一審判決文

投稿日時 2005-08-04 | カテゴリ: Iさん裁判

一審判決文

平成16年11月5日宣告  裁判所書記官 菅野 美由紀 〔印〕
平成16年(わ)第1552号

判決

本籍 ××××
住居 ××××

無職  ××××
昭和43年2月26日生


 上記の者に対する大麻取締法違反,関税法違反被告事件について,当裁判所は,検察官 浅沼雄介出席の上審理し,次のとおり判決する。

主文

 被告人を懲役4年6月及び罰金100万円に処する。
 未決勾留日数中50日をその懲役刑に算入する。
 その罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
 千葉地方検察庁で保管中の大麻樹脂172塊(平成16年千葉検領2623号符号1ないし18)をいずれも没収する。

理由

(罪となるべき事実)

 被告人は,みだりに,営利の目的で,大麻を輸入しようと企て,平成16年6月30日(現地時間),タイ王国バンコク国際空港において,エア・インディア第302便に搭乗するに当たり,大麻である大麻樹脂495.84グラム(平成16年千葉検領2623号符号1ないし18は,その鑑定残量)をビニールラップに包んで172包に小分けしてえん下し,自己の体内に隠匿携帯して同航空機に搭乗し,同航空機により,同日午前9時35分ころ,千葉県成田市所在の成田国際空港に到着し,上記大麻を隠匿携帯したまま同航空機から降り立って本邦内に持ち込み,もって大麻を本邦に輸入するとともに,同日午前10時ころ,同空港内東京税関成田税関支署第2旅客ターミナルビル旅具検査場において,携帯品検査を受けるに際し,上記のとおり大麻を隠匿携帯しているにもかかわらず,同支署税関職員に対し,その事実を秘して申告しないまま同検査場を通過して輸入禁制品である大麻を輸入しようとしたが,同支署税関職員に発見されたため,その目的を遂げなかったものである。

(証拠の標目)

 (括弧内の甲又は乙及びこれに続く数字は,証拠等関係カード記載の検察官請求証拠の番号を示す。)

 ・被告人の公判供述
 ・被告人の警察官調書(乙2ないし6)及び検察官調書(乙7,8)
 ・警察官作成の捜索差押調書(甲4)
 ・財務事務官作成の検査状況報告書(甲2),排泄状況等報告書(甲3)及び各調査報告書(甲43,44)
 ・成田国際空港警察署長作成の鑑定嘱託書(甲23)
 ・東京税関成田税関支署長作成の犯則物件鑑定依頼書謄本(甲24)
 ・東京税関業務部分析部門大麻研究者作成の各鑑定書(甲25ないし42)
 ・東京都健康局食品医薬品安全部長作成の捜査関係事項照会回答書(甲46)
 ・千葉地方検察庁で保管中の大麻樹脂172塊(平成16年千葉検領2623号符号1ないし18。甲5ないし22)

(事実認定の補足説明)

 弁護人は,被告人には営利目的がなかった旨主張し,被告人もこれに沿う供述をしているので,以下,判示のとおり認定した理由を補足して説明する。

1. 関係各証拠によれば,(1)被告人がビニールラップに包んで172包に小分けしてえん下した判示大麻樹脂(以下「本件大麻樹脂」という。)は,約495グラムに上っているところ,被告人の大麻樹脂の1回の使用量が約0.5グラムというものであり,これによれば,本件大麻樹脂は約1000回前後の使用量に相当すること,(2)被告人は,平成14年2月ころにも,ネパールからタイを経由して帰国するに当たり,本件と同様,ビニールラップに包んで小分けした大麻樹脂をえん下して本邦内に持ち込んだことがあり,その際ネパール滞在中に友人らに宛てた手紙の下書きなどを記載したノート(乙7,8に添付のもの。以下「本件ノート」ということがある。)には,××などと何らかの売買取引をうかがわせる記載があるところ,被告人は,公判廷において,上記「荷物」ないし「土産」については,少なくとも大麻を含む趣旨であることを認めていること,(3)被告人の友人,知人の中には,大麻を使用する者が複数存在すること,以上の事実が認められる。

 これらの犯行の態様,本邦内に持ち込んだ本件大麻樹脂の量,平成14年2月に大麻樹脂を輸入した経緯及び本件ノートの記載内容,被告人の交友関係などに照らすと,被告人は,本邦に持ち込んだ本件大麻樹脂について,自己使用のみならず,大麻を使用する友人,知人らに売却する意思を有していたものと推定できる。

2. 加えて,被告人の平成16年7月22日付け(乙7)及び同月23日付け(乙8)各検察官調書には,本件大麻樹脂の一部を大麻を使用する友人などに売却する意思を有していた旨の供述記載がある。

 もっとも,弁護人は,上記各検察官調書の任意性を争い,被告人も,公判廷において,上記供述をした理由について,「検察官から営利性を否認したら,友人関係も全部取り調べ,友人の家の家宅捜索などすると言われた。自分の供述がもとで家宅捜索が行われ,友人に僕の話したことでそういうことになったと誤解されるのが怖かった。」からであるなどと供述している。

