CBDの薬物間相互作用:シトクロムP450の役割

投稿日時 2016-03-14 | カテゴリ: プロジェクトCBD

By Adrian Devitt-Lee on September 08, 2015

カンナビジオール(CBD)が医薬品、栄養補助製剤、漢方薬などとして広く市販されようとしている中、医学界では、CBD・薬物間相互作用について細かく調査されている。

CBDは、安全で陶酔感をもたらさず、大きな治療特性を持ち、中毒性のない大麻の成分であるが、CBD・薬物間相互作用は、場合によっては問題になる可能性がある。

CBDと他の大麻成分は、肝臓の酵素ファミリー、シトクロムP450(CYP)の活性を抑制することによって、多くの医薬品と相互作用する。CYPは、肝臓内の極めて重要な酵素群で、現在市販されている60%以上の医薬品の他、私たちが使用するほとんどの薬物を代謝する。

CBDは、服用量が十分であれば、CYP酵素を一時的に不活性化するが、それによって、大麻特有の酩酊感(ハイ)をもたらすテトラヒドロカンナビノール(THC)など、さまざまな化合物をどのように代謝するかが変わる。


THCの代謝
THCや他の異物は、体内に入ると代謝される。代謝のプロセスは一般的に非常に複雑である。代謝には、身体が化合物の(ある物質を添加することによる)排出できるよう複数の分子経路やさまざまな酵素が関わっている。つまり代謝は、大にして、身体が使用する基本分子への分解を伴うものだ。

ある薬物の代謝による生成物は、その代謝物と呼ばれる。代謝物には、元々の薬物の特性とは非常に異なるという性質がある。例えばエタノールは、2段階の代謝によって、酔いなどの効果をもたらす。肝臓内のアセトアルデヒドの増加(エタノールはまずアセトアルデヒドに、その後酢酸に変化する)は、エタノールの肝臓毒性や、過剰摂取による吐き気や嘔吐の主な原因である。

THC代謝物は、大麻の使用効果の大部分を占めている。例えば、11-ヒドロキシ-THC(11-OH-THC)は、脳内のCB1カンナビノイド受容体を活性化するTHC代謝物で、THCそのものよりも強力に「ハイ」を引き起こす。つまり体内でTHCが代謝されると効果がより強力になるのだ。

CYP酵素は、薬物を酸化することで、薬物の代謝に関わる。酸化とは一般的に、薬物の分子構造に酸素原子を取り込むことである。酸化により、通常化合物は水溶性が高くなり、肝臓にろ過されやすくなる。上記、エタノールの代謝における2段階のプロセスも、THCが11-OH-THCに変換されるプロセスも、(厳密には、エタノールはCYPによって酸化しないが)ともに酸化を伴っているのだ。

カンナビノイドの投与経路が異なると、その効果も異なる。THCは、吸入されると肺の毛細血管に入り、肺動脈を介して全身に循環され、そして、すぐに血液脳関門を通過する。しかし、経口で摂取された場合は、小腸で吸収され、肝臓に運ばれ、そこでCYP2CやCYP3A酵素といったCYPのサブクラスによって代謝される。

CYP2CやCYP3Aはまた、CBDを代謝し、7-OH-CBDや6-OH-CBDなどに変換する。しかし、そのようなCBD代謝物についてはこれまで、相対的にほとんど研究がなされていない。

CBDの代謝
CBDがCYPとどのように相互作用するかは、極めて重要である。基本的にこの2つは互いに不活性化しあう。ある前臨床研究によると、CBDは、同じ「拮抗阻害剤」として機能しながらも、CYPに代謝されることがわかっている。CBDは、酵素活性の部位を占有することで、競合の化合物を退去させ、CYPによる他の化合物の代謝を妨害する。

CBDがCYPの拮抗阻害剤として作用する程度は、酸化の前後にCBDが代謝酵素の活性部位と結合する程度に依存する。その結合の程度は、CBDの投与方法(または量)やCBDを摂取する個人の特性、CBDが単分子か大麻草由来かという点など次第で大きく異なる。

