第5節(3) クラック問題 ─貧困階層とマイノリティへの差別的処遇

投稿日時 2007-03-06 | カテゴリ: アメリカ国内のドラッグウオーとその社会的影響

このクラックベビー現象が起きた社会的背景には、当時の貧困層への医療サービスの低下が原因として考えられる。

1981年にOmnibus Budget Reconciliation Actが制定されると、メディケード(Medicaid: 65歳未満の貧しい人々が受けられる医療補助)のサービスを受ける資格が厳しくなり、同時に国はこれに支出する予算をカットした。

これ以後、医療サービスを受けられなくなった母親が数多く現われた。またクラックユーザーの母親は、マスコミの報道によって社会的にスティグマ化されていたため、医療機関を訪れても充分な治療を提供されるどころか、医師と患者の守秘義務が無視され医師によって警察に通報されることが多かった。

チャスノフらの研究によれば、フロリダ州のパイネラス郡のクリニックや民間の産婦人科に訪れた妊婦のうち、白人、黒人ともに15%が妊娠中にドラッグを等しく使用していた。

しかし黒人の妊婦は白人に比べて10倍多く当局に通報されており、収入別では、所得が年間12,000ドル以下の最貧困層の方が、収入が25,000ドル以上の妊婦に比べて7倍多く警察に通報されていた[50]。

貧しい黒人であるというプロファイルにあてはまる場合、彼女達が受け取るのは社会的サポートではなく刑務所に送られ子供を取り上げられるという措置であった。

また妊婦は麻薬中毒の治療プログラムからも嫌われる存在であった。

1989年のニューヨークでは、施設の67%がメディケードを受けている妊婦の受け入れを拒否し、特にクラック中毒の妊婦の場合87%の施設が拒否していた[51]。

その一方で、1986年から1996年の間に女性のドラッグ事犯による刑務所の収容人数は2,370人から27,300人へとほぼ10倍に増加し、1990年に刑務所にいた女性のうち25%の女性が妊娠していたか、もしくは刑務所で出産している[52]。

マスコミによってもたらされた悪しき母親というイメージと、不十分な更生プログラム、厳しい罰則によって、彼女達は二重、三重に社会的に周辺化されていったのであった。

やがてこうしたドラッグウオーが招いた人種差別的な取締りに対して国内から批判がわきあがった。

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[50]Chasnoff, IJ, et al. “The Prevalence Of Illicit-Drug Or Alcohol Use During Pregnancy And Discrepancies In Mandatory Reporting In Pinellas County, Florida”. New England Journal of Medicine 1990; 322, pp. 1202-1206.
[51]Baum, Dan (1996) op. cit. p. 269.
[52]Amnesty International, Women in Prison A Fact Sheet.






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