第12回公判 弁論要旨(2)-大麻取締法の違憲性

投稿日時 2016-02-12 | カテゴリ: 白坂裁判

第12回公判 弁論-大麻取締法の違憲性



第3 大麻取締法の違憲性―総論

1 緒論
(1)大麻取締法4条1項は,大麻から製造された医薬品を施用し,又は施用のため交付すること(2号),大麻から製造された医薬品の施用を受けること(3号)を絶対的に禁止する。これにより,大麻の医療利用(医療大麻)は一切禁止されている。医療大麻を一切禁止し,その栽培,所持を制限する大麻取締法4条1項2号3号,24条1項,24条の2第1項は,憲法13条,14条1項,25条,31条,36条に反し無効である。

(2)同法3条1項は,大麻取扱者でなければ大麻を所持し,栽培し,譲り受け,譲り渡し,又は研究のために使用することを禁じ,大麻取扱者であっても,大麻喫煙を目的として大麻を所持,栽培することは一切禁止されている。しかし,大麻には少なくとも懲役刑をもって罰するほどの害悪はなく,大麻喫煙を目的とする大麻の所持,栽培を制限する大麻取締法3条1項,24条1項,24条の2第1項は,憲法13条,14条1項,25条,31条,36条に反し無効である。

2 大麻使用の憲法上の権利性と合憲性審査について
大麻の嗜好目的の使用については,喫煙の自由が憲法13条で保障されるかどうか,一般的自由として保障されるのかどうか,人格的生存に不可欠な利益を内容とする権利として保証されるかどうかを問わず,少なくとも自己決定権の行使として憲法13条により保障される。

また,大麻の医療利用については,大麻の医療効果が認められる以上は,その効果を享受する患者の人格的生存に不可欠であるし,少なくとも自己決定権の行使として憲法13条により保障される。

したがって,大麻使用を法律により規制する場合には,その規制目的の正当性と規制手段の合理性を満たしていなければならない。規制目的の正当性と規制手段の合理性を判断するにあたっては,当然権利の重要性に応じてその厳格さに差は生じ,嗜好目的使用と医療利用とでは,後者の方がより厳格に合憲性を審査しなければならない。

以下,大麻の有害性が争点となった過去の累次の判例を挙げた上で,それらの問題点を指摘し,もはや大麻取締法が違憲であることに疑いがないことを論じる。

3 大麻取締法の違憲性に関する累次の判例について

(1)最高裁昭和60年9月10日(判時1165号183頁)
同判決は,弁護人による憲法違反の主張について,「憲法一三条,一四条,三一条,三六条違反をいうが,大麻が所論のいうように有害性がないとか有害性が極めて低いものであるとは認められないとした原判断は相当である」として,上告を棄却した。

同判決の控訴審である東京高裁昭和60年2月13日判決(公刊物未登載)は,「大麻が人体に有害であることは公知の事実であって,所論のように大麻に有害性がないとか有害性が極めて低いものとは認められない。そうすると,国が国民の福祉・衛生上の見地から大麻の輸出入,所持等につき規制を加え,これに違反した者に対し刑罰を以て臨むことも当然許されるのであり,これに対し如何なる刑罰を規定するかは,原則として立法政策の問題であると考えられるから,大麻取締法4条1号,24条2号は憲法31条,36条,13条,14条に違反するものではない」としている。

(2)最高裁昭和60年9月27日(裁判集240号351頁)
同判決は,弁護人の上告趣意について「大麻取締法の規定違憲をいう点は,大麻が人の心身に有害であるとした原判決の判断は相当である」として,上告を棄却した。

同判決の控訴審である東京高裁昭和60年5月23日判決(東高速報2795号)は,「大麻の有する薬理作用が人の心身に有害であることは,自然科学上の経験則に徴し否定できないところであり,その有害性にかんがみると,刑罰をもってその輸入行為を禁止することは,国民の保健衛生上の危害防止という重要な公共の利益を確保するため必要かつ合理的な措置であって,この点に関する立法府の判断は,その合理的裁量の範囲を超えるものということはできず,このことは累次の判例(東京高裁昭和五六年一二月三日第四刑事部判決及び同事件に関する最高裁昭和五七年九月一七日第二小法廷決定の趣旨,以上は刑集三六巻八号七六四頁登載,その他東京高裁昭和五六年六月一五日第三刑事部判決・刑裁月報一三巻六・七号四二六頁など参照)に照らしても疑いのないところである」と判断している。

なお,上記引用部分の「累次の判例」で引用する判決のうち,東京高裁昭和五六年一二月三日第四刑事部判決及び同事件に関する最高裁昭和五七年九月一七日第二小法廷決定は,主に大麻取締法1条にいう「大麻草(カンナビス,サテイバ,エル)」の意義が争点となってものであり,直接的に大麻の有害性が争点とはなっていない。しかしながら,上記東京高裁60年5月23日判決は,「東京高裁昭和五六年一二月三日第四刑事部判決及び同事件に関する最高裁昭和五七年九月一七日第二小法廷決定」の「趣旨」として,有害性を認めた判決との位置づけをしているが,このような同判決の態度からは,大麻の有害性は実質的に判断をするまでもなく,「公知の事実」であるかのように捉えているものと考えられる。

