9月2日(月)の日記

投稿日時 2013-09-10 | カテゴリ: 白坂の雑記帳

朝から雨。昼過ぎに山小屋を出て松本簡易裁判所に車で向かう。Yさんに訴えられてしまった。彼が服役中に私に送ってきた、彼の裁判記録を返せ、返さないなら検察で謄本を取る費用を払え、という訴え。


今日は3回目の調停なのだが、私が出席するのは初めて。控え室で待っていると、調停員に呼ばれて別室に。これまでの2回、呼び出しに応ぜず、すっぽかしたこと、調停員さんたちには失礼しました、と詫びて挨拶した。

テーブルを挟んで座った調停員は3名。私の正面の50代後半、身なりを整えた男性が主に話を進めた。右側には品の良い印象の50代半ばと思しき女性、左側に座っていたラフな格好の初老の男性は弁護士だとのこと。

Yさんの主張を認めるか、と正面の紳士が私に問うた。私は答えた。

「私がYさんと知り合ったのは、彼が大麻所持でわざと捕まって裁判をやるのだとネットに書いていたことがきっかけです。それを読んだ友人が、そういう人がいるよ、と教えてくれて、私はYさんのブログを読みました。でも彼の主張は、自分には大麻は大丈夫だから、自分に大麻取締法を適用して刑罰を科すのはおかしい、自分の何がいけないのか、というものでした。

私は大麻の合法化運動をやってまして、それまでにも大麻取締法は憲法違反だという主張を掲げて法廷闘争をやったことが何度かありますが、それは大麻には刑事罰を科すほどの有害性はないのに、誰にも迷惑すらかけていない人を逮捕して懲役刑を科している、これは憲法違反ではないか、という主張で、大麻取締法という法律そのものを問題にしています。

が、Yさんは、自分に大麻取締法を適用するのは憲法違反だ、なぜなら自分は大丈夫だからだ、という主張をするというので、気持ちは分かるけど、そんな話が法廷で通用するわけがないので、法律そのものの違憲性を主張したほうがいいのではないか、と私はYさんに提案しました。Yさんは、そうしたいけど、その知識に乏しいからできないとのことでした。なので、大麻取締法という法律そのものがおかしいという主張をするなら法廷闘争を手伝うと私はYさんに申し出ました。

Yさんは、ぜひそうしたい、とのことでした。それにしては、あまりに準備不足なので、わざと捕まるにしても、もう少し法廷闘争の内容を検討してからにしたほうがいいのではないかと私は彼に進言しましたが、Yさんはもう所持金もなく、早く捕まらないと生活に困るのだと言っていました。なんか、私は、変な話だと思いました。私は彼がどうやって大麻を入手するのかなど、事件そのものには全く関わりませんでした。

彼が捕まって、国選の弁護士が付きました。私は国選なのによくやってくれる誠実な弁護士だと思っていましたが、Yさんは弁護士にケンカを売るかのような言動を繰り返して、弁護士もYさんとは信頼関係が結べないとこぼしていました。この弁護士は当初、大麻は悪いモノだと言っていたのですが、いろいろ資料や書籍などを読んで頂いて、最終的には大麻取締法の問題点を理解して頂いて、裁判自体は面白い裁判になりました。

Yさんが捕まってすぐの頃、留置場が寒いとか、本が読みたいとか、手紙に書いてきたので、私は上下のスェットを差し入れたり、私の呼びかけに応じてくれた仲間たちからも本やら切手やら差し入れました。一審では大麻の科学的事実について立証するため書籍や資料などを弁護士、検事、裁判官の分を買って提出したりもしましたが、Yさんはこの裁判を通じて、最後まで、1円も出していません。すべて私と仲間たちが出したものです。」

3名の調停員は、エッ?という顔をした。正面の調停員が言った。

「そうなんですか、それは聞いていませんでした。初めて聞きました。裁判にかかった費用はYさんはまったく出していないんですか?」

「出していません。彼が送ってきた裁判記録ですけど、私はそもそも預かるなんて約束はしていませんし、刑務所からの宅下げとして勝手に送られてきたものです。裁判は結局有罪で終わりましたが、彼は納得しないで、死ぬと騒ぎました。こんな、裁判支援をして、死なれたのでは後味が悪すぎるので、手紙を書いて死ぬことはないとか、出所して行く場所がないならしばらくウチにいていいとか、私はYさんに伝えていました。彼は結局死なないで、出所直前の手紙では、なにかNPO法人があって、出所してすぐの人にお金を貸してくれるらしいので、心配いらないとのことでした。で、出所してしばらくして、彼は私のウチに遊びにきました。住む場所も決まって、生活保護を貰えることになったと言っていました。私は食事を作ってもてなし、2泊だったか、泊めてあげて、お土産まであげました。裁判資料も返すつもりでしたが、帰る頃には彼も私も忘れていました。その後も何度も彼は私のウチに泊りがけで遊びに来ていますが、裁判資料の話が出たことはありませんでしたし、私も忘れていました。」

