控訴趣意書(前任弁護人作成)/H17.1.11

投稿日時 2005-08-30 | カテゴリ: Iさん裁判

控訴趣意書(前任弁護人作成)/H17.1.11

平成16年(う)第3101号 大麻取締法違反、関税法違反被告事件
被告人 ■■■■

控訴趣意書

 上記の者に対する大麻取締法等違反被告事件についての控訴の趣意は、下記の通りである。

平成17年1月11日
上記弁護人弁護士  小柴 文男

東京高等裁判所 第6刑事部 御中

第1点 刑事訴訟法第380条(法令の適用の誤)に基づく主張

 1. 原判決には、大麻取締法第24条2項、1項が定める営利目的輸入罪の客体である「大麻」の解釈を誤り、その結果、本来構成要件該当性がないと判断すべきところをこれがあるとした法令の適用を誤った違法があり、かつこの誤りは判決に影響を及ぼすこと明らかであるので、大麻の営利目的輸入の点に関する原判決の破棄を求める。以下、理由を述べる。

 2. 大麻取締法第1条によれば、「大麻」とは「大麻草(カンナビス・サティバエル)及びその製品をいう」とある。従って、被告人がわが国に輸入した本件大麻樹脂は、甲25ないし42の各鑑定書に照らすかぎり、大麻取締法所定の「大麻草の製品」に該当し、もって同法所定の「大麻」に該当するとすることは形式的な解釈としてみるかぎりこれを承認しうるものである。

 3. しかしながら、大麻取締法第24条2項は、同法同条1項所定の単純な輸入罪に比較して法定刑の重い犯罪であって、両者の立法趣旨には自ずと違いがある。注釈特別刑法第5 II巻第2版(青林書院)91項によれば、本法の営利目的を加重に処罰する趣旨は、他の麻薬関係取締法規と共通するものと解されるものであるとしたうえで、「財産上の利得を目当てに、その手段として犯罪を行うこと自体、そのような動機がない場合に比して道義的により厳しい非難に値すること、利得を動機に犯罪に出る場合は、一般にその行為が反復、累行され、またその規模も大掛かりになる傾向を包蔵し、それだけ大麻の濫用を助長、増進させ、国民の保健衛生上の危害をより増大させる危険性が高く、したがってその行為の違法性もそれだけ大である」、「違法性、責任双方の観点から加重されたものと考えられる」、としている。このことから、営利目的輸入罪が成立するには、違法性、責任双方の観点から「財産上の利得」の存在がその解釈の前提として想定されていると言うべきものであると解される。そうとすれば、営利目的輸入罪の客体たる「大麻」とは、当然「財産上の利得」の客体となりうるものであることが必要である、との補充解釈(合憲的制限解釈)を行うのが論理的な帰結であると言わなければならない。

 4. では、本件大麻樹脂は、このように解釈上導き出された「財産上の利得」の客体となりうる「大麻」であると判断しうるものであるか。結論的には、否、と言うべきものである。理由は以下の通りである。
 被告人は、甲2の検査状況報告書から明らかな如く、本件大麻樹脂を嚥下隠匿して輸入したものである。かかる大麻の嚥下隠匿という方法は、甲3の排泄状況等報告書に如実に示されている通り、人間の生体構造から言って大麻を取り出すためには糞便と一緒に排泄するほかないものである。つまり、一旦嚥下隠匿された大麻は人間の口、食道、胃、腸を通過して肛門からこれを体外に取り出すほかこれを入手することができないものである。従って、嚥下隠匿された大麻は、人間の胃腸内に無数に存在すると言われる微生物や大腸菌等の細菌類に晒され、また、当該固体が伝染性の病気に罹患しているときにはその病原菌やウイルスなどに汚染されている危険性があるものなのである。もっとも、本件大麻樹脂は、上記排泄状況報告書(甲3)によれば、透明ラップ用のものに包まれていたことが認められるので、直接、体内の細菌類等に本件大麻樹脂が晒されていたということには直ちに言えない。ただし、単に透明ラップ用のもので包んだにすぎないので、目に見えない大きさの微生物や細菌等の混入付着はこれを防ぎえないとも言えよう。しかし、問題は、こういうことではなく、嚥下隠匿するという方法が人間の体内にその物を所定の時間、例えば本件のように大麻を嚥下隠匿して輸入する場合には少なくとも海外から本邦に到着するまでの渡航時間これをとどめ、その後にその物を肛門から排泄して取り出すという方法であるという点にある。このように、一度、いわば糞まみれの状態になった大麻は、透明ラップ用のものに包まれていたとしても、また、水や消毒薬などで綺麗に洗浄したとしても、われわれの意識のなかではそうした大麻を心理的に摂取する気にはなりえないのであって、これを他人に売却して利益を得るというような財産的価値は失っているものであると解すべきものである。換言すれば、一度嚥下隠匿された大麻は、営利目的輸入罪の客体たりうる前提としての「財産上の利得」の対象たりうる客体性を欠き、結局、営利目的輸入罪における「大麻」(正確に言えば、本件の場合は大麻樹脂なので「大麻草の製品」という構成要件要素)に係る構成要件該当性を欠くものである、と言うべきものである。