(3)東京高裁昭和53年9月11日判決(判タ369号424頁)
同判決は,「大麻が人体に有害であるかどうかの点について検討してみると,原判決がその点について詳細説示判断するところは首肯できるのであり,当審における事実調べの結果に徴しても大麻の少量の摂取が所論の如く心身の健康に無害であるとまで断ずるに足りる明白な証拠はない。
かえつて,当審における鑑定人兼証人植木昭和,同西岡五夫の各供述によれば,大麻は,通常,幻覚剤の範ちゆうに入る精神異常誘発物質であるテトラヒドロカンナビノール(THC)をその活性成分として含有し,人体に有害であるとの認識が科学者の間に一般的であり,THCを含む大麻(以下大麻というときにはこの意味で用いる)を摂取した場合,個体差や,摂取時の気分,環境,期待感等によつてその効果は異るけれども,比較的少量でも,視覚認識,時間感覚,距離感覚の変化,思考,感情の障害,被暗示性の増強,音感の鋭敏化等精神機能に障害が起り得ること,そのため自動車の運転が危険になること,大量摂取の場合には,通例,幻覚,錯覚,妄想等を主とする急性中毒症状が見られ,時には,せん妄,見当識障害,著明な意識のくもり等の中毒性精神病の様相を呈することがあり,感受性の強い人の場合には,大麻タバコ一本の吸煙というような少量の摂取の後にも,急性中毒類似の症状が起ること,大麻には耐性と軽度の精神的依存性があること,が認められ,原判決がその内容を摘記するWHOテクニカル・リポート・シリーズ四七八号「大麻の使用」(昭和五二年押第七〇二号の九)マリフアナ及び薬物濫用に関する国家委員会第一報告書「マリフアナ・誤解の兆」(同号の八)にも大麻使用の効果に関してほぼ同様の記載があり,以上によれば,大麻の薬理作用及びその人体に対する影響については,殊に長期摂取の場合の効果につき,未だ十分に解明されていず,むしろ今後の研究にまつべきところが多いが,その比較的少量の摂取によつても,前記のような複雑な精神機能の障害,自動車運転能力の低下が生じ得るし,更に,感受性の強い人の場合には,大量摂取の場合と同様の幻覚等を主とする急性中毒類似の症状が起ること,及び,大麻には耐性と軽度の精神的依存性のあることが認められる。
科学者の間にこのような共通の認識があり,大麻の少量の摂取が所論の如く当該個人及び社会に無害であるとまで断定するに足りる明白な根拠がない以上,大麻の所持のすべての場合を罰則を備えて法律で禁止したからといつて立法当否の問題は格別として,その法律が憲法一三条に違反するといいきることはできない。所論の前提が未だ採るを得ないものである以上原判決には所論のような憲法違反の誤りはない。
そして,このように大麻の有害性が肯定される以上,大麻の所持,使用等のどの範囲に法的規制を加え,それにどのような刑罰を以て臨むかは,原則として立法政策の問題であり,立法の権限に属する事項というべきであり,大麻に従来考えられて来た程の強い有害性がないと認識されるに至つた現在,現行法が,個人的使用目的のための大麻の少量の所持についても選択刑としての罰金刑を認めず(昭和三八年法律第一〇八号により廃止),五年以下の懲役刑のみという比較的きびしい刑罰を以て禁止することが刑事立法として賢明であるか否かについては見解のわかれるところではあろうが,刑量の幅の広いことをも考えると,少なくとも,それが不合理な程重い,あるいは不均衡に重い残虐な刑罰を定めたものとはいえず,原判示大麻樹脂の所持につき,原判決が被告人を原判示懲役刑に処したことが,被告人に残虐な刑罰を科したことにはならない。原判決には所論のような憲法違反の誤りはない。」と判断している。

(4)東京高裁56年6月15日判決(判タ460号175頁)
同判決は,「関係証拠を総合すると,大麻(マリハナ,マリファナ,またはマリワナ)には,その有するテトラ・ヒドロ・カンナビノール(THC)が,人体に対して思考分裂,現在・過去・未来の混在,時間・空間感覚の錯誤等のほか,幻視・幻覚・幻聴・錯乱・妄想・分裂病様の離人体験等をもたらす精神薬理作用があること,その影響には個人差が大きく,人によつては比較的少量でもそのような症状の発現があること,長期常用により人格水準の低下が生ずること,すなわち無気力・無感動となり向上心に欠けたり,判断力・集中力・記憶力・認識能力の低下をもたらすこと,このような大麻の精神薬理作用は,自動車運転,機械操作その他微妙な精神運動上の正確性と判断を必要とする作業に影響を及ぼし危険を招くおそれがあるが,個人は大麻が自己にもたらす精神諸反応の詳細を予測できず,客観的・技術的に人体に存在する大麻の量を測定・窺知することも不可能とされていることが認められるほか,その薬理作用の精神に及ぼす発現機序,すなわち脳に対する作用や,慢性使用の結果人体にもたらす害悪の詳細はいまだ判明していないことが認められる。このように大麻はその精神薬理作用そのものが個人や社会に有害な影響を及ぼすばかりか,その薬害等の詳細がいまだ解明されていない以上,国民の保健・衛生の向上と社会の安全保持をもその責務の一つとする国家が立法政策上,大麻を単なる個人の嗜好品等として放置することなく,その使用やそれにつながる譲り受けその他の所為を刑罰で規制することは相当であるといえるし,現行の大麻取締法による規制の範囲・程度が合理的根拠を欠き,立法における裁量の限界を逸脱しているものとは認めることができない。」と判断している。

(5)大阪高裁昭和56年12月24日判決(判例時報1045号141頁)
「当初大麻の有害性として挙げられていた諸効果のうち,その後の研究により,必ずしも大麻の影響と断定することまではできないとする点がいくつか認められるようになり,また,とくに長期摂取した場合の効果や精神病理学上の影響について十分解明されず,今後の研究の成果をまつ多くの問題点が残されていることは事実であるが,大麻について少なくとも叙上の如き人間の健康に対する有害性が確認され,弁護人提出の全資料をもってしても大麻が無害であるとまで断定するに足りる明白な根拠を提供するのでもない以上,国民の保健衛生上の危害を防止し,公共の福祉の増進を図ることを責務とする国家が,国民全体の福祉のうえから,大麻の保健衛生上に及ぼす危害を防止するため,その使用とこれに結びつく栽培や譲り渡し等の所為を,刑罰をもって規制することも当然に許され,そのため個人の自由が制限されることもまたやむをえないことといわなければならない。したがって,大麻取締法の前記罰則が憲法一三条に違反するとはいえない。」

(6)大阪地裁平成16年3月17日判決(弁41)
同判決は,「まず,大麻の有害性及び大麻取締法の合憲性については,累次の判例により明らかである。所論の医療目的での大麻使用についても,関係証拠によれば,外国でそのような研究が始まっているというに過ぎない(それらの研究も,大麻の有害性を前提とするものである。)のであるから,医療目的での大麻使用を認めるかどうかは,大麻の有害性等をも考慮した上での立法裁量にゆだねられているというべきであって,これを認めない大麻取締法が違憲であるということはできない。また,上記のとおり医療目的での大麻使用は研究段階にある以上,人体への施用が正当化される場合がありうるとしても,それは,大麻が法禁物であり,一般的な医薬品としては認められていないという前提で,なおその施用を正当化するような特別の事情があるときに限られると解される。」と判断しており,大麻の有害性に関しては「累次の判例」により明らかであるとしている。