CBDの服用量が十分に低い場合は、CYP活性に注目に価する効果はないが、他の効果を発揮する場合がある。CBDの用量には、CBDが他の薬物と相互作用しなくなる明確なカットオフ値はない。GW製薬のサティベックス(大麻草から抽出した高CBDの舌下スプレー)を使用した、2013年の臨床試験の報告では、約40mgのCBDを投与してもCYP酵素との相互作用は見られなかった。しかし、その後の臨床試験では、25mgのCBDを経口投与すると、抗てんかん薬の代謝が大幅に阻害されることがわかった。

CYP活性におけるCBDによる変化は、THCの代謝分解にどのように影響しているのだろうか? 動物実験では、CBDの前治療により、THCの脳内レベルが増加することがわかっている。その理由は、CYPの拮抗阻害剤として機能するCBDにより、THCの、11-OH-THCへの変換が遅れるためである。その結果、THCの活性は長期にわたって継続するが、CBDの影響で、拡張された酩酊感のピークが鈍化するのである。

THCによる「ハイ」を軽減する、または中和させるCBDの効力には、他の要因もある。

グレープフルーツと大麻
カリフォルニア大学サンフランシスコ校の薬理学研究員レスター・ボルンハイムは、CBDの代謝に関する初期研究者の一人であった。ボルンハイム氏は1987年、CYP酵素に対する植物性カンナビノイドの影響に関する研究のために米国薬物乱用研究所(NIDA)の助成金を授受する。その後、THCとカンナビノール(CBN)もCYP活性を抑制するが、研究対象となったカンナビノイドの中でもCBDが最も強力にCYPを不活性化することを発見した。

同氏は次のように指摘している。「シトクロムP450は、珍しい酵素である。他の酵素は、ほとんど全てがひとつの基質に適合し、ひとつの生成物を生むひとつの化学プロセスを行なうように設計されている」。一方で、多くの薬物がCYPの基質になっている。CYPは、さまざまな内因性および外因性の物質に対して汎用の分解装置のような機能を果たすと考えられるのだ。

同氏は1999年、国際カンナビノイド研究学会(ICRS)の年次集会で演説し、CBDが多くの薬物の代謝を阻害する可能性に参加者の関心を引いた。その1年前には、カナダ人科学者らがCYP酵素の活性発現を抑制する化合物をグレープフルーツ中に発見していた(医師の多くが患者に、薬物を摂取する前にグレープフルーツを食べないよう警告するのはそのためだ)。CBDは、グレープフルーツに含まれる化合物、ベルガプテン(CYPを抑制する数種の成分の中でも最も強力な成分)よりも強力にCYP酵素を抑制することがわかっている。

このことは、例えばワルファリンのような処方の抗凝血剤を摂取する、高CBD治療中の医療大麻患者にとって、実際のところ何を意味するのだろうか? CBDは、ワルファリンの酵素分解を減少させることによって、その効果と活性の期間を増加させる。高CBD製品を摂取している人は、ワルファリンの血中濃度に注意し、医師の指導のとおりに容量を調整すべきなのである。

がんとてんかん
がん治療には、化学療法の正確な投薬量が極めて重要である。医師は大抵、破滅的なほど有毒にならないような最大限の投薬量を見極めるのに苦労するものだ。化学療法薬剤の多くは、不活性化または排泄の前にCYPに酸化される。これは、同程度の化学療法でも、CBDを使用している患者は、薬剤の血中濃度がより高くなることを意味する。もし、CBDがシトクロムによる化学療法の代謝を抑制し、投与量の調整が行なわれないならば、化学療法薬剤は非常に有毒なレベルまで体内に蓄積する可能性があるのだ。

しかし、化学療法による副作用の苦痛に対処するために大麻を使用するがん患者の間に、カンナビノイドと薬剤の有害な薬物相互作用があったという報告はほとんどないのが実状である。補完的な相乗効果を豊富に持つ天然の大麻草がもたらす作用は、大抵の研究の場で投与される単離CBDとは異なる可能性がある。また、大麻の細胞保護作用は、化学療法の毒性の一部を軽減する可能性もある。