 5. ところで、刑法第261条の器物損壊罪における「損壊」の解釈につき、判例は他人の飲食器に放尿する行為は「損壊」になるとしている(大判明42・4・16録15・452)。この判例の解釈は、一度放尿された飲食器はたとえきれいに洗浄して物理的又は衛生的に問題がなくなるとしても心理的にもはや飲食器の用をなさないから、放尿行為はその飲食器の損壊に等しい行為であるとしたものであると解される。このように、放尿によっていわば尿まみれの状態にするという行為が「損壊」になるのであれば、嚥下隠匿によっていわば糞まみれの状態にするという行為は放尿とは比較にならぬほどに「損壊」に当たる筈である。「損壊」された財物はその財産的価値が失われたことを意味する。従って、「損壊」された財物を売買等の取引の目的にして「財産上の利得」を得ることも当然またできないと言わなければならない。以上の観点から捉えてみても、被告人によって嚥下隠匿された本件大麻樹脂は、営利目的輸入罪における「大麻」に係る構成要件該当性を欠くものである、という事ができる。

 6. よって、原判決には、大麻取締法第24条2項、1項が定める営利目的輸入罪の客体である「大麻」の解釈を誤り、畢竟、本来構成要件該当性がないと判断すべきところをこれがあるとした法令の適用を誤った違法があると言うべきものであり、かつこの誤りが判決に影響を及ぼすこと明らかである以上、大麻の営利目的輸入の点に関する原判決は破棄を免れないものであると言うべきである。

第2点 刑事訴訟法第382条(事実の誤認)に基づく主張

 1. 原判決には、上記第1点の主張のほか、被告人が大麻取締法第24条2項所定の主観的構成要件要素たる「営利の目的」を有していたものであると認定した点において、事実認定の誤りがあると言わなければならない。そして、この事実誤認が判決に影響を及ぼすこと明らかであるので、原判決はこの事実誤認の点において破棄を免れないものである。以下、理由を述べる。

 2. 原判決は、被告人の「営利の目的」につき、同判決書引用の各関係証拠に基づき、【1】本件大麻樹脂が約1000回前後の使用量に相当すること、【2】かつて平成14年2月ころにも大麻樹脂を輸入したこと及びその際ネパール滞在中に友人らに宛てた手紙の下書きなどを記載した本件ノートに何らかの売買取引をうかがわせる記載があること、【3】被告人の友人、知人の中には大麻を使用する者が複数存在すること、加えて【4】被告人の検察官調書(乙7及び同8)に本件大麻樹脂の一部を大麻を使用する友人などに売却する意思を有していた旨の供述記載があること、という以上4点の事実を認定したうえで、被告人は、本件大麻樹脂について自己使用のみならず、大麻を使用する友人、知人らに売却する意思を有していたものと推定できる、と判断している。しかしながら、かかる原判決の判断過程には「疑わしきは罰せず」又は合理性の精神に反した重大な瑕疵があり、到底、原判決の判断を承認することはできない。以下、項を分けて、原判決がその判断の根拠とした上記4点の各事実について個別的に検討する。

