第1回公判 弁護人冒頭陳述

投稿日時 2015-07-23 | カテゴリ: 白坂裁判

7月23日に開かれた私の裁判での、弁護人による冒頭陳述です。



平成25年(わ)第149号 大麻取締法違反被告事件
被告人 白坂和彦

冒頭陳述要旨

平成27年7月23日

長野地方裁判所松本支部 刑事部 御中

弁護人 細江 智洋

 上記被告人に対する頭書被告事件につき,弁護人が証拠によって証明しようとする事実は,下記のとおりである。

第1 本件の捜査過程
1 被告人は,平成25年9月28日から同月29日にかけて,長野県安曇野市所在の長峰山森林体験交流センター天平の森において,被告人が合法的に輸入を始めた大麻の成熟した茎から抽出したCBDオイルを,大麻の合法化に賛同する一般参加者にお披露目をするイベントを主催した。

2 同月28日の夜には,安曇野警察署に,交流センター内で大麻パーティーをやっているとの匿名通報があり,現場を視察した警察官により,センター駐車場に駐車している車両のナンバーを照会し,被告人と事件関係者である桂川直文の自動車を特定した上,前科照会により,被告人と桂川直文が大麻取締法違反の前科を有することが判明した。また,被告人が大麻合法化活動をしている大麻報道センターを主宰し,本件のイベントを主催していることも警察は把握した。

 3 被告人は,上記イベントが終わった後,同月29日午前10時過ぎ頃,イベントの片付けのための一輪車を借りに友人宅へ向かう途中で,警察車両の車載マイクから停止を呼びかけられ,何事かと思い車両を停止した。警察車両から降りてきた警察官が,被告人に対して被告人車両の窓越しに「スピード出し過ぎですよ」などと話しかけ,運転免許証の提示を要求した。

 被告人は,任意捜査であれば運転免許証は見せないと答え,友人宅へ行くので立ち去りたい旨申し出ると,警察官は,所持品検査に応じるか,被告人車両内を検索させて欲しい旨,被告人に申し向けた。

 被告人は,捜索差押令状がない限り応じないと伝えたが,警察官はなお,所持品検査及び車両内の検索を要求し続けた。その後被告人は運転免許証の提示には応じた。

 被告人が警察官に呼び止められた後,最初は被告人車両の脇に警察官一人,被告人車両の前に警察官が一人立っていたが,その後数名警察官が増え,被告人車両は4,5名の警察官に取り囲まれるようになり,車両を発進させることができない状態で留め置かれることとなった。

 一人の警察官は,部長は良いと言っているなどと言って,被告人を立ち去らせようとしたが,他の一人の警察官が,県外に出られるとまずいなどと言って,結局被告人は立ち去ることができなかった。警察官は被告人に対して,その場を立ち去るならば,被告人車両に警察官を乗せていくように,要請したが,被告人は断った。

4 その後も被告人は,警察官に対してその場から立ち去ることを繰り返し要求したが,一向に警察官は応じず,被告人車両の発進ができない状態のまま留め置かれた。

 そして,同日午後1時過ぎ頃になって,交流センターの管理者が被告人に対して施設使用料の支払を求めていること,交流センターの片づけをする必要があったことに加えて,イベントの会場で大麻のようなものが発見されたと警察官から聞いたことから,責任者として確認する必要もあるため,交流センターに戻ることとなった。その際,警察官は,被告人に対して,警察官を被告人車両に乗せるように要請したが,被告人は,その要求を断り,被告人車両で交流センターへ向かうこととした。

 被告人が交流センターへ向かうときには,警察車両1台が被告人車両に先行して会場へ向かい,別の警察車両1台が被告人車両のすぐ後ろから追尾した。

5 被告人が交流センターの駐車場に到着したとき,すでに7,8人の警察官がおり,被告人が車両を停止すると,その場にいた警察官のうちの一人が,被告人車両の窓越しに,イベントで逮捕者が出たこと,被告人の所持品検査と被告人車両内の検索をさせてほしい旨要求した。被告人は,被告人車両がすでに7,8人の警察官に取り囲まれており,拒絶し続ければ交流センターの片づけや支払いができなくなるため,イベントの責任者としての立場上,やむを得ず所持品検査等に応じた。

