第11回公判で行われた武田邦彦氏に対する弁護側証人尋問です。
弁護人
まず初めに,武田先生の大学卒業からの経歴を簡単に教えてください。
大学卒業して旭化成工業株式会社に勤務いたしまして,主に研究職でした。それから,49歳のときに旭化成をやめまして芝浦工業大学に勤務し,それから大体本件にかかわるような有機的な材料と生物の関係をずっとやってまいりまして,57歳か58歳で名古屋大学のほうに移り,そこでその研究を発展させたライフレスリビングマテリアルという,日本語で言えば命のない生命体という非常に変な研究ですが,それをやってまいりました。63歳で定年になりまして,現在の中部大学に勤務しております。
現在の武田先生の中部大学での役職は,どのようなものでしょうか。
70歳で一応定年なんですが,そのときにいただいた辞令が中部大学教授に任ずる,特任教授を委嘱するとありまして,私,名古屋市の役職やっているもんですから,肩書間違っちゃいけないと思って市に問い合わせましたら中部大学教授という役職名でよしということで,そのままそういうことで使っております。一般的には特任教授と呼ばれるときもあります。
現在何か公職につかれていますか。
名古屋市の経営アドバイザー,これ公職だと思いますが,経営アドバイザーと富山市の政策参与,あとの国家の公職は全て終わったと思っております。
過去の公職関係のもので代表的なものとしては,どのようなものがございましたか。
科学技術審議会の専門委員,中央教育審議会の専門委員,それから原子力委員会の専門委員及び原子力安全委員会の専門委員,そこら辺が大きいとこではないかと思いました。
武田先生の学問分野とは,どのような分野になるんでしょうか。
私は,学問としては物理なんですけども,研究対象としては材料です。前半は,原子力でしたから,金属材料が主でした。したがって,芝浦工業大学に移ったときは金属工学科に入りましたが,その後大学に入ってから研究の対象を金属材料から有機材料へ転換をしたと,そういうことです。
武田先生は,大麻に関する研究というのはこれまでにしたことがありますか。
はい,大学に移りまして数年たった後,伝統材料研究というのを開始いたしました。一般的な伝統材料というのは,布であったり日本の紙であったり,和紙,そういったものが普通なんですが,研究をしてみると大麻というのが非常に昔から日本では材料として多用されていたということを知って,53歳ぐらいのときじゃないかと思いますが,大麻の研究を盛んに始めるようになりました。
武田先生がされた大麻の研究とは,具体的にはどのようなものがありますか。
日本の歴史と大麻の関係,もしくは日本の材料と大麻の使用状況,現地に行って大麻の自生の状態,そういったものが主で,あとは調査です。アメリカを中心とした各国の大麻の研究,もしくは名古屋大学では麻薬系の物質に対する世界的な状況を研究されている先生もおられましたので,そういう先生との研究会,それから北海道とか,そういうところで産業用大麻の研究をされている方が多いので,そういう方との研究会なんかをやってまいりました。
これまで大麻に関する書籍あるいは論文等では,どのようなものがありますか。
書籍としては,大麻ヒステリーという書籍を先ほど書いたんですけど,出版年がちょっと忘れちゃったんですけど,10年ぐらい前に出版いたしました。書いたもの,論文とかは,例えば材料学会,高分子学会とか,そういう所属学会に出したり,それが一,二編だと思いますけど,それから大麻の研究会もしくは講演会というのも五,六回やっておりましたので,そういうときにレジュメを書いたりお話をしたりしていると,そんな感じでしょうか。
少しちょっと1点だけ確認の御質問をしたいんですけれども,先ほど大麻の研究を始めたころの話で大学に入ってからというような御趣旨の発言があったんですが,それは先ほどおっしゃった旭化成工業から芝浦工業大学に移ってからということでよろしいでしょうか。
そうです。それまでは会社の研究ですから,そういう日本の伝統材料とか,そういうものの研究はやっておりません。
それでは,これから大麻に関することを尋ねていきたいと思いますが,まず初めに大麻に含まれている成分のうち,精神作用のあるものは何という成分ですか。
テトラヒドロカンナピノールという化合物で,カンナピノールというのは骨格部分を示している。カンナビという用語が骨格部分を示しておりまして,オールというのはアルコールがついているということです。テトラヒドロというのは,カンナビノール骨格に対して5つ水素がついていると,そういう化合物です。
