平成23年(あ)第394号 大麻取締法違反、関税法違反被告事件
被告人 KY
異議申立書
2011年7月14日
最高裁判所 第2小法廷 御中
弁護人 金井塚 康弘
同 南 和之
頭書被告事件にっき、平成23年7月11日上告棄却の決定があり、同月13日決定謄本の送達を受けたが、下記理由により異議を申し立てる。
異議の理由
一 はじめに
御庁がなされた7月H目付の上告棄却決定は、理由が簡略に過ぎ、根拠も示されず、理解し難いものであって、裁判を受ける被告人、国民の側からすれば、憲法に保障された裁判を受ける権利(憲法31条、32条)というものはこの程度の意味しかないものかとの誤解、落胆を招<虞すらあり、極めて遺憾である)。
被告人の第一声は、「つまらない内容です」というもので、むべなるかなと言わざるを得ない。同決定の判示内容に品格が感じられないのは、被告人だけではないと思料する。
二 違憲条文等の摘示遺漏について
同決定は、弁護人の上告趣意に対して、「大麻取締法の規定違憲をいう点は、大麻が人の心身に有害であるとした原判断は相当であるから、前提を欠き、」とし、「憲法12条違反をいう点は、原審において何ら主張、判断を経ていない事項に関する主張であり、」とし「その余は、違憲をいうが、実質は単なる法令違反の主張であり、」等とまとめられ排斥されているが、弁護人の6月20日付上告趣意書は、漠然と「違憲をいう」に過ぎないものではないので、このような上告棄却の理由は、理由にさえなっていない。
また、弁護人は、「法令違憲」、「適用違憲ないし運用違憲」は主張しているが、上記「規定違憲」などは圭張していない(憲法学の用語としても上記のような表現は寡聞にして弁護人は知らない。ちなみに、標準的な憲法の基本書である芦部信喜、高橋和之補言丁『憲法 第五版』の索引を見ても「規定違憲」等という言葉はない)。「規定の違憲をいう点」の「の」が脱漏している誤記であろうか。それなら善解でき得る。しかし、ワープロミスは20日足らずで上告趣意書を「検討」して、倉皇として打ち上げられた杜撰極まりない判決理由の象徴ではないであろうか。
さらに、弁護人が、審理が尽<されていないから原審に差し戻されるべきであると主張している点、最刑が重過ぎるという量刑不当の主張をしている点は、摘示もされていない。いずれにしても、当職ら作成の上告趣意書を本当に読んでおられるのか、1審以来の主張と書証を詳細に検討されているのかすら疑われる理由付けで、極めて遺憾である。
弁護人は、市民的不服従としての非暴力の反法行為を処罰するのは、憲法12条に違反し、大麻について、合法化されているアルコールや煙草以上の有害性は医学的、薬学的に証明されておらず、むしろ医薬品、嗜好品、衣料品、建材等としての有用性、有益性があるのに、刑罰をもって規制するのは、過度の規制であり、個人の幸福追求権、自己決定権(憲法13条)を侵書し、罰金刑の選択刑もない法定刑は一律に過度に重いことから、刑事法の基本原則である法定手続の保障、罪刑均衡の原則(憲法13条、31条)にも違反すること、適用違憲ないし運用違憲となることを個別条文をあげて詳細に論じている。
しかるに、上告棄却の理由中に弁護人が何条の違憲の主張をしているのかの個別具体的な摘示もないということは、弁護人作成の上告趣意書をいささかも具体的には検討いただいていないのではないかと強く推認でき、非常に遺憾である。ちなみに、憲法何条に違反するのかを具体的に主張しない上告趣意書による上告申立は適法でさえない(最判昭和25年7月25日 刑集4巻1523頁ほか]。具体的に何条の主張についてか摘記しないで記載された上告棄却理由も、同じでなければならない。
