どうなる? 2012年以降のアメリカの大麻事情 ~ 大統領選を控えて (2/2)

投稿日時 2012-10-13 | カテゴリ: オークランドより by 麻生しげる

麻生しげる

さて、アメリカの大麻事情である。今、エリック・ホルダー長官を頂点とする米国司法省(連邦府の管轄で最高責任はオバマ大統領に決定権がある)は医療大麻業界に尋常ならざる興味を抱き、あらゆる医療大麻の現場で弾圧を続けている。
とりわけ、コープ制度等で大量栽培しているグロワーや、大手ディスペンサリー、大掛かりなオペレーションに焦点を絞っているようだ。


しかし、また、一方で、この大弾圧の結果、カリフォルニア中で、小さなディスペンサリーも多数潰された。アメリカの連邦政府による国家権力の医療大麻への介入の手口はこうだ。まずは、DEA(米国麻薬取締局)やFBIといった連邦政府の機関が市警や州警察とチームを編成し、コンプライアンス・チェック(ディスペンサリー等が法に従って運営されているか否かの抜き打ち検査)と称して、市警等にディスペンサリーをノックさせ、単なる抜き打ち検査と安心した所を見計らって、DEAやFBIが武装したスワット装備で襲撃する、というパターンが繰り返されている。北カリフォルニアのシャスタ郡でディスペンサリーを数年にわたって平和に営み、ついに潰された私の友人はこう語った。

「奴らは普通の制服警官を最初に(ディスペンサリー内に)送り込んできた。そして、抜き打ち検査をすると言った後、突然窓ガラスが全部同時に叩き割られる音がした。あちらこちらからスワット装備の警察がなだれ込んできた。まるで戦争が勃発したかのような騒ぎだった。警察官は従業員たちに拳銃やセミ・オートマチック・ライフル等の武器を向け、すべての処方薬(医療大麻、大麻チンキ、エディブル等)や顧客名簿、コンピュータ等を押収した後、まるでなにごともなかったかのように去っていった。そして、ディスペンサリーに店舗を貸している大家に圧力をかけ、土地を押収すると脅し、ディスペンサリーが事実上、店舗から出て行かなければならないようにした。更に、極秘起訴という手口で、何の法律をどのように違反したのか、その事実を連邦政府は一切明らかにしない。唯一の不幸中の幸いはこのような弾圧作戦で逮捕者が殆ど出ないことであるが、急襲されたディスペンサリー経営者は皆同様に国家によって脅されている。つまり、今度やったら、逮捕も辞さない、と」

この手口はオークステルダム大学やハーバーサイド・ヘルス・センターといったオークランドの大手ディスペンサリーへの強制捜査にも共通しており、オークステルダム大学の元総長で元活動家のリチャード・リー氏は引退を余儀なくされた。彼もまた医療大麻を必要とする立場におり、車椅子での生活を続けているにもかかわらず。

しかしながら、大麻に関して明るい話題がないこともない。大統領が選ばれる11月に、私の知る限りワシントン州とオレゴン州とコロラド州で嗜好大麻の合法化が住民投票にかけられる。大筋としては、これらの法案のひとつでも可決されれば、その州で大麻はアルコールと同じような扱いになり、州の発行する大麻販売免許(酒類販売免許と同じようなもの)を手に入れれば、酒店のように大麻屋を開業できることになり、21歳以上の成人は正々堂々と大麻を買い、喫煙、摂取することが出来る、という状況になる。州にとっても税収になるし、これ等の州に既にある医療大麻法案もある程度流通のルールが明確化してくるであろう。

アメリカの医療大麻業界の問題はまだまだ山積みだ。現在は私を含めた様々なブローカーやグロワーが大麻をディスペンサリーに直接卸している。税金はオークランド市等のごく一部でしか徴収していない。そもそも連邦法違反なのだから、連邦税も払いようがない。しかし大麻の管轄が州政府になった時に、連邦政府はどう出るであろう。現在のカリフォルニアの医療大麻法案のように、個人や4人以上のグループ(コープ)で栽培したり、ディスペンサリーを経営したりするのとは違い、ワシントン州やオレゴン州やコロラド州で大麻が完全合法化されれば、それぞれの州政府が大麻の流通、税制、販売権の管轄となる。現在のように、連邦政府が個人を弾圧するが如く、州政府を相手にうかつに手出しは出来なくなるであろう。

また、私はこのような法案が次々に通過することに非常に楽観的でもある。最新のオレゴン州の世論調査によると、約66%の主権者がこの法案を支持しているとするとの報告もある。ワシントン州に至っては支持率はもっと高いのではないか。唯一、コロラド州はまだまだ保守的な土壌が残っている所で、医療大麻の面では進歩的であるものの、嗜好大麻が合法化されるには、もう少しの辛抱かもしれぬ。カリフォルニアは早くて2013年、遅くて2014年に再びこのような住民投票が行われる予定だ。2010年の大麻合法化法案、PROP19の仕切り直しである。
アメリカ南部で初の医療大麻法案も11月にアーカンソー州で住民投票にかけられる。あまりに保守的な南部でこの動きは画期的である。同法案が通過する、しない、は別として・・・。

もうひとつ明るいニュースがある。ASA(アメリカンズ・フォア・セイフ・アクセス ~ アメリカの大麻合法化団体)によると、20年ぶりに連邦最高裁判所にて大麻のスケジューリング見直しに関する上訴審が行われる。ASAは連邦政府の機関であるDEAを相手取って、大麻の有用性や薬効を明らかにし、スケジューリングのやり直しを求めているのだ。本審理に於いて、ASA側は最新の科学、医療に則ったスケジューリングをDEAに対して申し立てている。エイズや癌、多発性硬化症の権威ある専門医師も多数証人として呼ばれている。連邦最高裁判所が大麻には薬効がある、と認めれば、当然のこととして、大麻は現在のスケジュール1からスケジュール2か3に引下げられる。さすれば、医療大麻への弾圧もおさまり、製薬会社なども医療大麻が使える、ということになり、アメリカの大麻業界にもっと積極的に参入してくることであろう。日本で言えば大麻取締法の第4条の撤廃と同等な結果を齎すであろう。ただし、強力なロビイストを持つ製薬会社や、莫大な農地と植物栽培のノウハウを持つタバコ会社等が大麻を販売をすることになれば、アルコール同様、一般市民による大麻の栽培を禁止する方向で動き出すに違いない。そして遺伝子組み換えなども積極的に行うことであろう。そういう意味では、正に今のアメリカの大麻事情は一進一退と言えよう。

オバマ大統領はもともと医療大麻には手を出さない、と公約していた。2008年の段階では司法長官のエリック・ホルダー氏との間にオグデン・メモという覚書が交わされ、医療大麻には手を出すな、と通達がなされたが、これも反故にされてしまった。それもこれも、マリファナが現在でも連邦政府によりスケジュール1という、人生をダメにすることがあるヘロインや覚せい剤と同様な扱いを受けていることに起因する。なんと、より危険(比較にすらならない)なコカインはスケジュール2であり、大麻より安全とされているのが現実である。私は決してオバマ氏を擁護する立場にいる訳ではないが、医療保険の問題と大麻の問題に関しては2期目当選に期待している。オバマ氏よ、公約を守り、そして大麻のスケジュールを医療的にも嗜好品としても使えるように、引き下げよ!まあ、日和見主義者のオバマ大統領が再選したところで、なんの保障もないが、成人を対象とした合法化が一部の州で通過せず、そしてロムニー氏が当選すれば、アメリカに於ける大麻の弾圧はもっともっと厳しくなることであろうことは間違いない。





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