正面の調停員が訴状を私に示しながら言った。

「Yさんによると、何か昨年の8月に、人間性の違いから私と彼は仲違いしました、ということなんですけど、これは何があったんですか?」

「昨年の8月、大麻関係のイベントがあったんですけど、私はそれに主催者側で関わっていました。Yさんが生活保護をもらって生活していて、毎日することもなくて、3畳の狭い部屋で、イヤホーンでテレビを見ている毎日だ、と言っていたので、私はそのイベントに彼をボランティアとして誘いました。で、私は自分のタープテントを張って、いろいろ訪ねてきた人たちと懇談したりしたのですが、彼はその私のテントの中で、訪ねてきた人の写真を撮って、彼のブログに掲載してしまったのです。やはり活動家のMさんとか、女優のIさんとか、ウチのスタッフの女性の写真も彼のブログに掲載されてしまったんです。私はそれを知らなかったのですが、ある日、写真を掲載されてしまった活動家のMさんと会ったとき、しらさん、写真がネットに出ちゃってるんだけど、と知らされて、その画面を見せられたんです。私はビックリして、その場でYさんに電話をかけて、私のテントの中の写真を、しかもMさんやIさんやうちのスタッフまで写ってるし、困るから削除してくれ、と言ったんです。ところが、Yさんは、削除は断る、自分は会場の湖畔の写真を撮っただけだ、と言うんです。で、横にいたMさんが電話を代わって、直接Yさんに、こんなことをされると困ると言いました。ところが、YさんはそのMさんの抗議もネットに書くと言うんです。Iさんまで写っているし、これは肖像権の侵害だよ、とも伝えたのですが、Yさんは、訴えるんなら訴えればいい、受けて立つ、と言うんですよ。呆れました。受けて立つって、自分の裁判費用も出せず、生活保護で食ってる賠償能力もない人が、何言ってんだと思って、私はアタマにきて、削除しないならもうYさんとの付き合いはこれっきりにする、縁を切ると告げました。でも結局彼はその写真を削除してくれないし、管理会社のアメーバも対応してくれないし、私はMさんやIさんや写っているスタッフに謝ることしかできませんでした。」

正面の調停員は納得した様子だった。

「そんなことがあったんですか。それも私たちは初耳です。何かあったんだろうな、とは思っていたんですけど。で、裁判記録のほうなんですけど。」

「すいません。彼と縁を切ったあと、手紙の類は処分してしまって、裁判記録は取ってあったと思ったんですけど、探してみたんですけど見当たらないんですよ。他人の裁判記録もけっこうな量があるもんで、裁判記録は裁判記録で個人別に箱に入れてあったと思ったんですけど。Yさんのが見当たらないんです。手紙といっしょに処分したかもしれません。」

正面の調停員氏。

「ああ、やはりそういうことでしたか。私たちもね、持っているなら返さない理由もないだろうし、Yさんには、紛失しちゃったんじゃないですか、謄本を取ったほうが早いんじゃないですか、とは言ってみたんですけど。わざわざ交通費使って東京から松本まで来るなら、1枚30円で、50枚あったとしても15,000円でしょ、裁判記録の内容が目的なら、そのほうが早いのに、どうもYさんはそうじゃなくて、何か違う目的があるようなんですけど、それが何か私たちにも分からなくて。で、弁済のほうなんですけど、Yさんは返さないなら謄本を取る費用を払ってもらいたい、と言っていますけど、その点はどうでしょう?」

「裁判記録代くらい自分で出せって伝えてください。それよりですね、今日は調停員の方にイベントのフライヤーを渡そうと思って持って来たんですよ。よかったら来て下さいよ。今月の28日なんですけど、明科の天平の森でキャンプインをやるんですよ。いまアメリカなんかでも大麻の医療効果がすごく注目されてましてね、ご存知ですか? 大麻の医療効果…」

私は3名の調停員にフライヤーを渡し、イベントの案内と医療大麻について話した。

最後に、私とYさん、3名の調停員、事務官が立ち会いで、裁判官が調停の不成立を宣告した。その最後の儀式に向かう前、控え室に私を呼びに来た進行役の調停員が言った。

「Yさんは納得していないみたいで、ブログであなたのことを誹謗中傷するようなことを書くと言っていますけど。」

「構いませんよ。好きにして下さい、ってところです。」

「私たちも書かれちゃうかもしれませんね、松本の調停員はひどかった、とか(笑)。これから裁判官が立ち会いますけど、ちょっとYさんは興奮されているようなので、冷静にお願いしますね」

「私は大丈夫ですよ。暴れたりしませんから。(^^y-~」

部屋に入ると、Yさんが足を組み、腕を組み、ふんぞり返って、憮然とした表情で座っていた。私は彼に挨拶をするつもりはなかった。Yさんの隣にあった私が座る椅子を、進行役の調停員氏が「もう少し離しましょう」と言って、間を広げた。私は笑ってしまった。裁判官が調停の不成立を告げ、終わった。

私は、「じゃ、これでもう帰っていいですか?」と訊き、進行役調停員氏の了解の挨拶を得て、部屋を出た。「どうもお世話になりました。ありがとうございました。」

外に出ると、まだ雨は降っていた。帰路、せっかく松本まで来たので、蕎麦屋に寄った。

調停員さんは「あとの祭り」に来るだろうか。もしこれを読んでたらぜひ来て下さいね。CBD入りのババロアをご馳走しましょう。大丈夫です。合法です。厚労省とマトリに確認済み。大麻についての誤解が少しでも解けたことを願っています。





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