第12回公判 弁論要旨(1)-違法収集証拠

投稿日時 2016-02-12 | カテゴリ: 白坂裁判

第12回公判 弁論-違法収集証拠



平成25年(わ)第149号 大麻取締法違反被告事件
被告人 白坂和彦

弁論要旨
平成28年2月12日

長野地方裁判所 松本支部 刑事部 御中

弁護人 細江 智洋

上記被告人に対する大麻取締法違反被告事件について,弁論の要旨は次のとおりである。

第1 総論

1 本件について,被告人は公訴事実を認めており,弁護人も争わない。

2 しかし,検察官請求証拠の一部は違法収集証拠として排除され,補強証拠がなく,犯罪の証明を欠く。

また,大麻取締法3条1項,4条1項2号3号,24条1項,24条の2第1項は違憲無効である。

したがって,被告人は無罪である。

3 さらに,仮に被告人が有罪であるとしても,大麻取締法による規制の合理性に疑いがあること等,被告人に酌むべき有利な事情があるので,寛大な判決を求める。

第2 違法収集証拠

1 総論
被告人は,平成25年9月29日午前10時過ぎから午後9時近くまで,約10時間以上も令状なく身体拘束をされ,警察官が関係者の供述を元に同日午後6時59分に被告人方の捜索差押令状を請求し,同日午後7時42分に被告人方の捜索差押令状が発付され,同日午後9時17分に被告人方で消防署員を立ち会わせて捜索が開始された。

被告人方で行われた捜索によって発見された大麻を元に,被告人が現行犯人逮捕され,その後発見された大麻の差押えがされた。

捜査機関は,被告人に対する逮捕要件がないにも拘わらず,被告人方の捜索によって大麻を発見し被告人を現行犯人逮捕する目的で,被告人方の捜索を開始するまで,違法に被告人の身体を拘束していたものである。

したがって,被告人方で行われた一連の押収手続には,違法な身体拘束を直接利用したものとして,令状主義の精神を没却するような重大な違法があり,違法捜査抑制の見地からもこれら一連の手続きによって得られた証拠物及びその証拠と密接不可分の関係にある証拠はいずれも証拠能力を有せず,証拠から排除すべきである。

2 本件の捜査経緯
(1)平成25年9月28日の夜に,天平の森で大麻パーティーがあるとの匿名通報があり(太田5頁,山田1頁),捜査機関が警察官を派遣して視察をすると,音楽が掛かっており,施設の中で証明がついていて,お香の臭いがあったとの報告を受け(山田2頁),自動車ナンバーの照会から,参加者に大麻取締法違反生前科のある被告人と桂川直文がパーティー会場にいるであろうことが判明した(山田2頁,)。

そして,翌29日の午前5時8分には,施設への照会で,イベントの申込団体が大麻報道センターであり,主催者が被告人であることも判明した(弁46,山田2頁,20頁)。

同日の朝方には,警察官らが捜査のために安曇野警察署に集まり(太田2,山田21頁),事前の情報として,大麻パーティーの主催者が被告人と桂川直文ではないか(太田2~3)ということ,両名に大麻取締法違反の前科があること,両名の車の車種,ナンバーなどを共有した(山田21頁)。それにより捜査官は,被告人が,大麻の信教者,大麻の崇拝者であると認識した(太田5頁,27頁)。

平成25年9月29日午前7時40分ころから同日午前7時45分にかけて,小谷警察官は,インターネットでイベントのホームページを確認した(弁47,山田21頁)。

被告人は,このイベントに関して,松本駅周辺などでビラまきをしたが,そのビラには,禁制品などは持ち込まないこと,大麻の譲渡の申し込みは断る旨記載していた(被告人質問2頁)。

また,イベントを告知するインターネット上のイベント告知では,危険ドラッグを処分して二度とやらないと誓おうと呼びかけ,実際にイベントで危険ドラッグを燃やした参加者もいた。

平成25年9月29日午前10時過ぎ頃,イベントの片付けのための一輪車を借りに友人宅へ向って山道を降りていたが,途中で対面するようにパトカーが止まっており,助手席の警察官が手元を見て被告人車両のナンバーと照合した(被告人質問3頁,太田5頁)。