これからテトラヒドロカンナビノールのことをカンナピノールと呼びますが,このカンナピノールのほかに大麻の精神的作用に影響する成分はほかにありますか。
カンナピノールに相当するジオールというのがありまして,これは化学的に,よく化学の世界で使うんですが,アルコールが1つのとき,何とかノールといいまして,それで2つになりますとジオール,それから3つはトリオールというんですけど,人体ではカンナピノールというほうがいわば麻薬作用とはちょっと言えないんですけど,少し精神的な作用がありますが,ジオールのほうがそれを打ち消しますので,カンナビノールとカンナビジオールの割合によって,もしくは量によって人体に対する影響が違うというふうに認識しております。
カンナピジオールには,一般的な略称はありますか。
私は,もうジオール,ジオールと呼んでいて,というのは大麻関係の呼び名はテトラヒドロカンナピノールもTHCと呼ぶことがあるんですが,非常に呼び方が多様なので,私はもう混乱を避けるために薬効成分はカンナピノールと言っていて,それからそれを打ち消すほうはジオールと,もうずっとそういうふうに言い続けておりますが。
では,カンナビノールの人体に対する作用ですが,どのような効果がありますか。
私がここ130年ぐらいの世界の報告書,もしくは該当する論文を見た限りでは,大麻の人体に対する薬効というのは,その治療薬として何かわからないんですが,一般的ないわばたばことかコーヒーなんかの噌好品と同程度,もしくはヘロインとかコカインのような麻薬成分に関しては,というようなくくりでは,ほとんど薬効は見られないと思います。
先ほど少し麻薬的なというような表現もありましたが,何かしら酔うというような意味での作用というのはあるんでしょうか。
ちょっと誤解を招きやすいんで,少し言葉を足しますと,例えばたばこであれ,お酒はもちろんそうですが,人間の精神状態もしくは脳内物質に対して影響を与えるものは非常に多いもんですから,全ての化学物質が薬効があるとは,そこまでは言えないんですが,そういった類いの効果を持つ物質がカンナピノールであることは確かであります。
それから,カンナビノールの身体に対する変化というのは,カンナピノールを摂取したときに身体に起きる変化としてはどのようなものがありますか。
大きく今までの各国の報告を見ますと薬効というか治療とか,そういうものに効くものです。例えば精神的なものもありますし,肉体的なものもあるんですが,そういったものに効く場合,これはいわゆる漢方みたいな効き方ですけども,薬として使う,もしくは,もう一つはリラックスするために精神的な緩和作用として使うという,この2つが人体に対する効果があると言えばあるというふうに言えると思います。
例えば体に有害だと捉えられるような方向での変化というのは何かありましたか。
例えば脈拍ですとか血圧ですとか,そのようなものに対する影響です。血圧,脈拍に対しては若干の報告があります。一般的には低いほうの血圧がやや上がり,高いほうの血圧少し下がるとか,脈拍が少し高くなるとかありますが,それはほぼコーヒーばかりでなくてお茶を飲んでも,一般的に人体の中に通常存在しない薬物が,化学物質が人体に入れば人体は何かの反応はいたしますので,そういった類いの反応はあるということは言えると思います。
そうすると,人体に与える有害性という意味ではほとんど問題とならないというような御趣旨なんでしょうか。
ええ,もう今までの報告書では全く問題にならないと思います。
カンナピノールについて先ほどからおっしゃっている報告書等についてお尋ねしたいんですけれども。これまでにカンナピノールに関しての代表的な研究報告書というものは,どのようなものがありますか。
19世紀半ば以前というのは,もともとそういう概念がなかったわけでありますので,19世紀の後半から以降が大麻のいろんな研究が行われておりますが,1800年代の後半にイギリスでかなりのデータがありまして,それから1930年ぐらいに研究された,これ正確には多分1940年から1944年だと思いますから,ニューヨーク市長のラ・ガーディアさんが組織した研究が,これはかなりまとまっております。それから,次はニクソン大統領のときの委員会がございまして,これが1972年の報告ではなかったと思いますが,それがこれも相当な量のものであります。それから,20世紀の終わりにWHOが報告を出しております。そういう意味では,学術的な比較的まとまった報告が4件ではないかと思いますが。
