7-参-厚生委員会-16号 昭和25年03月07日
昭和二十五年三月七日(火曜日)
本日の会議に付した事件
○麻薬取締法又び大麻取締法の一部を改正する法律案(内閣提出)
○栄養士法の一部を改正する法律案(内閣提出)
○性病予防法等の一部を改正する法律案(内閣提出)
○厚生年金保險法等の一部を改正する法律等の一部を改正する法律案(内閣提出)
○小委員の補欠選任の件
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午前十一時五十一分開会
○委員長(塚本重藏君) これより委員会を開会いたします。ちよつと速記を止めて。
〔速記中止〕
○委員長(塚本重藏君) 速記を始めて。
○石原幹市郎君 只今の説明で国際條約の関係であるとか、或いは関係筋の熱烈なる要望、これはもうよく分るのですが、私は只今薬務局長代理が言われたようなことは、実際の仕事をやつて来た関係から言うと、余り満足はできないのですが、併しいろいろの事情があるためにやられておることで、一応は了承するのでありますが、ただこの際要望して置きたいのですが、この麻薬と総合行政ということは、これは御指摘のように、非常にかけ離れている面が非常に多いことだと思いますが、厚生省なり、或いは労働省の行政というものは、どうも国の一貫した行政、行政ということを余りに強く主張されて、現在府県の行政においても、非常におかしなものが沢山できておる。これはちよつと違つているかも知れませんが、例えば職業安定行政などは、知事も労働部長もその課長の任免権に関與できなくて、職業課長が確か内申したり、任命したりしておると思います。健康保險の方も或いはそうではないかと思うのでありまして、一貫した行政をやるという意味の非常な重要性もありまするが、又県は県として一つの総合行政をやつておるところであつて、これは非常に両方一長一短が私はあると思うのであります。そういう際にやはり厚生省なり、労働省当局として、地方の実情も十分検討、認識して頂いて、諸般の制度が改正、改革されるような場合に、十分その意思をやはり反映してやつて貰いたい。重ねて申上げますが、結局一貫行政で、形の上はいいようでありまするが、いわゆる本当の属僚行政と言うか、末端の係官の行政になつてしまう。先程相当に取扱監督も習熟しておるなんて言われますけれども、麻薬取締官吏だけの判断で、いろいろな事件をやる場合に、やはり県全体としても、少くともそれを知つていなければならん場合もあるし、連絡して貰わなければならん場合もあるし、一般の厚生行政、衛生行政と非常に関係を持つ場合が多いのでありますから、今後の運営について、こういう取締官吏の行き方として、十分指導を加えて貰いたい、かように思います。
○政府委員(矢野酉雄君) 只今石原委員の御質問、むしろ非常な建設的な御忠言に対しては、厚生当局としては非常に有難く頂載いたします。只今の薬務局長代理の答弁の中にも、言葉の足らない点、表現の当を得ないような点もございまして、何故にこうした改正をしなければならないかという積極性において、まだ十分御納得の行かないような説明の仕方の点もあつたと思いますが、是非今の御意見に副うて、決して地方自治体のその知事等の指導性に任すべきものをこちらが取つてしまつて、そうしていわゆる官僚統制的な、一元的行政の形式のみに捉われないように、実質が必ずそれに副つて行きますように、十分の検討をいたしたいと、こう思つておりますので、御了承願いたいと思います。
○藤森眞治君 麻薬のいろいろな法律違反と申しまするか、事故が近頃非常に我々には多くなつたように考えられます。今薬務当局のお話では、段々少くなつたというお話でありますが、実際におきましては、我々が見聞することは非常に事例が多いのであります。殊にこの裁判関係にもなつて、そうして処罰される、されないとかいう問題が随分沢山出ておりますが、こういうふうに沢山出て来る原因がどこにあるかということについて、薬務当局はどんなお考えを持つておられますか。
それから現在のこの身分でありますると、取扱の身分はいわゆる都道府県に属するものに置いて、命令だけは厚生大臣から来るという、そういう変つた形をしておりまするが、それによつて最近相当に取締員が辞めさせられたか、或いは辞めましたか、いずれか知りませんが、職を退いた者が相当の数あるように聞いておりますが、全国的にどのくらいな数がありますか、又都道府県別にいたしますと、どういうところにそういうようなことがあるかというようなことを承りたい。
それから取締員と進駐軍の方との身分上の関係はどういうふうになつておりますか承りたい。と申しますのは、具体的に申しますると、いわゆる進駐軍の方面の嘱託官のような制度によつてこれが進められていることがあるかないか、又進駐軍の方の嘱託というよりもつと進んだ段階に入つて、或る一定の任務に働いているようなことがあるかどうか、そういう点を一応承りたいと思います。