 午後1時30分頃,被告人は,所持品を全て警察官に見せるとともに,警察官によるボディチャックを受けた。また,警察官は,被告人車両内を,ダッシュボード内,シート下など,隅々まで検索した。このとき,大麻は発見されなかった。

6 警察官が被告人に対して,交流センター内の集会所に大麻のようなものがあるので確認をしてほしいと依頼したため,被告人は,主催者としての責任があるため,集会所へ赴いた。被告人は発見された大麻のようなものを確認したが,被告人のものではなかった上,だれのものかは分からなかった。

7 警察官は,被告人に対して,事情聴取のため安曇野警察署(以下,「警察署」という。)への任意同行を執拗に求めてきたものの,被告人としては,責任者としてイベントの片付けをする必要があったため,全てを片づけてから行く旨繰り返し話したが,警察官は全く応じなかった。このとき,集会所の建物の出入り口を塞ぐようにして3,4人の警察官が立っており,被告人は,警察官を排除して建物から出ることはできなかった。

 そこで,被告人は,警察官の要求に応じなければ,この建物から出ることも,イベントの片づけをすることもできないことから,会場の片付けを済ませた後に警察署へ行くことに応じた。

 被告人はそれからキャンプ場の荷物を片付けたが,その際も,警察官の要求により,全て所持品検査をされたが,大麻は発見されなかった。このときも,被告人は5名の警察官に取り囲まれていた。

 そして,まだイベント会場で片づけを継続する必要があったが,警察官が,すでに会場で大麻が発見されており,会場の責任者としてすぐに事情聴取を受けて欲しいと執拗に説得したため,被告人は片づけを続けるために明るいうちに会場へ戻ることを条件として,警察署へ行くこととなった。

8 被告人は,同日午後3時頃,交流センターを出発し,警察車両が被告人車両を先導し,別の警察車両が被告人車両を後続する形で,被告人は警察署へ向かった。途中,被告人は用を足すためにコンビニエンスストアに寄ったが,その際にも警察車両1台が被告人車両近くに駐車し,もう一台の警察車両は駐車場の出入り口付近に駐車し,被告人の動静を監視するような配置であった。そして,被告人がコンビニエンスストアのトイレに入ると,警察官がトイレの入り口のところまで同行し,被告人を監視し続けた。

9 同日午後4時前に被告人が警察署へ到着し,駐車すると,そのまま取調室へ行き,すぐに取調べが開始された。

 被告人の取調べでは,同日午後6時頃,交流センターの管理者が警察署へ来て,片づけと,支払いをして欲しい旨伝えに来た。被告人はすでに必要なことは話したことから,取調官に対して繰り返し帰る旨伝えたが,取調官はまだ調書を作成するために警察署に残るように説得を続けた。被告人は,午後6時頃には,午後7時頃に帰る旨伝えたが,午後7時頃になると,取調官から執拗に警察署に残るように説得され,再度午後8時頃には帰る旨明確に告げた。取調べ中に,被告人は捜査官からタバコ休憩を勧められたが,被告人は取調べを早く終わらせて帰りたかったので断った。しかし,取調官が再度タバコ休憩を勧めるため,被告人は取調官がタバコ休憩を取りたいのかと思い,タバコ休憩に取調官とともに行ったが,取調官は非喫煙者だと言って喫煙しなかった。

 警察官は,平成26年9月29日午後6時59分に,■■■■の供述を元に被告人方の捜索差押令状の請求をし,同日午後7時42分に令状が発付され,同日午後8時5分には,警察署へ令状が到着した。

