2008年6月2日
ジョン・ベイト(John Veit)・ハイタイムズ誌(HIGH TIMES MAGAZINE)
今から100年後、エイヴラム・ノーム・チョムスキー(Avram Noam Chomsky)は、良心からくる原始的な声、つまり、戦争や世紀末の社会的な惨事に対する意見とその理由に関して、歴史の本の中で描かれることになるだろうと考えている。1950年代、彼は、マサチューセッツ工科大学で知的な革命に取り掛かった。言語学分野を理解することを通して、冷戦を育み、古く型にはまった世界観に果敢にチャレンジし、覆してきたのだ。それ以来、アメリカの国内政策や外交政策に関する、継ぎ目がなく批判的な論文は、権力秩序のプロパガンダを詳細かつ厳密に分析するとともに、それらの誤った政策の原因を正確に究明してきた。
ハイタイムス(HIGH TIMES):ドラッグ戦争は人口抑制のための道具である、とあなたは定義しているが、どのように達成されるものなのか。
ノーム・チョムスキー(NOAM CHOMSKY):実際には、人口抑制という用語は、ケネディー政権時代の対ゲリラ活動の文献から拝借したものだ。その当時の主なターゲットは東南アジアとラテンアメリカ諸国であり、国民が大きな動乱を起こした国々である。アメリカ合衆国にとって簡単に容認できないような様々な社会変革を民衆が要求してきたのだ。その民衆の力を支えているのは巨大な人口であると彼らは考え、数の面で民衆をコントロールしてきたのである。当初は、単にナパーム爆弾などを用いた恐怖と暴力によるものだった。しかし、人々を支配し続けるため、プロパガンダから強制収容に至るまで、他の人口抑制方法を作り上げようとも試みたのだ。プロパガンダは恐怖と組み合わさったとき、より強い効果が生まれる。
絶えず混乱が続いている社会では、国内に同様の問題が存在する。国民が消極的、無関心、従順なままで、かつ権威や支配に対して干渉しないことを保証するために対策を実行することが必要となるのだ。これは、現代民主主義の主だったテーマである。選挙権が与えられ、それが成熟するといった形で民主主義のメカニズムが広がるとき、他の方法によって国民をコントロールする必要性が高まるのだ。
そのように、アメリカにおいて、組織だったプロパガンダの成長は非常に分かりやすく、だいたいにおいて民主主義の成長と並行している。それらは別段秘密にされてきたわけではない。経済関連の記事や、社会科学の学術誌などにおいても、とても率直なかたちで公然と議論されている。軍隊で、集団が組織化されるように、国民を教化し、支配するためには、国民にとってスタンダードな言葉使いを用いて「人間精神に対する永久闘争」をしなければならない。それが人口抑制の方法なのだ。この同意の技術、すなわち同意を作り上げることこそが民主主義の本質なのだ。なぜなら、無知でおせっかいなよそ者、つまり我々のような一般人が、権力者に得をさせるよう躍起になって世の中を動かしている人々の邪魔をしないようにしなければならないからだ。
ハイタイムス:ドラッグ戦争がどのように、これに当てはまるのか
ノーム・チョムスキー:軍事的独裁であろうと民主主義であろうと、全ての社会において、国民をコントロールするために昔からある分かりやすい方法は、恐怖を与えることなのだ。もし人々が恐怖を感じたなら、彼らを守る指導者を権威へと引き渡すことも厭わないだろう。「はい、自分を守るために言うことを聞きます。」 といった感じである。
だから、ドラッグや犯罪に対する恐怖は国やビジネスのプロパガンダによって刺激されやすいのだ。全国司法委員会(The National Justice Commission)は、アメリカの犯罪が(比較的高いのだが)産業社会としてのスペクトルから外れているわけではないと指摘してきた。しかし、犯罪への恐怖は他の社会の比ではない。そしてそのほとんどが、様々な形のプロパガンダによって刺激されているのだ。ドラッグ戦争とは、自分が身を守らなければならないような危険人物に対する恐怖心を刺激する取り組みなのである。それはまた「危険階級(dangerous classes)」と呼ばれる人たちに対するコントロールの、直接的な形態でもある。彼らは利益や富を作り出すことのできない無用の人々なのだ。どいうわけか、彼らは嫌われなければならない。
ハイタイムス:犯罪者が死刑になる国もある。
