻覚が生ずる、またもっとその前段においては、一般的に感覚、例えば視覚だとか、聴覚あるいは味覚、そういったものが非常に過激な状態になるというような作用がまず出てくる、それから非常に鋭敏な人では、そういった幻覚のような症状が出てきて精神的な一時的な混乱を生ずることがある、しかもそういった作用は用量というものにどうも依存していく、用量と相関性があるということが報告されているところだと思います。」
弁護人「その精神作用のいわゆる感覚に対する影響ということですがね、これは例えば、気持がリラックスするとか、音楽がよく聴こえるとか、そういうことを私の経験ではよく聞くんですが、そういうような内容のことではないんですか。」

証人「そういうことが、感覚鋭敏化のひとつだと思います。(後略)」

弁護人「私は、今まで10年以上にわたって、数十件担当しましたし、関係者を見れば大体正確に見れると思っているんですけれども、大麻を使用して、そのために幻覚が生じたり、また極度に不安な状態になるというような事例は見たことはないんですけれども、証人はそういうものを具体的にご覧になったことがありますか。」

証人「私、ございません。(後略)」

-中略-

弁護人「次に、幻覚ということですけれども、かなり大量に吸ったら幻覚が生ずることがあるということですね。」

証人「はい。」

弁護人「幻覚の内容として、証人はどのように理解されていますか。例えば精神が落ち着きますと、例えば弓の名人なんかが的が大きく見える、すると的中率が高くなるということがあるようなんですが、この的が大きく見えるということは幻覚なのかどうか、ということがあるんですけれども、そういう状態は幻覚といえるわけですか。」

証人「一般的にはそういうことを幻覚というふうに私は言うと思えませんが。」

弁護人「そうすると、証人が使う幻覚が起こるというのは・・・。」

証人「私は申し上げましたように、そのような文献上の記載がある、報告書にそのような記載がありますよ、ということを申し上げているわけでありまして、その中味についてどういう幻覚かということはまさに、個別症例に当たらなければ出てこない話だと私は思います。」

弁護人「日本では毎年1000人以上大麻取締法で逮捕されていると思いますけれどもね、その中で幻覚が生じた例というのはありましたですか。」

証人「個別症例の中味について、個々の臨床上の所見がどうであったかということまでは把握しておりませんので、中味については承知しておりません。」

弁護人「先程、乱用という言葉を使われたんですけれども、この乱用というのはどういう意味で使われたのか、厚生省が乱用という場合にはどういう意味なのかおっしゃっていただけますか。」

証人「私ども、乱用というふうに一般的に使う場合、これは法律上定義があるということではないんでございますけれども、社会的に正当と認められている目的外に使うことを、私どもは通常乱用という言葉で呼んでおります。」

弁護人「具体的に言えば、医療用の目的以外に使う場合を乱用と。」

証人「薬物の場合ですと、一般的にはそのようにご理解いただいてよろしいと思います。」

弁護人「そうすると、大麻について言えば、大麻を使用して、具体的にそういう弊害が出るのかということとは関係なしに、要するに法律があって、法律に反してる、従ってこれは乱用であると、そういう形式的な定義の仕方と考えてよろしいですか。」

証人「私ども、大麻の場合、そのような形で乱用という言葉は使っておると思います。」

-中略-

弁護人「私は法律家として10年以上いろいろなケースを見てきましたけれど、やはり、当事者を説得する資料がないと-説得する材料がなくてただ、守れというだけでは、これは法律の権威の上から言っても問題があると思うんですね。そこで、大麻使用の例を見てみますと、気持が穏やかになるとかリラックスする、ということはあるんですけれども、それ以上のことはないものですからね。そういう現実を私、見ておりますので、そういう観点からすると、もう少し実態を見ていただいて、法律の運用をそれに沿って検討するということも必要かと思うんですけれどもその辺はどうですか。」

証人「これは、繰り返しになりますが、私の意見にしか過ぎないと思いますが、薬物乱用の問題というのは非常に世界的にも大きな問題になっております。で、先程ちょっとご引用のありました麻薬に関する単一条約というものが1961年にできて以来、ことあるごとに国連であれ、あるいは麻薬に関するあらゆるレベルの国際会議におきまして、単一条約というものを積極的に受け入れていくのが、一つの流れでありまして、そういう中で批准する国がどんどん増えていきまして、現在では117国くらいに達していると思いますが、そういう一つの国際的な流れを見ましてもこの条約の中で、大麻はそれでは適用除外しようかというような国際的な世論が出てきたというふうなことについては、全く承知しておりませんし、そういう話を聞いたこともございません。(後略)」

-中略-

弁護人「国際的な大麻の使用の状況ですけれども、証人は台湾の状況を知っていますか。」

証人「私、わかりません。(後略)」

弁護人「これは、私、伝聞なんですけれども、台湾では大麻をスープにして飲む習慣があるようですね。そういうことを聞いたことはありませんか。」

証人「ございません。」

弁護人「私の知り合いの友人が台湾の医者をやっているんです。けれどもその方のお話ですと、台湾ではちょうど今頃ですかね、大麻をスープにして飲む習慣があって、お月見とか、いろいろな会合でそれが出る。地元の警察署長とか、地元の名士の方がそれを楽しみにしていて、みんな参加する習慣があるということを聞いたんですけれども、そういうことはお聞きになったことはありませんか。」