それぞれの概要についてお尋ねしたいんですが,まず先ほど最初におっしゃった19世紀後半にイギリスで、行われた報告についてですが,その報告の中では身体的影響あるいは精神的影響についてはどのような報告がされていますか。
一般的には,ほとんど大麻には精神的,肉体的影響はないという報告であります。
当時のそのような報告がされた理由とか根拠というのはあるんでしょうか。
19世紀の後半になりますと,国際的な流動が非常に,人の流動とか移民とか,そういう問題がふえてきまして,そういう大体覚醒剤,麻薬系統のものというのは南の国から発生して北の国に移ると。北の国で,それが社会的問題になったり,政治的な問題になったりするという,そういうことが一般的であります。イギリスにもヘロイン,アへン,そういったものが入りまして,社会的な問題になったことがありますので,そういう流れでまずヨーロッパを中心として大麻についても関心があった。また,日本の大麻というのはカンナビノールはほとんどないんでありますが,インド大麻の一部にはカンナピノールの薬効成分の高いものがありまして,そういったものがインドからイギリスへ植民地関係でしたから流れたということが,ヨーロッパでの研究が最初に始まった理由ではないかと思います。
当時の19世紀後半のほうに行われたイギリスでの研究の評価としてはどのようなふうに・・・
私が見ますと-後の行われたラ・ガーディア報告とかニクソン大統領のときの委員会の報告に比べれば,やっぱり学問的にまだやっと細菌なんかがわかってきた段階,もちろんウイルスは発見されていないような時代ですから,19世紀後半の研究というのは大麻を常習している人がこういう状態であったというような,外側からの定性的な観察です。それから,もちろん当時は体の中でカンナビノールがどういうふうに変化して,どういうふうに脳とかいろんなとこに作用するかというような研究はもちろん全くありません。
では,次の報告についてお尋ねしたいと思います。先ほどからおっしゃっているラ・ガーディア報告というものについてお尋ねしたいんですが,このラ・ガーディア報告というのはどのような経緯でなされたものなんでしょうか。
ちょっと非常に複雑なんで,簡単に申し上げますと,アメリカには1917年に禁酒法ができまして1920年に施行されました。これに伴って大量の捜査員が出動されたわけですが,これがわずか13年ぐらいで廃案,法律がなくなりまして,大量の捜査員が失業します。それをアメリカ麻薬局という名前だったかと思いますが,アンスリンガーという長官がいたんですけども,その人がこういったいわゆるお酒に類するものの取締法をつくって,そして捜査員を吸収するという必要があったと,もう一つは大麻産業というのは非常に大きかったもんですから,大麻産業をやはりこれを何とか潰して,石油繊維,そのころは石油による繊維というのは1934年のデュポンの繊維が初めてなんですが,そういった競い合った時代だったもんですから,大麻を追放しようということで大麻課税法というのができます。禁酒法がお酒を飲むのを禁止しているんじゃなくて,輸送とか販売を禁止しているように,大麻の場合も薬効がはっきりしなかったので,税金を払えばいいよということで大麻課税法。ただし,財務省か何かが課税証明書みたいのを出さないということで,実質的には禁止措置を伴うような法律ができました。しあし,その過程でつくられた映画だとか論拠が非常にあいまいで,これは人々を不安というか混乱に陥れるということで,時のニューヨーク市長のラ・ガーディアが科学的な実証をしなければいけないということでつくったのがラ・ガデーィア委員会です。ちょうど大戦中にぶつかりまして,1940年にたしか開始されたと思うんですが,戦時中の研究ということになりました。
そのラ・ガーディア報告というのは,どのような報告がされたんでしょうか。
ラ・ガーディア報告は,結果的には大麻には麻薬性も何もないと,非常に弱い精神作用があるという報告でありました。
当時の研究は,カンナピノールを研究した報告なんでしょうか。
当時は,カンナピノールの量をちょっと1972年の研究と1940年の研究のどっちがどうだったか非常に詳しくもう一回レポートを見てみなきゃわかんないんですが,大麻という植物を対象とするという概念がまだありました。後に少しずつ少しずつ世の中は大麻というのは植物であって,アヘンですとケシを規制するようなもんだということがだんだんみんなの頭にはっきりしてきまして,時代が最近になるに従って大麻というものを学問的な対象とするんではなくて,カンナピノールという薬効成分を対象にするように変わっていきますが,ちょうど過渡期だったので,大麻を服用した場合にどうかという研究が中心だったと思います。
