アメリカでの初めての逮捕

投稿日時 2011-01-04 | カテゴリ: コラムやエッセイや読み物

読者会員コーナーで連載中の「麻生しげるのマリファナ宣言」。「アメリカでの初めての逮捕」の回をお正月企画として一般公開します。いやー、ホント、人生いろいろ、いろんな人生があるものだなーと感じる連載です。続きやこれまではぜひ読者登録してお読み下さい。



麻生しげるのマリファナ宣言
 ~ アメリカでの初めての逮捕 ~


そしてある夏の晩、おれははじめてアメリカでパクられた。
但し、捕まってみるまでは、自分が重罪を犯していると言う意識はなかった。捕まったらヤバイ、と言う感覚はあったが、どれほどヤバイのか、どんな行く末が待ち受けているのか、とんと見当がつかなかった。ニューヨークだし、おれみたいな小売人に警察は目もくれないと思っていた。前科前歴はないし、なんとかなるさ、と気軽に考えていた。ところが、実際のそれはおれの想像を遥かに超えた大捕り物劇であった。

その晩、おれはヘロインのコネでプエルトリカンのRと共におれのホテルへ向かっていた。そこで、取引をしようという算段である。おれがホテルのまん前まで来ると、客のひとりがおれを待ち構えていた。
「50ぶん(5袋)くれよ」と客はいい、おれに金を渡そうとした。Rがここでおれを制し、ストリートじゃヤバイ、というようなことを言った。しかし、おれは彼の助言にもかかわらず、ついいつもの癖で5袋を手渡し、金を数え始めた。全部ピン札だ。おかしい、こいつが5袋も買うことなんて滅多に無い。そう思ったのもつかの間、いきなり両方の腕を物凄い力で引っ張られた。強盗か、と思い、どうしようかと考えていると、覆面パトカーらしき車数台と普通のパトカー2台に囲まれてしまった。気がついたら、周りには10人位の警察官がおれを取り囲んでいた。およそ4人の刑事がピストルをおれに向けていた。「動くな」と声が後ろから聞こえ、おれとRは私服警察官に手錠を掛けられ、ホテル従業員全員が見ている前で壁に向かって足を開かされた。おれのポケットから現金約$2000と共にヘロイン20袋と、手からは客が使った$50分の現金がでてきた。警察官の一人がその$50の金と、あらかじめ用意してあった$50の現金のコピーを見せてくれた。「これがマークド・マネー(アメリカのおとり捜査官が使う常套手段で、麻薬売買につかわれる金のこと)だ、ヘロインの売買で逮捕する」と警察官は言う。そして続けて「お前には黙秘権がある、お前の言うことはすべて法廷にて利用される可能性があり、又使用される。お前には弁護士を雇う権利がある、その費用がない場合は政府が立て替える。これがお前の権利のすべてだ。わかったか」といい、「名前を言ってみろ」と続けた。おれは「黙秘権を行使する」とだけいい、そのままライトバンに乗せられた。売人のRはすぐに解放されたらしい。マネーベルトに隠したヘロインが出てこなかったのだろう。おれがライトバンから外を伺うと、彼は小走りにホテルを去っていった。

(つづく)





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