被告人はそのパトカーの前を通り過ぎ,山道を抜けてから,警察車両が1度サイレンを鳴らして「フォレスターの運転手さん,止まってください」と車載マイクから停止を呼びかけられ,被告人は一体なんだと思い車両を停止した(被告人質問2,3頁)。

被告人が停車した位置は,安曇野市明科中川手4590番地12南方の路上であり,県道矢室明科線を下って分岐のある少し先の位置であった(被告人質問3,4頁,62頁,弁55)。被告人調書添付の図面(被告人質問62頁)のAの位置が被告人であり,Pの位置が警察車両である。

警察車両から降りてきた警察官が,被告人に対して被告人車両の窓越しに「スピード出し過ぎですよ」などと話しかけため,被告人は,「スピードは出していませんけど,何キロ出していたんですか」と聞き返した(被告人質問,太田30頁)。そうすると,警察官は,スピードはわからないが,明らかに出ていたと言って,運転免許証の提示を要求した(被告人質問4頁)。

被告人は,任意捜査であれば運転免許証は見せないと答え,警察官はどこに向かっているのかを質問し,被告人は最初は答える必要がないと言って断っていたが,警察官が窓越しに執拗に聞いてくるため,被告人は行く先を伝えないと立ち去ることができないと考え,友人宅へ行くので立ち去りたい旨申し出た(太田10頁)。

すると,警察官は,所持品検査に応じるか,被告人車両内を検索させて欲しい旨,被告人に申し向けた(被告人質問4,5頁)。また,被告人は,2時間経過したら任意捜査ではないという趣旨を警察官に伝えた(被告人質問,太田15頁)。

被告人は,捜索差押令状がない限り応じないと明確に拒否の意思表示をしたが,警察官はなお,所持品検査及び車両内の検索を要求し続けた。その後被告人は運転免許証の提示には応じた。

なお,同日午前10時50分には,職務質問の現場の警察官から,捜査の指揮をしていた山田警察官に,職務質問の状況の報告がされている(弁48)。そこには,「2時間以上この状況を続けることは認めません」などと被告人が話している旨,明確に報告されている。

被告人は,知り合いの弁護士に電話をし,警察官が身柄を解放してくれないので立ち去らせてもらえるように警察官を説得することを依頼し,警察官と話をしてもらった(被告人質問6頁,宮坂9頁)。その弁護士は,任意なら立ち去るように被告人に助言したが結局被告人は立ち去ることができなかった。

被告人が警察官に呼び止められた後,最初は被告人車両の脇に警察官一人,被告人車両の前に警察官が一人立っていたが,その後午前11時頃には,数名警察官が増え,被告人車両は5名の警察官に取り囲まれるようになり,車両を発進させることができない状態で留め置かれることとなった。

その際の位置関係は被告人調書68頁に添付の図面の通りである。当初いた警察官2名の位置が丸印で,増員された警察官の位置が三角印である。途中で,被告人車両の後ろに止まっていた警察車両は,脇道に移動し,被告人質問調書62頁のP2の位置に移動した。

この点,宮坂雄一郎は,職務質問の現場に4名で行き(宮坂4頁),乗ってきた車両は脇道にとめ,当初来た車両がどこに止めてあったか覚えていないものの,交通整理をしていた中野警察官及び岩下警察官の位置関係は数メートル離れ(岩下5頁,40頁図面),宮澤警察官と斉藤警察官はさらに離れた位置で交通整理をしていたと証言している,

太田調書43頁図面,太田証人は捜査車両をどこに止めたかわからないと証言したが(太田33頁),岩下竜也証人は脇道に駐車したと証言(岩下4頁,18頁図面)し,岩下警察官は,被告人車両の後方で交通整理をしていたと証言している。

被告人の自動車を中心として警察官が交通整理をしていたことと,被告人車両のすぐわきに警察官がおり,警察官は被告人の顔を覗き込むようにしてまだ行かないようにと話していたため,被告人車両を発進することができなかった。無理に発進させれば,警察官に衝突したような状況であった(被告人調書8頁)。

被告人は,免許証の提示も,所持品検査も断っており,当然車両を発進させることができれば立ち去っていたが,発進させることはできなかったのである。

なお,太田証人は,捜査員は,被告人車両のナンバーを確認するなどのときに被告人車両のまえに時々立ったことはあると思うが,車の前にあえて立つということはなかった(太田13頁)と証言するが,結局,被告人はそのような状況ですぐに発進することはできない。