○政府委員(星野毅子郎君) 最近麻薬犯罪が殖えておりますわけでありますが、これは先程申上げました通り、主として密輸入の麻薬をめぐるものでございます。一般的に申しまして取締が年を逐いまして励行されたという結果によりまして、麻薬犯罪の数が殖えて来た、実際例えば一昨年或いは一昨々年当時、やはり同じような麻薬の違反状況があつたと思うのでございますが、取締につきまして不十分でありましたために、外に現れました件数というものは少なかつたわけでございますが、取締に段々慣れて参りましたので、最近件数が殖えて参つたというふうに厚生省は考えておるわけでございます。国内の麻薬関係の、例えば医療関係者等には、主として趣旨は十分徹底しましたので、その殖えましたのも、大体正式経路以外の全然軌道に乘つておりません麻薬業者の販売が多くなつております。試みに数を申上げますというと、昭和二十二年におきましては違反総件数千二百九十八件でございます。昭和二十三年におきましては千七百四十件でございます。昨年即ち昭和二十四年度におきましては、二千九百五十四件になつておるわけでございます。
次に取締員の身分関係の異動でございますが、特に麻薬取締の成績挙らざるが故に、麻薬取締員としての資格を除いたというような例はございません。併し現在の制度におきましては、麻薬取締員たる本人の自由意思と、所属いたしております都道府県知事の人事の関係におきまして、適当な異動が行われているわけでございます。それを特に厚生省といたしまして、異動を成るべく少くするという方針を明示したこともないわけでございます。成るべき異動は少いことが仕事の上では望ましいわけでありますが、従来はさような意味におきまして、制度上は自由な異動ができておつたわけでございます。最近十人程の異動がございましたわけでございますが、これもさような意味におきまする異動でございまして、その点御了承願いたいと思います。
最後に総司令部との関係でございますが、現在C・I・Dの駐在しております場所におきましては、主として第三国人の麻薬犯罪の取締の連絡上、連絡員を派遣しております。政府といたしましては、特に総司令部の嘱託という程のものではございませんで、C・I・Dに対しまする第三国人関係の犯罪につきましての連絡という意味で、連絡員があるという程度であります。
○藤森眞治君 この麻薬取締員の権限につきましては、前にも法律がここで審議されました際に、こういう強い権限を持つたものを十分に指導しなければ、まるで狂人に刃物を持たすようなものだ、こういうような意味のことをこの委員会の席上が述べたと思うのでありますが、現在の樣子を見ておりますと、只今お話のありましたように件数が殖えております。これは成程取締員の素質がよくなつて、そうして事例をよく発見するようになつた、こういうあなたの善意の説明でありますけれども、一方から申しますと、これは非常に摘発主義になつておる。殆んど取るに足らんようなことまでもほじくり上げるというような点が出て来るのではないか、私は前にこの法律ができまするときにも、殊にこういう新らしい日本にできた法律においては、十分指導主義でなければならん。指導主義で、そうして犯罪の件数というものは指導員によつてなくすべきであるということを申しておりましたが、只今の御説明によると、善良な意味でこれは殖えたという意味でございまするが、どうも私はそうは受取りにくい点があるので、尚実情をよく見てみますると、必ずしもあなたが言われるような行き方をしておらない。まだそれのみならず中には随分取締員が権限を利用して、そうして我々から見ると不穏のような発言、或いは行動を取つておるものがあります。若し実例を申上げてよければ申上げまするが、最近私のところの姫路の裁判所において、麻薬違反の裁判があつた。その裁判の記録を御覽になれば、これに出て来た麻薬取締員の証言が出ておりまするが、これを御覽になるとよくお分りになるだろうと思う。そういうふうに極めて面白くない事例がある。そこへ持つて来て、私共は身分をよくして……行政の一貫と身分の一貫ということには異議ありませんが、そうするためには一方これを保障する、又権限を強くするためには一方には十分これが教育され、そうして指導される、そうすれば全く犯罪が少くなるだろう、こういうことをする官吏が欲しいと我々は思つております。徒らに権限を利用して犯罪を殖やすような思想を持ち、傾向を持つ官吏は私達は欲しくない。こういう点から申しますと、只今御説明があつた点は少し食違いがありはしないかというような考えがいたしますのですが、どういうふうなお考えでおられますか、あなたの方にも若干こういうことはお気付きになつておるのではないかと思うのですが、忌憚ないそういうふうな御意見を承つて、我々は一つ厚生当局の御意見を十分伺いたいと思います。
