大麻 欧州「容認」へ傾斜

投稿日時 2004-03-27 | カテゴリ: ニュース速報

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大麻、欧州「容認」へ傾斜

朝日新聞 2001年(平成13年)3月27日 8面「世界発2001」


 ヘロインやコカイン、覚せい剤などに比べ、中毒性が低いとされる大麻。個人が使う限り罰しないというオランダの先駆的な施策が有名だが、他の欧州諸国でも最近、これに追随する流れが定着してきた。取り締まりでは根絶が難しい現実を「容認」する動きだ。しかし、やみ市場や密輸といった問題もはらむ。欧州連合(EU)の中で、大麻を含めた「麻薬ゼロ社会」を掲げる国はスウェーデンぐらいになってしまった。(ハーレム〈オランダ北部〉=山本敦子)

「少量所持、訴追免除」オランダにならえ

 ハーレム氏のノル・バンシャイクさん(46)は、大麻愛好家の世界ではちょっとした有名人だ。大麻を客に販売する「コーヒーショップ」を三店と大麻博物館を経営する。目下、ブリュッセルにも、栽培指導や吸引コーナーがある博物館をつくる計画を進めている。ベルギーがこの一月、大麻の少量所持や個人使用を、他者に迷惑をかけないなどの条件つきで訴追しないことを閣議で決めたからだ。

 他のEU諸国も同じような動きをみせている(※表)。シラク大統領の「オランダの政策は欧州にとって害悪だ」という発言が外交問題に発展したフランスでさえ、訴追免除に転じた。ドイツは州によっては、販売を認めている。

 背景には、大麻を完全には駆逐できないというあきらめがある。ベルギーの新政策づくりにかかわったバート・レマンス氏は「1990年代の世界規模での大麻使用の増加は、30年以上の厳しい取り締まりが失敗だったことを物語っている」という。

 「麻薬と麻薬中毒の欧州監視センター(EMCDDA)」によると、EU内で「少なくとも一度は大麻を試した」人は約4千5百万人。若年層に特に多く、18歳では4割、15~16歳では25%に達した。

 個人使用を取り締まろうにも、警察や検察の陣容が追いつかない。しかも、厳しく取り締まってきた国の経験者数が、寛容なオランダより少ないわけではない(※グラフ)。

難しい駆逐、やみ市場・密輸に問題

 また、ベルギー・アントワープ市の依存症専門医、スベン・トッズ氏は「吸引使用が多い大麻はたばこ同様、肺などに負担をかける。だが禁断症状は少なく、週に数回ぐらいなら、ヘビースモーカーよりずっとましだ」と説明する。こうした大麻の害の認識が容認派の根拠となっている。

 大麻を入り口に、より強い刺激を求めて他の麻薬に移行するという説も、医学的には立証されていない。オランダ保健省依存症対策課のボブ・カイザー課長は「身体的な誘惑よりは、大麻と他の麻薬が市場で混在することによる社会的誘惑の方が危険だ」と語る。例えば、やみ市場の売人は依存者を増やすため、大麻を求める若者に他の麻薬を無料で与えたりする。オランダが大麻販売を認める目的の一つは、若者をやみ市場から遠ざけることだ。

 だが、「容認」は「合法化」ではない。EU諸国は、大麻を規制する国際条約を批准しているため、合法化には踏み切れない。オランダの販売も訴追されないだけのことだ。栽培も原則禁じられている。

 栽培と輸入が禁止されると、コーヒーショップは仕入れをやみ市場に頼る。大麻は依然として犯罪組織の大きな収入源だ。

 一方、ベルギーは使用は認めたが、売買は禁じたままだ。代わりに少量の栽培を認めた。だが、少量の定義が明確でなく、売人が出現するのは時間の問題とみられている。「完全禁止も合法化もできない。われわれは矛盾のとりこになっている」。カイザーさんは自嘲気味に語る。

根絶めざすスウェーデン、麻薬の授業/強制収容措置も

 「大麻使用が減らないから、受け入れるというのは敗北主義です」。スウェーデンのマロウ・リンドホルムさんの口調は厳しい。麻薬問題に取り組む非政府組織「ハッセラ北欧ネットワーク」の事務次長。昨年まで欧州議会の議員でもあった。98年、欧州議会に大麻の個人使用容認へ向けた加盟国の政策調和が提案された。反対の急先ぽうに立ち、提案を撤回させたのがリンドホルムさんだった。

