検証「大麻の精神的影響」その2(7)

投稿日時 2007-05-11 | カテゴリ: フロッガー医師の検証「ダメゼッタイ」

■大麻の精神的影響
引用元:http://www.dapc.or.jp/data/taima/3-2.htm

[本文]
『しかし慢性的な摂取は、じょじょに精神に障害を及ぼします。最初は情緒不安や集中力、忍耐力の低下、自発性のなさなどの障害ですが、それらは幻覚や妄想の引きがねとなり、常に朦朧とした意識状態に陥ったり、うつや偏執病的症状が現れてきます。こうなると、ちょっとした刺激や、もしくはまったく何の理由もなく、突然恐怖にかられたり、錯乱を引き起こしたりもします。また、長期乱用者には知的障害も起こることが報告されており、小学生程度の読み書き、計算しかできなくなるケースもあります。一旦こういった状態になると、たとえ大麻の摂取をやめても、数年もの間、症状がなくならない場合もあります。
■大麻精神病
大麻精神病とは大麻摂取によって起こる精神障害の総称ともいえる。この状態に陥ると、さまざまな症状が現れてくる。その症状は、精神活動の低下による抑制症状、精神運動興奮、幻覚妄想などの体験、気分や情動の異常、意識の変容など。それらがどういった症状を示すのか、詳しく説明してゆこう。』

[検証]
・大麻精神病
WHOの見解では大麻精神病は仮説の病態であり、その存在は調整因子を考慮していない臨床観察から言われており、大麻使用者に併発した統合失調症や他の精神疾患と明確に区別できないとしている(1)。
また経過も多様であり、大麻との因果関係を確定することは困難で、診断基準や分類も一定せず、大麻精神病というclinical entityは確立していない(2)。

大麻精神病(仮説)は、1.急性中毒、2.急性中毒性精神病、3.慢性中毒性精神病に分類される。急性中毒については、精神症状としてパニックや不安、不快、恐怖感を伴ういわゆるBad Tripと呼ばれる嫌悪反応がある(3)。急性中毒性精神病としては、初心者が大量に摂取した後などに、急性・亜急性に幻覚・妄想などの異常体験、情動不安、記憶障害、失見当識、離人症、離人症を伴った錯乱症状を起こすことがあるとされる(2)。これらは、一般に経過は短く一週間以内に回復するとされる。この2つについては因果関係についてのコンセンサスを得られている。

慢性中毒性精神病については、Thornicroftが、1.大麻が精神病を新たに惹起する、2.潜在していた精神病を顕在化する、3.精神病を再発させる、4.精神病が大麻乱用をもたらす、5.両者の関係は偶然に過ぎない、6.無関係、の6つのカテゴリーを指摘し、1.両者の多面的な関連性、2.社会・文化的要因を超えた一貫性・均一性、3.特異性、4.発症の時間的平行性、5.摂取量との平行性、6.実験的再現性が検証される必要があり、現段階では大麻精神病という用語はもちいるべきではないとしている(4)。

また最近の研究で、統合失調症患者のうち大麻使用と非使用の間で症状の差がないとする報告(5)があり、この研究者グループは大麻精神病の存在に反対する意見を出している。  以上から、大麻と精神病は、急性の病的酩酊に限っては因果関係を認めるものの、慢性の精神症状への因果関係は証明されておらず、大麻精神病という用語は不適切であり、削除を要求する。

[参考文献]
(1) Division of Mental Health and Prevention of Substance Abuse, World Health Organization: Programme on substance abuse Cannabis: a health perspective and research agenda. 1997.
(2) 横山尚友洋: 大麻(カンナビス)精神病.精神医学 34:839, 1992.
(3) Rottenburg D, Robins AH, Beb-Arie O, et al.: Cannabis associated psychosis with hypomanic features. Lancet ii: 1364, 1982.
(4) Thornicroft G: Cannabis and psychosis. Br J Psychiatry 157: 25, 1990.
(5) J. Boydell, K. Dean, R. Dutta, at al.: A comparison of symptoms and family history in schizophrenia with and without prior cannabis use: Implications for the concept of cannabis psychosis. Schizophrenia Research, In Press, Corrected Proof, Available online 25 April 2007.

