東京地方検察庁第7検事室
廣田検察官様
渡辺検察官様
平成22年9月23日
白坂和彦
平成22年特(わ)第541号
KY一夫さん裁判についての抗議文
明日、判決を迎えるKY一夫さんの公判に関し、検察官に以下の通り抗議します。
その1-不同意の乱発によって大麻の有害性検証を妨害-
弁護側は、公判で、大麻取締法の法令違憲を主張しました。それを論証すべく、弁護人は数多くの書証を提出しましたが、悉く検察官に不同意とされました。
毎度お馴染みの昭和60年最高裁決定という判例以降、大麻の有害性に関して海外の公的機関で研究され、アルコールやタバコほど害がないとする報告も複数あり、といった、実質的な審理がしたかったのに、検察官が邪魔し、裁判官も追従し、果たせませんでした。証人としても甚だ不満です。
法廷でも申し上げた通り、検察は、2004年の桂川裁判で、大麻の有害性の論拠として、「ダメゼッタイ」ホームページの大麻情報を印刷して法廷に出しています。
そのホームページは、厚労省の天下り財団法人、麻薬・覚せい剤乱用防止センター(以下「ダメセン」と略)が運営するもので、国民に向けて違法薬物の有害性などを周知しています。
桂川裁判では、弁護側が、そのホームページに書かれている内容の医学的根拠・出典を明らかにするよう求めました。それに対し、検察は、運営者に照会したが根拠は分からなかったと報告したのです。
ダメセンの大麻情報は、今もそのまま、根拠もなく、放置され、垂れ流され続けています。これは官製情報公害です。
私は、厚労省の担当者とダメセンの天下りを法廷に呼んで、我が国で公的に周知されている大麻情報、言い換えれば、国民の多くが信じている大麻情報を検証して頂きたいと申し上げました。
元はと言えば、検察自身が法廷に持ち出した大麻有害論です。ところが、自分たちが持ち出しておいて、根拠は分からなかったと言う。じゃあ、責任者たちを呼んで確認してみましょうと、せっかくこっちから親切に言ってあげているのに「不同意」とは。
検察は裁判官とグルになってやっぱり逃げたな、ダメセンの大麻情報がデタラメだと法廷で明らかになるのは具合が悪いからだろうな、としか思えない疑念を検察が自ら招いているのです。
その2-「法律はどこが決めるのか」ではなく「その法は違憲ではないか」と問うている-
被告人尋問で次のようなやりとりがありました。
<公判記録から抜き書き>
廣田「法律は何が定めるんですか。司法、行政、立法。」
KYさん「立法でしょ。」
廣田「なんで立法に働きかけないんですか。」
KYさん「適用するのは司法でしょ。」
廣田「そもそも適用の前提として、立法に働きかけなきゃどうにもならないでしょ。一度ちゃんと勉強してほしいんだけどね。三権分立という言葉を知っていますか。」
KYさん「知っています。」
廣田「そこら辺ちゃんと勉強してきてるんですか。」
KYさん「あの、それって私に対する侮辱なんですか。」
廣田「侮辱でも何でもないですよ。事実を述べているだけです。」
<抜粋終了>
私も傍聴していましたが、廣田さん、ずいぶん苛立ってましたね。ダメだな、検事が感情的になっちゃ。むしろKYさんのほうが落ち着いていました。さて、裁かれているのは誰?などと感じた一幕でした。
2004年の桂川裁判で、弁護士は次のように弁論しています。
<引用開始>
1 憲法12条の保障内容
憲法12条は、「この憲法が保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。」と国民の憲法保持義務を規定する。
「最高法規」である憲法が保障する自由及び権利は、「人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果」であり(同97条)現在の国民もこの遺産の上に安住することは許されず、国家権力による侵害のないように不断に監視し、自分の権利侵害に対して闘うのみならず、他人の権利のための闘争も支持する義務を課しているものである。
この規定は、立法主義憲法の一局面として、政府、国家機関が権力を濫用し、立法主義憲法を破棄した場合に、国民が自ら実力をもってこれに抵抗し、立法主義法秩序の回復をはかることのできる権利、すなわち、抵抗権の趣旨を明らかにしたものと解されている(例えば佐藤幸治『憲法[第3版]』51頁以下)。
権力と自由の間には不断の緊張関係があり、立法主義法秩序を維持するためには何をしなければならないか。
非実力的、非暴力的法違反行為としての「市民的不服従」や時としてこの「抵抗権」のように実力による闘争が必要であることを、国民に対し憲法内在的に自覚が促されていると解されている。
2 市民的不服従の権利
抵抗権は、実力を伴う闘争であるが、市民的不服従は、法違反行為でありながら非実力的・非暴力的なところに特色があり、抵抗権より、より現実的で具体的な意義を持つと言われている。
すなわち、憲法12条の保障する市民的不服従ないし市民的不服従の権利は、立憲主義憲法秩序を一般的に受容した上で、異議申立の表現手段として法違反行為を伴うが、それは、「悪法」を是正しようとする良心的な非暴力的行為によるものであるところに特徴があり、そのような真摯な行為の結果、「悪法」が国会において廃止されたり、裁判所によって違憲とされて決着をみることがあり得、そのことを通じて、法違反行為を伴いながらかえって立憲主義憲法秩序を堅固なものとする役割を果たし得る。
正常な憲法秩序下にあって個別的な違憲の国家行為を是正し、抵抗権を行使しなければならない究極の状況に立ち至ることを阻止するものとして注目されている(佐藤前掲書53-54頁ほか)。
<引用終了>
廣田さんの言う「そもそも適用の前提として、立法に働きかけなきゃどうにもならない」というのは詭弁です。判例においても、大麻の有害性を前提に、その有害性にどの程度の罰則を設けるかは国会の裁量権の問題だというのがありますが、これは大麻が相当に有害であることを前提とするものです。しかし、弁護側は、適用の前提として、その立法事実の検証を司法に求めているのです。立法の前提となる事実、大麻の有害性を検証し、罰則適用の是非を判断するよう司法に働きかけているのです。
廣田さんの逃げ口上は、司法の独立を放棄する三権分立の否定に他なりません。
その3-「飲酒運転と大麻はどう違うか」検証を拒否しておいて訊くなボケ-
被告人尋問で、渡辺検察官はKYさんに次のように訊いています。
「飲酒運転と大麻とはどこが違うのですか。」
アルコールと大麻はどう違うのか。それを示す書証を弁護側はいくつも出してきたのに、悉く不同意にしておいて、最後の最後になって、「飲酒運転と大麻とはどこが違うのですか」などと、よくもまぁぬけぬけと訊けたものです。
検察は、飲酒運転と大麻のどこが違うのかも知らずに、その検証すら拒否しておいて、どう違うの?とアベコベに被告人に訊きつつ、懲役刑を求刑しているわけです。ひどくない?
それでも地球は回ってるんだけどさ。
以上
|