カリフォルニアのポット・シーン

投稿日時 2011-07-30 | カテゴリ: オークランドより by 麻生しげる

麻生しげる(米国カリフォルニア州在住)

カリフォルニアのマリファナ・シーンは世界でも類をみない程に盛り上がっている。今や(薬用大麻ライセンスを持っていれば)自動販売機でマリファナが購入できるご時世である。その問題の薬用大麻ライセンスはいとも容易く手に入るのが実情だ。手続きは簡単、適用症状をまず医師に訴え、診断書を貰う。それからマリファナ専門医の所で推薦書を貰うのみである。適用症状には慢性の頭痛を含め、生理不順、もっとシリアスな病気だとがんや多発性硬化症や躁うつ病などといった様々な症状が当てはまる。それ程にマリファナの医療効果は絶大であるということが言えるだろう。
カリフォルニアの薬用大麻(医療大麻)利用者数はNORMLによると推定約1125000人と見積もられている。だから、ライセンスさえあれば、ネットでも自由に大麻の取引に興じることが出来る。ディスペンサリーの数も膨大である。ロスアンゼルスだけで1000のディスペンサリーが2011年現在運営している。これはコープ制度を除外した数字である。カリフォルニアにはスターバックスよりもディスペンサリーの数の方が多い。

コープ制度というのは患者が寄り集まって、ライセンスを持ち寄り、ケア・ギバーやプロの大麻農法専門家の指導の下、盛大に一年分の大麻を夏の内に確保する、というものである。もちろん、元気な患者はマリファナの栽培やマニキュアリングにも関わることになる。よって、大麻との親和性を高めるばかりか、栽培のノウハウも学ぶことが出来、人に教えることもできるようになる。自分で植えたマリファナを一服する気分は格別なのである。土地を持っていない人や、身体の不自由な人にはもってこいの制度である。

そして気がついたら、医療大麻が合法化されたこの13年間でカリフォルニアはガンジャ王国へと変貌していた、ということに相成る。元カリフォルニア州知事のアーノルド・シュワルツネッガー氏は大麻の一オンス以下の所持を非犯罪化させた。この男のモラルや政治能力は別としても、この偉大なる功績は評価せねばなるまい。「懲罰が犯罪の社会に与える損害を上回ってはならない」というカーター路線以来の快挙であり、理念の実現である。これによって、嗜好大麻も事実上の解禁ということになった。ようはブツを大量に所持せず、誰にも迷惑をかけずにしていれば、大麻を吸ったくらいで処罰はしないというお上による判断である。一方で、大麻運転や大麻の大量売買等は相変わらず厳しく処罰される。

さて、ディスペンサリーとはどういう所であろうか。マリファナ専門の薬局だと思って構わない。まずは入り口にソファーが置いてあり、そこで順番を待たされるのが一般的である。そこで自分のライセンスと免許証、若しくは州発行のIDカードを提示し、初回は受付の人が専門医に電話で確認を取る。そこでディスペンサリー・クラブのカードを発行してくれる。ディスペンサリーによっては初回料金を取ることもあるが、大概は初回だと寧ろおまけをしてくれることが良くある。これらの簡単な五分程度の手続きを済ませると、奥の部屋へと通される。店のサイズは千差万別だが、共通しているのはどこも意外と小奇麗にしていて、マリファナをディスプレイしてあることである。ディスペンサリーではクローンも扱っていて、気軽に色々なサイズのクローンや種類が買える。勿論、種も国産のものは(現在の所)合法である。ガンジャは小瓶にサンプルとして沢山置いてあり、店員がアドヴァイスを色々してくる。勿論、本人のお気に入りのガンジャを売りたがるという人情はわかる気がする。が、ちょっと小うるさい、ガンジャ・スノッブが多いのも現状だ。いずれにせよ、小瓶のガンジャをしっかりと顕微鏡で覗き、トライコームと呼ばれるTHCクリスタルの量を確認してから、匂いを嗅ぎ、ガンジャを選ぶ。それだけのことである。ガンジャのプライスはグラム$10~$20である。値段はモノの良し悪し、人気度、室内か屋外か、などの基準で決まる。我々がディスペンサリーに卸す場合にはラボラトリーでカビの有無などをチェックの上、鑑定書をみせなければならない。オークランドのような都会では審査基準は結構厳しいのである。