奇異なことに、同決定が条文を唯一摘記している、「憲法12条違反をいう点」については、「原審において何ら主張、判断を経ていない事項に関する主張」であるとして排斥している。しかし、憲法の解釈は、明示でなくても黙示でもいいのであって(最大判昭和23年7月18日、刑集2巻801号)、被告人が敢えて、インターネット上にその事実を公開しつつ輸入行為をして、大麻取締法の違憲性、悪法性を主張しようとしていることは原審においても主張され、判断も経ている。正々堂々とした反法的輸入行為の規制が合憲とされているのであるから、憲法12条に違反するものであることも、黙示的に主張され、憲法12条違反はないと黙示的に判断されているといえるのである。いずれにしても、事項自体は、「原審において何ら主張、判断を経ていない事項」ではないので、上記理由の説示は、理由にさえもなっていない。
三 核心的問題点を素通りしている点について
結局、原決定は、重要な核心的問題をはぐらかしたままである。
そもそも、薬物に限らず、合法的な医薬品・化粧品・食品・嗜好品などを含むいかなる物質であっても使い方や使用量を誤れば人体に有害に作用するものであり、有害性を完全に否定することは不可能であり、その必要もない。「有害性を否定できない限り」およそ国会の立法裁量でどのような立法も原則合憲であるとするなら、特に法規制で基本的人権が侵害されている場合、救済の途が閉ざされる。
核心的問題点は、何らかの精神薬理作川があるとしても、それが、身体の自由を奪う強度の刑罰(懲役刑)を伴う程の規制が必要なほど有害な実質があるのかどうか、より有害性の明らかなアルコールや煙草が未成年の摂取を規制しているに過ぎないのに、不均衡にも強度の刑罰を伴う規制をする理由や正当化根拠は何か、である。刑事法の基本原則である法定手続の保障、適正手続の保障、罪刑均衡の原則(憲法13条、同31条)から、慎重に、しかし、迅速に考量、判断されなければならない問題なのである。
まさに、現在のような身体の自由を奪う強度の刑罰を伴う程の規制が必要なほど強度の有害性の実質があるのかどうか、その立法事実を、最新の医学的、科学的知見等に照らして検証、審杏するのが、個人の幸福追求権等の諸自由、諸権利を守るべき司法裁判所の責務である。「強度の有害性が認められる」とは裁判所も認定できない以上、破棄差し戻しをして、立法事実を詳細に検討し、違憲審査に踏み込ませるべきなのである。
ましてや、大麻取締法は、保護法益すら明らかでない法律であり、そんなに有害性が明らかであるなら、他の規制薬物と同じように、使用罪で使用自体を処罰すべきであるが、ぞのような条文の構成になっていない。
近時の非犯罪化、非刑罰化が進められている世界的情勢は、1審以来主張し、立証し続けてきたことである。最新の医学的、科学的根拠にも裏打ちされた上記欧米を中心とする先進国で大麻規制が非犯罪化され、非刑罰化されている状況は、現時点での法律の合憲性、違憲性を支える重要なや立法事実として、十分に考慮に入れられなければならない。
それを「前提を欠<」などとして、実質審理をせず、破棄差し戻しもせず、違憲の強度のおそれのある法律の審査に踏み込まないのは、残念ながら、司法裁判所の職責放棄といわざるを得ない。
四 司法裁判所としての責務にっいて
立法、行政の過誤、怠慢を糺すことこそ、三権分立制度を採っているわが憲法上、司法裁判所の責務である。
特に人の健康や人身の自由にかかわることにっいて、法律の改廃、修正は、一刻の猶予もならないはずである。厚生労働省は、大麻が有害であると根拠もな<言い続けているが、これは、原発が安全であると根拠もな<言い続けている経済産業省のやり口と同じことで、国民の信頼を、早晩失うであろう。
以上により、本件上告趣意に鑑みるならば、7月11日付上告棄却決定は、理由が付されておらず、内容には明らかに重大な誤りがあると考えざるを得ないものであり、人権擁護の最後の砦である司法裁判所の責務を放棄したとの誹りは免れ得ない。
よって、立法事実の検証、すなわち、記録の精査と再度の考案と破棄差し戻しを求め、敢えて異議申し立てに及んだ次第である。
以上
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