 3. 上記【1】の事実について
 本件大麻樹脂の量が約1000回前後の使用量に相当するとすること自体には問題はない。問題とすべきは、被告人が本件大麻樹脂を日々どのように消費使用する量であったかどうかという点である。換言すれば、この約1000回前後という使用量は自己使用量として過分なものであるかどうかという点が問題とされなければならない。
 この点につき、被告人の平成16年7月14日付け司法警察員調書(乙2)2丁目には、「チャラスがあれば、1日に1~2回くらい、海外等で多い時に1日20回~30回くらい吸う時もあります」という供述記載がある。他方、被告人の同日付け司法警察員調書(乙3)5丁目には、本件大麻樹脂を男から購入するに至った動機について、「出来れば自分でたまには吸いきれないほど手に入れたいと思った」という供述記載がある。そうとすれば、被告人が本件大麻樹脂について吸いきれないほど日本で使用してみたいと思っていたという可能性を無視することは出来ない。そこで、被告人の日々の使用実績と海外等の使用実績に基づき1日当たりの平均使用回数を割り出してみると、少ないときは1日1回、多いときは1日約33回ということになるから、1日当たりの平均使用回数は約17回前後となる。そして、この約17回前後の平均使用回数に基づき、さらに約1000回前後の使用量の使用日数を割り出すと、約59日前後の使用日数に相当する量である、という結論に至る。
 この約59日前後の使用日数は、約2ヶ月分の使用量に止まり、これは自己使用分として明らかに過分な量であるとは言えず、むしろ「吸いきれないほど手に入れたいと思った」被告人の胸中を察すれば、却って自己使用の目的で本件大麻樹脂を本邦内に持ち込んできたとみるのが自然かつ合理的な解釈であると言わなければならない。
 また、被告人が、原審公判廷において、前回密輸入した200グラムの大麻は「三、四ヶ月ぐらい」で消費したこと、また、今回の500グラムは「1年ぐらい」を見込んで持ってきた旨を供述している(被告人供述調書(2)21頁)点に照らしてみても、自己消費の目的であったとの見方の方がより自然であると解されるのである。
 よって、原判決の判断過程には、以上述べたような観点を無視乃至軽視した不合理性がある旨これを指摘せざるを得ない。

 4. 上記【2】の事実について
 原判決は、被告人がかつて平成14年2月ころにも大麻樹脂を輸入したこと及びその際の本件ノートに何らかの売買取引をうかがわせる記載があることを根拠に「営利の目的」を推論しているが、不当である。
 しかし、なるほど、原判決が指摘する通り、平成14年2月ころネパール滞在中に友人らに宛てた手紙の下書きなどを記載した本件ノートには何らかの売買取引をうかがわせる記載があるが、被告人が原審公判廷において検察官の質問に答えて「こういう担保があるという、さっきの手紙を出した時点で断られたんです。そんなもん・・・物は持ってこなくていいから、早く帰ってこい、そういう趣向で送金を受けているんで、彼らには声をかけませんでした」と供述している通り(被告人供述調書(2)22頁10行目以下)、本件ノートに下書きした被告人の売買取引に関する被告人の意向はその手紙を出した時点で友人らからの諭しともとれる言動によってすでに打ち消されたものとみるのが自然である。そうとすれば、本件ノートの記載をかかる友人らの言動を無視してこれをそのまま推論の根拠にすることは、推論過程に飛躍があると言わざるをえず、偏頗な証拠評価だとの非難を免れないものである。
 さらに加えて述べるに、証人□□□□の原審公判廷における証言内容(同証人尋問調書の4項~15項)によれば、いま問題にしている前回のネパール旅行中に同証人、「□□□□」及び「□□□□」3名から被告人に送金された金は全額全員に返還されている。そうとすれば、被告人においては前回の旅行でも大麻を売却譲渡して金を稼いだという事実そのものが存在していないと解される余地が十分にある。本件ノートに記載された被告人の意向が現実にも実行されたものであると解してはじめて筋がとおる本件ノートの記載に基づく原判決の推論は、この点においても、重大な過ちを犯しており、著しく不当な判断であると言うべきものである。