(7)東京地裁平成22年9月24日判決(弁58)
同判決は,「大麻はその薬害等の詳細がいまだ十分解明されていないのであるから,国民の保健衛生の向上と社会の安全保持をもその責務の一つとする国家が,大麻の使用やそれにつながる輸入等の行為を刑罰で規制することは,合理的根拠を有するのであり,立法における裁量の限界を逸脱しているものとはいえない。そして,酒及びタバコとの対比でいえば,酒及びタバコが人体に対する作用の面で大麻とは異なり,また,酒やタバコが多年にわたり国民一般にし好品として親しまれ国民生活に定着していることに照らすと,国家が,大麻については,酒やタバコに対するのと異なって,懲役刑をもってその使用やそれにつながる輸入等を規制することにも合理性がある。」と判断している。

4 累次の判例の問題点
上記3で挙げた累次の判例(1)ないし(5)により,「大麻の有害性に関する議論は,裁判実務上はこれで決着をみた」(判時1165号183頁,上記最高裁昭和60年9月10日決定の評釈)とも評されているが,断じてそのようなことはない。

第一に,大麻の規制の合理性の判断に際しては,大麻が無害かどうかを論じるべきものではない。大麻に限らず,人が摂取するものの多くは,少なからず人体に対する有害性ないし影響があるのであり,人体に関する影響が少しでもあるものを規制することに合理性があると認められてしまうならば,いかなる嗜好品,食品も,国家が自由に規制することが可能となってしまう。大麻の規制の正当性・合理性の判断に際して問われているのは,大麻の人体に対する有害性ないし影響がどのようなものであり,それを日本社会でどのように扱うべきか,そしてどのような規制をすべきかであり,大麻が人体に対する有害性ないし影響を少しでも有しているならば,直ちに立法政策で規制できる,というものではない。

第二に,大麻の有害性は,科学的知見によって明らかになるものであり,上記最高裁昭和60年9月10日(判時1165号183頁)がその判断を相当とした控訴審(東京高裁昭和60年2月13日判決)がいうような,「公知の事実」ではない。いうまでもなく,「公知の事実」とは,「通常の知識経験をもつ人が疑いをもたない程度に一般に知れわたっている事実」(刑事実務証拠法第四版,判例タイムズ社253頁)であり,典型的には「歴史上の事実,大災害その他新聞,ラジオ,テレビなどで広く報道された著名な出来事」(同頁)である。誰もが真実であると認めているため,証明の必要がないのである。大麻の有害性に関しては,大麻を科学的に研究することによって明らかになるものであり,「公知の事実」で片付けられるものではない。仮に,大麻に特に関心を持たない国民が,マスメディアや行政が発信している情報に基づいて,大麻が人体に対して深刻な害を及ぼすと信じて疑っていないという事実を,「通常の知識経験をもつ人が疑いをもたない程度に一般に知れわたっている事実」すなわち「公知の事実」に含めてしまうとすれば,もはや「公知の事実」の意義を逸脱している上,司法は事実と証拠に基づいて審理をすることを放棄したのも同然である。

また,「公知の事実であるかどうかは,問題となっている時期によっても異なる」(同頁)ものである。仮に最高裁昭和60年9月10日決定(判時1165号183頁)当時に「公知の事実」なるものが存在したとしても,大麻の有害性に関しては,海外における近年の科学的研究の進展や社会的現実の変化により,現在ではもはや通用しないことは明らかである。

5 本件における違憲性の審理について
大麻の使用に際しては,大麻を使用したくない者の,いわば「大麻を使用しない自由」を侵害するかどうかは問題にはならない。大麻を使用することが使用者の人体にどのような害を及ぼすのか,そしてその人体への害が,直接的・間接的に社会にどのような影響を及ぼし得るのかが問題となるに過ぎない。

そこで,大麻規制の違憲性を審理するにあたっては,その規制目的の正当性と規制手段の合理性を審査する必要があるところ,本件では,大麻の人体及び社会に対する有害性の程度を,科学的知見に基づき,累次の判例による先入観にとらわれることなくしたうえで,大麻取締法による規制に合理性があるのかを判断しなければならない。

そして,以下で述べる通り,大麻取締法による規制は,その目的の正当性も,手段の合理性もないことが明らかである。

第4 大麻の作用について

1 大麻に関する医学的,科学的知見
(1)かつて日本薬局方には,印度大麻草,印度大麻エキス,印度大麻チンキが掲載されており,日本において,大麻は医療目的で利用されていた(弁14)。
その後,大麻取締法が昭和23年に施行され,昭和38年改正の際に同法4条1項3号が追加され,大麻から製造された医薬品の受施用行為は禁止された。それ以降,日本において,大麻の医療目的利用は一切禁止されている。

しかし,海外では大麻の研究が進み,多くの国が医療利用目的での大麻の栽培や所持を認め,中には嗜好品としての大麻の栽培や所持を認める地域も出てきた。

世界では,多くの研究機関が大麻の有害性及び有用性を明らかしている。

(2)世界保健機関(WHO)は,1997年,大麻に,がん化学療法による悪心 嘔吐制御,食欲増進に効果があると発表し,続けるべき研究として,喘息,緑内障,抗うつ剤,食欲増進薬,抗けいれん薬,免疫学的研究を挙げている(弁25,41頁以下)。
同機関は,大麻の有害性について次のように述べている(弁30,45頁以下)。
1.大麻は関連するプロセスを含め,認知発達(学習の能力)を障害する。学習と回想の両方の期間で大麻が使用されるとき,以前学習した項目の自由な回想はしばしば損なわれる。
2.大麻は,幅広い種類の作業(自動車運転など),注意の配分,及び多くのタイプの作業過程における運動神経を損なう。複雑な機械に関する人間のパフォーマンスは,大麻に含まれるわずか20mgのTHCの吸引後,24時間にわたって損なわれる可能性がある。大麻によって運転する人々の中には自動車事故のリスクが増加する。
3.注意と記憶のプロセスに関する様々なメカニズムで,複雑な情報の組織化と統合を含む認知機能の選択的障害を引き起こす可能性がある。
4.長期間の使用は,より大きな障害につながる恐れがあり,使用を中止しても回復しないかもしれず,日常生活機能に影響を及ぼすかもしれない。
5.大麻の制御不能で過剰な使用に特徴付けられる大麻依存症の進展は,恐らく慢性の使用者中に存在するであろう。
6.大麻の使用は統合失調症患者の病状を悪化させるかもしれない。
7.器官と主要な気管支の上皮の損傷は長期の大麻喫煙で引き起こされる。
8.気道の損傷,肺の炎症,及び長期の間の持続的な大麻の消費からの悪影響に対する肺の防御力の低下。
9.重度の大麻使用は,禁煙群と比べて高い慢性気管支炎の兆候の蔓延とより高い急性気管支炎の発生に関係している。
10.大麻使用は妊娠中に胎児の発育における出生時の体重減少に通じる障害に関連している。
11.より多くの研究がこの領域で必要だが,妊娠中の大麻使用は出生後のまれな形態のがんの危険性につながるかもしれない。