一人の警察官は,もういいんじゃないかなどと言って,被告人を立ち去らせようとしたが,他の一人の警察官が,県外に出られるとまずいなどと言って,結局被告人は立ち去ることができなかった(被告人質問9頁)。

警察官は被告人に対して,その場を立ち去るならば,被告人車両に警察官を乗せていくように,要請したが,被告人は断った。

(2)その後も被告人は,警察官に対してその場から立ち去ることを繰り返し要求したが,一向に警察官は応じず,被告人車両の発進ができない状態のまま留め置かれた。

そして,同日午後1時過ぎ頃になって,交流センターの管理者が被告人に対して施設使用料の支払を求めていること,交流センターの片づけをする必要があったことに加えて,イベントの会場で大麻のようなものが発見されたと警察官から聞いたことから,責任者として確認する必要もあるため,交流センターに戻ることとなった(被告人質問9,10頁)。

その際,警察官は,被告人に対して,警察官を被告人車両に乗せるように要請したが,被告人は,その要求を断り,被告人車両で交流センターへ向かうこととした。

被告人が交流センターへ向かうときには,警察車両1台が被告人車両に先行して会場へ向かい,別の警察車両1台が被告人車両のすぐ後ろから追尾した。

(3)被告人が交流センターの駐車場に到着すると,すでに7,8人の警察官がおり,被告人が車両を停止して車両から降りると,その場にいた警察官のうちの一人が,被告人の所持品検査と被告人車両内の検索をさせてほしい旨要求した。

被告人は,被告人がすでに7,8人の警察官に取り囲まれており,拒絶し続ければ交流センターの片づけや支払いができなくなるため,イベントの責任者としての立場上,やむを得ず所持品検査等に応じた(被告人質問11頁)。

午後1時30分頃,被告人は,所持品を全て警察官に見せるとともに,警察官によるボディチェックを受けた。また,警察官は,被告人車両内を,ダッシュボード内,シート下など,隅々まで検索した。このとき,大麻は発見されなかった(被告人質問11頁)。

(4)警察官が被告人に対して,交流センター内の集会所に大麻のようなものがあるので確認をしてほしいと依頼したため,被告人は,主催者としての責任があるため,集会所へ赴いた(被告人質問12頁)。集会所へ向かうときには,席警察官が被告人を先導し,その他の3,4名の警察官が被告人を取り囲むような形で,逃げられないような形になっていた。

集会所では,被告人は発見された大麻のようなものを確認したが,被告人のものではなかった上,だれのものかは分からなかった(被告人質問12頁)。

(5)警察官は,被告人に対して,事情聴取のため安曇野警察署(以下,「警察署」という。)への任意同行を執拗に求めてきたものの,被告人としては,責任者としてイベントの片付けをする必要があったため,全てを片づけてから行くこと,事情聴取は後日にしてほしい旨繰り返し話したが,警察官は全く応じなかった(被告人質問12頁)。

このとき,集会所の建物内では,被告人のすぐそばに関警察官が常におり,出入り口近くに1,2名,その他に1,2名の警察官が動いており,被告人は,警察官を排除して建物から出ることができる状態ではなかった(被告人質問13,14頁)。なお,矢島証人は,集会所内には10名ほどの警察官がいたと証言している(矢島20頁)。

しかし,キャンプ場の方から,次のお客さんが来ると聞いたので,被告人は,とにかく次のお客さんが入れるような状況だけはつくらないといけないと考え,それを警察官に話したところ,4,5名の警察官が一緒にキャンプ場に移動することになった(被告人質問13頁)。

被告人はそれからキャンプ場の荷物を片付けたが,その際も,警察官の要求により,全て所持品検査をされたが,大麻は発見されなかった。このときも,被告人は5名の警察官に取り囲まれていた。

そして,まだイベント会場で片づけを継続する必要があったが,警察官が,すでに会場で大麻が発見されており,会場の責任者としてすぐに事情聴取を受けて欲しいと執拗に説得したため,被告人は片づけを続けるために明るいうちに会場へ戻ることを条件として,警察署へ行くこととなった(被告人質問15頁)。