では,そのラ・ガーディア報告の次にあった代表的な研究としてはどのようなものが。
あと大規模なものがニクソン大統領が法と秩序というのを唱えてアメリカ社会に出てきたわけですが,それの1つのものとしてそのころベトナム戦争なんかありまして,やや若者がいろいろなことをするということで大統領としてはそういうこともありまして,政治的に。委員会をつくりました。委員の半分は,ニクソン大統領自身が任命するというやや政治的な委員会ではありましたけれども,答申内容はニクソン大統領が計画したの全く180度違う。大麻は麻薬とは言えないという報告でしたので,報告寸前にニクソン大統領が委員長を更迭するというようなことも起こったやや政治的なものが強いわけです。これは,ラ・ガーディア報告とニクソン大統領のときの報告がちょうど政治的には対をなしておりまして,ラ・ガーディア市長はどちらかといったら大麻は麻薬ではないんじゃないかという疑いのもとで委員会を開いたと。ニクソン大統領のほうは,大麻は麻薬であるという仮定で委員会を開いた左いうことで,私なんかが報告書見るときは両方見て大体政治的なことは打ち消されているなというふうに思って勉強したわけであります。
一応確認のような質問にはなってしまいますが,ニクソン大統領のときの報告の中では,大麻の人体に対する有害性,毒性については結局どのような結論になっていたんでしょうか。
現在日本では大麻が大麻取締法がありますんで,何か人体に対して影響があるということが一応の先入観になっておりますので,ちょっと言いにくいんですけれども,ラ・ガーディア報告もニクソン大統領のときの報告も,全て何もほぼ影響はないという,学問的にはその報告でしたです。
そのほかに代表的な例えば国際機関などのようなところが作成した報告書なんかはありますか。
WHOが1995年でしたか,20世紀の終わりに報告書出しております。これは,ラ・ガディアとかニクソン大統領のとこの報告よりかは国際連合における委員会の報告ですから,非常に統計的といいますか,学問的な報告ではなくて,各国の大麻の使用状況と各国の成年を中心とした挙動の研究をもとにしておりますので,WHOという名前からやや学問的と思われますけども,学問的な報告とはちょっと言いがたいところもありますが,一応それが大きな報告であります。
そのような報告の中でも大麻の有害性ですとか,精神的作用というものについて,それまでの研究結果と違うようなものが出てきたんでしょうか。
やっぱり1990何年の終わり,20世紀の終わりですので,大麻が体内でどのように変わっていくかとか,そういったいわゆる現象論的じゃない部分についても踏み込んではいますが,現在でもまだほとんど明らかになっていないもんですから,そのときもこういう道筋で体内でカンナピノールが変化するんではなし1かというような記述はありますけれども,薬効については今までのといいますか,それまでの報告を踏襲していると思います。
これまで幾つかお話しいただいた報告書の後にもさまざまな研究等が世界ではされているわけですか。
はい。
そのような中でも例えば決定的に大麻が人体に有害性があるだとか,そういった報告というのはあるんでしょうか。
私の知っている限りありません。ヨーロッパとかアメリカでは大麻が非合法のところもあるし,非合法であってもほとんど取り締まらないという国もありまして,服用率は相当高くて,日本とは全くもう信じられないような20パーセント,30パーセントという,そういう若者全体での服用数ってあるわけです。したがって,薬理学的な及び行動的な陶酔性だとか薬理の問題が生じていれば,本当にそういうのがあれば当然大麻を吸引したがゆえに起こる事件とか事故というのが相当程度出てくるわけですが,そういう点でも社会的にも出ていない。日本では,2000年間使ってきているわけですが,出ていないということで,普通に考えましたら何でもない普通の草だというふうに言えるんじゃないかと思います。
ちょっと日本のことについてお尋ねしたいんですけれども,日本国内では大麻の薬効,効果,精神的作用,有害性とかについて一般にどのように説明されていますか。
一般には政府関係だと思いますが,防止センターみたいなとこありまして,そこで絶対だめとか,これは法律で禁止されているものはいけないんですけども,例えば勉強の成績が悪いとか,それからいろんなことが書いてありまして,どこからとったかということをちょっと聞こうと思って1回電話で聞いてみたんですが,根拠は教えてくれませんでした。私の見解では,想像で書いたものと思われます。