また,同機関は,大麻の有用性について,次のように述べている(同,46頁)。

1.いくつかの研究は,癌やエイズなどの病気の進行期における悪心嘔吐にカンナビノイドが治療効果を示した。
2.カンナビノイドの他の治療用途は制御された研究で示されており,この分野の研究は続けるべきである。例えば,胃腸の機能へのカンナビノイドの効果の中枢と抹消のメカニズムの更なる基本的な研究は,悪心嘔吐を軽減する力を進歩させる可能性がある。
3.THCと他のカンナビノイドの基礎的な神経薬理学の更なる研究が,より良い治療薬の発見を可能とするためにも必要である。

 

(3)全米科学アカデミー医学研究所(IOM)は,1999年,大麻とその含有物質であるカンナビノイドに潜在する健康への有益性及び危険性を評価するために科学的根拠を調査し,大麻に,疼痛緩和,悪心嘔吐制御,食欲増進,(痛み,嘔吐,食欲不振などに対する)広範囲にわたる同時的緩和効果があると発表した(弁6)。

同研究所は,大麻の有害性について以下のように述べている(弁6,4頁以下)。

1.大麻は全くの無害の物質ではない。様々な作用を持つ強力な薬物である。しかし喫煙に伴う害を除けば,大麻使用による有害作用は他の医薬品に許容される範囲内におさまる程度である。
2.大麻の有害作用を主張する研究結果を読む際は,これらの研究の大多数は大麻「喫煙」を前提としていること,したがって,カンナビノイドの作用と,植物それに含まれる有害物質が燃焼して生じる煙の吸引による作用を区別することができないという点を念頭において解釈するべきである。
3.大多数の人の場合,大麻使用による主な急性有害作用は精神運動能力の低下である。したがって,大麻やTHC,その他同様の作用を有するカンナビノイド系薬物を摂取した状態での車の運転や危険を伴う機械類の操作は勧められない。
4.少数ではあるがマリファナ使用によって不安や不快感を経験する人がいる。
5.大麻使用者で依存性を示すものは稀だが,ゼロではない。
6.いわゆるゲートウェイドラッグ論について,大麻の薬理作用と他の違法薬物使用への進行に因果関係があることを決定づける証拠はない。

また,同研究所は,大麻の有益性について以下のように述べている(弁10,2頁以下)。

1.カンナビノイドは,痛みの軽減,運動機能の制御及び記憶に作用する性質を持っている可能性がある。
2.蓄積されたデータからは,カンナビノイド薬の治療的価値,特に,疼痛緩和,悪心や嘔吐の制御,食欲増進といった効果がある可能性が示された。
3.カンナビノイド薬が持ついくつかの効能(不安の軽減,食欲促進,悪心抑制,疼痛緩和)は,化学療法による悪心や嘔吐,エイズによる消耗等,ある特定の症状に対し,適度な効果があることを示唆している。
4.症状が多岐に渡る場合,THCの複合的作用が一種の補助的療法として働く場合があるということである。例えば,体重減少の症状を有するエイズ患者には,不安感や疼痛,悪心を制御すると同時に食欲増進効果を持つ薬が有効と考えられる。
5.不安抑制や鎮静作用,多幸感といったカンナビノイドの心理的作用は,カンナビノイドが潜在的に持つ治療的効果に影響を与える可能性がある。

同研究所は,以上のように報告した上で,次のように提言している(弁6,9頁以下)。

1.化学合成及び植物由来のカンナビノイドの生理学的作用,また,人の体内に存在するカンナビノイドが生来持つ機能について研究を継続すべきである。科学的データは,カンナビノイド薬が疼痛緩和,悪心や嘔吐の制御,食欲促進に効果があるという可能性を示している。この機能は,薬剤に即効性があることでさらに高まる。
2.症状緩和のためのカンナビノイド薬については,即効性,確実性及び安全なデリバリー(体内摂取)システムの開発を目的とした臨床試験が行われるべきである。

3.不安抑制や鎮静作用等,治療効果に影響を与えるカンナビノイドの心理的作用を,臨床試験で評価すべきである。
4.大麻喫煙による個々の健康リスクを判断するための研究を,特に大麻使用率の高い集団を対象に実施すべきである。
5.医療目的での大麻使用の臨床試験は,以下に挙げた限定状況下で実施されるべきである。
・大麻使用期間を短期間に限定すること(6ヶ月未満)。
・効果が十分に期待できる症状の患者に対して実施すること。
・治験審査委員会の承認を得ること。
・有効性に関するデータを収集すること。
6.衰弱性の症状(難治性疼痛や嘔吐など)を持つ患者に対する大麻たばこの短期使用(6ヶ月未満)は,以下の条件を満たさなければならない。
・承認済みの薬物による治療が,すべて症状緩和に無効であったことが文書で記録されていること。
・即効性のカンナビノイド薬により症状が緩和されることが十分に期待されること。
・その治療法の有効性を検証できる形で,医学的監督の元に治療が行われること。
・治験審査委員会による審査の手続に匹敵し,医者から報告を受けて24時間以内に大麻を指定用途で患者に提供できるような指導が可能な管理手順があること。

 

(4)カナダ・マギル大学の研究チームは,2010年8月30日,カナダの医学誌に,大麻吸引は,慢性的な神経障害痛を和らげ,患者を睡眠に誘導してくれるという研究結果を発表した(弁17)。
同研究チームは,有効な治療法がほとんどない外傷後または術後の神経障害痛に苦しむ21人の患者に,大麻を1日3回,5日間吸引してもらった。大麻の主な有効成分であるTHCの含有率は9.4%,1回の吸引量は25mgとした。
その結果,痛みが弱まり,睡眠の質が高まり,気分が向上したことが明らかになった。
他方,程度こそ極めて低いものの,頭痛,ドライアイ,痛みのある部分のしゃく熱感,めまい,無感覚,せきといった副作用が一般的に認められた。