 しかしながら,(1)被告人の公判供述によっても,検察官が被告人に対し営利目的を認めたときには,友人らに対する家宅捜索をしないことなどを約束したことはもとより,検察官の取調べにおいて供述の任意性を疑わせるほどの誘導や威迫等の場面が存したとまでは認めることができないこと。(2)検察官調書(乙7)には,被告人が日本で大麻を使用する仲間の氏名等を明らかにすることを拒否した供述記載や,平成15年3月から4月ころタイに旅行した目的について被告人に有利な供述記載があるほか,同調書の読み聞けを受けた後,今回タイに行った目的について,「友人に売ったり,自分で使ったりするためにタイに行った」とあるのを「友人に売るかどうかは,現地で仕入れることのできる大麻の量次第で決めようと思っていた」旨訂正を申し立てた上,それ以外は間違いない旨述べたという供述記載があること,(3)上記各検察官調書には,被告人が本件ノートの内容を具体的に説明した供述記載があるところ,その内容は,本件ノートの文面とほぼ整合し不自然不合理な点が見られず,とりわけ,検察官調書(乙8)において,××××××と説明している点は,被告人が具体的に供述しなければ検察官において記載できない事柄であること(なお,被告人は,公判廷において,本件ノートの記載内容について種々の弁解をするが,いずれも本件ノートの文言等に整合しない不自然不合理なものであって信用できない。),以上に照らすと,上記各検察官調書の供述が任意性を欠くとの合理的な疑いを入れる余地はない上,その信用性についても,弁護人の主張を踏まえて検討しても,上記各検察官調書の営利目的に関する部分は信用できる。

3. これに対し,被告人は,公判廷において,本件大麻樹脂を専ら自己使用する目的であった旨供述している。しかしながら,前記のとおり,本件大麻樹脂の量が約1000回前後の使用量に達するものであったことなどに照らすと,上記公判供述は不自然であって信用できない。

 また,弁護人は,(1)被告人が予め大麻購入資金を準備していなかった,(2)今回のタイへの旅行が純粋な観光目的であった,(3)今回タイで大麻樹脂500グラムを購入したのはたまたま出会った人物からまとめて買えば安くなる旨言われ衝動的に購入した,(4)被告人に借金がありその返済のため営利目的に走ったという事情も存しない,(5)本件大麻樹脂を持ち込むために麻薬犬に発見されないような周到な準備又は工作をしていない,(6)他人から大麻売却の依頼が予めあったという事情は全く存しない,(7)その他被告人の性格や日常の生活態度からは営利,金儲けを企画するような素振りないしは事情は認められない,以上に照らすと,被告人に営利目的があったということはできない旨主張する。しかしながら,(1),(2)については,被告人は,自己の所持金の中から,約500グラム近くの多量の大麻樹脂を購入し,これを本邦内に持ち込んだ経緯自体に照らし理由のないことは明らかである。(3),(4),(6),(7)は,いずれも被告人に営利目的がなかったことを疑わせるものではない。(5)についても,被告人の本件大麻樹脂の隠匿態様からすれば,所論は前提を欠くものである。

4. 以上によれば,被告人が本件大麻樹脂を営利の目的で本邦内に持ち込んだことが認められる。

(法令の適用)

罰条
 大麻の営利目的輸入の点につき,大麻取締法24条2項,1項
 輸入禁制品の輸入未遂の点につき,関税法109条3項,1項,関税定率法21条1項1号

科刑上一罪の処理
 刑法54条1項前段,10条(1罪として重い大麻の営利目的輸入罪の刑で処断。ただし,罰金刑については,輸入禁制品輸入未遂罪のそれによる。)

刑種の選択
 懲役刑及び罰金刑

未決勾留日数の本刑算入
 刑法21条(懲役刑に算入)

労役場留置
 刑法18条

没収
 大麻取締法24条の5第1項本文,関税法118条1項本文

(量刑理由)

 本件は,被告人が,営利の目的で,大麻樹脂を空路本邦に輸入したが,関税法上の輸入禁制品の輸入については未遂に終わった,という事案である。

 本件は,輸入にかかる大麻樹脂が約495グラム余りと多量であり,これが本邦内に流出すれば大きな害悪を及ぼしたことは容易に推測できる。被告人は,営利の目的で,本件を敢行したものであって,その利欲的な動機に酌量の余地はない。また,大麻樹脂の隠匿態様も,巧妙かつ悪質である。さらに,被告人は,公判廷において,営利目的について不自然な弁解をしていることに加え,近年,薬物事犯の撲滅が国際的にも緊急の課題であることなども併せ考えると,被告人の刑事責任は重い。

 そうすると,本件輸入にかかる大麻樹脂がすべて押収され,結果的にその害悪が社会に拡散するには至らなかったこと,被告人が,大麻樹脂を輸入したこと自体については反省の弁を述べていること,これまで前科がないこと,実母らが今後の指導監督を約していること,実父が財団法人法律扶助協会に対し,50万円の贖罪寄付をしたことなど,被告人のため酌むべき諸事情を十分考慮しても,主文の刑を科すのはやむを得ない。

 よって,主文のとおり判決する。

(求刑・懲役6年及び罰金100万円,大麻樹脂の没収)

平成16年11月5日
千葉地方裁判所刑事第1部
裁判官 土屋 靖之 〔印〕






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