リスボン宣言と医療大麻

投稿日時 2011-06-02 | カテゴリ: オークランドより by 麻生しげる

麻生しげる

リスボン宣言をご存知であろうか。日本も加盟している世界医師会の患者の権利に関する宣言のことである。
リスボン宣言(正式には患者の権利に関する世界医師会リスボン宣言)が1981年に採択された年には、世界的な動きとして医療大麻にそれ程の知名度、認識度はなかったと思われる。しかしながら、1995年にインドネシア、バリ島にて本宣言が修正された際や、2005年にチリ、サンティアゴにおける理事会で本宣言が編集上修正された際には、当然のこととして大麻の医療目的使用も世界医師会(WMA)の視野に入っていたことは容易に推測される。

昨今の医療大麻を巡る現状と研究は著しく熱を帯び、ここ20年ほどで大麻の様々な医療効果が科学的に証明されてきた。代表的な例としては抗がん剤の副作用を抑える作用やHIV感染者の食欲不全を解消したり、カウサルギー症候群(CRPS TYPE2)のような激しい痛みを軽減、緩和したりするといった具合である。多発性硬化症(MS)の患者にも大麻の効果は絶大であることが判明した。オランダやイスラエル、ドイツやスペイン、オーストリア、いや大麻弾圧の第一人者たるアメリカでさえ16もの州で医療用大麻が実際に制度として機能している。しかしながら、相変わらず日本の医師の間では大麻に偏見を持つものが後を絶たない。これはアメリカによって押し付けられた日本の戦後の大麻撲滅政策のプロパガンダの弊害であるともいえよう。リスボン宣言の序文の一番最後の文章に目を通されたい。

法律、政府の措置、あるいは他のいかなる行政や慣例であろうとも、患者の権利を否定する場合には、医師はこの権利を保障ないし回復させる手段を講じるべきである
 ~ リスボン宣言序文より抜粋

以上の文句を読み解くと、医師は患者の権利を守るためには国家権力との喧嘩も辞さない、と解釈できるのではないか。これによると医師には患者の権利を守るばかりでなく、患者の権利を勝ち取る使命も託されているといえよう。しかし、医療大麻の研究すら許されていない日本で、実名で声を上げて大麻を使用する患者の権利の為に戦う、という医師を私は知らない。非常に残念なことである。医療大麻を臨床試験してみたい、あるいは研究がしてみたい、と名乗りを上げる医師も私は知らない。なぜなら、日本では大麻取締法第4条によって医療目的でも所持、栽培、更に諸外国からの輸入等が禁止されているからである。

大麻取締法
第4条  何人も次に掲げる行為をしてはならない。
一  大麻を輸入し、又は輸出すること(大麻研究者が、厚生労働大臣の許可を受けて、大麻を輸入し、又は輸出する場合を除く。)。
二  大麻から製造された医薬品を施用し、又は施用のため交付すること。
三  大麻から製造された医薬品の施用を受けること。
四  医事若しくは薬事又は自然科学に関する記事を掲載する医薬関係者等(医薬関係者又は自然科学に関する研究に従事する者をいう。以下この号において同じ。)向けの新聞又は雑誌により行う場合その他主として医薬関係者等を対象として行う場合のほか、大麻に関する広告を行うこと。

この法律は、日本が1951年から加盟している世界医師会の趣旨に反するのではないか。従って大麻取締法第4条も見直しの時期が来ているのではないか。いずれにしても、医師が本当に患者のことを思っているのならば、どんな手段を講じてでも患者の期待に応えるのがその緊急な使命なのではないだろうか。例えそれが大いに偏見をもたれている医療大麻だとしても、患者が患者の願う治療法を選択できる土壌が日本にあってもいいのではないかと強く思う。もともと大麻は民間の間で様々な疾患の特効薬として幅を利かせていたのだから。医師が患者の権利の為に戦わずして、誰が戦うのか。

さて、リスボン宣言の原則1、「良質の医療を受ける権利」を拝見しよう。まずはAからFまである権利の内のBから。

全ての患者はいかなる外部干渉も受けずに自由に臨床上並びに倫理上の判断を行うことを認識している医師から治療を受ける権利を有する

これは、自明の理であろう。立派なことをいう。本案に応えるのが正に医師としての役目といったところではなかろうか。では日本の医師たちも、自分たちが臨床上並びに倫理上の判断を行うことを認識しているだろうか。患者が「自由」に、「いかなる外部干渉も受けずに」である。答えは否、である。日本の医師たちは常に厚労省の顔色を伺っているのか、医療大麻に関しては見てみぬふりを決め込んでいる。医療大麻を求める患者の声がまだまだ少数派だからであろうか。少数派だからといって、患者の声が黙殺されていいという事ではないだろう。断固として医療大麻を政府とともに否定する日本の医師たち、患者の切なる声を聞かぬ医師たちの評価はさておき、ここからが重要だ。