ノーム・チョムスキー:確かに。しかし、アメリカでは彼らは殺されずに刑務所に入ることになる。1980年代の経済政策は、経済成長を一握りの人々に集中させ、急激に格差を広げることになった。利益が天井をとびぬけ、一握りの層が極端に多くの富を手に入れたが、その一方で中間層の所得が上がることはない、あるいは下がっているのだ。人々はより懸命に働かねばならず、また貧困層のための公共的な支援制度は70年代以来急激に下がり続けている。困難や惨めさの狭間で苦しんでいる不安定な人々が大量に出現しようとしているのだ。基本的に彼らの多くは逮捕されていくことになる。なぜなら彼らをコントロールする必要があるからだ。
ドラッグ戦争は、そういった目的のために利用されており、明らかに黒人青年をターゲットにしている。80年代後半にドラッグ戦争が再び宣言されたとき、パトリック・モイニハン(Patrick Moynihan)上院議員は、社会統計を見ると、我々が貧困層のマイノリティー、要するに黒人男性を相手に戦争をしようとしていることがわかる、と指摘している。
ハイタイムス:それは明らかに事実だが、ではどのように証明していくのか。
ノーム・チョムスキー:ただ大麻に関する統計上の傾向を見てほしい。大麻使用は70年代の終わりに頂点に達していたが、そこまで大きな犯罪化の流れは存在しなかった。大麻を所持しているということで刑務所に行くということはありえなかったのだ。なぜなら大麻を使用していた人々は我々のような善良な市民や、金持ちの子どもだったからだ。たとえ路上犯罪よりも企業犯罪のほうが、はるかに損失の大きく危険なものだとしても、会社の重役を刑務所に放り込まないのと同じように、彼らを刑務所には入れないのだ。しかしその後80年代に入り、大麻、煙草、アルコール、赤肉、コーヒーといった類の「不健康」な物の使用が、教養層の間で減り始めた。他方、人口における貧困層の中で、これらは変わらずに残ることになった。アメリカでは、貧困と黒人は関連付けられ(これらは同一ではないのだが、関連性は存在する)、また、貧困層の中でも黒人とヒスパニックの間でそれらの薬物使用がしっかりと定着したのである。
それではこれらの統計から得られた傾向を見てほしい。ドラッグ戦争を要求するとき、我々が誰に注目しているのかが正確にわかる。それは、黒人貧困層なのだ。人々は、白人富裕層に注意を払うことはないし、追い立てるようなことはしない。私も含め、アッパーミドルクラスが住んでいる郊外では、誰かが家でコカインを吸おうと警察が家に踏み込むことはないのである。
このように、ドラッグ戦争を貧困層との戦争にしてしまうたくさんの要素があるのだ。そしてそれは主として有色人種の貧困層であり、切り捨てなければならない人々なのだ。これらの経済政策が実施されていた期間に投獄率は急増したのだが、犯罪件数は増加しておらず、むしろ安定、あるいは減少していたのだ。しかし、投獄は急激に増加した。アメリカの人口における投獄率は、80年代後半までどの国よりも高かったのだ。他のどの産業社会よりもである。
ハイタイムズ:若い黒人男性を投獄して得するのは誰なのか。
ノーム・チョムスキー:人が多いのだ。基本的に富の生産に貧乏人は必要ないので、金持ちは彼らを切り捨てたい。また、富裕層は他のすべての人々に対しても恐怖心を与える。なぜなら、民衆が彼らを恐れるなら、大人しく権力に従うからである。しかし、背景にあるのは国の産業なのだ。1930代以来、実業家は皆、個人資本主義経済では国からの大規模な助成金が必要であると考えていた。しかし、唯一の問題は、どのような形で国からの助成金を受けるかである。アメリカの場合、それは軍の制度を通じて行われてきた。コンピュータ、インターネット、航空産業、医薬品など経済の最も活発な分野では、軍の制度を利用してきたのだ。しかし、犯罪学者たちが名付けた「犯罪抑制産業」は、アメリカで最も急速に成長している産業なのである。
それは公的に投資された国の産業なのだ。それは建設産業であり、不動産産業であり、またハイテク産業でもある。その産業は、ハイテク企業と軍事業者にとって、ハイテク制御技術や監視技術のマーケットとして期待するには十分の規模になってしまった。盗聴したり、尿を調べたりなど、複雑な電子機器やスーパーコンピュータを駆使して、人々のプライベートな行動を監視できるのだ。実際に、この不必要な人々を刑務所にではなく、個人のアパートに閉じ込めることが可能になるときがやってくるだろう。そして、彼らが過ちを犯したとき、追跡のために監視されるのだ。過ちといわせてもらおう、悪い方向に向かうのだから。
ハイタイムス:労働者階級は軟禁状態にある