今先生がおっしゃった防止センターというものですが,正式名称、は思い出せますか。
ちょっと国民麻薬防止センター,何かそのぐらいのもの・財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センター,そのような名前でしたでしょうか。
そういう名前です。
あと酒やたばこなどちょっとほかの噌好品との関係をお尋ねしたいんですが,お酒やたばこ,コーヒーなどの噌好品と大麻の有害性,人体に対する害を比較するとどのようなことが言えますか。
人体に対する害というのは,非常に定義が難しくて,例えばお酒を飲んだら酔っぱらうというのは害であるかというと通常は害ではないと考えられています。それから,肝臓を悪くするかというと,かつては休肝日というのがありまして,アルコールは肝臓に悪いと言われていましたが,今は見直されて休肝日はなくなりまして,NTTが大幅に行った飲酒と寿命に対する調査では1日平均2合から4合が最も長寿であるという結果が出ていまして,そういう点での噌好品と体に対する害ということは,現在の学問ではわかっていないと思います。ヘロイン,コカイン,ああいったものはちょっともう特別なもので,そういったものを別にすれば噌好品の体に対する害というのは非常に難しいと思います。
では,少し視点を変えた御質問しますが,お酒については例えばお酒を飲む個人に対する危険性ですとか,あるいは社会的な危険性についてはどのようなものがありますか。
お酒の場合はもちろん一番はっきりしているのは酔っぱらい運転というか,酒酔い運転になります。これは,具体的に社会に害をなすということで,アルコールを飲むこと自身は規制されておりませんが,アルコールを飲んで、自動車を運転するというところで規制をしております。もちろんノンアルコールビールというのがありまして,アルコールが入っていないものはたとえビールという名前がついていてももちろん未成年でも飲めると,未成年飲めるのかな。飲めると思いますが,そういうふうなことでお酒が非常に明らかに社会的に絡んだり,電車の中の痴漢の原因になったり,乱暴な酒乱したりする人もおりますし,ドメスティック・バイオレンスなんかの原因にもなりますが,それは社会的に規制するほどではないというように判断しているものと思います。
アルコールの依存性というのは,どのような。
アルコール依存性は,もうはっきりしているのはアルコール中毒でありまして,アルコール中毒の患者さんはアルコールを飲まなければいけない。これは,身体的な依存性,それから心理的な依存性としては毎日お酒を飲まないと少し寂しいとか,赤ちょうちんを見ると飲みに行きたくなるといった精神的な依存性というのがありますので,嗜好品はいずれにしても何らかの体に対する影響と,それから精神的な影響があるがゆえに噌好品として使用されると,そういうふうに思います。
たばこに関しての人体に対する有害性というのは,どのようなものになりますか。
たばこは,一般的には肺がんになると言われておりまして,私は非常に個人的なことで恐縮ですが,娘が呼吸器の医師でもあるので,十分に娘とも研究をした結果,肺がんは非常に少ない。COPDとか血管系の疾患になる可能性があるというような傾向はありまして,健康には余り望ましくない。特に55歳以上ぐらいで肺及び呼吸器系とか血管系に相当な影響があると思われます。それから,脳についてはたばこは非常に習慣性が強い。お酒よりかもっと強いんですけれども,禁断症状を生じるということはよく知られておりますが,これはなぜかといいますと頭脳に非常にニコチンを中心としたたばこの成分が効くんです。それで,頭の中を整理できる人と整理できない人というのがいるんですが,整理できる人というのはニコチンがなくても脳内物質のコントロールができるんですが,たばこから離れられない人というのはニコチンによって脳内成分を整理するわけです。したがって,小説家とか,そういうのがたばこを吸う人が多いのは,頭の中の系列をはっきりさせるための整理のための薬剤であるということは最近のたばこのニコチンの研究で明らかになっております。いずれにしても身体的及び脳の作用に大きな影響を与えるということがたばこの1つの特長です。
そのような今お話出たようなお酒,アルコールなど,またたばこ,ニコチン,それらと大麻を比較した場合に依存性とか人体に対する影響というものはどのような関係になるんでしょうか。
