第4節(2) カナビス非犯罪化の実践状況と政策的効果

投稿日時 2006-12-06 | カテゴリ: オランダの薬物政策

こうしたハードドラッグとソフトドラッグマーケットの分離、草の根レベルでの中毒者へのハームリダクションプログラムの提供によって、オランダでは1980年代の始めには20代中頃であったヘロイン中毒者の平均年齢は、現在ではおよそ40歳程度にまで上がっており、新たにヘロインの使用を開始する若者の数は大きく減少傾向にある。

人口1,000人あたりのハードドラッグ(ヘロイン、コカイン)の使用者数の割合は、オランダ2.5人、スウエーデン3人、フランス3.9人、イギリス5.6人、イタリア7.2人と、EU域内でも低い水準を保っている 。[21]

またアメリカとの比較では、12歳以上のヘロインの生涯使用経験の割合は、オランダが0.4%であるのに対し、アメリカは1.4%となっている 。[22]

カナビスの非犯罪化は、しばしば反対者からは先のカナビスはハードドラッグへの入り口となるゲートウエイドラッグであるという仮説によって批判されているが、少なくともオランダにはこの仮説はあてはまっていない。

またオランダではカナビスの使用者の割合もイギリス、フランスよりも低い数値を示しており、厳格な禁止政策を実施しているアメリカと比べ、2001年の統計によれば12歳以上で過去1ヶ月間にカナビスを使用した者の割合は、アメリカが5.4%であるのに対し、オランダは3.0%にとどまっている 。[23]

またカナビス使用者がオランダでも特に集中しているアムステルダムと、カナビスの積極的な禁止政策がとられているサンフランシスコとのカナビスの使用状況の比較調査によれば、一般的にカナビスのカウンター販売が行われているアムステルダムの方が、使用開始年齢、使用者数の割合、使用頻度などが顕著に高くなることが期待されるところであるが、両都市でのカナビスの平均使用開始年齢(AMS:16.95、SF: 16.43 )、過去3ヶ月間の使用状況(毎日AMS: 9%、SF: 5%、週に1度以上 AMS: 19%、SF: 15%、週に1度以下 AMS: 21%、SF: 34%、使用していない AMS: 50%、SF: 46%)にはほとんど差は認められなかった 。[24]

これは逆に言えば、サンフランシスコではカナビスの禁止政策がその需要と供給(入手可能性)にほとんど影響を与えていないことを証明する調査結果ともいえる。

またハードドラッグに関しては、両都市でのアヘン系麻薬の生涯使用経験と最近3ヶ月間の使用者数の割合は、アムステルダムがそれぞれ21.8%・0.5%であるのに対し、サンフランシスコは35.5%・2.7%、またクラックコカインでは、アムステルダムが3.7%・0.5%であるのに対し、サンフランシスコでは18.1%・1.1%と、使用麻薬のトレンドに両都市間での違いがあるとはいえ、禁止政策を実施しているサンフランシスコの方が高い数値を示している 。[25]

このように、少なくともオランダでは、他の国と比べてもカナビスの非犯罪化は反対者が危惧するようなカナビスの使用者の増加を招いておらず、またヘロイン使用の新規参入の防止にも一定の効果をもたらしているといえる。

こうした政策的有効性が統計調査によって証明された結果、当初はオランダの政策に批判的であったドイツやフランスとの間でも、オランダ型ハームリダクションの協同研究、ソーシャルワーカー間の交流など、オランダの麻薬政策に対する地方政府、草の根レベルでの理解が進んでいる。

以前フランスではジャック・シラクがオランダの麻薬政策を批判し、フランス政府が行った核実験よりもオランダの麻薬政策の方が危険だという批判を行ったが、オランダの麻薬政策に関する理解と麻薬問題に対する二国間の関係は近年徐々に改善されてきている 。[26]

またドイツでは、メタドン治療の普及と94年の憲法裁判所における麻薬の個人的使用に対する取締り緩和の決定により、現在オランダに類似したハームリダクション政策が実施されつつある。

しかしこのオランダの麻薬政策は、国際的な麻薬禁止レジームをリードしているアメリカ政府からは依然として厳しい批判を受け続けている状況にある。

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[21] Keizer, Bob(2001) The Netherlands' Drug Policy, Paper to be presented at the hearing of the Special Committee on illegal Drugs, Ottawa, November 19 2001, [http://www.parl.gc.ca/37/1/parlbus/commbus/senate/Com-e/ille-e/Presentation-e/keizer-e.htm].
[22] アメリカの数値は U.S. Department of Health and Human Services (HHS), Substance Abuse and Mental Health Services Administration (August 2002) National Household Survey on Drug Abuse: Volume I. Summary of National Findings, Washington, DC: HHS, p. 109, Table H.1.  オランダの数値は Trimbos Institute (November 2002) "Report to the EMCDDA by the Reitox National Focal Point, The Netherlands Drug Situation 2002" Lisboa, Portugal; European Monitoring Centre for Drugs and Drug Addiction, p. 28, Table 2.1.
[23] Ibid.
[24] Reinarman, Craig., Cohen, Peter D.A., Kaal, Hendrien L. (May 2004) “The Limited Relevance of Drug Policy: Cannabis in Amsterdam and in San Francisco”, American Journal of Public Health Vol. 94, No. 5, pp.837-838.
[25] Ibid., p.840.
[26] Keizer , Bob(2001)op.cit.






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