それは主要な防衛産業会社が興味を持つには十分の産業なのだ。ウォール・ストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)で、このことについて読むことができる。巨大な法律事務所や投資会社が興味を示しており、メリルリンチ(Merrill Lynch)は刑務所建設のために巨額の起債を行っている。制度全体を見たとき、恐らくは米国国防総省に辿り着くのだ。
また、これは大きな労働力ともなる。中国では囚人労働についての抗議があるらしいが、囚人労働はここでは普通のことだ。とても安価で、組織化もされていないので労働者が権利を求めたりはしない。社会が全てを支払っているのだから医療保険について考える必要もない。「柔軟な」労働力と呼ばれるもので、経済学者たちが好む類のものだ。つまり、望むときに労働力が手に入り、要らなくなれば捨ててしまうのである。
更に、囚人労働力は古くからのアメリカの伝統なのだ。今世紀の始めにジョージア州の北部、ケンタッキー州、アラバマ州など、南部の一部で大きな産業革命が起こったのだが、それは主に囚人労働力を基にしたものであった。 奴隷は制度的には解放されてきてはいたものの、その後も、彼らは実質的には奴隷のままだったのだ。彼らをコントロールする一つの方法は刑務所へと送り込むことだった。そこで、彼らは管理された労働力となったのだ。これが南部における現代産業革命の中核であり、こういったことがジョージアで1920代まで、ミシシッピ州のような場所では第二次世界大戦まで続いていたのである。(いつ、「不本意な強制労働」が廃止されたのかということは注目に値する。ただ一つ奴隷との違いは、犯罪者たちが有罪判決を言い渡されたということだ。 WFI編集者)
今、それは蘇ろうとしている。オレゴン州やカリフォルニア州では、実際に刑務所内で織物産業が存在しており、アジアへ向けて輸出されている。人々が中国の囚人労働について不平を漏らしていたまさにそのとき、カリフォルニア州やオレゴン州で、囚人たちによって作られた織物を中国へと輸出していたのだ。「プリズンブルー(Prison Blues)」と呼ばれる商品名さえあるのだ。
それはデータ処理のような先端技術にまで至る。ワシントン州では、ボーイングの従業員が中国へ仕事が流れてしまうことに抗議しているが、彼らは仕事が刑務所の近くへ流れようとしているということに恐らく気がついてはいない。そこで経営者らは露骨な理由で大喜びしており、そのもとで機械運転者はボーイングのために働いている。
ハイタイムス:現在、これらの囚人たちのほとんどが暴力犯罪者ではなく薬物違反者だ。
ノーム・チョムスキー:囚人増加における割合のほとんどは主にドラッグ関連だ。私が見た最近の統計によると、連邦刑務所では囚人の半分以上が、州刑務所では約25%が薬物違反者であることを示している。例えば、ニューヨーク州ではストリートでの20ドルの薬物販売やコカイン1オンスの所持によって、放火殺人と同程度の判決が下ることになる。三振法(the three-strikes legislation)がそれに輪をかけて状況を悪くしている。3度目の逮捕が些細な薬物犯罪にも適応され、一生刑務所で過ごす羽目になるのだ。(三振法のもう一つの副作用は、警察のハイスピードカーチェイスの数と、カーチェイスに起因する交通事故が急増したことである。終身刑になってしまうと知ることで、小悪党でさえ、今や降参せずに逃げようとするのだ。WFI編集者)
ハイタイムス:麻薬取締局によると、アメリカでは違法薬物に年間570億ドルが費やされているとしているが、世界経済にどう影響するのか。
ノーム・チョムスキー:国連が国際的な麻薬取引を監視しようと試みた。彼らの見解は、1兆ドルの半分にあたる、年間およそ4000億ドルから5000億ドルもの金が、取引のみで動いているというものだ。これは石油よりも高い値で、世界貿易の10%に上ることになる。この金がどこへ流れているのかほとんど分からないが、共通した見解としては、その金のおよそ60%程度はアメリカの銀行へと流れているということだ。その後、多くの金が海外に流れ出て、税を免れている。誰もそれをチェックしていないということはあまり知られていない。誰もそんなことをしたくないのだ。しかし、商務省はアメリカが行っている対外直接投資の数値を毎年発表している。そして、90年代を通して大きな刺激となったのはラテンアメリカのような「新たに出現したマーケット」なのだ。アメリカの対外直接投資の4分の1はバミューダへ、その他15%はバハマやケイマン諸島へ、10%はパナマなどへ流れていることが明らかになっている。それは製鉄工場建設のためなどではない。最も穏やかな解釈をすると、それは単に租税を免れるためなのだが、すこし厳しく見ると、監視されない場所へと違法な富を移す一つの方法だと解釈できる。調査されていないのだから、我々は何も知りはしない。金を監視することは司法省の仕事ではない。この省の仕事は、ポケットの中にジョイントを持っているゲットーの黒人少年を追い回すことなのだ。