私は,大麻というのは法律もありまして,少し非常識な発言になろうかと思いますが,ケーキぐらいかなというふうに思います。ケーキというのも甘くておいしくて糖尿病になったりもするんですが,だから身体的及び肉体的な依存性があるんですけども,楽しい生活をするためにはちょっとケーキぐらいいいかな,というぐらいの体に対する影響,もしくは精神的な影響を持っていると思います。ただ,ちょっと薬効がありますから,いろいろ大麻として使われている論文というのは非常に多いんですけども,これは私から見れば漢方と全く一緒です。漢方の薬草というのはいっぱいありまして,これは本来どうしてこういうものができるかといいますと,動物と植物の聞の闘争のために動物に対する薬効を持つ植物というのが必然的にあるわけで,その意味ではいずれにしても進化の過程で現在でも成育している植物というのは,ある意味では原理的に必ず薬効を持つ植物しか生きていないということは言えます。私特に「イボタとイボタ蛾の研究」というのをしていたんですけども,これは典型的なもので,植物と動物の聞の争いが植物の中に動物に対する薬効成分を生じるという,そういう研究を割合と長くやってまいりましたが,それで私はそういうふうに思っております。
これまで麻薬やアルコールなどの噌好品,それと大麻などの依存性とか,禁断症状とか,そういったものについて比較したような研究というものはあるんでしょうか。
一番私が気になるのは,日本人に対して皆無だということです。こういった人体に対する影響というのは,民族性が非常に強くありまして,もちろんアルコール分解酵素が多いとか,それからよく話に出るのは牛乳の分解酵素があるかどうか,こういったことで非常に大きな民族性によるわけです。したがって,大麻のように非常に微妙なものの場合は,明らかに違うヘロイン,コカインなんかは別にいたしまして,大麻のようなものはやはり日本人の健康もしくは日本人の社会に影響するデータがどうしても必要だと,そういうふうに私は思っておりますけど。
そうすると,これまでのアルコールや麻薬,それからニコチンと大麻を比較したような研究というのは,いずれも外国でされたものですか。
はい,大麻については日本では全く薬効物質として認識されておりませんで,通常の畑で幾らでもつくっていたもので,首相にも麻生さんという方おられます。あれも大麻畑,そういう個人の麻という名前がついているのは日本では全部大麻ですけども,そういう認識でしたので,昭和23年にアメリカの進駐軍,GHQからの指令があるまでは日本では自発的に大麻を何かそういう危険なものとして取り締まりの対象とか,もしくは注意しなきゃなんないとか,青少年に摂取させてはいけないというふうには全く認識しておりませんでした。特に赤ちゃんの産着とか,そういうものはむしろ好んで大麻が使用されました。そういう点から日本での研究は皆無だったということです。
これまでお話ししたものの触れているものというのは,大体外国,国際的な研究ばかりだったかと思いますが,日本人が実際に大麻を使用した場合の影響については外国での研究と異なる可能性はありますか。
いや,データがないので,私はわからない。つまり歴史的に今1500年ぐらい日本は大麻畑というのが一般的で,通常に使っておりましたけれども,それからたばこを吸うという習慣がもちろん日本はありましたから,大麻を吸うというのももちろんあり得るし,それは中国あたりから情報が幾らでも入ってきたわけですが,しかし日本人が大麻というものを全く歴史的に一回も吸わなかったという事実を見れば,恐らく非常に微弱な影響しか,少なくとも日常的な生活の中ではなかったからではないかと思います。
例えば日本人にとっては,大麻はより有害だということになる可能性はありますか。
戦後に法律ができて,その次にサンフランシスコ平和条約でもう一回日本政府として追認いたしましたので,マスコミの影響もあって現在ではマリファナと聞きますと,これは薬物であるというふうに先入観みたいなのができまして,したがってみんな私の学生なんかでも大麻と聞くとびっくりするというような,そういう状態ですので,そういう状態が社会的に科学とは関係なくつくられている状態なんで,これはある程度考慮しなきゃいけないと思います。
ちょっと質問の仕方を変えますけれども,日本人が大麻を使用する場合は例えばアメリカですとかイギリス,アメリカ人,イギリス人が大麻を使用する場合と異なるような人体に影響を受けるとか,そういった可能性はあるんでしょうか。