 5. 上記【3】の事実について
 原判決は、被告人の友人、知人の中には大麻を使用する者が複数存在することを営利目的の推論根拠にしている。これは、知っている者の中に大麻を使用する者がおれば、彼らに大麻を売却することは容易にできたであろうとも言うべき口吻である。しかし、過去の事実として大麻を吸う経験を有する者イコール大麻を購入する者という図式は、そもそも大麻を使用することが自由に行われている社会であれば需要と供給の論理でそのようなことが言えるかもしれないが、そうではなく大麻が禁止されているわが国における経済法則としては受容できない論理であると言わなければならない。原判決の推論はこじつけというほかない。
 事実、被告人は、原審公判廷において検察官からの前回のネパール旅行の際にお金を送ってくれた人たちは大麻をやる人か否かという質問に対して、「旅行中やったり、以前やったりした人たちですけど、今現在やっていないみたいです、断られたくらいですから」と供述している(被告人供述調書(2)22頁)。このことから言っても、過去の大麻吸引の経験者をもって大麻を購入する者だとの前提を立てることはそれ自体に無理があると言うべきである。もちろん、お金を送ってくれた人たち以外の友人や知人らについても、同様に、過去の事実として大麻を吸う経験を有する者イコール大麻を購入する者という図式が成り立つべきものでないことは言うまでもない。

 6. 上記【4】の事実について
 最後に、原判決が、被告人の検察官調書(乙7及び同8)に本件大麻樹脂の一部を大麻を使用する友人などに売却する意思を有していた旨の供述記載があることを営利目的の推論根拠にしている点であるが、仮にこれら被告人の検察官調書が任意に供述されたものであるとしても、同調書の記載内容が真実を語ったものであるとすることは、到底、許されないと言うべきものであり、同調書の記載に基づき営利目的を根拠づける原判決の判断は誤りであると言わなければならない。
 なるほど、被告人の上記検察官調書には営利目的を認める旨の記載がある一方で、他方、と同時に、例えば、乙7の検察官調書2頁目には「私は、その持ち帰ってきた200グラムの大麻のうち具体的な数字は覚えていませんが一部分を友人などに売って、借金を返したり、渡航費用や大麻の仕入れ代金くらいを得たりしました」とか、さらに同調書3頁目には「実際、2人くらいの友人が私が大麻を日本に密輸する前に金を払ってくれて、大麻を買ってくれました」とあり、また、乙8の検察官調書3頁には「今回は約500グラムもの量がありましたので、ネパールから大麻を持ち帰った際よりも、さらに大きな儲けを得ようと、今回思っていました」といった記載がある。つまり、これらの検察官調書の記載内容は、被告人が前回のネパール旅行の際も営利目的をもって大麻を密輸入しかつ現実にもその大麻を友人らに売却して利益を得たというものになっている。検察官は「論告要旨」3頁目に述べている通り「以前に大麻を密輸入し、国内でこれを売却譲渡して金を稼ぐことができたことに味をしめ、再び営利目的で本件犯行を行った」という構図が本件犯行であると見ているのである。
 原判決がこれらの検察官調書の内容を信用できるものであると結論つけたことは、結局、原判決は検察官の構図を採用しているものであると言うことができるところ、被告人が前回営利目的で大麻を密輸入した事実及びその密輸入した大麻を売却したりして利益を得た事実を立証する客観的証拠は一切提出されていない本件においては、否、原審の全証拠関係からは、すでに述べた通り、前回のネパール旅行からもちかえった大麻を友人らに売却した事実を否定すべき本件においては、原判決の認定は合理性を著しく欠いている不当な認定であると言うべきものである。被告人の検察官調書(乙7及び同8)は、その供述内容の重要な部分において真実に反する部分、少なくとも真実であると合理的に判断すべきものではない部分が認められ、かかる部分は同検察官調書におけるいわば蟻の一穴とも言うべき重大な瑕疵である。そうとすれば、同調書全体の信用性がすでに崩壊していると言える。
 よって、原判決の、被告人の検察官調書中の営利目的を認める記載を信用できるものとして営利目的を推論した原判決の判断過程は、その過程において重大な瑕疵があると言うべきものであり、不当である。

 7. 以上述べた通り、原判決がその推論の根拠となりうるとして採用している上記【1】~【4】の各事実は、いずれも推論根拠としては「疑わしきは罰せず」又は合理性の精神に照らし理由がないものであると言うべき不当なものであるから、原判決がこれらの各事実に基づいて営利目的を認定したことは、畢竟、事実誤認が存すると言わなければならず、そして、この誤認が判決に影響を及ぼすこと明らかである以上、原判決は破棄されるべきものである。