[本文]
『1 精神活動の抑制が引き起こす症状-無動機症候群、知的水準の低下 無動機症候群とは、大麻による抑うつ状態を表す。たとえば、ものごとへの興味や関心が極端にせばまり、自発的な活動や思考がほとんどできなくなってしまう。また注意力や集中力も落ち、ひとつのものごとを持続しておこなうことができなくなる場合もある。なにごとにも無気力で疲労を感じやすく、むっつりした様子やムラ気が目立つようになる。生産活動(仕事など)への興味も損なわれ、将来への展望もなく、退廃的で浮き草のような生活を送ることが多い。 重度の症例では、ほとんど無言、無動となり、終日ぼーっと過ごすなど、意識水準の低下が疑われるような状態になることもある。 大麻摂取を中断すると、通常は1~2週間でふつうの会話や行動がとれるまでに回復する。だが重度になると、活動性が回復するまでに数か月から1年余りを要する場合がほとんどだ。

知的水準の低下は、これらの症状にともなって現れてくる。複雑な会話は理解できず、簡単な計算も間違え、文章もひらがなばかりで幼稚な内容となる。このような状態は精神活動の回復とともによくなってゆくが、最終的に本来の知的水準までもどれるかどうかは不明である。こういった状態を「カンナビス痴呆」とも言う。』

[検証]
・無動機症候群
無動機症候群については前項に記載したが、無動機症候群はヘビーユーザーにおける慢性中毒と区別されず明確に定義できない。また、アルコールや他の薬剤乱用者、精神障害者においてもしばしば観察されることであり、大麻に特有なものとはいえない。

我が国における大麻精神病の報告ではその大半に無動機症候群の症状を認めるが、報告数は30例以下と少ない(1)(2)。1997年の一般人口調査で大麻使用経験者が0.5%である(3)事を考えると、その頻度は少なく稀な病態と考えられる。
 大麻との因果関係が不明であり、かつ稀な病態を、使用者に一般的に起こりうるような印象を与えるような記載をすることは望ましくない。大量、長期使用者に対する勧告にとどめることを推奨する。

・知的水準の低下
「身体的影響、脳に対して」で検証を行ったとおり、大麻による知能低下は概ね一過性のものであり、もし残存したとしても顕著なものではないと考えられる。前項においても提示したが、大麻により学業の低下が無かったとする報告もあり、大麻により知的水準が低下するエビデンスはない。
文章がひらがなばかりになった症例は、徳井らの報告(1)によるものだが、以下のような問題点がある。

1.一例の報告であり一般化することには無理がある。
2.大量使用歴がある。
3.LSDやヘロインの使用歴があり他の薬剤の影響がある。
4.海外にてヘロイン中毒で入院し、退院後窃盗で逮捕され、強制送還後に発症しており強い心理的ストレスが予想される。

以上から、大麻が原因であるとは言い切れず、一般化することは出来ない。
この文章の全面的な改訂もしくは削除を要求する。

[参考文献]
(1) 徳井達司,来元利彰,岩下覚ほか:大麻精神病の6例.精神医学 31: 919,1989.
(2) 福田修二,鈴木二郎:大麻精神病の4症例.臨床精神医学 23: 1467, 1994.
(3) 福井進,和田清,菊池秀一ほか:薬物乱用・依存の世帯調査。平成9年厚生科学研究「薬物依存・中毒者の疫学調査及び精神医療サービスに関する研究班」,薬物乱用・依存の多面的疫学調査研究(3),pp7-48, 1998.

[本文]
『2 精神運動興奮 ちょっとした刺激にも簡単に心を乱され、怒りっぽくなったり、興奮しやすくなったり、気分が変わりやすくなる状態を精神運動興奮という。言動にまとまりがなくなり、粗暴な行為が目立つなどの状態は、1~3か月も持続することがある。

3 気分、情動、衝動の異常 大麻による抑うつ状態-無動機症候群や知的水準の低下については先程説明したが、それらの症状に、気分や情動、衝動の異常がともなう場合もある。この場合には抑うつ状態とは逆に、理由のない自殺企画や、衝動的に他人に乱暴をはたらくなど粗暴な行動が現れる。 こういった症状は、思考の混乱や情緒がいちじるしく不安定となり、それらの考えや不安に耐えきれなくなって、衝動的な行動を起こす、と考えられている。 』