てんかん患者の中には、CBDと、摂取中の抗けいれん薬との相互作用の仕方に関する問題に直面した人々がいる。マサチューセッツ総合病院における難治性てんかんの小児を対象にした小規模な臨床試験では、CBDが、抗けいれん薬クロバザムとその活性代謝物ノルクロバザムの長期的な血中濃度を上昇させ、血漿濃度を増加させることが判明した。対象となった児童らの大多数は、副作用により、クロバザムの服用量を減らす必要があった。クロバザムとCBDがともにCYPに代謝されることを考えると、薬物・薬物相互作用があっても驚くにあたらない。2015年5月に公表された研究では、「CBDは、クロバザムを処方されている難治性てんかん患者にとって、安全で効果的な治療法である」と結論された。しかし同時に、CBDとクロバザムを使用している患者において、クロバザムとノルクロバザムの血中濃度を監視する重要性が強調された。

ボニ・ゴールドスタイン博士は、高CBD・低THCの濃縮大麻オイルを少量服用すると、発作性疾患を鎮めるよりもむしろ悪化させるような症例を観察している。よく知られるCBDの抗てんかん特性を考えると、これはどのように起こるのだろうか。

レスター・ボルンハイム博士と共同研究者による1992年のレビューでは、CBDが、抗てんかん作用をもたらすのに必要な量よりも少ない量の服用で、CYP酵素を抑制することがわかっている。このことは、ある量のCBDの服用は、患者が摂取する抗てんかん薬の作用を変化させるが、その量では抗てんかん作用自体をもたらすのに十分でない場合があることを意味する。この場合に医師が行なう忠告は、「CBDの服用量を増やすように、またはTHC(または、精神作用のない生のTHCであるTHCA)を少量追加するように。そうすればてんかん抑制の効果が高まります」というものだが、それは直観とは相いれないように思える。

謎めいた酵素
しかし、抗てんかん薬の分解を阻害すると、その効果が減少するのはなぜだろうか。理由は、その薬剤に依存し、多くの答えが考えられる。抗てんかん薬の有効成分(抗てんかん効果をもたらす化学物質)は、実際摂取する抗てんかん薬の分解産物であると考えられる。よって、CBDは元の薬剤の代謝を鈍化させることで、その薬剤の活性を低下させるのだ。

他の解釈も考えられる。例えば、ある特定のCYPの活動が抑制された場合、その薬剤は、他の代謝経路によって分解され、その後、代謝産物は、その薬剤の活性を阻害する可能性がある。つまり、CYPの抑制はおそらく、CBDが抗てんかん薬と相互作用する主な方法ではない。

問題をさらに複雑にすることには、ノバ・スコシアで行なわれた2015年国際カンナビノイド研究学会年次会議でのワタナベ・カズヒト博士による発表の中で、CBDがCYP酵素を「誘因する」(つまり活性を増強する)場合があるという予備的証拠が公開された。(タンパク質の誘因は、対応するmRNAの転写の増加に関係しており、結果的にタンパク質の合成増加をもたらす。)このことから、CBDは、他の薬物の分解を増加または減少させる可能性があることがわかる。ここでも、増加させるか減少させるかは、薬物や、その使用量によって変わる。

CBDの治療効能を期待して、いかなる医薬品、栄養補助食品、他の大麻製品を使用する際にも、CBDが、肝臓中のさまざまなシトクロムP450酵素を不活性化もするし、増強もする(そして、それはさまざまな医薬品に影響する可能性がある)という事実を考慮に入れておかなければならない。薬物間相互作用については、生命や判断力を保つ薬物、治療域が狭い薬物、または重大なマイナスの副作用を伴う薬物を使用する際には、特に考慮することが重要である。とりわけ、CBD濃縮物や単離CBDを高用量で利用する人々は、他の治療法を併用する場合、このことを気に留めておくべきである。

Source: Project CBD
CBD-Drug Interactions: Role of Cytochrome P450

翻訳とコメント:なみ
多くの薬物、サプリにもあることでしょうが、いくら安全なCBDとは言え、併用する薬剤次第では注意が必要とのことです。このような研究も含め、日本も独自にカンナビノイド、天然の大麻についての臨床試験を進めていくべきです。その手枷、足枷になっているのは、厚労省マトリ当局の時代遅れの認識なのではないでしょうか。危険ドラッグの蔓延、大麻逮捕者の若年齢化など問題も、そのような認識によるものです。そのことは欧米の統計を見ても明らかです。お役人さんには、視野を広く持って、個々で物の良し悪しを冷静に考えてみていただきたいものです。





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