 午後8時過ぎになると,再度取調官は被告人に警察署に残るように説得を続けたが,被告人は,取調官から同じことを繰り返し聞かれていたこともあり,取調室を出た。この時,取調官は取調室の入り口に立ちはだかり,被告人の退出を阻止しようとしたため,被告人は再度退出する意思を伝えた。そうすると,取調官は,取調室の外にいる警察官らに向かって,被告人が帰ってしまう旨伝え,大勢の警察官が被告人の元に集まった。それから警察官らは,被告人に対して捜索差押令状が出ているから立ち会うようにとの説得を始めたのである。

 被告人が警察署の駐車場へ行くと,被告人車両のすぐ後ろにワゴンタイプの警察車両が駐車してあり,被告人は被告人車両を発進させることができなかった。そして,被告人は7,8人の警察官に取り囲まれ,捜索差押に立ち会うように申し向けられた。被告人は明確に拒否したが,その後も警察官らは被告人をその駐車場に留め置いた。一人の警察官が,被告人車両の窓越しに被告人宅の捜索差押令状を示して,令状を見せるだけだと言いながら,捜索差押に立ち会うように申し向け,説得を試みた。

 午後9時前くらいになり,警察官らは,急に被告人車両の後ろに停車していた警察車両を移動させ,その車両は警察署から出て行った。また,被告人を取り囲んでいた警察官らも立ち去った。そのため,被告人は被告人車両を発進させた。

 なお。午後8時27分頃,捜査機関は警察官を被告人方へ向かわせた。警察官は,同日午後8時43分頃から同日午後8時45分ころに被告人方へ到着した。捜査機関は,同日午後8時56分に,被告人方の捜索差押への消防署職員の立会いを消防署へ依頼し,同日午後9時17分頃,捜査機関が被告人方の捜索を開始した。

 そして,同日午後9時28分頃,寝室内の事務机上に,乾燥大麻様の植物片が発見された。

10 被告人は,同日午後11時過ぎに自宅へ戻り,捜索差押に立ち会った上,平成26年9月30日午前1時19分に大麻取締法違反の現行犯人として逮捕された。

第2 大麻を一切禁止する合理的理由がないこと

1 わが国における大麻の有害性の根拠
本邦で大麻取締法による大麻所持等を懲役刑で規制を始めた際には,日本国内における乱用事例等の検証をすることなく,法規制が開始している。

 大阪高等検察庁の検察官は,被告人に対する平成16年の裁判において,大麻の有害性の根拠として,厚生労働省外郭団体財団法人「麻薬・覚せい剤乱用防止センター」ホームページの抜粋を証拠調べ請求し提出した。

 麻薬・覚せい剤乱用防止センターのホームページは,古いアメリカの薬物教育読本を抜粋し,翻訳したものである。

 他方で,厚生労働省は,「大麻:健康上の観点と研究課題」と題する報告書を大麻の有害性の根拠にしている。これは,世界保健機関(WHO)が1997年に作成したものである。

2 わが国の医療大麻に対する認識
厚生労働省が保有している大麻に関する資料は限定的であり,かつ同省は大麻を医療的に使用している海外の事例に関する文書を全く保有していない。

 厚生労働省大臣官房長は,大麻が麻であることを知らなかった。同人は,国は,医療大麻について研究し,知る必要があると表明した。同人は,昭和60年判決において大麻の有害性を理由に大麻取締法が合憲となったが,その後の30年間で研究が進み,状況が大きく変わったことを認識し,大麻の問題はわが国におけるハンセン病の問題と同じであると表明した。

 日本薬局方には,明治39年から昭和26年まで,印度大麻たばこ,印度大麻エキス,印度大麻チンキが掲載されていた。当時の厚生省は,医薬品としての大麻に効果があること及び副作用がないことを認識していた。