証人「私は全く聞いたことがございません。」

弁護人「インドとか、ネパールでは国民が国内で使うことについては規制がないんではないですか。」

証人「伝統的に使っている国では必ずしもそういう規制はしていなようです(後略)」

弁護人「スペインでは2年ほど前に、大麻使用については成人が自宅で持っている程度は処罰しないというふうに法の運用が変わったんじゃないですか。」

証人「私、承知しておりません。」

弁護人「オランダの事情はどうですか。」

証人「承知しておりません。」

-中略-

弁護人「あと、アメリカですけれども、アラスカ州では自宅で大麻を栽培したり、所持しているものについては規制していない、という取り扱いになっているんじゃないですか。」

証人「ええ、そのように聞いております。」

弁護人「それはどのような事情からそうなったかご存知ですか。」

証人「アメリカの場合には1970年代の初めでしょうか、大麻の乱用というものが拡がりまして、その中で種々論議が行われ、いくつかの州で、少量所持と申しましょうか、そういうものについて州法の改正が行われる中で、アラスカ州ではこのような改正が行われた、というように聞いています。」

弁護人「そのきっかけになったのは、裁判で無罪を言い渡される、というようなことがあって、それがきっかけになったんじゃないですか。」

証人「そのきっかけについては、私、詳細には承知しておりません。」

-中略-

弁護人「大麻についても実際の作用を具体的に厚生省として調べるというようなご計画はないんですか。」

証人「私ども麻薬課としてもいろいろ研究は進めておりますが、私ども現状で申しますと、研究のプライオリティというのは覚醒剤の問題においておりまして、ここ2、3年を見ましても覚醒剤中毒患者のケーススタディだとか、覚醒剤の脳内での作用のメカニズムの研究だとか、主として覚醒剤の問題を現状では取り上げているというのが実情でございます。やはり予算というものがある規模で決められているわけですから、やはりプライオリティの問題があるわけでございまして、私どもは現在は覚醒剤の問題に力を注いでいるというのが実情でございます。」

弁護人「厚生省としては年間1000人以上もの逮捕者が出ていますし、これに要する税金-法を執行するための費用ですね、というのも警察官の人件費から始まって多大な支出になると思うんですが、そういう税金の適正な執行という観点からしまして、例えばアルコール、タバコ並みの規制に代えるとか、そういう観点からする調査というものをされる予定はないんですか。」

証人「現在のところそういうことは考えておりません。(後略)」

-中略-

被告人「厚生省の発行した「大麻」なんかでも、ものすごく悪いようなことが書いてあって、幻覚があるとか、公衆衛生の問題があるとか、いろいろ書かれていますけれども、僕が体験した中では、僕自身、酒なんかもやめたし、人と仲良くなくようなことがあっても、人に迷惑かけたり危害を及ぼすようなことは何もしていないんです。だから今日来ていただいたわけですけれども、はっきり言って、どこがどういうふうに悪いのか何一つ出し切れていないように思うんで、もう一度どこがどういうふうに悪いのかはっきり言ってほしんです。」

証人「どこが悪いということについて、私としては先程来申し上げたわけですけれども、それは私の一種の記憶の範囲で申し上げていることでございまして、実際にはもっと詳しいさまざまな-もちろん確定しているもの、確定していないもの含めてですが、多くの文献というものが、日本国内では比較的少ないですけれども、特に多用されている外国では出ているわけでございます。私はそういうものに基づいて、自分の理解している範囲でご説明したつもりでございます。(中略)私のほうとしては、主として諸外国で出版されている文献について私なりの説明をさせていただいたというふうに考えております。」

被告人「刑事罰でもって規制するというのは、内容に比べて厳しすぎるんじゃないか、実際、タバコよりも害がないし、酒よりも害がないし、農薬なんかに比べたらはるかに安全だと思うんですが、法律でもって懲役刑という形になっているわけで、ちょっと厳しすぎるんじゃないか、僕だって職を失ったり、そういうことからいけば、誰にも迷惑をかけていないし刑事罰でもって規制するほどのものじゃないんじゃないかと思うんで、その辺、立場を抜きにしてどう思われるか。」

証人「繰り返しになるかもしれませんが、私は、薬物の乱用というものは、人々の健康を守ろうという上おいては、やはり、なくす必要があるという考え方を持っております。(後略)」

-中略-

裁判官「アメリカの政府なんかの動きを見ますと、大麻使用の実態とかあるいは、具体的な使用者に出てくるいろいろな身体的、精神的な症状であるとか、そういうデータを取締機関とか医師とか、そういうところから積極的に集約して、今後の方針に役立てようと、かなりしているようですけれども、日本では特にそういうことはしていないわけですか。」

証人「そうですね。大麻については、そういうことをしたということはありません。もちろん外国のそういった報告については、全部フォローはしているつもりです。」

裁判官「フォローというのは、具体的には、文献を集めて内部で翻訳して読むということですね。」

証人「そうです。私ども、そういう意味での研究をやってるのは、むしろ覚醒剤・・・。」

裁判官「覚醒剤を今優先的にやっているということでしたけれども、大麻についてはなさっていない。」

証人「はい。」

-中略-

裁判官「成年が少量を使用するというふうな場合には格別弊害もないんではないか、というような議論がよくされていると思うんですが、今の使用の実態との関係で、そういうような使われ方の場合にどの程度マイナスがあるのか、あるいはその規制についてどの程度、どういう形で規制なり処罰をするのが望ましいのか、こういうふうな使用実態に即した検討と言いますか、つまり大量に長期間用いた場合の弊害というのと、また別にそういうふうな角度からの検討というのは-これはアメリカの動きの中心になっているようですが、日本では具体的に格別にはしておられないということでしょうか。」

証人「はい。私ども、これまでそういう視点での検討というのはしたことございません。(後略)」

-引用終わり-






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