[検証]
1.怒りっぽくなる。興奮しやすくなる。粗暴な行為が目立つ。他人に暴力をはたらく。

大麻と暴力の関連は証明されていない。ラットの実験で、大麻投与により他のラットをかみ殺すという報告があるものの、ヒトにおいては実証されていない。
2002年のカナダ上院の「大麻に関する討議資料」で、「大麻の使用が犯罪を誘発することはなく、攻撃性や反社会的行為を助長することもない]と報告されている(1)。また、2002年のイギリスのドラッグ乱用審議委員会の報告書で、「大麻にはアルコールと大きく違う側面があり、リスクを高めるような行動を取らないようにする性質があるように思われる。」「このことは、アルコールの使用が自殺や事故や暴力などの大きな要因になっているのと異なり、大麻が他人や自分自身に対して暴力的になることはめったにないということを示している」と述べられている(2)。外傷を持つ900人の患者の退行心理分析で、大麻単独使用では入院を要するような暴力あるいは非暴力のどちらの傷害とも関連性はないとする報告がある(3)。
大麻により粗暴になり暴力をはたらくことはなく、削除を要求する。

2.気分障害、抑うつ。
急性中毒症状、いわゆるBad tripで抑うつとなることはあるが、慢性のうつとの関連は否定的である(4)(5)。

[参考文献]
(1) Canadian Special Senate Committee on Illegal Drugs. 2002. Discussion Paper on Cannabis.Ottawa. p.4.
(2) United Kingdom's Advisory Council on the Misuse of Drugs. 2002. The Classification of Cannabis Under the Misuse of Drugs Act of 1971. See specifically: Chapter 4, Section 4.3.6.
(3) Blondell R et al. 2005. Toxicology Screening Results: Injury Associations Among Hospitalized Trauma Patients. March 2005. Journal of Trauma Injury, Infection, and Critical Care, 58: 561-70.
(4) Harder VS, Morra AR, Arkes J, et al.: Marijuana use and depression among adults: testing for causal associations. Addiction 101: 1463, 2006.
(5) Monshouwer K, Dorsselaer VS, Verdurmen J, et al.: Cannabis use and mental health in secondary school children: Findings from a Dutch survey. Br J Psychiatry 188: 148-153, 2006.

[本文]
『4 幻覚妄想 大麻によって引き起こされる幻覚や妄想のほとんどは、本人に被害を与えるような内容のものである。主に幻聴で、何かを命令されたり、本人の行動に逐一干渉するような場合もある。症例によっては「神様が見える」「誰かが体を触る」など、幻視や幻触の体験も報告されている。 妄想の内容としては、誰かに見張られている、追跡されるなどの迫害妄想が多く、時に罪の意識を感じる罪業妄想、微小妄想、誇大妄想なども認められる。 その他、作為体験(ありもしない体験を事実とする)や、誰かの思考が伝わってくるという妄想、誰かの考えを吹き込まれるといった妄想、逆に自分の考えが誰かに奪われたりこっそり聞かれたりするといった妄想を伴うこともある。 これらの精神病的体験は、具体的で色彩感があり、覚せい剤による精神病の体験とよく似ている。いったんこういった症状が現れるとなかなか回復せず、2年間以上持続した例もある。 』
[検証]
上記のような症状は統合失調症でもしばしば見られるものであり、大麻による特異的な症状とは言えない。前項でも記載したが、大麻使用者に起こった統合失調症と区別することが出来ない。

[本文]
『5 意識の変容 夢幻状態や錯乱、せん妄などを意識の変容という。大麻精神病の症状のひとつとして、こういった症状が数日~2週間以上、ときどき現れる場合がある。その間の記憶は脱落するか、断片的にしかのこらず、幻覚妄想もともなって、顕著な不安を引き起こす。 』

[検証]
急性の反応として起こりうる。しかし、病像形成には病前性格や発病状況などの影響も大きい(1)。

[参考文献]
(1) 横山尚友洋: 大麻(カンナビス)精神病.精神医学 34:839, 1992.

[本文]
『6 観念の抽出、思考の錯乱 この症状は、思考がばらけていくような感覚をもたらす。その感覚は以下のように表現されることが多い。「ふっと考えが頭に浮かび、それにどう対応していいか自分でもわからなくなる」「考えがバラけてしまってまとまらず自分でも困る」「質問されると、その言葉の意味が同時にいろいろと浮かんできて、どう答えていいかわからなくなる」など。 こういった思考の錯乱のほとんどが、1~5までの他の症状にともなって認められるが、場合によっては、この症状だけがまず現れてくるときもある。 』

[検証]
上記のような症状は統合失調症でもしばしば見られるものであり、大麻による特異的な症状とは言えない。前項でも記載したが、大麻使用者に起こった統合失調症と区別することが出来ない。






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