(6)被告人は,同日午後3時頃,交流センターを出発し,警察車両が被告人車両を先導し,別の警察車両が被告人車両を後続する形で,被告人は警察署へ向かった(被告人質問15頁)。途中,被告人は用を足すためにコンビニエンスストアに寄ったが,その際にも警察車両1台が被告人車両近くに駐車し,もう一台の警察車両は駐車場の出入り口付近に駐車し(被告人質問16頁),被告人の動静を監視するような配置であった。

そして,被告人がコンビニエンスストアのトイレに入ると,警察官がトイレの入り口のところまで追ってきて,被告人を監視し続けた(被告人質問16頁)。この点,宮坂証人は,被告人がトイレの方に入っていったため店外に出て車に戻ったと証言するが(宮坂16頁),宮坂証人は,店内で何かされてもいけないと思って店内まで入ったと言っており,そうであれば,通常,トイレの窓から逃げたりしないようにトイレの前まで確認をするはずである。被告人の,トイレから出てきたら宮坂証人がいたとの供述が信用できる。

(6)同日午後4時前に被告人が警察署へ到着し,駐車すると,そのまま取調室へ行き,すぐに取調べが開始された(被告人質問16頁)。

なお,同日午後4時30分から同日午後4時45分頃までの間に,警察官が被告人の自宅を視察に行っている(弁49,山田30頁)。捜査を指揮していた山田警察官は,●●兄弟の供述内容から,自宅に大麻が置かれていることが推認でき,後々自宅に対して捜索差押をしなければならないと考えて視察を指示したと証言している(山田30頁)。もっとも,山田証人は,●●●●が被告人宅で大麻を吸ったことがあるという供述をしていない段階でも,後々被告人宅を捜索差押する必要性が想定できたため,視察の指示をしただろうという趣旨を述べている(山田31,32頁)。

取調室での被告人と取調を担当した関警察官の位置関係は,被告人質問調書63頁の図面の通りである。取調室は,奥行きが約4メートルで,幅が2メートルくらいの長方形の部屋であり,中央に机があり,机の幅が1メートル,奥行きが70センチくらいである。机のわきの通り抜けるスペースは両脇がそれぞれ40センチを若干上回るくらいであった(被告人質問16,17頁)。

なお,被告人質問調書では,被告人が机の幅が3メートルくらいだと話しているが,机の幅と,机の両脇のスペースについては,被告人が書いた図面と比較すれば被告人の記憶の通りであると考えるのが自然であるため,取調室の幅は,3メートルではなく,2メートルだったと考えられる。

取調が始まる際には,被告人は関警察官に対して,明るいうちにはキャンプ場に帰ると伝えた(被告人質問17頁)。

被告人調書は乙2と乙3の2通を作成したが,重複する内容を含んでいることと,イベント開催の経緯や,イベントの内容について作成されており,どうしてもその日のうちに作成しなければならないようなものではない。

被告人の取調べでは,同日午後6時頃,交流センターの管理者が警察署へ来て,片づけと,支払いをして欲しい旨伝えに来た。すでに1通目の調書の作成は終わっており,被告人はすでに必要なことは話したことから,取調官に対して繰り返し帰る旨伝えたが,取調官はまだ調書が書き終わっていないから困る,警察署に残るように説得を続けた(被告人質問18頁)。関警察官は,1通目の調書を作成した後に,山田課長や中川課長に報告をし,その際,●●が被告人の居宅で大麻を吸ったことがあると供述し,被告人宅の捜索差押令状を請求するという話を聞いた(関18頁)。

被告人は,午後6時頃には,午後7時頃に帰る旨伝えたが,午後7時頃になると,取調官から執拗に警察署に残るように説得され,再度午後8時頃には帰る旨明確に告げた。そして,その間同じようなことを繰り返し聞かれていた。被告人は,後日に調書を作成すればいいと申し出たが,説得を続けた理由として関警察官は,まだ調書が作成中であり,次回であればまた同じくらいの時間をかけてしまうのも申し訳なかったと(関39頁),被告人の申出にも拘わらず,不合理な理由で説得を続けていた。

取調べ中に,被告人は捜査官からタバコ休憩を勧められたが,被告人は取調べを早く終わらせて帰りたかったので断った。しかし,取調官が再度タバコ休憩を勧めるため,被告人は取調官がタバコ休憩を取りたいのかと思い,タバコ休憩に取調官とともに行ったが,取調官は非喫煙者だと言って喫煙しなかった(被告人質問18頁)。被告人は休憩のために喫煙にいったにもかかわらず,関警察官は,話の続きをするために同行したと証言している(関40頁)。