(5)カナダ・アルバータ大学などの研究チームは,2011年2月23日,英医学誌に,服用者を「ハイ」にさせ,食欲を刺激することでも知られる大麻の成分が,がん患者に食の楽しみを取り戻させるのに役立つとの研究結果を発表した(弁16)。
同研究チームは,化学療法を受けている進行がん患者21人を対象に,大麻に含まれている精神活性化合物(THC)のカプセルかプラセボ(偽薬)を18日間服用してもらい,実験終了時に様々なアンケートに答えてもらった。
「食欲が以前よりもある」と回答したのは,THCを服用したグループで73%,プラセボを服用したグループで30%だった。
「食べ物が以前よりもおいしくなった」と回答したのは,THCを服用したグループで55%,プラセボを服用したグループで10%だった。
さらに,THCグループは,プラセボグループよりも睡眠の質が高く,リラックスの度合いが高いことも明らかになった。
同大学のウェンディ・ウィスマー准教授は,味覚や嗅覚,食欲を失った患者にTHCを服用させることを推奨している。

(6)アラバマ大学医学部予防医学科とバーミングハムの退役軍人医療センターは,2012年1月10日,米国医師会の医学誌に,時折マリファナを吸っても,喫煙のような長期的な肺へのダメージはなく,むしろやや改善する場合もあるという研究結果を発表した(弁15)。
研究者らは,1985年から2006年の間に4都市に住んでいた18歳から30歳を対象にマリファナ吸引について調査した。データは米国立心肺血液研究所の出資で運営される研究機関CARDIAのものを使用し,吸引量は,1日1ジョイントないしパイプ1本を1年間吸った量(365ジョイント)を「1ジョイント年」とする単位を使用した。
研究の結果,平均で1日あたり1ジョイントを7年間吸引し続けた人の肺に,悪影響はみられなかった。
たばこの喫煙者とマリファナ吸引者の肺機能を比較した結果,喫煙者の肺機能の方は喫煙時間の増加に伴って悪化したのに対し,マリファナ吸引者の肺機能はやや改善した。

(7)カンナビジオール(CBD)を多量に含む大麻には,一日に数百回訪れる,生死に関わる重度のてんかん発作の諸症状を劇的に抑制する薬理効果があることが確認されている。(弁2,弁12,弁32)。
米国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)が,2013年,18人のCBDで治療中のてんかん児童を抱える両親にアンケートをとったところ,てんかん発作の減少が確認され,また他のてんかん治療薬にありがちな副作用がなかったことが確認された(弁2,2頁)。
オーリン・デヴィンスキー医学博士が統括するニューヨーク州立大学の総合てんかんセンターは,CBD化合物の安全性や有用性を調査し,米国食品医薬品局の認可を得ようとしている。同博士は,「もし私に重度てんかんの子どもがいて,15種に及ぶ医薬品やこれまでの治療法が効かず,障害を伴うてんかん発作を一日に何度も起こしたならば,私は高CBDの大麻草製品を使用することが理にかなっていると判断します。」と述べている(同,3頁)。

(8)米国立薬物乱用研究所は,2013年,大麻の中毒性について以下の調査結果を発表した(弁7)。
1.大麻使用者の9%が依存傾向にあり,大麻を吸い始める年代が早かった人ほど,その傾向が強くなることが判明した。他の薬物使用による依存の割合は,アルコール15%,ヘロイン23%,ニコチン32%である。
2.常用者が大麻をやめた場合,睡眠障害,不安やイライラを感じるなどの症状が時折みられた。しかし,麻薬の離脱症状とは比べ物にならないうえ,大麻の過剰摂取による死亡は今までに一度も報告されていない。
3.自分の意志で使用をコントロールできる大麻に中毒性はない。

(9)米国立医学図書館の国立生物工学情報センターが運営する医学・生物学の学術文献検索サービス(PubMed)には,大麻に関し,以下の論文が掲載されている(弁20ないし弁22)。
1.2013年12月29日,小児の難治性てんかんにカンナビジオール(CBD)含有濃度の高い大麻を使用している保護者を対象に行った調査の報告(弁20)
この調査は,子どもがてんかんと診断されていること,及び現在,子どもに対しCBDの含有濃度が高い大麻を使用している保護者を対象に行われた。
19名の保護者のうち,16名(84%)が,CBDの含有濃度が高い大麻の使用中に子どものてんかん発作の頻度が減少したと報告した。そのうち,2名(11%)が発作の完全な消滅を,8名(42%)がてんかん発作頻度の80%以上の減少を,6名(32%)が25~60%の発作減少を報告している。
その他の有益な効果には,注意力の上昇,気分の改善,睡眠の改善が含まれた。副作用には,眠気,疲労感などがあった。

2.2013年11月21日,カンナビジバリン(CBDV)は,ペンチレンテトラゾール(PTZ)誘発によるてんかん関連性遺伝子発現の増加を抑制するとの報告(弁21)
この調査は,PTZにより科学的に発作を誘発された動物に対し,CBDV(400mg)を服用させ,てんかん関連性遺伝子数種の発現量を数値化し,発現の変化と発作の重篤度の相関関係を分析するものである。
調査の結果,発作の軽減と,てんかん関連性遺伝子数種の発現との間に相関性を確認できたと報告している。

3.2014年4月15日,カンナビジオール(CBD)含有量の多い大麻抽出物による大腸がん発生の抑制効果についての報告(弁22)
この調査は,CBD含有量の多い大麻抽出物が,結腸直腸がん細胞の増殖と大腸がんの生体内実験モデルに与える影響を調べるものである。
結果,CBDは,腫瘍性細胞においては細胞増殖を減少させたが,健康な細胞においては減少させなかった。CBDは,前腫瘍病変とポリープ,および大腸がん異種移植モデルにおける腫瘍の成長を減少させた。
CBDは,大腸における発がん現象を軽減させ,結腸直腸がん細胞の増殖を抑える。この結果は,大麻から製造される薬のがん患者に対する使用について,臨床的関連性を持つ可能性がある。

