原文:2015年2月16日オショーネッシー誌掲載
ICRSはもともと「国際大麻研究学会」であった。メンバーらが人間の体内に独自のカンナビノイド受容体システムを発見し、解明した後の1995年、「C」が表す単語を「Cannabis(大麻)」から「Cannabinoid」に変更した。薬理学者デール・ドイチュ博士は1998年、「カンナビノイドの分野は、大麻草から分離していっている」と説明した。
2014年のICRS年次会議では、大麻草がこの分野の第一線に戻ってきた。議長であった神経科医イーサン・ルッソ博士は、ピエモンテ大学(Universita del Piemonte Orientale)のイタリア人天然物化学者ジオバンニ・アペンディーノ博士を講演者として招待した。
博士は講演で、自身が、カルマグノーラ(Carmagnola)という、地名に由来するヘンプで有名な北イタリアの地方出身であることに鼻高々に触れた。博士がカンナビノイド分野の研究を初めて発表したのは2002年、ラファエル・メコーラム博士とヴィンセンゾ・ディマルゾ博士が立案者である「ノラディン・エーテル ー推定内因性カンナビノイド」(Noladin ether?a putative endocannabinoid)に関する報告書を共同執筆した年であった。しかし、博士の 「産業用ヘンプとしての大麻との関係」はさらに遡る。「祖父はヘンプを栽培していて、ヘンプの浸水タンクの香りはカルマグノーラじゅうを漂っていたものだ」と述べた。
「自然界はカンナビノイドの構造によって変化してきた」というのが博士の見解だ。大麻研究者はテトラヒドロカンナビノール(THC)やカンナビジオール(CBD)、カンナビクロメン(CBC)、カンナビゲロール(CBG、上記3成分の前駆体)についてのみ重点をおいて、大麻草(および他の植物)に含まれる他の関連分子の治療可能性については研究してこなかった。
同様に、研究者らは、カンナビノイドをCB1およびCB2受容体(中枢神経系や末梢神経系に集中している標準的なカンナビノイド受容体)に作用する薬物として定義することにより、他のメカニズムで作用する大麻内の有効成分を見過ごしている可能性がある。
アペンディーノ博士と同僚研究者らは、200種以上のヘンプの選別の過程で、「研究する価値がある」と思われる治療可能性を持つ、多量の化合物を発見する。
博士は、自身の研究グループがある産業用ヘンプ種から分離したカンフラビン、カンナビノイド エステルおよび「セスキCBG」、カンニプレンについて簡単に触れた。
博士は、「大麻版のレスベラトロール(赤ブドウに含まれる有益な抗酸化物質)」と呼ぶ、2%のカンニプレンを含むヘンプ種を発見。
また、他のヘンプ種からはプレニル化カンナビゲロール(プレニル基が付着したカンナビゲロール)を分離した。プレニル化は、細胞膜に脂質結合し易くする、プロテインや化合物への疎水性分子の追加を伴う。
博士によると、大麻が、明らかな生物活性があるプレニル化THCを生産しないわけがないという。
大麻特有ではないカンナビノイド
カンナビノイドは、大麻に特有の化合物ではない(他の植物内にも発見されている)。アペンディーノ博士によると、多量のCBGおよびそのカルボン酸前駆体が、南アフリカのヘリクリサムの特定変種から分離されている。
南アフリカでは、生物資源の盗賊行為を規制する厳しい法律により、在来種やその種子の採集や輸出が禁止されているため、博士と同僚研究者にとって、ヘリクリサムがいかに「非大麻の」CBGと関連化合物を生産するかを研究するのは困難であった。その法律は、外国企業による同国固有の天然資源の搾取を防止すると同時に、合法な科学的研究をも妨げるものだった。お役所仕事の対応をされながら2年が経ったものの、博士は、小瓶ほどのヘリクリサム エキスしか手に入れることができず、研究を続けるために必要な種子の調達にも至っていない。
博士は、カンナビノイド様の化合物は、「通常のカンナビノイドの生合成経路とは別に」植物が生成するものであることを発見。「芳香族酸から始まる経路が存在する」とした。そのような化合物は、「ヘリクリサム・カンナビノイド」と呼ばれ、気管支炎や肝充血のほか、胆のう、腎臓、膀胱の疾患に有効な利尿効果のある苔類にも検出されている。
博士によると、ヘリクリサムは、アフリカの民族に伝わる治療において、「大麻のように儀式で煙を焚く」ために使用されており、「大麻と同様の精神作用が」後発する場合がある。
ベータ・カリオフィレン
アペンディーノ博士は、地球上の自然発生的な化合物群で最大級のテルペノイドの治療特性についても触れている。テルペノイド、つまりテルペン類は、植物に独特の香りや風味をもたらす化学物質。料理用ハーブやスパイスに多く含まれており、香りや風味をもたらすだけでなく、昆虫類とコミュニケーションを取るのに重要なシグナルを伝達する物質である。