午後8時過ぎになると,再度取調官は被告人に警察署に残るように説得を続けたが,被告人は,取調官から同じことを繰り返し聞かれていたこともあり,取調室を出た(被告人質問19頁)。

この時,取調官は取調室の入り口に立ちはだかり,被告人の自宅の捜索差押令状が出ているため立ち会ってほしい旨を伝えて被告人の退出を阻止しようとしたため,被告人は再度退出する意思を伝えた(被告人質問20頁)。そうすると,取調官は,取調室の外にいる警察官らに向かって,被告人が帰ってしまう旨伝え,別の警察官が被告人を追い,捜索差押令状が出ているため立ち会うようにと声を掛けてきた。

被告人が取調室を出ようとした際の被告人と関警察官の位置関係は,被告人質問調書63頁の各矢印の先の位置である。関警察官が動かなければ,被告人は取調室から退出できない状態だった。この点,関警察官の証人尋問調書65頁添付の図面では,被告人は自由に退出できるような位置関係に取られるが,これは実態と異なる。関警察官は,立ちはだかってはいないが,立ち上がって被告人に近づくように移動したこと,被告人とドアの進路上に立っているかもしれないと証言しており(関52頁),取調室の構造からすれば立ちはだかっていることは明らかである。

被告人は警察署の駐車場へ出て,被告人車両に乗車したが,被告人を追ってきた警察官の他に,4,5人の警察官が警察署建物から駐車場に出てきて,そのまま被告人車両が取り囲まれ,捜索差押に立ち会うように申し向けられた(被告人質問21頁)。被告人は明確に拒否したが,その後も警察官らは,繰り返し捜索に立ち会うことと,立ち去るなら警察官を被告人車両に同乗させるようにと申し向け,被告人をその駐車場に留め置いた。

被告人車両の脇に警察官が複数おり,被告人が気が付くと,被告人車両のすぐ後ろにワゴンタイプの警察車両が駐車してあったこともあり,被告人は被告人車両を発進させることができなかった(被告人質問22頁)。一人の警察官が,被告人車両の窓越しに被告人宅の捜索差押令状を示して,令状を見せるだけだと言いながら,捜索差押に立ち会うように申し向け,説得を試みた。このときの警察官の位置と,警察車両の位置を図示したものが被告人質問調書64頁の図面である。

この点,関証人の尋問調書63,64頁添付の写真では,捜査車両が実際よりも被告人の車両と離れて位置している。仮に実態がこの写真の通りであったとしても,被告人車両を出すためには左後方に向けてバックをしてから,切り返しが必要となるが,警察官が4,5名も窓越しにいる状態でそのような運転ができるはずがない。なお,この写真は,撮影者は不明,撮影の経緯も不明,撮影日も正確にはわからないものであり(関44頁),被告人は立ち会っていない(関45)。通常,任意同行時に任意同行の再現を作成しないことからすれば,被告人が違法捜査の主張をしていることに対応してわざわざ作成したものと考えられる。

また,矢島証人は,警察署の駐車場では,被告人車両の運転席側に,4,5人の警察官が集まっていたと証言している(矢島25頁)。

午後9時前くらいになり,警察官らは,急に被告人車両の後ろに停車していた警察車両を移動させ,その車両は警察署から出て行った(被告人質問調書23頁)。また,被告人を取り囲んでいた警察官らも立ち去った。そのため,被告人は被告人車両を発進させた。その際,警察車両が被告人車両を尾行し,被告人が自宅に戻るまで,警察車両が尾行を続けた(被告人質問24頁)。

(8)被告人は,同日午後11時過ぎに自宅へ戻り,捜索差押に立ち会った上,平成26年9月30日午前1時19分に大麻取締法違反の現行犯人として逮捕された。

3 捜査機関による被告人方の捜索差押
(1)警察官は,平成26年9月29日午後6時59分に,●●●●の供述を元に被告人方の捜索差押令状の請求をし,同日午後7時42分に令状が発付され,同日午後8時5分には,警察署へ令状が到着した。

