大塚製薬がアメリカでのサティベックス開発販売に関するライセンス契約を締結したというニュースについて、医師のフロッガーさんによる解説です。
世界の医学会の現実と、「大麻取締法は時代遅れである」という現場の医師の指摘を、厚労省は真摯に受け止めてほしいものです。
大塚製薬のプレスリリース
http://www.otsuka.co.jp/company/release/2007/0214_01.html
大塚製薬株式会社とGWファーマシューティカルズplc.が、米国において開発中のカンナビノイド系がん疼痛治療剤「サティベックス(英語表記:Sativex)」の米国における開発・販売に関するライセンス契約を締結しました。
「サティベックス」は大麻からの抽出物であるテトラハイドロカンナビノールとカンナビダイオールを主成分とする溶液で、口腔内スプレーで薬剤を投与するものとのことです。
そして、米国で「オピオイド系薬剤による治療で効果の見られない末期がんの患者の疼痛治療」第Ⅱ/Ⅲ相試験が行われるとの事です。
このニュースについて簡単な解説をしておきたいと思います。
[がん疼痛治療]
記事によれば、大塚製薬はサティベックスをがん疼痛治療剤として考えているようです。がん疼痛治療の現状と問題点について解説します。
現在がん疼痛治療はWHOの推奨するやり方で行うのが通常で、その中心はオピオイド、すなわちモルヒネなどの麻薬を中心とした治療です。
オピオイドは大体の場合効果的であるのですが無効な場合があります。特に神経障害性疼痛はオピオイドが効きづらく厄介です。
神経障害性疼痛とは、末梢神経や中枢神経が障害を受けて発生する痛みで、例えば脊椎へ癌が転移して背髄を障害したり膵臓癌などが内臓神経へ直接入り込んだりして起こる痛みです。
現状では抗けいれん剤や抗うつ剤など神経の伝達を抑えるような薬で対応するのですが、あまり効果的とは言えません。
カンナビノイドは多発性硬化症の疼痛に効果があることが分かっており、神経障害性疼痛に効果があるのではないかと期待しています。
がん患者が人間らしく生活する為には痛みのコントロールは不可欠で、痛みのため抑うつ的になり身体の痛みが心の痛みにつながることもあります。
カンナビノイドはがん疼痛治療に役立つことが期待できる薬剤であり早期の臨床応用を望みます。
[臨床試験]
米国で第Ⅱ/Ⅲ相試験を行うということですが、臨床試験(いわゆる治験)のシステムについて解説しておこうと思います。
臨床試験は主に第Ⅰ~Ⅲ相の3つの相に分かれています。
第Ⅰ相は毒性や適正な投与量を調べる試験です。
第Ⅱ相は安全性と共に効果について調べます。
第Ⅲ相は現状の治療と比較して効果的なのかということを調べます。
第Ⅲ相で効果が確認できれば新たな標準治療として認められることになります。サティベックスは第Ⅱ/Ⅲ相試験ということなので、この試験によって米国でがん疼痛治療薬としての承認を受ける事を目的としているのでしょう。
[大麻取締法は時代遅れ]
大麻取締法の第四条では、「大麻から製造された医薬品を施用し、又は施用のため交付すること。大麻から製造された医薬品の施用を受けること。」を禁止しています。
当時大麻が医薬品として有用であることがわかっていなかった状況で制定された条文と思われます。
しかし、現在大麻の薬効が注目され、欧米を中心に医薬品としての応用が進んできており、この条文は時代遅れのものとなってきています。
この法律により日本での臨床試験を行うことは現状では出来ませんが、日本の企業である大塚製薬がライセンスを獲得したことから、我が国での臨床試験や発売が可能となる事を期待しています。
臨床試験のやりやすい米国でデータを出せば、日本で臨床試験を進める大きな根拠となるでしょう。
私は、大麻取締法は時代にそぐわないものであり、企業の政治力と患者に役立つという大義名分があればクリアーできると思います。
むしろ、この法律を理由に日本での使用が出来ないとなると、患者の権利の侵害であり倫理的に問題です。
多発性硬化症やがん以外の病気にもカンナビノイドが効果のある可能性があり、日本で研究を行いやすくなる事を心から望みます。
|