ハイタイムス:いわゆる、アンチ・ドラッグ法案を普及させる国に対し、貿易を申しで、援助を推進するアメリカの政策をどう考えるか。
ノーム・チョムスキー:実際には、根本的にアメリカの政策が薬物の使用を増加させている。アンデス地域で急増したコカインの生産量を考えてみてほしい。ここ数年を通して、コロンビア、ペルー、ボリビアでコカイン生産は急増している。例えば、なぜボリビアの農業労働者がコカを生産しているのか。アメリカによって運営されている新自由主義型の世界銀行や国際通貨基金による政策は、農業労働者に農作物の輸出を迫るものである。彼らは地元で消費するためではなく、海外で売るために生産しているのだ。輸出の増加を通して政府の損失を小さいものにし、健康や教育のような社会的な政策は減らしたいのだ。
そして、関税を低くすることで、多額の助成金がかけられた食物を、これらの国々に輸出することができるのだ。もちろん、このことは農業労働者の賃金を安く抑えることになる。これらを合わせて考えると、何が手に入るのだろう。唯一、比較優位の作物として、ボリビアで急増したコカ製品が手に入るのである。
アメリカによる「平和のための食糧」援助という名目で、コロンビアでも同様のことが起こっている。そこでは、基本的には食糧を与えることによって、小麦の生産を削減させ破壊するためにこの援助が使われてきた。アメリカ国民の税金がいくら使われたことだろう。農業作物輸出業者を通じてそこでの小麦生産をへらし、後に、どんなに理にかなう形であっても、コーヒー生産と、彼らの価格設定能力を奪っていったのだ。そして結果として、彼らは他の仕事を選ぶことになる。その一つがコカ生産者というわけだ。実際に、アメリカの政策がもたらす全体的な影響を見ると、ドラッグは増加してきているのである。
ハイタイムス:今世紀のアメリカによるドラッグ政策を誰が調査するのか。
ノーム・チョムスキー:私はもう一つの要因にまだ言及していない。つまり、これは隠された戦争状態であるということだ。CIAとは何であるのかを調査するなら(それはアメリカのホワイトハウスを意味するのだが)それは秘密の戦争であり、隠された戦争状態なのだ。そこにはまさに、ドラッグ生産の軌跡が付いて回るのである。それは第二次世界大戦後のフランスで始まった。ファシストの協力者たちを社会復帰させるため、抵抗勢力を一掃したり、組合などを解散させたりと、基本的にはアメリカ主導で伝統的な社会秩序を再構築しようと試みられていた時期であった。彼らが最初に行ったことは、スト破りやその他の有益な仕事のためにマフィアを再構成することであった。マフィアはそれを楽しんでいたわけではない。取引があったのだ。それはファシスト政権のもとで壊滅していたヘロイン生産の再開を、基本的に認めるというものだった。ファシストの監視は非常に厳しいもので、一切の競争を望んではいなかった。だから彼らはマフィアを一掃したのである。しかし、アメリカがそれを再構築したのだ。先ず南イタリアで、そして次に、コルシカマフィアと共に南フランスであった。そこは有名なフレンチ・コネクションのもとになった場所だ。
長い間、それは主だったヘロインセンターとなった。つぎに、アメリカのテロ活動は東南アジアへと移って行った。もしテロ活動を行いたいなら地元の人間が必要となる。そして、それに対して支払うための秘密資金も必要となる。不法な隠し金である。だが、もし悪党や人殺しを隠し金で雇う必要があるのなら、多くの選択肢があるわけではない。その一つが、ドラッグによる繋がりなのである。いわゆる、ゴールデン・トライアングルと呼ばれているビルマ、ラオス、タイの周辺地域は、これらの地域の人々に対する秘かな戦争の一部分として、アメリカの援助と共に、大きなドラッグ生産地域となったのである。