原則3、「自己決定の権利」である。

A.「患者は自分自身に関する自由な決定を行うための自己決定の権利を有する。医師は、患者に対してその決定の齎す効果を知らせるものとする」

つまり、全ての患者には自己決定権があるということだ。医師の仕事はその決定権の行使がどのような結果をもたらすかを知らせることに尽きる。これを大麻有害論に問う。患者がもし大麻を必要とし、それが例え100歩譲って結果として心身に多少の害悪を招いたとしても、これは自己責任の範疇に入るのではないか。医療大麻に関していえば、医師の仕事は大麻の弊害(そんなものが存在するとすればだが)を患者に知らせるのが唯一のつとめである。万が一にも弊害があるとすれば、それもまた患者に選ぶ権利はある。末期がんで苦しんでいる患者が大麻でそれを癒したい、と切望したとき、それを供給できるよう国家に働きかけるのが日本の医師の急務であると私は考える。日本では終末医療にもっとモルヒネ(オピオイド系の阿片から採れる薬)を使用できるようにするという動きがあるようだが、それこそ大麻の害はモルヒネのそれとは比較にならないくらいに軽い。モルヒネはヘロインの兄弟分のようなものだからだ。世界のどこにもモルヒネの有害性を否定できる医者はいまい。しかし、現在の終末医療にモルヒネは欠かせないものなのだ。そのくせ、より安全且つ有益な大麻は、日本では終末医療でさえご法度である。

次に「尊厳に関する権利」から。

B. 「患者は最新の医学知識に基づき苦痛を緩和される権利を有する」

世界の最新医学では、医療大麻は苦痛の緩和に効果的であるとの見解が一般化されている。いや、歴史的にみてもこの不思議な植物は医薬品として世界中で重宝されてきた。現在の日本では一般化されていないとしても、世界的にみて日本の大麻政策はむしろ孤立しており、それが特殊な病気を治癒するにたるとの根拠があれば、医師は患者の意思に従うほかないことは先の自己決定権でも明らかである。又、医療大麻が効果的であることはもはや風説ではなく、世界で推定数百万人が医療大麻システムの恩恵をこうむっている現実がある。かくいう私もその一人である。又、日本を含む各地の法律の規制によって大麻で自己治療せざるを得ない患者まで含むと、その医療目的利用者数は倍増するに違いない。

C. 「患者は人間的な終末医療を受ける権利があり、またできる限り尊厳を保ち、かつ安楽に死を迎える為のあらゆる可能な助力を与えられる権利を有する」

終末期が迫った人間には、大麻に短期的、長期的な害があるかないかなんて議論は不必要で、それ以前に尊厳を保つためにも安楽に死を迎えるためにも、医療大麻の必要性は明らかである。しかしながら、医療大麻は終末医療に限られるということではない。私の場合、大病を患っており、カリフォルニアで医療大麻を処方して貰い、合法的に栽培もしている。私は医療大麻なしには生きてゆけない。だから勇気ある医師たちが立ち上がるその日まで、日本へ帰ることも許されないのである。医療大麻を考えない医師たちの向こう側には厚生労働省、そしてアメリカ連邦政府の意向が伺われる。日本も戦後すぐまではインド大麻チンキ等といった商品名で医療大麻は公然と販売されていた。日本中に大麻が自生し、日本民族は古くから民間療法として大麻を使用してきた背景もある。それが戦争に負けて、アメリカ様のいいなりになり、日本の伝統文化とは切っても切れない大麻が良薬から時代の悪役へと変貌したのである。

大麻が有害、無害であるかという議論以前に、日本ではその存在をほのめかすことさえタブーである。医師たちもその例外ではあるまい。しかし、海外に留学経験のある医師や、世界を股にかける医師などは、大麻の本質を見抜いているのではないか、と私などは勘ぐってしまう。それほどに大麻は今の日本では嫌われ者なのであり、しかしながら、少しずつ日本文化のメインストリーム・カルチャーとして発展を遂げつつあるのではないかと思う。昨今の医療目的を主張する大麻事件がそれを如実に示していると言えよう。この動きに着目せず、行動もしない日本の医師たちは怠慢極まりないとしかいえない。

これに対し、全米医師会(AMA)は1997年より一貫して大麻を危険として否定してきたが、2009年には米国連邦政府に大麻をスケジュール1(ヘロインやLSDと同じ)からランクを引き下げ、医療利用できるよう要請した。これは世界的な世論の流れを踏まえた画期的な動きと見られる。例えその背後には大麻由来の薬を大々的に売り出そうという製薬会社の目論見があろうとも・・・。

世界医師会の日本支部たる日本医師会(JMA)の方はといえば、2010年の段階で相変わらず大麻を他の危険な覚せい剤等の薬と同列に論じ、医学的、科学的検証を怠っている。医療大麻などはなから眼中にはなさそうだ。日本医師会からは何も期待できそうにない。一方で、日本の大塚製薬はサティヴェックスという吸引式の、大麻成分であるTHCのスプレーをアメリカで開発し、カナダなどの市場で売りまくっている。先の大麻取締法第4条により、日本では売れないからだ。日本の医療大麻政策、ひいては日本の最先端医療、終末医療の未来はまだまだ暗い。





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