第3点 刑事訴訟法第381条(量刑不当)に基づく主張

 1. 原判決は、被告人に対して懲役4年6月及び罰金100万円に処する判決を下している。しかし、この刑の量定は、原審資料に現れた諸事情に限ってみるに、これが明らかに加重であり、不当である。以下、このように解する理由を述べる。

 2. まず第一に、すでに縷々述べた通り、被告人が過去に営利目的で大麻を密輸入したとする事実は検察官によって合理的に疑いのない程度に立証されておらず、そのうえ、被告人には前科前歴がないのだから、仮に百歩譲って大麻の営利目的輸入罪が成立するにしても、原判決の刑の量定は初犯に対する処断として酷に過ぎるものであると言うべきものである。
 第二に、同様に、仮に大麻の営利目的輸入罪が成立するにしても、原判決が認定している通り、被告人は約500グラムの本件大麻樹脂のすべてを売買取引しようと密輸入したものではなく、その一部を営利の目的に供しようとしたものにすぎないのだから、原判決の刑の量定は罪と罰の均衡から言ってやはり酷に過ぎるものである。
 第三に、仮に同じく大麻の営利目的輸入罪が成立するにしても、被告人の本件所為がいわゆる暴力団がらみであったり相当額の利益を得ていた又は得ようとしていたならば格別、本件の被告人の所為は、まさに一回的なものであり、また不特定多数の者に対する売買取引とはおよそ無縁のものであると認められ、さらに金額的にも誠に誠に軽微な営利目的の範囲内におさまっているものであると言うべきものであるのだから、大麻の営利目的輸入罪が加重犯類型として立法された所期の趣旨に照らす限り、原判決の刑の量定は明らかに酷に過ぎるものと解されるのである。

 3. なお、ここでの主張は、仮に営利目的が肯定されるときでも刑の量定は減刑されるべきものである旨をいうものであり、営利目的が否定されるときには当然に刑が減刑されるべきものである旨の前提に立っている。この立っている前提の点に関して、被告人の大麻に対する親和性乃至依存性が被告人の主観的悪性として問題にされる可能性があるかもしれない。しかし、被告人は、原審公判廷において供述している通り、過去の自分の過誤、さらには大麻の違法性を十分に認識したうえで深く反省し二度と大麻には手を出さない決意を表明している(第2回公判調書と一体となる被告人供述調書1~3頁)。従って、被告人の大麻への親和性乃至依存性は、すでに消滅しているものであって、被告人の主観的悪性はもう存しないものである、と信じる。

 4. 以上の次第であるので、原判決の量刑につき、改めて然るべき情状酌量ある判決を求めるものである。

第4点 刑事訴訟法第393条2項に基づく量刑不当に係る主張

 1. 被告人には、原審判決後の刑の量定に影響を及ぼすべき情状があるので、職権による被告人質問等の取調べを新たに実施したうえで、被告人に対する刑の量定につき、改めて然るべき情状酌量ある判決を賜りたく、ここにこの旨申し加えるものである。

 2. すなわち、被告人は、原審公判廷において裁判官から「あなたの話を聞いていると、本件についてあまり深刻には考えていないように思える」との疑問を発せられた点(被告人供述調書(3)4頁)及び原判決を厳粛に受け止め、原審判決後、更に本件犯罪の重大性とその自らの過誤につきより深刻に捉え直し、より深い洞察に基づく自己批判という反省の域に至り、これが被告人の態度及び性格・性行において顕著な変化が起きたものである、と信じる。

 3. なお、刑罰論に関して、検察官はその論告において被告人の本件所為に対して「一罰百戒の見地」(同書面4頁)から厳罰に処すべきであると主張している。しかしながら、犯罪抑止というものは、刑法学者平野龍一博士が述べているように、その罰の重さによる国民に対する威嚇ではなく、その犯罪が定められている規範的な意味にその重要性があり、その規範的な違法性の意味を国民が理解することで本来犯罪は抑止されるべきものであってこれが近代刑法の本旨でなければならない、と解される。従って、被告人が現時点において本件犯罪を犯すことになった根本的原因の分析を通じて将来の再犯の可能性について本質的かつ真摯な反省の態度を呈するに至っている以上は、威嚇論による犯罪抑止の必要性はもはや被告人についてはもう無くなったものである、と弁護人は考える次第である。






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