(10)米国立がん研究所は,2014年3月25日,「カンナビスとカンナビノイド(PDQ)」という題名で,以下のように報告した(弁34,1頁以下)。
1.カンナビス(大麻草)は世界各地に分布している植物で,マリファナとも呼ばれている。
2. 医療目的での大麻の使用は,古代より行われている。
3. 米国では,連邦法により大麻の所持が違法とされている。
4. 米国では,大麻は使用に特別な許可が必要な規制薬物である。
5. カンナビノイドは,大麻に含まれる活性を持った化学物質で,中枢神経と免疫系を含む全身に薬物様の効果を引き起こす。
6. カンナビノイドの投与方法は,服用や吸入,あるいは舌禍への噴霧である。
7. 大麻とカンナビノイドは,研究室や診療室で,痛み,吐き気,不安,食欲不振などの軽減について研究されている。
8. 大麻とカンナビノイドは,がんの症状やがん治療の副作用に対する治療に有益である可能性がある。
9. 2種類のカンナビノイド(ドロナビノールとナビロン)は,化学療法に関連する吐き気と嘔吐の予防用または治療用として米国食品医薬品局(FDA)に認可されている。
10. 大麻は,研究室において,がん細胞を殺傷し,免疫系に影響を及ぼすことが示されている。しかし,大麻が免疫系に及ぼす影響が,がんと闘う身体の働きにとって有用かどうかについては,証拠が得られていない。

(11)世界保健機関(WHO)は,2014年6月,第36回ECDD会議において,「大麻の治療への応用,治療目的による使用および疫学による医療使用への広がり」という題目について以下のように報告している(弁40,8頁)。
1.20世紀の最後の10年間以来,医療使用による証拠が大幅に増加した。特に検討されている適応症は,麻痺,慢性疼痛およびいくつかの神経精神症状がある。様々な方法で様々な国が,大麻の安全で効果的な医療使用の役割を認識している。
2. 現在,大麻の医療使用は多くの国で許可されている。過去20年間での医療消費量は2011年までで23.7トン,2014年には77トンに上昇している。
3. イギリスは,多発性硬化症による痙縮の治療に,植物材料から抽出されたカンナビノイドを使用して調製されるドロナビノール・カンナビジオール複合製薬(サティベックス)の製造のために大麻を生産している。
複合製薬は24カ国で医薬品として承認されている(オーストリア,オーストラリア,ベルギー,カナダ,チェコ共和国,フィンランド,ドイツ,ハンガリー,アイスランド,イタリア,オランダ,ニュージーランド,ノルウェー,ポーランド,ポルトガル,スロバキア,スペイン,スウェーデン,スイス,イギリスを含む)。

(12)大麻は,喘息,緑内障,腫瘍,吐き気の緩和,てんかん,多発性硬化症,腰痛,筋肉のけいれん,関節炎,ヘルペス,嚢胞性線維症,リウマチ,不眠,肺気腫,ストレス,偏頭痛,食欲不振などの治療薬として可能性があり,研究が続けられている(弁42,77頁ないし85頁)。

(13)武田邦彦証人によれば,大麻の成分のうち精神作用のあるものは,テトラヒドロカンナビノール(以下,「カンナビノール」という。THCとも世慣れる)という化合物であり,カンナビノールの他にカンナビジオール(以下,「ジオール」という。)という成分があり,この両者の割合と量によって,人体に対する影響が決まる(武田3,4頁)。カンナビノールの人体に対する作用は,武田証人が世界の報告書,該当する論文を見た限りでは,たばこやコーヒーと同程度であり,ヘロインやコカインのような麻薬成分としては,ほとんど薬効は見られない(武田4頁)。

カンナビノールの人体に対する有害性については,今までの報告書を見る限りでは全く問題にならないと述べている(武田5頁)。さらに,武田氏は,ラ・ガーディアによる報告書を始め,これまでの代表的な研究報告書を研究してきても,武田証人の知る限りでは,大麻が人体に有害であるという報告はないとする(武田10頁)。欧米では,大麻の使用率が30パーセントにも上る国がある中で,薬理の問題があれば相当程度出てくるはずであるが,そのような問題が出ていないこと,日本でも2000年間大麻を使ってきているのに何も問題が生じていないことから,大麻は何でもない普通の草であるという(武田10,11頁)。

武田氏が,財団法人・麻薬覚せい剤乱用防止センターに,同センターが挙げている大麻の内容について根拠を問い合わせたときには,教えてもらえなかった(武田11頁)。

酒やたばこ,コーヒーなどの嗜好品と大麻の有害性の比較については,酒で酔うのは通常は害とは考えられておらず,むしろ一定の飲酒に長寿の効果があるともされており,嗜好品の人体に対する害というものは現在の学問では判明していない(武田12頁)。ヘロイン,コカインなどの薬物を別として,嗜好品の人体に対する害というのは明確に定義できるものではない(武田12頁)。

アルコールの場合は,飲酒運転が規制されているほかは,飲酒が痴漢などの犯罪の原因になったり,暴力の原因にもなるが,飲酒そのものは社会的に成年の飲酒を規制するほどではないと扱われている(武田12頁)。

武田証人は,アルコールやニコチンの人体に対する作用を説明した上で(武田13頁),大麻の人体に対する影響は,ケーキと同程度だとする(武田14頁)。ケーキは,甘くて糖尿病になることもあり,身体的及び肉体的依存性がある上,楽しい生活をするための精神的影響を持っている。

日本人に対する大麻の作用についての研究は皆無であり,人体に対する影響は,アルコールのように民族性があるため,大麻については日本人の健康もしくは日本人の社会に影響するデータが必要である(武田証人14,15頁)。

武田証人は,日本人が大麻を使用する場合に欧米人と比較して違いがあるかという点については,データがない以上正確には不明であることを前提に,日本では歴史的に1500年以上も使われていなかったことから,日本人に対する大麻の影響はないと推測している(武田16頁)。

また,武田証人は,日本国内で大麻取締法で検挙された者など,日本国内で現実に大麻を使用しているものについて,健康に対する悪影響などの報告や研究結果は聞いたことがないとする(武田17頁)。

武田証人は,大麻の研究をしようと考えたが,名古屋大学の研究としても許可が下りないことがわかり,日本国内では,大麻の研究自体ができないという(武田18頁)。

そして,大麻に関する規制の在り方として,まずはカンナビノールという成分で規制すること,そして,カンナビノールの作用を研究すること,国民に対して説明をすることが必要であると述べる(武田19頁)

