オランダはハームリダクション政策を国をあげて実践している数少ない国の一つである。
有名なカナビスのカウンター販売に始まり、ヘロイン中毒者を逮捕することなくメタドンバスが町を巡回し代替物質を配り、市の財政支援を受けている注射部屋では持参のヘロインを支給される注射針と消毒薬で使用することができる。
ここでは筆者のオランダ、アムステルダム大学での2年間の麻薬政策の研究を踏まえ、特に内外でも関心の高いオランダのカナビス(マリファナ及びハッシュ)の非犯罪化政策に焦点をあて、オランダのハームリダクション政策がどのような歴史と政策決定の過程を経て制度化され、またそれがいかなる実質的なハームリダクション(有害性の縮減)効果を生みだしてきたのかを論じる。
また、オランダとアメリカ合衆国の麻薬政策との相違点にも触れ、両国の麻薬政策に映し出される異なる社会統合のモデルにも言及し、麻薬問題に対するハームリダクション的アプローチと罰則的(punitive)アプローチの政策理念の相違点にも言及する。
この分析を通じ、ハームリダクション政策が、ハードドラッグの中毒者に対して排除型(exclusive)モデルではなく、包摂型(inclusive)モデルとして機能する麻薬政策であることを明らかにすることが本稿の目的である 。[1]
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[1] この排除型、包摂型の対比は、イギリスの犯罪社会学者、Young, Jock (1999) The Exclusive Society, London, Thousand Oaks and New Delhi, Sage Publication. による。ヤングは後期近代社会を排除型社会と位置づけ、一次労働市場の縮小、市場価値が増大する経済構造、個人主義化などマクロな社会変動を要因として、社会統制の様態、市民の精神構造、犯罪学のディスクールが逸脱者を排除する方向性に進んでいることを本書で指摘している。
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