第1回に続き、「ダメ。ゼッタイ。」ホームページの検証です。
筆者は薬物政策の研究者で、大麻取締法と国際法との関係、各国の薬物政策について、専門的な知識をお持ちです。
個人的な大麻の栽培や所持で逮捕されない日本社会を実現するための課題は何か。論点整理を含め、政策的な課題など、私たちや政策担当者たちにレクチャーするような論稿をお願いしました。
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「ダメ。ゼッタイ。」ホームページの「大麻について」
大麻を乱用すると気管支や喉を痛めるほか、免疫力の低下や白血球の減少などの深刻な症状も報告されています。また「大麻精神病」と呼ばれる独特の妄想や異常行動、思考力低下などを引き起こし普通の社会生活を送れなくなるだけではなく犯罪の原因となる場合もあります。また、乱用を止めてもフラッシュバックという後遺症が長期にわたって残るため軽い気持ちで始めたつもりが一生の問題となってしまうのです。
アメリカではNational Institute on Drug AbuseとU.S. Department of Health and Human Serivesの公的機関によって定期的にMonitoring the Futureという若者の薬物使用に関するレポートが発表されています。
その2002年の調査によれば、全米の8年生・10年生・12年生(日本でいう中学2年生から高校3年生まで)の53%が何らかの非合法麻薬の使用を経験しており、うち30%がマリファナ以外の麻薬も使用したと回答しております。
またカリフォルニア州で定期的に行われている同様の調査、Eighth Biennial Statewide Survey of Drug and Alcohol Use Among California Students in Grades 7,9 and 11では、9年生の24%が使用(自己申告回答)、53%が友人の使用を回答しております。11年生ですと、同じ数値がそれぞれ45%、72%へと増加します。
これらの統計から分かることは、アメリカ社会ではすでにマリファナ使用のノーマライゼーション化が進んでおり、多数の若者がマリファナを使用、あるいは使用経験があるといえます。
仮に乱用防止センターが主張するような、大麻の乱用(misuse)つまり使用によって、妄想行動、知能低下、異常行動、仮に使用を中止してもフラッシュバックなどの後遺症が長期に残るとすれば、アメリカ社会の若者の間には、日本などマリファナ使用者が比較的少ない国に比べ、顕著に精神病、精神障害の発症率が高くなっていなければならないことになりますが、実際にはそうなっていません。
またマリファナの使用が非犯罪化されているオランダ・スペイン・スイスなどでも同様の顕著な精神障害の発症が認められるか、社会問題化されていなければなりませんが、マリファナの個人使用の非犯罪化が継続されています。
また、Hall, W. Cannabis and psychosis. Drug and Alcohol Review, 1998, 17, 433-444..はオーストラリアでのマリファナ使用と精神病との関係を研究した論文ですが、本書では、マリファナは感受性の非常に強い個人には精神病の引き金となりうるが、人口レベルの統計として現れるほどの割合ではないと結論されています。
オーストラリアでは、二州でカナビスの使用が非犯罪化されており、他の州も事実上非犯罪化されている状況にあります。こうした政策の実施はカナビスの健康・精神的影響が、使用を厳罰化するほどの統計的な社会的影響がなく、むしろ厳罰化することによるハームリダクションの視点からみたデメリットの方が大きいとの政治的判断が働いているからです。
金遣いも荒くなりますし、使途など明確な説明が付けられないことも多くなりますので、これらもある種のヒントになります。家庭から頻繁に物が無くなったりする場合、大麻との交換や入手資金として使われていることもあります。
大麻使用者が、購入資金のため家庭から金品を持ち出したりするという指摘は、大麻そのものの症状というよりは、日本の大麻行政が作り出している問題です。
すべての非合法ではあるが実際にブラックマーケットを形成している商品は、一般的に価格が高止まりします。
日本ではブラックマーケットで1グラム5,000円から1万円しますが、小売販売が許可されているアムステルダムでは、1グラム5ユーロから7ユーロ(700円から1000円)で購入できます。このような価格の場合、大麻の購入資金のために何らかの二次的犯罪にコミットする必要性はもともと発生しません。
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