全然わかりません。データがありません。効く場合もあるし,効かない場合もあるだろうけど,私の推定は今言いましたように歴史的に1500年も使われていなかったので,多分ないではないかと,そういうふうに考えるのが妥当である。つまり麻薬とか,ああいった成分は昔科学的に考えたり取締法があったりしたわけじゃなくて,野原に生えている草とか,そういうのを吸ったり食べたりして,ああ,これはなかなかいいというものがその社会に定着するわけですから,そういう意味ではあれだけ大麻畑があって,たばこは2回禁止されておりますけど,歴史上は日本では。何も起こっていないということは,恐らく非常に弱かったと思われます。ただ,若干の精神性があったと考えられるとすれば,例えば伊勢神宮の鈴縄とか,それから紙とか,それから宮司さんが着ておられる服なんかは大麻でつくっておりましたので,そういう意味での神社で使われていたから,精神作用を少し感じていたんだという考えもありますが,科学的な判断ではありません。
それから,現在日本でも当然大麻の所持で逮捕される方が2000人,大勢いるわけですけれども,これまでに現実に日本人で大麻を使用している方というのが実際にはいるんですが,そういった方についての例えば健康に対する悪影響とかの報告とか研究結果というものは,これまでにありますか。
私は,聞いたことありません。
現在の日本では,カンナピノールの人体に対する影響というものの研究を行うことはできますか。
私は,材料研究で薬効研究ではないんですが,実際に大麻というのにどのくらいいろんな種類とカンナピノールの関係だとか,それから物性がよくわかっていない部分もありまして,材料研究としては大麻の研究をまずして,大麻とカンナピノールって違うわけです。現在ちょっと法律が植物の規制になっているので,ものすごく話すのが難しいんですけども,薬効成分はあくまでもカンナピノーノルであって,ヘロイン,コカインもそうなんですが,化合物を規制していれば割合と簡単な話なんですけども,大麻という植物を規制しておりますので,ある程度研究をしてこないと何を問題にしているのかわからないもんですから,それで少し研究をしようと思いました。非常に規制が強くて,私その当時名古屋大学におりまして研究をしようと思っても,なかなか大麻自身が手に入りませんし,また許可を都道府県単位でもらうんですけども,それも難しいということで,名古屋大学ぐらいの国立の研究所が研究できないということになると,日本では根拠なく大麻についての議論をしなきゃいけないので,非常に不都合だと思いましたけれども,実際に私はそういう状態でした。したがって,ほとんどできないんじゃないかと,名古屋大学でできないぐらいですから,通常の研究機関でも大麻の研究というのは僕みたいな基礎研究,飲んだり何かするんじゃなくて物性を調べたり拡散係数を調べたりということはどうしても必要なんですが,そういったこともできない状態じゃないかと思います。
確認の質問になるんですが,武田先生は過去に大麻の研究者免許の申請したことがあるということになっていますね。
いや,ありません。申請しようと思ったけれども,いろいろ聞いてみたら,担当者に聞いたり北海道の方に聞いたりしたら,もうこれはちょっと通常にはできないということで諦めました。
最後の質問になりますが,武田先生としては日本の大麻規制についてどのようなお考えをお持ちですか。
法律のほうは,私は専門外で知らないんですけども,やっぱりまず科学的に合理性のある法律でなければ,私なんかは特にだめで,魔女狩りみたいな感じになってしまうので,犯罪を誘発するような気がいたします。したがって,少なくとも大麻という植物を規制するんではなくて,大麻というのはカンナピノールがゼロの大麻って結構多いですから,つまりノンアルコールビルを飲んだら酒酔い運転で逮捕されるというような感じになりますので,カンナピノールの測定は非常に簡単ですから,法律を変えるのは難しいかもしれませんが,やっぱり薬物で規制してもらいたいというのがまず1つです。そうしないと,もう議論が非常に難しい。2つ目は,相当こういったものは民族性が高いので,日本ぐらいの大きな国で科学技術が発達している国であれば,やっぱり日本人に対するいろんな影響というのを多方面からすること,これが2つ目です。3つ目は,私が麻薬何とかセンターに問い合わせたときの感じなんですが,国民に対して全く説明する気がないという,それはちょっと私は何か民主主義じゃないなと,法治国家じゃないなという感じがいたしますが,これは科学者としての見解ですので,法律から見ればまた違うかもしれません。
(弁護側訊問了)
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