3 大麻の医学的・科学的知見
(1)大麻の有害性について
大麻は,全くの無害ではないが,アルコールやニコチンなどの他の合法ドラッグと比較すれば,有害性は低いものである。さらに,大麻喫煙を長期間行っても肺に害はない。 大麻の医療使用という観点からは,喫煙に伴う害を除けば,大麻使用による有害作用は他の医薬品に許容される範囲内におさまる程度である。大麻を医療的使用の観点から見た場合,人体への有害作用は薬物乱用による有害作用と必ずしも同等とはいえない。

 大麻使用による主な急性有害作用は精神運動能力の低下であり,大麻を摂取した状態での車の運転や危険を伴う機械類の操作は勧められない。

 大麻が記憶に及ぼす急性効果は大きくないが,青少年が常用すれば,影響が生じる可能性がある。

 少数であるが,大麻使用によって不安や不快感を経験する人がいる。短期間の免疫抑制作用は完全に立証されていないが,そういった作用があっても大麻の合法的な医療使用を不可能にするほど重大なものではない。

 大麻使用者で依存性を示す者は稀であるが,ゼロではない。依存性を示す者は,薬効が切れて手の震えや嘔吐などの禁断症状を伴う身体的依存ではなく,精神的依存にすぎない。もっとも,大麻の依存性は,アルコールやニコチンの依存性よりも低いものである。 大麻の過剰摂取による死亡は一度も報告されていない。

 また,過去に本邦内で大麻がインド大麻チンキとして医療目的で使用されていた当時も,大麻乱用が社会問題となっていなかっただけでなく,大麻使用による弊害も一切報告されていなかった。

(2)大麻の効能
大麻草の成分であるカンナビノイド(THC,CBD等)については,アルツハイマー病,筋萎縮性側索硬化症,慢性疼痛,糖尿病,ジストニア,線維筋痛症,消化管障害,グリオーマ,慢性C型肝炎,HIV,高血圧,失禁症,メチシリン耐性ブドウ球菌,多発性硬化症,骨粗鬆症,そうよう掻痒症,関節リウマチ,睡眠時無呼吸症,トゥレット症候群,鬱病,癌の進行抑制,緑内障,食欲回復,不眠症など約250の症状に対し効用があるとされている。

 また,医療大麻として,重度のてんかん発作の症状を劇的に抑制する薬理効果が確認されており,日本においても,CBDが輸入され,有用な健康食品として,少しずつてんかん患者に広がっている。

 アメリカで1996年にカリフォルニア州の住民投票で医療大麻法案が可決されたのを受けて,ホワイトハウスと麻薬撲滅対策室(ONDCP)は,翌年,100万ドルを拠出し,全米科学アカデミー医学研究所(IOM)に対し,大麻の医療効果についての調査を依頼した。IOMは,1999年,「大麻と医薬品:科学ベースの評価」を報告した。

 カンナビノイド(THC,CBD等)は,痛みの軽減,運動機能の制御および記憶に作用する性質を持っている可能性がある。この効能は,薬剤に即効性があることでさらに高まる。
カンナビノイドによる心理的作用が間接的に症状に影響して,薬剤の効能について誤った印象を与える可能性もあり,補助治療として有益な場合もある。カンナビノイドがもつ効能(不安の軽減,食欲促進,悪心抑制,疼痛緩和)は,化学療法による悪心や嘔吐,エイズによる消耗等,ある特定の症状に対し,適度な効果がある。

4 海外の大麻に対する対応
海外においても,わが国同様,1961年の麻薬に関する単一条約や1988年の麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約などを締結している国は,大麻を規制している。しかし,先進国において目的を問わず大麻の所持,栽培に懲役刑のみを科し,厳しく規制しているのはわが国だけである。

特に,米国及び欧州を中心に,大麻に関する規制は日本のそれとは大きく異なり,米国では,大統領自身が大麻にアルコール以上の危険はないと公言する程である。

第3 その他情状

以上





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