植物の中には、草食の昆虫類に食される時その口に合わないよう、特定のテルペン類を上方調節するものもある。地球の営みが創成する関係は複雑で、実際このテルペン類は寄生性昆虫を呼び寄せ、その植物に群がる草食昆虫を攻撃させているのだ。
ベータ・カリオフィレンは、黒胡椒や苦味の青野菜、エキナセア(アメリカ・インディアンに伝わる風邪に効く薬草)、多くの大麻品種に含まれ、昆虫から身を守るために使用するテルペンの1つである。
テルペンは、植物内で、特殊化した細胞内コンパートメントで結合し10炭素モノテルペン(リモネン、ピネン、リナロール、テルピノレンなど)を形成する、5炭素イソプレンのうちの2つから合成される。ベータ・カリオフィレンなど、15炭素セスキテルペンは、余分のイソプレン単位を統合する点で、モノテルペンとは異なる。
モノテルペンは揮発性が高く、低い気温で揮発するため、大麻が乾燥したり、長期間保管されたり、エキスに加工されたりする際、一般的にモノテルペンがまず揮発し、ベータ・カリオフィレンのようなセスキテルペンの方がより多く残存する。
アペンディーノ博士は、欧州介入前から中米および南米でマヤ人やインカ人に栽培されているトウモロコシの野生原種が、糖分が豊富な品種に改良される前の段階で、大量のベータ・カリオフィレンをどのように生産するか詳細に触れた。原種の持つ、ベータ・カリオフィレンの生産能力は、商業的農業のために生産性の高い品種を栽培するようになり、廃れていったのだ。
2007年のICRS会議において、ユルグ・ゲルチ博士は、ベータ・カリオフィレンが、免疫機能を調節する、主に中枢神経の外にあるCB2カンナビノイド受容体と結合することを報告した。
アペンディーノ博士は2014年、大手製薬会社が、免疫細胞を調整するCBDの役割に注目しているが、未だ有効利用には至っていないと認識。そのことについて、「薬物の発見が海であれば、CB2は座礁したプロジェクトに囲まれた岩である」と、詩的にコメントしていた。
製薬会社は、大金を費やし、特許に守られた、合成のCB2選択性化合物の試験を行なってきたが、結局臨床効果はほとんど確認されていない。アペンディーノ博士は、「ベータ・カリオフィレンは特別な宝くじ券である」と言った。
ベータ・カリオフィレンは、自然のCB2という錠にぴったり合う鍵のようなものだ。アペンディーノ博士によると、ベータ・カリオフィレン分子がいかにCB2受容体と作用し合うか、それは、カンナビノイド型アゴニスト同士の独自の物質的関係である。ベータ・カリオフィレンは、カンナビノイド受容体と結合する他の分子とは異なるようなのだ。
ベータ・カリオフィレンの濃度が高い大麻エキスは、抗炎症効果があり、胃粘膜に優しいことで知られ、臨床試験でも、鎮痛効果や抗炎症効果を呈している。アペンディーノ博士は、「ベータ・カリオフィレンとCB2の相互作用が、植物と昆虫との間で古くから行なわれてきた対話を反映したものではないか」と考えている。
拡張型カンナビノイド(EDC)
自然淘汰が化合物を操作するように、科学者も、進化的圧力によって自然が達するような有用な修正を探し求めて、化合物の操作を行なう。アペンディーノ博士が言及する例外的なカンナビノイドについての研究は現在進んでいる。
博士のカンナビノイド製剤の拡張概念は、内因性カンナビノイド システムの拡張概念に関わっている。拡張型カンナビノイドの生理学的目標は、CB1およびCB2の他に、GPR55受容体、遺伝子をオン・オフするミトコンドリア内の転写因子、シグナル伝達のために開閉するゲート付きのイオン経路として機能するTRP受容体などがある。CBD、CBGなどの植物性カンナビノイドはさまざまなTRP受容体と結合する。
スペインのバイオテクノロジー企業 VivaCellは、内部でキノール群がCBGに結合した薬物、VCE-003を開発。VCE-003は、遺伝子発現と代謝機能を調整する、細胞核上のPPAR受容体を活性化する点でCBGよりも優れ、多発性硬化症と脳脊髄炎のマウス モデルを使用した研究において効果を示している。
VCE-003などの薬物は「半合成物質」と呼ばれている。コデインやモルヒネの代用品であるヒドロコドンやブプレノルフィン、米国で販売されている多くのオピオイド系鎮痛剤は、よく知られた半合成物質である。
半合成物質が作られる工程は特許を受けられるが、天然の製品は受けられない。このことで、半合成物質が、実際に医療用として優れているのか、商用目的として優れているのか、という疑問が湧いてくる。
Source: PROJECT CBD
On The Frontiers Of Hemp Science
翻訳:なみ
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