武田証人は,検察官からWHOの1970年報告と1997年報告のうち,著作で1997年報告を利用しなかった理由について問われ,科学的見地からは,大きな変化はないという趣旨の発言をしている(武田23頁)。WHOの1997年報告は,より新しい研究結果であるが,結局少しでも人体に対する影響があれば報告をするだけであり,大麻が人体に対して実質的にはほとんど影響はないということには変わらない(武田23ないし27)。結局,大麻が人体に対して及ぼす影響はあるが,それは日常生活で実際に影響を受けるようなレベルの影響ではないのである。

なお,武田証人の経歴に照らせば(武田1ないし3頁),上記の武田証言はいずれも専門家の知見として信用性が高い。

2 大麻に関する世界の動向
1.米国麻薬取締局の保守的な行政法判事フランシス・ヤングは,1988年 9月,15日間に及ぶ医療的証言に耳を傾け,何百もの米国麻薬取締局や「薬物乱用に関する全米学会」の研究書類と大麻合法化活動家たちによる反対意見陳述を精査した後,「マリファナは人間の知る限り,もっとも安全にして治療に有効な物質である。」と判示した(弁42,67頁)。

2.米マイクロソフトの元幹部は,2013年5月30日,米国の一部州で成人用嗜好品としての大麻が合法化されたことを受けて,同国初の大麻の全国ブランドを立ち上げる計画を明らかにした(弁3)。
同人は,新会社が嗜好用と医療用の大麻業界で,コーヒー界のスターバックスのような存在になりたいと語っている。

3.米国のオバマ大統領は,2014年1月19日,米誌ニューヨーカーのインタビューに対し,「何度も紹介されている通り,私も子どもだった頃に大麻を吸ったことがある。悪い習慣だという点では若い時から大人になるまで長年吸っていたたばこと大差ない。アルコールよりも危険が大きいとは思わない。若者や使用者を長時間刑務所に閉じ込めておくべきではない。」と述べている(弁1)。

4.米紙ニューズウィークは,2014年1月22日,マリファナ解禁の莫大な経済効果という記事を掲載した(弁5)。同記事には以下のように書かれている。
米国では,コロラド州とワシントン州で嗜好品としてのマリファナ使用を既に合法化した。
マリファナの使用禁止は禁酒法と非常に似た弊害をもたらした。犯罪は急増し,税収は減り,違法な利用を減らす効果はほとんどなかった。
米税務政策センターによれば,マリファナが解禁されて取り締まり費用がいらなくなれば,90億ドル程度の節約効果が期待できるという。
カリフォルニア州査定平準局が2009年に行った研究によれば,マリファナに課す売上税から徴収できる税収は,カリフォルニア州だけで14億ドルにも上る見込みという。

5.米財務省は,2014年2月14日,西部コロラド州などで嗜好品としてのマリファナ売買合法化の動きがあることを受け,全米の金融機関に大麻販売などを手がける企業との取引を解禁する通達を出した(弁4)。
米国は,大麻使用を連邦レベルで禁じているが,約20州と首都ワシントンは医療目的などの使用を認めているほか,西部のコロラド,ワシントン両州は,2012年の住民投票で嗜好品としても使用の合法化を決定している。

6.米誌タイム誌によると,2014年4月21日に,エリック・ホルダー米司法長官が,連邦刑務所に収監されている数千人に及ぶ非暴力麻薬事犯の大幅な大統領特赦を実施すると発表した(弁18)。収監されている長期刑のドラッグ事犯の数を削減することが目的であるという。
ホルダー氏は,「私たちの社会は,犯罪の抑止と刑罰,そして社会全体の安全を重視する一方で,不当に重い刑罰を科せられた囚人や受刑期間を終えた人間には社会復帰をさせるべく働きかけるべきであり,拡張された恩赦の新規律により,これが現実化します」と述べている。

7.ウルグアイでは,2014年,世界で初めて大麻の使用,生産,販売が合法化され,大麻完全合法化を成し遂げたムヒカ大統領は,同年のノーベル平和賞にノミネートされた(弁8)。

8.フランスの社会問題・保健省は,2014年1月9日,大麻由来の医薬品の処方を解禁すると発表した(弁37)。これにより,欧州数カ国で既に認可されている多発性硬化症治療用スプレー薬「サティベックス」の処方ができるようになった。
医療目的での大麻の使用は,オランダ,スペイン,イタリア,ドイツ,英国,カナダ,オーストラリアのほか,米国の一部の州でも認められている。

9.米紙ニューヨークタイムズは,2014年7月27日,大麻の所持や使用を禁止する米国の連邦法を撤廃し,禁止するかどうかは州に委ねるべきだと主張する社説を掲載した(弁39)。
同紙は,かつて,米国で制定された禁酒法と大麻を禁止する法律を比較し,「アルコールよりもずっと危険性が低い物質を禁止するために,社会に大きな損失をもたらしている。健康な成人が少量の大麻を使用することによるリスクはなさそうだ。」と述べ,国としては合法化すべきだと主張している。

10.2014年4月8日の米紙ウォールストリート・ジャーナル紙記事によれば, 米国大統領選に絡み,大麻合法化の議論が注目されていたとのことである(弁19)。そして,2014年から,アメリカでは大麻合法化に拍車がかかった(弁56)。

11.ロサンゼルス・タイムズは,2015年1月13日,アメリカ連邦法のマリファナに関する分類法を巡り,北カリフォルニアの連邦判事が憲法判断を下すことになったことを報じている(弁60)。

12.ドラッグ・ポリシー・アライアンスは,2015年2月12日に,ニューメキシコ州立法府の委員会が,史上初めて,大麻の税制化と制度化法案を投票により承認した旨を報じた(弁61)。

3 大麻に関する日本の動向

(1)立法時の規制理由
日本で大麻取締法が成立するきっかけとなったのは,終戦時にGHQが出した指示であり,それに基づいて大麻取締法の制定の準備がされ,制定に至り,その後同法が運用された(弁57,弁59)。
もっとも,立法当時は,大麻を規制する理由については特に議論はなく,唯一議論が生じたのは,昭和25年大麻取締法の一部改正に関する審議の過程であった(弁57「大麻取締法の生い立ちを考える・その3」)。そこでは,大麻取締法制定時に日本国内では何ら大麻が人体に特に有害であるとか,社会に害を及ぼすとは認識されていなかったことがわかる。