(2)同日午後8時27分頃,捜査機関は警察官を被告人方へ向かわせた。

(3)警察官は,同日午後8時43分頃から同日午後8時45分ころに被告人方へ到着した。

(4)捜査機関は,同日午後8時56分に,被告人方の捜索差押への消防署職員の立会いを消防署へ依頼した。

(5)同日午後9時17分頃,捜査機関が被告人方の捜索を開始した。

(6)同日午後9時28分頃,寝室内の事務机上に,乾燥大麻様の植物片が発見された。

4 捜査の違法
(1)職務質問の違法
被告人は,同日9月29日の午前10時過ぎ頃より,同日午後1時過ぎまでの3時間余り,路上で警察官に取り囲まれ,明確に所持品検査や任意同行について拒絶の意思を示しているにも拘わらず,現場にとどめ置かれた。

その後も数人の警察官が取り囲んだまま,現場を移動するなどし,被告人が所持品検査に応じた後も午後3時頃に任意同行を開始するまで,警察官らが被告人に対して任意同行の説得を続けた。

その間,午後1時半頃からやむを得ず被告人が応じた所持品検査等ではいずれも大麻は発見されず,被告人による大麻所持の嫌疑はなくなっていた。

このように,職務質問の開始から被告人の任意同行に至るまで,約5時間に渡り被告人を現場に留め置いた措置は,任意捜査として許容される範囲を逸脱したものであり,違法である。

(2)任意同行の違法
捜査機関は,同日9月29日午後3時頃から被告人に対する任意同行を開始したが,上記の通り違法な職務質問に続いたものである上,被告人にとって出頭を拒否することは事実上不可能であった。

そして,被告人が警察署に到着すると直ちに取調べが開始され,被告人は朝から何も食べていなかったにも拘わらず,食事もなく,一度捜査官の誘導によりタバコ休憩に行ったほかは,被告人が取調室を退出する午後8時過ぎまで断続的に取調べが続いた。その間,被告人がタバコ休憩に行く際にも非喫煙者である取調官が同行し,被告人は常時監視されていた。

被告人は,同日午後6時頃及び同日午後7時頃など,繰り返し帰りたい旨取調官に申し出たが,取調官は執拗に警察署に残るように説得し,被告人は事実上取調べを拒否できなかった。

午後8時過ぎに被告人が取調室から出ようとしたときにも,取調官が入口に立ちはだかった上,他の警察官が被告人の元に集まるなど,被告人の自由は奪われていた。被告人が警察署の駐車場に出ると,警察車両によって被告人車両が発進できない状態になっており,被告人が車両に乗車しても,警察官は警察車両を移動することなく,被告人に捜索差押に同行するように説得を続け,被告人車両の移動を許さなかった。

他方,警察署では,●●●希の取調べもされており,同人が被告人の大麻所持に関する供述をしたことから,捜査機関は被告人方の捜索差押令状を請求することとして,午後8時過ぎには令状が警察署へ到着していた。

このように,違法な職務質問に続いて行われた任意同行は,その後の取調べの経過及び,被告人に対して大麻所持の疑いを有していた捜査機関が,被告人方の捜索差押の実効性を確保するために,警察署に留め置いていたことも考慮すれば,実質的には逮捕にあたり,違法である。

(3)違法収集証拠
上記(1)(2)より,被告人は午前10時過ぎより午後9時近くまで,約10時間以上に渡り違法な身体拘束を受けていたといえ,これらの身体拘束は,結局逮捕要件を満たさない被告人を逮捕するために,被告人方より大麻を発見するまで被告人を警察官の監視下におき,被告人方の捜索差押の実効性を確保することが目的だったといえる。

したがって,被告人方で行われた一連の押収手続には,違法な身体拘束を直接利用したものとして,令状主義の精神を没却するような重大な違法があり,違法捜査抑制の見地からもこれら一連の手続きによって得られた証拠物及びその証拠と密接不可分の関係にある証拠はいずれも証拠能力を有せず,証拠から排除すべきである。

(4)以上より,甲3,甲4,甲5,甲6,甲8,甲16,甲19,甲20はいずれも証拠能力を有せず,被告人は無罪である。





大麻報道センターにて更に多くのニュース記事をよむことができます
http://asayake.jp

このニュース記事が掲載されているURL:
http://asayake.jp/modules/report/index.php?page=article&storyid=3555