ほとんどが抑え込まれてはいたが、中米では、反政府勢力によりそのことが部分的に暴露されていた。しかし、中米におけるレーガン政権のテロ作戦は麻薬取引と密接に結びついていたということは疑う余地がない。アメリカによる、数百万ドルにも上る軍隊への報酬があったおかげで、アフガニスタンでは1980年代に世界の麻薬取引における最も大きな中心地となったのである。現在、国をばらばらに引き裂いている極端なイスラム原理主義者に対しても同じことがみられる。世界を見た時、それは事実なのである。アメリカがドラッグの使用を増加させようとしているのではない。それは仕方がないことなのだ。農業労働者を殺したり、スト破りをしたりするするために、悪党やギャングを雇わなければならない立場なら、そしてそれを追跡できない資金をもって行わなければならないとしたら、あなたの心に何が浮かぶだろう。
ハイタイムス:ドラッグの合法化についてどう考えているのか。
ノーム・チョムスキー:その影響がどのようなものなのかは誰も知りはしない。誰も知りはしないのだから知っていると語る人がいたなら、それはただの愚か者か嘘つきなのだ。チャレンジされなければならない事がある。その影響がどのようなものであるのかについて理解するための試みが必要なのだ。ほとんどのソフトドラッグはすでに合法である。主には、アルコールとタバコである。精神作用のあるすべてのものの中で、間違いなくタバコは最も多くの死者を出している。アルコールによる死者を推定することは少し骨が折れる。なぜなら、暴行による死亡者の多くが、アルコールと関連性のあるものだからだ。ハードドラッグになると死亡者の数は減少し、アルコールやタバコと較べるとほんのわずかなものだ。恐らく年間1万から2万人程度だろう。最も急速に伸びてきているハードドラッグはAPSである。アンフェタミンによく似た物質で主に、アメリカで生産されている。
懸念されている残りのドラッグに関していうと、大麻がとても有害になりうるということが聞かれることはない。つまりそれは、人体には良くないものだと一般的に考えられているが、コーヒーだって良いものではない。お茶も、チョコレートケーキも良いものではないのだ。たとえ有害であるとしても、コーヒーを非合法にするとなるとおかしなことだろう。アメリカは倫理的な問題として、これについて考えている数少ない国の一つなのだ。 ほとんどの国では、ドラッグを使うとどれほどの困難が待ち受けているかと、ヒステリックにがなり立てる政治家はいない。だから、我々が初めにしなければいけないことは、人口抑制の側面から抜け出し、社会問題の領域へと進むことである。ランド研究所はもし、ドラッグ使用を減らすという点において、犯罪防止プログラムと教育プログラムの効果を比べるならば、多くの点で教育プログラムの方が勝っている、と考えている。
ハイタイムス:しかし、アメリカ・ドラッグ乱用防止教育(DARE)や、ドラッグフリーなアメリカ(the Partnership for a Drug-Free America)のテレビ広告のような、人騒がせなドラッグのプロパガンダプログラムは、10代の若者の間でドラッグ使用が増加していると指摘してきた。
ノーム・チョムスキー: 問題はどのような教育が行われているのかだ。教育プログラムは単なる一つの区分ではない。教育とはドラッグが使われている社会的な状況とも関連があるのだ。これに対する答えは人々を刑務所へと送り込むことではない。その答えとは、彼らや、その家族に何が起こっているのかを理解しようと試みることなのだ。つまり、彼らに、医療的なケア等々が必要なのだろうかということなのだ。この教育分野の間における、薬物乱用の著しい減少は、先ほど申し上げた通り、赤肉、コーヒー、タバコ、といった全ておいていえることである。それが教育なのである。コーヒーを飲ませないための教育的なプログラムがあるわけではない。それは単に、自分自身と健康に対する姿勢の持ち方であり、我々がどのように暮らしていくかといったことなのだ。人々の中の、教養層の間でその姿勢が変わるなら、それらは一般に受け入れられるのだ。その何一つ犯罪化とは無関係なのであり、単に個人に対するさらなるケアを導く、文化や教育レベルの高まりと関係のあるものである。
ソース:ハイタイムス誌(1998年4月)から抜粋
Source:RINF News
Noam Chomsky on Marijuana
2nd June 2008
ノーム・チョムスキー公式サイト:The Noam Chomsky Website
翻訳 by 愛のガンジャ哲学戦士ゴブリン
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