 60年代前半、米国の反戦運動とともに大麻と覚せい剤が、スウェーデンに流れ込んできた。麻薬欲しさの強盗などが社会問題化した65年、政府は医療保険での麻薬処方を始めた。だが、依存者が薬をほかに回すなどして中毒がかえって激増し、70年代から厳しい対策へと再転換した。

 麻薬についての授業を学校に取り入れ、友人の誘いをどう断るかなどを具体的に教えている。麻薬使用がわかった場合、裁判所の判断で自治体が使用者を強制的に更生施設に収容する措置がとられている。その結果、70年代初めに15%近かった15歳の麻薬体験率が、80年代後半には5%以下に減った。

 だが、90年代に入り、再び増加に転じている。リンドホルムさんは「政府と自治体が更生施設を減らすなど手を抜いてしまったからだ。麻薬との戦いには終わりがないのに」と残念がる。「何世紀も吸われ続け、文化の一部であるたばこでさえ、禁煙が叫ばれる時代。歴史が浅く、害もある大麻をなぜ今、受け入れなければならないのですか」。


※資料‐表(EMCDDAなどの調べ)

■大麻:
中央アジア原産のアサ科の植物。古代から繊維として利用されたほか、高揚感や酩酊感などをひきおこす物質を含むため儀式や治療にも用いられた。1960年代、米国の若者の間で流行、世界中に広がった。

■オランダの大麻政策:
1976年に薬物法を改正し、社会が看過できない危険があるヘロインやコカインなどの麻薬と大麻を区別。18歳以上の30グラム未満の大麻所持は訴追されない。コーヒーショップでの大麻販売は、(1)一回の販売量が5グラム以下、(2)18歳未満への販売禁止、(3)公共の秩序を乱さない、などの条件を満たせば認められる。

■欧州の主な国の大麻政策:

【デンマーク】 少量の大麻所持については警告のみで対応するよう、検察長官が警察に勧告。

【ドイツ】 すべての麻薬の少量所持は、「第三者に迷惑をかけない」、「未成年者が関与しない」、「個人使用目的である」、などの条件を満たせば訴追を免れる。一部の州では販売を容認。

【スペイン】 公共の場などでの個人使用は罰金の対象だが、実際はほとんど取り締まりは行われていない。

【フランス】 1999年、個人使用は訴追しない方針を政府が発表。

【イタリア】 一回目は警告、二回目以降は運転免許証没収など行政罰だが、実際はほとんど適用されていない。

【ポルトガル】 今年一月、法改正案が議会を通過。すべての麻薬の個人使用を罰則の対象としない代わりに、麻薬使用者は依存症の程度に応じて治療を受ける義務を負う。

【英国】 少量使用は警告か罰金刑。政府は最近、大麻使用者が雇用主に警告を犯歴として報告する義務を廃止すると発表。

【スイス】 個人使用容認へ政府が法改正案を提出。

※資料‐グラフ(1999年、オランダ保健省調べ)

■15歳~16歳で大麻を一度でも体験したことがある割合:

米国 41%
フランス 35%
英国 35%
アイルランド 32%
オランダ 28%
イタリア 25%
デンマーク 24%
フィンランド 10%
ギリシャ 9%
ポルトガル 8%
スウェーデン 8%


 ※写真のキャプション: バンシャイクさんは昔、ボディービルの選手だった。右の人形は大麻博物館のマスコット(=ハーレムで、山本写す)

【補足】

■ノル・バンシャイク氏の名前(Nol van Schaik)は、日本語表記では「ノル・ヴァン・シャイク」、「ノル・ファン・シャイク」などと書かれる場合が多いようです。

■オランダの薬物政策について:
概略は、オランダ外務省から英語版の小冊子が発行されており、オランダ外務省のサイトにPDFファイルで公開されています。2003年版の日本語訳が「青少年の薬物問題を考える会」のサイトに掲載されています。

「青少年の薬物問題を考える会」による日本語訳:
『Q&A薬物 2003 オランダの政策へのガイド』

オランダ外務省のサイトにある英語版:
『Q&A DRUGS 2003 A guide to Dutch policy』






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