○政府委員(矢野酉雄君) 只今の局長代理の説明の中に、職務に精励したが故に、段々今まで発見されなかつた犯罪事項等も発見されるようになつた。この点も確かに一面の真意を御答弁申上げたと思つております。併し又只今の議員の御意見或いは御質問等も非常に厚生当局としては猛省しなければならない問題でありまして、いわゆる刀を濫用するために却つて犯罪人をこれによつて作つて行くということにでもなりまするならば、立法の精神を全く没却することになりますので、その点今の具体的実例等も、特に專任者に資料を読ませまして、そうして十分の参考問題としたいと思つております。根本的の精神におきましては、やはりこの立法の精神に従つて、最も公正に職務を執行する考えで、常に親切で、殊に厚生行政は助長行政の一つでありますので、そういう精神から法の運用を十分に心掛けたい、こう考えております次第であります。
○政府委員(星野毅子郎君) 先程数字を藉りましてお答えいたしましたわけでございますが、その内容をちよつと申上げた方が御質問の御趣旨に対するお答えになるかと存じます。私が申上げました歴年殖えております数字の中で、特に殖えておりますのは、非登録者の違反でございます。登録を受けております麻薬取締関係者に対しまする違反というものは、総件数等は殆んど殖えておりません。多少殖えても説論件数におきまして殖えておるわけでございます。非登録者に対しまする取締は非常に殖えておりまして、これが犯罪といたしましてはむしろ惡質でございます。件数を申上げますならば、総件数におきまして昭和二十二年が五〇七件でございます。昭和二十三年が七八五件、これが昭和二十四年になりまして一六五〇件というふうに非常に殖えておるわけでございます。さような意味合におきまして、藤森委員の御指摘の点につきましては、取締上につきましても十分に留意いたしまして運用を将来も行なつて参りたいと存じますし、特に二十四年におきまして検束を受けましたのも、さような意味合におきまして殖えておるということも御承知願いたいと存じております。尚麻薬取締に対しまする教育の点でございますが、司法警察官吏の職務に就きますにおいては、十分に講習会を行なつて趣旨の徹底を図つております。尚今後と雖も、この点につきましては十分に留意いたしまして、只今政務次官からお答えになりましたような点につきましては、事務的にも十分に注意をいたして参りたいと存じております。尚麻薬取締の権限濫用に対しまする具体的の事例等がございますれば、厚生当局の方にお示しを願いますならば、我々といたしましても、この点矯正をいたしまするに具体的な点について指示ができるわけでございます。お願いをいたしたいと存じます。
○藤森眞治君 これは本案から少し距離があると思いますが、ついでに御意見を伺いたいのは、麻薬中毒患者に関してでございますが、麻薬中毒患者から或いは強要され或いは脅迫され、そうして医者が麻薬を注射する、そうしてこれが違反にかかる、こういう事例がある。而も中毒患者は非常に兇惡なものが中にあります。最近においては更に危害を加えられ、或いは患者から脅迫されるというような事柄が起つておりまするが、これについてこの中毒患者を拘束する、只今のところじや何も法的根拠もないように存じておりますが、ただ一時これを收容することができること以外には、大してこれを拘束することがないと心得ております。何とかこれを拘束しないならば、これが非常な惡質に出て来る連中が相当数多い。而も中毒患者というものは、一種の本当の精神上における病的状態である。こういうことを考えますときに、非常に危險が多い。これに対して、今後数か法的根拠をお作りになろうとするお考えがありますかということを伺いたいと思います。
○政府委員(星野毅子郎君) 麻薬中毒患者より脅迫を受けて、医師等が麻薬を中毒患者に交付するというような事例につきましては、それの違反の情状につきましては、検察庁の方におきましても十分にその間の事情は考慮いたしまして事件の処理に当ることになつておるわけであります。中毒患者、兇暴なるさような中毒患者に対する取締の法的根拠といたしましては、麻薬取締法第四條第四号に「麻薬中毒のため公安をみだし、又は麻薬中毒のため自制心を失う」というような一項がございまして、そのようなものは懲役一ケ年以下の刑に処するという罰則を以て禁止をしておるわけでございます。從いまして御指摘のような事例のあります場合におきましては、当然この麻薬中毒患者は麻薬取締法違反によりまして、これを刑罰に処するということにいたすことになつております。顯畜な事例につきましてはさように取締をいたしておるわけであります。尚この刑罰によります隔離或いは懲罰という以外に、さような中毒患者に対しまする、何と申しますか、更に進んだ矯正方法というものにつきましても、将来十分考えて行きたいと思います。