ディスペンサリーには様々な薬効のあるキャンデー類なども扱っている。チョコレート、マリファナ・チンキ、大麻の成分抽出錠剤からサティヴェックスもどきの製品まで置いている所もある。周辺器具も充実している店が多い。サンフランシスコあたりのヘッド・ショップはディスペンサリーを兼ねている所もあり、同時に多くのディスペンサリーはヘッド・ショップを兼ねている。ボングやヴェポライザーなどを奥の部屋で使わせてくれる店もある。勿論、マリファナ推薦書が必要ではあるが。栽培道具を扱っているディスペンサリーもよくある。

さて、サンフランシスコのヘイトやバークレーあたりのストリートでは高純度のマリファナをグラム+α$15~$20前後で売っている。少々高いと思われる向きもおられるだろうが、ここは観光地、しかもモノは最高ときている。一袋買えば、間違いなく一日は持つであろう。勇気のある人はミッション・ディストリクトのマリファナ・ショップ(これも非合法)を訪れてみるのもよかろう。安くて($3~$5の袋も売っている)割と吸える大麻が買える。但し、明らかに観光客然としていたら、売ってくれないかもしれないし、強盗にやられる可能性もある。ロスアンゼルスであればコンプトン地区などでも安くて質のいいマリファナが手に入る。だが、身の安全は保障できかねる。

カリフォルニアでは皆がトーク・アップしている。ガンジャの世界にどっぷりつかって生きている人間には良くわかる。ピーター・トッシュが歌っていたように、医者もマリファナを吸うし、弁護士も吸うのだ。毎日生活に追われている人々がマリファナを娯楽として、或いは治療薬として選択できるカリフォルニア州民は恵まれている、といえるだろう。

しかしながら、新しい発想(でもないのだが)が生まれる所には必ず反動がある。アメリカ連邦政府のことである。アメリカ連邦政府はまだまだ弾圧を続けている。新しい動きもあるにはあるのだが、例えば大麻をスケジュール1からスケジュール3に引き下げる動き、連邦政府による大麻規制そのものをなくそう、などという動きが最近顕著である。裏には製薬会社やタバコ会社のロビイストたちによる圧力もあるだろう。大麻が完全合法化されれば、これ等の大手企業がマリファナ・ビジネスに参入することは必至である。これが良いことなのか、悪いことなのかは現在の所わからない。但し、ひとつ言えるのは、その辺に勝手に生える草木を完全に抹殺することはできない。が、連邦レベルで大麻が合法化すれば、企業利益の為に、患者によるガンジャを植える権利が取り上げられる危険性があることは否めない。つまり、企業によるマリファナの独占である。そうなったら、栽培などはアルコールと同じように個人が出来なくなるのだ。これは危惧せざるを得ない状況である。

今の所、カリフォルニアのポット・シーンは安泰であるかのように見える。が、確実に連邦政府はディスペンサリーやコープを潰しにかかっている。PROP19も結局盛り上がりに欠け、ガンジャ関係者の内分裂もあってか、この法案は住民投票によって否決された。成人による投票が義務化されていたら、とっくの昔にアメリカ全土がマリファナ天国となっていたことであろう。兎も角、この医療大麻、嗜好大麻の最前線地区ともいうべきカリフォルニアは世界のマリファナ・モデルとして君臨することになるであろう。外国人を排除し始めたオランダにもはや期待は出来ない。真の市民運動の存在するカリフォルニアならではの実態であろう。



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