(2)大阪地方裁判所の地引広裁判官は,2004年3月17日,医療利用目的での大麻使用等について,「医療目的での大麻使用は研究段階にある以上,人体への施用が正当化される場合がありえるとしても,それは,大麻が法禁物であり,一般的な医薬品としては認められていないという前提で,なおその施用を正当化するような特別の事情があるときに限られると解される。」と判示した(弁41)。

(3)当時の厚生省麻薬課長の証言によると,厚生省は,今まで大麻の保健衛生上の危害ということについて,特別に研究したということはあまりない(弁23,85頁)。同省は,海外で行われている研究レポートをフォローすることで大麻の研究をしている(同,85・86頁)。
同省は,そのホームページにおいて,世界保健機関(WHO)が1997年に発表した報告書である「大麻:健康上の観点と研究課題」(弁25)を掲載し,公開している(弁24)。
同省は,このWHOの大麻に関する報告書以外に,海外の医療大麻に関する文書を保有していない(弁9,弁10,弁11)。
同省は,2009年3月11日から20日までの間,外務省のほか,警察庁,財務省,海上保安庁とともに,第52会期国連麻薬委員会に参加し(弁43),内容が古くなったWHOの1997年の大麻に関する報告書(弁30)の更新を提言し,その提言が可決されている(弁44・2頁,被告人質問35頁)。

(4)検察官は,厚生労働省外郭団体財団法人「麻薬・覚せい剤乱用防止センター」のホームページの記述を大麻の有害性の根拠としている(弁26)。
同ホームページにおける大麻に関する記述は,「DRUG EDUCATION MANUAL」(弁27)という名称の冊子の表紙,中表紙,目次及び「CANNABIS」に記載されている大麻に含まれている成分やその有害作用等を翻訳したものである(弁85,3頁)。
同冊子は,20年以上前に米国テキサス州の団体が販売していた薬物標本レプリカの説明書であり,「本書に収録された主な分野及び掲載された薬物のいずれにつきましても,完璧な分析を行ったものではありません。記述はあくまで人々の注意を喚起し,問題の特定に寄与することを目的としています」(弁85,3頁)との記載がある。
同冊子に書かれている内容は古く,これを販売していた団体も今や使っていない(弁63,弁64,弁65,弁66,弁69)。

(5)麻薬・覚せい剤乱用防止センターの糸井理事は,同センターのホームページの大麻に関する情報が古いことを認め,内容の見直しをすると述べていた(弁30,弁63,弁64,弁68,弁69,弁70,弁75,弁76,弁77)。
同センターのホームページの見直しに際し,被告人は,見直しのための委員会委員に大学教授を推薦する活動を行った(弁78,弁79,弁80,弁81)
後任の富澤理事も,2008年内にはホームページを見直すと述べていたが(弁82),見直されることはなかった(弁84)。
同センターの指導員がテレビ番組において大麻は暴力性を引き起こすと述べていたことから,白坂氏が富澤理事に対しその根拠を尋ねたところ,富澤理事は根拠を答えることはなく,最後には「嫌です。」などと回答し,極めて不誠実な態度を示した(弁83,弁84)。

(6)大麻の合法化を求める市民団体が,2013年,大麻取締法4条1項2号3号の削除を求める請願書に署名を集め,衆参両議院議長に対し,それを提出した(弁33)。

(7)その後,有志一同が民主党国会対策委員長・松原仁衆議院議員に会い,医療大麻の有用性と大麻取締法の問題点について伝えたところ,同議員は管轄官庁である厚生労働省への説明が必要であろうと判断し,2013年12月25日,同議員事務所において,有志一同と厚生労働省大臣官房長らとの間で会合が行われた(弁13)。
会合において,厚生労働省大臣官房長は以下のように発言している。

1.なるほど,大麻が麻であることは知りませんでした。また,戦前には資料写真にあるように多くの麻が栽培されていたのですね。そして,大麻取締法4条によって臨床研究ができないということが問題なのですね(同,2頁)。
2.アメリカの連邦法が変わっていくと,日本でも大きな変化が起きてくるでしょう。そのときに私たち官僚が何も知らないということはいえない。いろいろと勉強しておく必要があります(同,2頁)。
3.我が国では1985年の最高裁判決において,大麻に有害性があることを理由に取締法は合憲となったが,その後,30年近い研究によって,世界ではこのような状況になったのですね(同,3頁)。その間の研究によって,状況が大きく変わっていった。これは,我が国におけるハンセン病の問題と同じということですね。
4.大麻といわれると,触るのも見るのも恐ろしいものという認識が一般にあり,まさか,麻が大麻だとは思わなかった。そこから認識する必要があると思います。恥ずかしながら,今日のお話をお聞きして,我々の知らないことも二つ三つありました。医療大麻について知ることは大切だと思いました。ありがとうございました(同4頁)。

(8)経済学者である池田信夫氏は,2008年11月22日,ブログにおいて,大麻は合法化して規制すべきだと主張している(弁35)。
同氏は,以下のように述べている。
問題は大麻そのものではなく,こうした非合法の流通ルートが暴力団の資金源になり,犯罪の温床になることだ。禁酒法がマフィアを育てたのと同じである。合法化して販売し,高率の税金をかければ,酒やタバコで暴力団が出てこないのと同じように,こうした弊害は防げる。大麻の害はタバコとほぼ同じ(かそれ以下)なのだから,取扱いもタバコと同等にするのが当然である。大麻取締法の改正が政治的に困難なら,罰金ぐらいの軽い処分にとどめるべきだ。種子の所持ぐらいで逮捕するのはバランスを欠いている。

(9)昭和大学保健医療学部の渡辺雅幸医師は,2013年5月,日本神経精神薬理学会において,マリファナの成分であるカンナビノイド系に関する生物学は近年大きく進展し,カンナビノイド系に作用する薬剤は様々な病気への治療薬として期待されていると述べている(弁38)。
カンナビノイド系薬物は多発性硬化症による痙縮,神経障害性疼痛,過活動膀胱の治療薬として各国で使用され始めており,日本神経精神薬理学会においても,医療大麻が取り上げられるようになっている。

(10)本件で被告人が逮捕されるに至るきっかけとなったイベントについては,「大麻パーティー」であるかのような報道がされた(弁36)。





大麻報道センターにて更に多くのニュース記事をよむことができます
http://asayake.jp

このニュース記事が掲載されているURL:
http://asayake.jp/modules/report/index.php?page=article&storyid=3556