○藤森眞治君 只今の御答弁は、これは極く表面のなにで、一応そういう理窟は出来るのでございますが、実際におきましては、その通りその法律を持つて行くわけに行かない点がございます。これは今ここでお話ししますのはどうかと存じますので、差控えますが、あなたの方でも少し御研究になれば、これがうまく行かない点が容易にお分りだろうと思います。又他の機会にそのことは私は申上げてもいいと思いますが、そういうふうに行ければ大変結構ですが、そういうふうに行けない点があるところに今私が申上げておる理由がある。
○井上なつゑ君 この法律を施行しますのに、取つておいでになります予算を、この間ちよつと説明を伺つたのかも知れませんけれども、もう一度お知らせを願いたいと思います。
○政府委員(星野毅子郎君) この予算の関係におきましては、従来即ち本年度予算におきまして、地方の麻薬取締委員会でございますね。これにつきましては国から全額補助金が出ておりますが、これが国の管理になりましたので、直接麻薬取締監督に関しまする費用といたしまして、厚生省の費用に組替えましたという点に差異がございます。その点だけでございます。
○委員長(塚本重藏君) ただ組替えだけでございますか、費用の差異はありませんか、全額となつた場合に‥‥。
○政府委員(星野毅子郎君) 金額の差異は殆んどございません。
○委員長(塚本重藏君) 外に御質問ございませんか。――麻薬取締法及び大麻取締法の一部を改正する法律案についての質疑をこの程度に止めたいと思いますが、どうですか。御異議ございませんね。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(塚本重藏君) 御異議ないものと認めます。ちよつと速記を止めて。
〔速記中止〕
○委員長(塚本重藏君) では速記を取つて下さい。麻薬取締法及び大麻取締法の一部を改正する法律案について質疑を打ち切りたいと思います。御異議ありませんね。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(塚本重藏君) 御異議ないものと認めます。これより討論採決に入りたいと思いますが、御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(塚本重藏君) では討論に入ります。賛否を明らかにして御意見の御発表を願います。
○石原幹市郎君 私は先程の質疑によりまして、今回の改正の趣旨は大体了承したのであります。大体質疑応答によつて了承いたしました。ただ今後、この運営に当りまして、先程質疑の際にも申述べました通りに、都道府県の総合行政という立場から、こういう特殊行政の立場が円滑に連関が持てまするように、十分係官を指導教養して頂きたいということを希望いたします。
○藤森眞治君 私はこの法案に賛成をいたしまするが、ただ麻薬取締委員が、権限と、それから運用上の関係が非常に一貫して強化される。この強化によつて実際の職務方面を強化して、而も麻薬の沢山の犯罪を今後なくすると、自分らの力によつてなくするというような、善良な意味に進めるような指導員を作つて頂きたい。取締員をお作りになつて貰いたい。徒らに摘発主義で犯罪を殖やすような考え方のものが多いと思うのでありまして、これは法律にとつて非常に遺憾な点があると思いますので、こういう点を十分政府としてやられることを希望いたしまして、本案に賛成いたします。
○委員長(塚本重藏君) これを以て討論を終結したものと認めて差支ございませんか。御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(塚本重藏君) 御異議ないものと認めます。それでは採決に入ります。
麻薬取締法及び大麻取締法の一部を改正する法律案について採決をいたします。原案を可とする方の御起立を願います。
〔総員起立〕
○委員長(塚本重藏君) 全員と認めます。全会一致を以て原案通り可決することに決定いたしました。
つきましては委員長の口頭報告の内容は、本院規則第百四條によつて、予め多数意見者の承認を得なければならんことになつていますが、これは委員長において本案の内容、本委員会における質疑応答の要旨、討論の要旨及び表決の結果を報告することとして、御承認願うことに御異議ございませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○委員長(塚本重藏君) 御異議ないものと認めます。
尚本院規則第七十二條によりまして、委員長が議院に提出する報告書につき多数意見者の署名を附することになつていますから、可とせられた方の順次御署名を願います。
多数意見者署名
今泉 政喜 姫井 伊介
石原幹市郎 藤森 眞治
井上なつゑ 小杉 イ子
○委員長(塚本重藏君) 御署名洩れはございませんか。御署名洩れはないものと認めます。
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