1986年に設立されたSentencing Project (マイノリティへの刑罰に代わる代替的処分や人種差別問題を扱うNGO)は、黒人の多くが大学ではなく刑務所に入れられているとして、若者達を社会復帰させるための治療プログラムの充実と社会的サポートの必要性を訴え、一部のマスコミもドラッグウオーとマイノリティに対する抑圧との関係を報じ始めるようになった。
地方弁護士協会や全国カウンティ協会などの政治的影響力のある団体からも人種差別の疑いの濃いドラッグウオーを中止し、治療を中心とするプログラムへの移行が議会へ働きかけられるようになった。
また1991年にミネソタ州ラッセルでは、5人の黒人クラック事犯に対する裁判の中で、連邦法と同じくクラックにのみ厳しいミネソタ州の州法に対して、コカインパウダーとクラックとを区別することに何ら合理的根拠がないと述べ、クラック法の適用を却下するという判決が出ている。
法廷ではクラックで摘発されるのは黒人が圧倒的に多いことにも言及され、1988年にクラックの所持で摘発されたのは96.8%が黒人であるのに対し、パウダーコカインで摘発されたのは79.6%が白人であることが取り上げられ、クラック法は平等な保護の権利を受ける憲法の規定に違反しているとの指摘が州の裁判所から提出された[53]。
こうしたクラックと人種差別的取締りとの関係への批判は社会的にも注目されるようになったが、この問題はその後もほとんど変化していない。
1998年に行われた調査では、過去1年間にクラックもしくはコカインを使用した人口は白人が321万1,000人、黒人は78万7,000人と推計されており、マスコミや映画を通じたイメージに反し、絶対人口数から考えれば当たり前のことではあるが、白人の方が圧倒的にこのドラッグの使用者数は多い[54]。
これに対し1999年の司法省の統計によれば、白人と黒人の麻薬事犯による刑務所の推定収容人数の割合は、ノンヒスパニックの白人が20%であるのに対し、ノンヒスパニックの黒人が58%とほぼ3倍高くなっている[55]。
この数値は、ドラッグウオーによる取締りが大都市を中心に、また特に貧困層の多く住む地域に集中していることと関係している。
都市のスラムでは単純に人口比でマイノリティが多いだけでなく、貧困によってドラッグの使用者と売人が集中している。
またこうした地域では、ドラッグの密売がストリートで見知らぬ者同士で行われているため警察が取締りを容易に行える。
これに対し白人の場合、一般的に労働者階級であれ中流階級であれドラッグの売買は個人宅、バー、クラブなどの屋内で特定の仲間同士で行われる為、捜査にコストと時間がかかり成功率も低い。
こうして黒人がその使用者数の低い割合にもかかわらず、白人に比べ逮捕されるリスクが極端に高くなっているのである。
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[53]Baum, Dan (1996) op. cit. p. 323.
[54]U.S. Department of Health and Human Services. Substance Abuse and Mental Health Services Administration (SAMHSA) (August 1999) National Household Survey on Drug Use, Population Estimates 1998, [http://www.oas.samhsa.gov/nhsda/Pe1998/TOC.htm].
[55]U.S. Department of Justice, Bureau of Justice Statistics (August 2001) Prisoners 2001, NCJ 188207, [http://www.ojp.usdoj.gov/bjs/abstract/p00.htm].
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